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ゴールボールとは?サッカーの「ゴールキーパーvsGK」の投げ合いスローの勝負

■ゴールボールとは?

「ゴールボールには体験会もあるので、1.25㎏あるボールを受ける衝撃を感じてください。」
そう言われてもゴールボールというスポーツをイメージ出来なかった。
たとえば、車いすラグビーやブラインドサッカー、車いすバスケットには、日本ではポピュラーな競技名が付いているため、なんとなくイメージできる。
しかし、「ゴールボールという競技名は初耳」という方が世間一般にも多い気がする。
そんなゴールボールを簡単に説明すると、視覚障害者のための競技で、鈴の入ったボールを3人の選手が転がすように投げて得点を競い合う。
ただし、目にアイパッチを貼り、アイシェードという目隠しをつけてプレーしなければいけない。
その中で選手たちが頼りにするのが、音である。そのため、試合中は観客には静寂が求められ、コートにいる選手以外は声を出してはいけない。
選手たちは、相手の足音やボールの中に入った鈴の音でボールがどこにあるか予測し、コートラインに組み込まれた紐を手で触り、自分のポジションを確認しつつ、鈴の音が聞こえたら、横飛びでゴールを守る。
ゴールの広さは高さ1.3m×幅9m。アイシェードをつけているとはいえ、3人でゴールを守るのだからボールを止めるのは容易に思えた。しかし、そんな甘いスポーツではなかった。

■サッカー部ゴールキーパー経験者がゴールボールを体験してみた

実際に私も8月6日に千葉ポートアリーナで開催された『2017ジャパンパラゴールボール競技大会』の「ゴールボール体験会」に参加させてもらった。
狙いはもちろん「1.25kgの衝撃を感じるため」だ。
アイシェードを着け、意気込み守備の要・センターのポジションを取る。相手オフェンスが投げてくるのは三球。
サッカー部時代には、ゴールキーパーを経験したこともあり、自信に満ち溢れていた私だが、三球ともまったく触れなかった。一球は近くを通ったにもかかわらず、「逆に飛んでいましたよ」と日本代表スタッフに教えられる始末。
床にボールが投げられた音、鈴の音、共に聞こえてはいた。ただ、聞こえただけで、そこから予測するのは至難の業だった。
「自分でやったことがない人は、それがどれだけ大変なことか分からない」という福沢諭吉の言葉が身に染みた。

視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていないと、ゴールを守るどころか、反応すらできない。


さらに衝撃を受けたのが、その後に行われた日本代表とカナダ代表の選手たちのウォーミングアップだ。
女子選手にもかかわらず、ボールのスピードは倍以上だった。
それに加え、バウンドボールというパワフルなスローもある。ゴールボールでは、自陣ゴールから6m以内でワンバウンド、さらにそこから6m以内でもう一回バウンドさせるような投球が許されている。バウンドしたボールは、予測して横に飛んでも体を越えたり、仮に体に当たってもバウンドした回転からゴールに入ることが多い。
床に叩き付けるようにドンと鳴るバウンドボールが、私のお腹に当たっていたら…。おそらくボディブローを受けたかのように、うずくまっていただろう。と自らの心配をしつつも、フィジカルで劣る日本人が、腕力を必要とするゴールボールで勝つことができるだろうか。この後行われる決勝戦での日本代表の相手が大柄なカナダ代表というのも、不安な気持ちにさせた。

■日本女子代表の実力は?

日本は現在、世界ランキング6位。この大会には5位のカナダ、15位のギリシャ、36位の韓国が参加しており、4チームによる総当り戦二回の予選リーグが行われ、日本は全勝の首位通過をしていた。
そう予選の結果を聞いても、日本がどのように予選でカナダを破ったのか想像できなかった。
カナダ代表のオーギャレス・カサンドラはパワフルなバウンドボールを投げてくる。単純な投げ合いでは、パワーのあるカナダが有利な気がした。
が、日本にもフィジカルで劣らない選手がいた。横浜大洋ホエールズ(現DeNA)などで剛速球投手として活躍した欠端光則の長女である欠端瑛子である。
開始90秒、その欠端が魅せる。体を回転させてからスローするパワフルなバウンドボール。またたく間に先制点を奪った。

その15秒後。日本の機動力を生かしたプレーに目を見張った。
ボールをキャッチした小宮正江が右から左に移動する。移動した理由は、体格が大きい反面、守備への移行が苦手なオーギャレスを狙うため。スローは見事に決まり、追加点が生まれる。
スポーツ界では、日本人の武器は敏捷性や持久力、加えて戦術を遂行できる規律と言われている。
それはゴールボールにも当てはまっていた。
ゴールボールは、キャッチしてから10秒以内にセンターラインを超えるように投げ返さないといけない。
楽にキャッチすれば10秒を使い、3人各々自分が投げるようなステップを踏んで音を出したり、キャッチしたポジションから移動して投げたりして、相手を攪乱する。キャッチ後にすぐに投げ返す速攻も、相手の守備体系が整わないため効果的である。
こういった守備から攻撃への移行が日本は秀逸で、その後も再び素早い攻撃から欠端が決め3-0と突き放す。
ペナルティースローで一点を失ったものの、欠端の勢いはおとろえず、セービングからの速攻で4-1に。その欠端と変わって入った21歳の若杉遥も3点を追加、前半を7-1と大量リードで折り返した。

前半は、日本が首位通過した所以が凝縮されていた。
スロー後にすぐに守備体系に入り、統率された三人の動きでゴールに蓋をする。オーギャレスのバウンドボールもカバーリングを徹底し、ゴールにこぼれさせない。キャッチしてからは、速攻や移動攻撃で相手を疲れさせ、欠端の回転スローや若杉の狙いすましたスローでゴールもこじあける。スタミナ豊富な日本の前に、カナダ選手がバテているのはあきらかだった。

■ゴールボールの試合をレポート

しかし後半、わずかなミスから流れが変わった。
「ブロック時にボールが手の間を抜けてしまった。下に、床に手がつきすぎて、もう少し床より手をあげてブロックしなければいけない」と欠端が悔やんだ失点で7-2になると、カナダが息を吹き返す。その後の投げ合いを制し7-3。さらに日本は交代ボードを掲げた後で交代をキャンセルするチームペナルティーをおかすと、ペナルティースローを決められ7-4に。終盤は持ち味の堅守が復活し、何とか逃げ切ったものの後半は一点もとれずに終了した。
それだけに、優勝した日本選手たちに慢心はなかった。
今大会得点王の若杉は「後半は流れをまずは止めて、得点につなげようと思ったのですが、流れを止めることに一生懸命になりすぎたかもしれない。得点王は嬉しいですけど、大切なのはこの後のアジア・パシフィック選手権大会、そして世界大会。この自信を次に繋げられれば」と課題を口にし、他の選手たちも堅守の徹底を誓い、次を見据えていた。

機動力溢れる堅守速攻を武器に欠端や若杉のような個も活かす日本の色は、日本のアスリートたちの特徴が顕著にあらわれていた。
ゴールボールには、シンプルな投げ合いのなかに「特徴を如何に活かすか」という深い醍醐味があった。(sports.nhk.or.jp/paralympicより)

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