鶫(つぐみ)
「◎◎さんのお家の庭には、鶫が住んでいますね」
この冬、そんなきっかけから車内の会話がスタートしたのが何回くらいあっただろうか。もちろん、ほとんどの場合は「鳥は違いが分からない」で終結してしまうけれど、自然の野山で遊んだり働いていた人は「冬鳥ね」と会話が続いたりする。そんな時、鳥好きの私は内心で気持ちが盛り上がる。
ここ最近、鶫を本当によく見かける。
道路をサッと飛んで横断したり、雪の隙間から小刻みに跳ねて木陰へ移動したりと、とても可愛らしい。彼らは隠れているつもりだろうが、背景が雪の白に際立って、なんだか良く目についてしまうのだ。羽に空気をためてコロコロとしたシルエットは、私にとって冬の風物詩である。
名前の由来は「口をつぐんでいる」からという説が有力だ。冬鳥の鶫は日本にいる間は繁殖をしないし群れたりもしないので、基本的に鳴き声を聞かない。昔の人たちが、冬の厳しい寒さを口をつぐんで耐える自分たちに重ねて、少しだけ自虐的にそんな名前をつけたのかもしれない。そんな想像をすると、やはり親しみを感じてしまうのだ。
もうすぐ春が来る。心を踊らす私たち人間と違って、渡り鳥たちは命をかけた長旅を迎えるのだから、どんな気持ちなのだろう。辛い旅を乗越えられるだけの楽しみが、シベリアの自然にはあるのだろうか。そんな想像と仮説もまた、お客さんとの会話の種になるだろうか。
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