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法定通貨化に少額取引の非課税化も! 世界でビットコインは今(コラム)

Chainalysisが2022年10月に発表した「2022 Geography of Cryptocurrency Report」によると、2022年世界暗号資産普及指数トップはベトナムで、次いでフィリピン、ウクライナ、インド、アメリカという国が名を連ねています。日本は26位であり、国によって普及率が大きく異なっています。

暗号資産(仮想通貨)の中でもBitcoin(ビットコイン)に注目すると、2021年にエルサルバドルが法定通貨に採用したのを皮切りに、国や地域単位で法定通貨化が進んでいます。また、暗号資産の送金速度の問題に対してライトニングネットワークが登場し、世界で実装され始めています。日本でよりBitcoinが普及するには何が必要なのか、ライトニングネットワークの国内最大コミュニティ「Diamond Hands」を運営する東晃慈(ひがし・こうじ)さんに世界のBitcoin市場について聞きました。


アメリカ・アフリカ間でも低コストかつ即時決済が可能に

――Bitcoinに関する世界のユースケースを教えてください。

東:イメージしやすいのは国際送金だと思います。2023年2月にも、Bitcoin決済会社のStrikeがライトニングネットワークを活用し、アメリカ・アフリカ間に加えてアメリカ・フィリピン間でもBitcoinで送金が可能になったことを発表しています。従来の銀行を介した送金だと1~2週間ほどの時間と割高な手数料が必要ですが、Bitcoinなら取引所同士が連携をすることで、銀行のネットワークを介すことなく実質的に同じことを低コストで即時にできます。

――Bitcoinと同様に即時送金が可能で手数料が安い暗号資産は他にもありますが、東さんはなぜBitcoinに注目しているのでしょうか。

東:まずはBitcoinがその他の暗号資産と比較してグローバルで圧倒的な認知や保有者数を持っているからです。それに付随して、Bitcoinの取引高は多くの国で最も大きく、特に大きな金額を送金するユースケースにBitcoinは向いています。また、Bitcoinの大きな特徴として最も分散化された暗号資産であり、世界中でコモディティと認識され、法的なリスクが最も低いから、という側面もあります。逆に言うとその他の暗号資産は、例えば証券認定されてしまうことで、利用に制限がかかったり、国によっては扱えなくなったりする可能性が少なからずあるというわけです。

――Bitcoinとその他の暗号資産、技術的な違いをどう捉えていますか。

東:厳密に言えばBitcoin以外の暗号資産にも応用は可能ですが、Bitcoinには マイニングとライトニングネットワークという技術が使われている点が特徴と言えます。マイニングに「無駄があって効率が悪い」というイメージがある人も多いと思いますが、マイニング事業が盛んなアメリカでは、6割が水力や風力等の再生可能エネルギーを使ってマイニングをしているというデータがあります(参照:ビットコインマイニング評議会(BMC)2022年Q2レポート)。2022年12月には、東京電力パワーグリッドが全国の再生可能エネルギーから生まれる余剰電力を有効活用して、マイニングにも活用できる「未来型の分散型データセンター」を日本各地に展開することを発表しています。もう一つのライトニングネットワークは前述した通り、低コストで即時決済が可能なネットワークであり、Bitcoinの分散性をできるだけ維持した形で早く安くグローバルにどこでも使え、様々なユースケースが出てきています。

法定通貨化の副産物

――ARKは2023年1月に発表したリポートで、2030年までにBitcoin1枚の価値が100万ドルを超える可能性があることを示唆しています。Bitcoinの価値はどんなところにあるのでしょうか。

東:日本に限らず世界中でインフレが進んで生活が苦しくなっていますが、インフレとマクロ経済の観点から、投資先としてBitcoinが注目されているというのが一番大きいと思います。「 SOV 」という言葉があるように、若年層を中心に、代替資産・代替投資先としてBitcoinを選ぶ動きがあります。それと同時に、国際送金だけでなく色々な アプリケーション で、ライトニングネットワークを用いた少額決済を導入する動きが増えていくでしょうし、身近な話だと店舗での支払いにBitcoinが使えることも増えていくと思います。ライトニングネットワークが日常的に使えるユースケースが増えることが、Bitcoinの普及率を押し上げるというシナリオは十分描けると思います。

――世界的な話で言うと、2021年にはエルサルバドルが初めてBitcoinを法定通貨に定め、2022年には中央アフリカがBitcoinを法定通貨化し、また、スイスのルガーノ市ではBitcoinやUSDT(テザー)、スイスフラン連動のステーブルコインであるLVGA(ルーガ)の3銘柄を法定通貨化する等、国単位だけでなく都市単位での動きもあります。Bitcoinを法定通貨化した国や都市ではどんなことが起きているのでしょうか。

