バーチャルファッションの"現在地"──chloma Virtual Store in GHOSTCLUB 制作インタビュー
2021年7月にソーシャルVR「VRChat」内にオープンした「chloma Virtual Store in GHOSTCLUB」。
ファッションブランド「chloma」が、2018年からVRChat上で定期的に活動を続けるクラブ「GHOSTCLUB」とコラボレーションし、2021年5月に公開されたワールド「GHOSTCLUB5.0」内にオープンされたことが話題になりました(詳しくは前回のレポートをご覧ください)。
本インタビューでは「chloma」主宰のJunya Suzuki氏、今回のコラボレーションにあたりアバター用の洋服モデル制作を担当したCap氏、バーチャルストアのBGMを担当したキヌ氏をお呼びし、プロジェクトの経緯や制作のプロセスなどをお伺いしました。
Junya Suzuki:2011年に設立された、モニターの中の世界とリアルの世界を境なく歩く現代人のための環境と衣服を提案するファッションレーベル「chloma」の主宰/デザイナー。
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Cap:3Dモデラー、ワールドクリエイター。アバターモデル「NORANEKOSEVEN」の制作や、VRChatのワールド「amebient」「GHOSTCLUB 5.0」等の制作に参加している。
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キヌ:バーチャルYouTuber。ポエトリーリーディングを用いたアーティスト活動のほか、映像作品やVRChatのワールドも制作している。代表作に「バーチャルYouTuberのいのち」「GHOST -降版-」など。
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GHOSTCLUBとの出会いからchloma Virtual Store in GHOSTCLUBへ
- まずは、今回のバーチャルストアをオープンした経緯を教えてください。
Junya GHOSTCLUBを主催している0b4k3さんとの出会いから話すと、昨年の5月にキヌさんのご協力のもと、chlomaの初のバーチャルストア「Chloma Virtual Store -Living In A Bubble-」をつくり、そこに0b4k3さんが遊びにきてくださったのが最初ですね。
それがきっかけでGHOSTCLUBのこと知ったのですが、「ソーシャルVRがこうあってほしい」みたいなものの理想っていうか、その理想を超えるようなことがそこでは起こっていて、その後も動向を追っていました。
GHOSTCLUBがやっていることは本当に素晴らしいと思っていて、5年後ぐらいに何か一緒にできたらな、とぼんやり思ってはいましたね。
- 5年後って、かなり先ですね。
Junya いや、本当に僕はVRChatのワールド(空間)をつくるための技術も未熟だし、GHOSTCLUBに集うすごい技術を持っている方々を見ていると、コラボしたいなって気軽には思えなかったですね。
そんなことを頭の片隅に思い浮かべていたら、ある時0b4k3さんからTwitterでDMがきて。そこには「よかったらコラボしませんか、GHOSTCLUBの中にchlomaのお店出しませんか」と。そうして始まったのが今回のchloma Virtual Store in GHOSTCLUBです。
前回は、購入してアバターに着せることができるお洋服はVRoid向けのものしかなかったのですが、2回目をやるならいろいろなアバターが着れるお洋服を製作して販売するべきだと考えていました。
そしたら、GHOSTCLUB5.0のモデリングを担当されているCapさんにやってもらうのはどうかっていうお話をいただいて。もともと、chlomaの洋服をモデリングしてもらうんだったらCapさんがいいなと勝手に思ってたので、大変嬉しい提案でした。
また、ワールドもamanekさんにつくっていただくのがいいなと思ってたのですが、本当にamanekさんにつくっていただけることになり。
結果として、0b4k3さんのおかげで理想のメンバーに協力していただけることになりました。
キヌ 最強だ。
- お話を聞いたとき、Capさんはどう感じましたか?
Cap せっかくなので、ぜひやらせてもらえたらいいなと。Junya さんが「amebient」を推してくれてたから、そういう縁もあって、すごいありがたいなと思ってお話を受けました。
やり始めたらちょっとアレですけどね、「やるって言ってしまいましたが……」みたいな(笑)
何か重みがありますよね。「chloma」という重み。
制作中の時点でバーチャルストアを出すという話は既にしていたので、Twitterとかで「chloma」を調べると、いろいろな人が話題にしているのを見るじゃないですか。「楽しみだな~」ってコメントとか。
この人が楽しみにしている服をつくるの僕なんだよなって思うと、ちょっと怖いなと(笑)
だから、すごい「うおー」と思いながら、やってました。
Junya Capさん、オープン初日、結構緊張してましたよね。
僕は完成したお洋服を発売よりも前にいただいていたので、これは最高!って思ってたのですが。
Cap 結構ビビってました。ドキドキでした。
もちろんJunyaさんが着てくれてたり、自分でも見てみた段階で手応えはもちろんあったんですけど。本当に大丈夫かな……、と思って。
やっぱ公開したときにどうなるかなというのは怖いですよね。どっちかっていうとバグ的なものの方が怖いですけど。よく見つかるので(笑)
リアリティーと解像度──洋服の制作について
- アバター用の服といえば特定のアバターモデル専用のものやVRoid用のものが多い中、今回販売されているバーチャルウェアは汎用モデルとなっていますね。
Cap 特定のアバターに合わせてつくる、というのを何着もやってると、単純にその手間と、もしそのアバターにアップデートがあった時のことを考えると大変なこともあって、今回の制作ではできるだけその辺りの流れをシンプルにした方がいいと思いました。
特定のアバターに合わせた方がいいか、誰でも着れるようにするか、どっちがよいのだろうということは個人的にも考えましたが、今回はこの形が望ましいと思っています。
Junya Capさんと僕のアバターは頭身が違うので、両方に合わせてみて大丈夫そうかどうかのバランスを気にしながら制作してもらっていました。
Cap そうですね、そのあたりも見てはいました。結果的に専用衣装みたいなものにはしてないですが、自分で持ってるアバターに合わせてみて確認はしていましたね。
Junya 最終的には、ブレンドシェイプを使っていろいろな体型に合わせられるようにしてくださってます。
- バーチャルウェアのモデルで、お気に入りのポイントを教えてください。
Junya 襟首のブランドネームの部分ですね。
リアルではフードをつけてもはずしてもブランドネームが見えるような仕組みになっていて、バーチャルでもそれを再現してくださっています。
着用したら見えなくなってしまう部分ですが、着用に至るまでのプロセスにおいてや、chlomaの「質量」を感じていただくために大切な部分です。
Cap 僕はShelter Coatのジッパー部分のラインですね。
リアルでもこの開いてるときのラインがすごくいいなと思ったので、ここをいい感じになるようにしたいと思って。完成品もすごく気に入っています。
Junya この部分は多層的な構造になってるんですけど、それをちゃんと再現してくださってます。
Cap 実際にメッシュで段差をほどよくつくってますね。本物と同じくらい。こだわってよかったなと思います。
Junya あと、ANORAKのディテールが密集しているところは、やはり見応えがありますね。コードストッパーのこの微妙な質感。リアルでだと半透明なプラスチックを使っているのですが、その透け感を表現してくださってます。
Cap そこに言及してもらえて、やってよかったなって思います(笑)Photoshopでいい感じに図形を置いたり、ちょっとぼやかしたりを繰り返してやりました。
Junya ここのディテールはかなり写実的ですね。
それと、胸元のリフレクターテープの光り方。この色合いはもう、完璧です。
Cap いい感じにできてよかったです。
Junya これは現物を見ずにつくってるんですよね。
Cap そうですね、ANORAKは写真資料の方でつくらせてもらっています。
虹色のグラデーションの感じとかは写真から読み取って、それを元に「いい感じになれ~」って思いながら調整しました。
- 制作で苦労されたポイントはありますか?
Cap やっぱり質感ですね。実物の服がまず存在しているので、目指すべき質感があって、それを再現する必要がある。
元の服の印象から離れすぎちゃダメなんですよね。光沢感とか、色味調整が一番大変でした。
Junya Shelter CoatはCapさんにリアルの方で現物を送っていて、「CLO(アパレル向けの3DCADツール)」でつくったモデルと両方を見てもらいました。最終的には伝わるイメージはかなり近いですが、現物とは色も含めて意外と違ったりしますね。
もちろんそれは、アバターが着る上で適したデザインに調整した結果の差異です。実際のお洋服はもっとシワが多いですが、写実的であればいいっていうわけでもないので。
「Shelter Coat」。手前から、Aqua Silver, Silver, Black。
ストア内のモニターに表示されていた実物の「Shelter Coat」の最新モデル。
キヌ バーチャルに落とし込んでいく上でのデザインの調整ってとてもおもしろい話だと思うんですが、例えばこういう変え方をしたとか、ここはこういう調整をしたとか、そういう話をいくつか聞いてみたいです。
Junya 制作の最初の段階で、布はある程度デフォルメして、ディテールはリアルさを出したいっていうオーダーをさせていただいたんです。
VRoid用にお洋服をつくった経験から、そのバランスが現在の多くの人が使っているアバターにとって良いだろうなと。
キヌさんがいま着てくださっているのは、chlomaがはじめてアバター向けに販売したVRoid用のお洋服なんですが、細部の書き込みは妥協しないようにして、陰影やシワは描き込みすぎないようにしています。
リアルと同じぐらい陰影を書き込むと、すごくくたびれた服に見えてしまいがちなんですよね。
Cap リアリティとか解像度の差ってやっぱり目立っちゃいますよね。
制作中も「こんな感じですか」というのをちょくちょく確認し合ったり、調整を何度もやってた記憶があります。
Junya そうですね。何かやってくださるごとに鬼添削をして、Capさんに送りつけて(笑)
Cap いや、必要なので(笑) しっかりとフィードバックをもらえて、すごくありがたかったです。
この空間にいることでchlomaの洋服を着ているような気持ちになってほしい──ワールドデザインについて
- ワールドについては、どういったコンセプトで作られましたか?