東:エルサルバドルは政府が戦略的に推進しようとしていましたが、Bitcoinを法定通貨に採用した時から1年後には価値が半分以下になり、国際通貨基金(IMF)から金融不安への懸念を理由にBitcoinの法定通貨化の見直しを求められています。ただその後、フィリピンやベトナム、グアテマラ等の各国で、自発的にBitcoin決済を店舗で受け付ける等の動きが起きています。なぜそのような動きがあるのかというと、Bitcoinが普及している欧米やアジア等の国から観光客を誘致することにつながるからです。エルサルバドルがどのくらい成功しているかは賛否両論あり、法定通貨化はIMFから指摘が入る程度には失敗したと言えますが、その副産物として現地でのBitcoin決済が一気に進み、外国人観光客誘致につながったと言えるでしょう。日本にとってもインバウンドは重要なテーマで、特にコロナ禍になってからはいかに外国人観光客にアピールしていくか、という問題があります。例えば京都や海外にも知られたスキー場のような局地的な場所でBitcoin決済を始めてみたら、面白いことが起きるんじゃないかなと思っています。

――仮に、京都でBitcoin決済が始まると、日本人のマインドも変わりそうですね。

東:そうですね。例えばBitcoin決済に対応することで外国人観光客が目に見えて増えたとしたら、Bitcoinに興味がない人たちにとってもいいことじゃないですか。店舗の売り上げが伸びたとか、地元の経済が潤ったとか、そういう事例が出てきたらすごくポジティブですし、実際、日本国内のある観光地から「Bitcoin決済をやりたい」という声を聞くこともあります。

Bitcoinの普及率を上げるには

――日本人の中には、Bitcoinを含む暗号資産について投機的なイメージの方が強い人も少なくありません。Bitcoinが普及している国や都市の人たちの中には、すでにBitcoinを投資と捉えている人もいるようですが、そのような国や都市と比べて日本は何が違うのでしょうか。

東:世界に目を移しても、暗号資産全般が投機の域を出ていないというのは相違ありません。この2~3年で NFT など様々なユースケースが出てきましたが、自分はあまりそこに持続性を感じておらず、投機の域を出たユースケースや実用性を見せていかなければいけないと感じています。Bitcoinが現状、投機優先になっているのは問題だと思いますが、前述した通り、ライトニングネットワークによる送金効率やスケール性能の改善など技術革新が起きたことで、少しずつ実利用や現実経済の問題改善につながる応用も出始めています。その点では、Bitcoinはその他の全ての暗号資産と比較すると、最も堅実に投機から投資、実利用等の課題に取り組んでいるという見方もできると思います。日本にいると想像しにくいかもしれないですが、特にこれらのトレンドは中南米やアジア等の地域で起き始めています。

――では実際、世界暗号資産普及指数トップのベトナムと日本の違いは何なのでしょうか。

東:主に自国通貨への信頼と、自国の金融機関に対する信頼が挙げられます。日本は政治が安定しており、自国通貨とともに銀行への信頼が厚いです。その反面、暗号資産の普及率が低くなっており、暗号資産を考える際には日本を前提にしない方がいいと思います。一方、ベトナムでは銀行でお金が引き出せないことも起きていますし、銀行口座の保有率が日本に比べて低いです。先進国か発展途上国かという違いででも、暗号資産を好意的にとらえているかどうかは変わってきます。

――今の日本の環境で、Bitcoinの普及率を上げるにはどんなことが必要だと思いますか。

東:一番大きいのは少額決済の非課税化だと思います。今だと店舗でBitcoin決済をする度に、計算して課税をしないといけない面倒くささがあります。例えばアメリカでは2022年7月に、50ドル未満の個人取引、または50ドル未満の利益が発生するような個人取引については非課税にするという法案が提出されています。まだ通るか分かりませんが、日常的な決済を非課税にしようという動きは世界で起きており、仮に日本でもできるようになれば、Bitcoin決済がより日常的になるでしょう。実経済や実生活にBitcoinをどうつなげていくかに関して、少額課金の非課税化はすごく重要なテーマだし、もしそれができるようになれば、Bitcoinに対する見方も変わってくるのではと思っています。


取材協力:Diamond Hands

日本最大のビットコイン&ライトニングコミュニティであり、ビットコインやライトニングの普及を推進するために活動しています。ノード運用やルーティングに関する情報を共有し、最新の戦略や運用方法を研究するとともに、ライトニングのオープンソース開発に貢献しています。また、ビットコインやライトニングをより正確に理解してもらうために、無料のニュースレターやリサーチ記事を発信しています。

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