Junya 前回のchloma Virtual Storeのイメージも残しながら新しいものにしようとは思っていて。継続して同じ雰囲気のものをやり続けることは、新しい領域でブランドのイメージを認知してもらうために大事だと思うし、GHOSTCLUBのメンバーの素晴らしい力を借りて、どのようにグレードアップできるかというところから考えはじめました。
前回はバブル、泡のイメージだったんですけど、今回はwomb、直訳すると子宮。生命を育む胎のようなイメージです。
柔らかい曲線で構成されたフューチャリスティックな空間をデザインして、amanekさんに素晴らしいクオリティにつくり上げていただきました。
ワールドの最適化ではReflexさんにご尽力いただき、快適に機能する空間が完成しました。
着用者を柔らかく優しく、かつひんやり包みこむようなイメージで洋服をつくることが多いので、その着用感を空間で感じてもらいたいなと。
洋服をつくるときとVRの空間をつくるときのイメージは結構近くって。
VRだと洋服の着心地ってないけど、空間で肌に触れる空気というか居心地ってすごくあるじゃないですか。
だからこの空間にいることで、chlomaの洋服を着ているときのような気持ちになってもらえたらいいなと思ってデザインしました。
- ワールドはどういう手順でつくっていったんですか?
Junya 僕がラフイメージをUnityでざっくりつくって、それに加えてキーワードやコンセプトなどの言葉をamanekさんにまずお渡ししました。
amanekさんは独自の表現ができる作家さんだから、こちらがリクエストした以上のプラスアルファを乗せて返してくださって。それでああでもない、こうでもないって少しづつ詰めていき、完成しました。
- バーチャルストアに入る前に廊下のような空間がありますが、ここはどういうイメージでつくられたのでしょうか?
Junya chloma Virtual StoreとGHOSTCLUBのワールドをどう違和感なく接続するかという大きな課題があり、それを解決するための空間として設計されました。
GHOSTCLUBの象徴的なイメージともいえる、暗い空間とそこに差す人工的な光を継承しつつ、chlomaのストアデザインの「womb」というコンセプトに基づいて、洋服を生成する培養層が設置された通路となっています。通路を進むにつれて、洋服が完成に近づいてゆき、その先には完成品が並ぶストアに到着するという流れです。
また、GHOSTCLUBのワールドは建造物が直線的な構造なのに対し、chloma側は柔らかな曲線ばかりで構成された空間。この通路では直線と曲線が併用され、2つのまったく異なる空間を段階的に繋ぐ役割を果たしています。
- リアルとバーチャルで、ストアの作り方に違いはありますか?
Junya バーチャルでの空間のデザインは服以上に自由度が高いですよね。
服はまあ、人の体の形でっていうのは一緒ですけど、空間はより何でもできちゃうから。
だけど、だからこそ、この空間が何を目的としているのかっていうのをちゃんと示すことは大事だと思っています。
chloma Virtual Storeのリアリティラインを設定する上で意識したことは、全体としては非現実的で空想的だけれども、ちゃんと一目で洋服屋さんだって認識できること。それはすごくポイントですね。
- ワールド内でのお気に入りを教えてください。
Junya ワールド内だと、小物が置いてある台スペースがお気に入り。
意外と丸いミラーってVRChatであんまり見たことない気がして、見たことなさすぎるからできないのかなって思い込んでいたんですけど、amanekさんが色々とリサーチと研究をして実現してくださいました。
キヌ このミラーはちゃんと「物質」として存在している感じがして好きです。
- 横から見ると厚みがありますよね。
キヌ そうそう。これいいですよね。
Cap システム面の話ですけど、ストア内に設置された複数の鏡は、目線を向けた鏡が優先的にオンになるようになってるんですよ。
単純に人がたくさん来る場所に、鏡が複数存在してるとまずいよねというのがあって。負荷が高くなりすぎるので。でもやっぱり、フィッティングしたり、誰かが合わせてるのをちゃんと見たいじゃないですか。
担当範囲が違うので詳しくはないのですが、phi16さんがこのへんを調整していて。鏡のオンオフをやるんだったら、ちゃんと「誰かが合わせているところを見たい」という願いは叶えつつやりたいよねって。
遠かったらオフにするっていうだけではなくて、ちゃんと目線を向けて見てる鏡を優先的にオンにする仕組みになってて、これが素晴らしいです。
Junya それ知らなかった。
Cap そうなんですよ(笑)
離れていたとしても、誰かがあっちの鏡の方で服を合わせてるんだったらちゃんとそれが鏡として見えたらいいよねっていう。
ほかの鏡との距離や角度とかも関係してくると思うんですけど、その辺の願いが若干載るような仕組みになっていたと思います。phiさんがブログで話していました。
キヌ 前回のストアでは手動のオンオフだけだったので、システム面の大幅進化です、今回。
- このワールドは人がいっぱい入ってても居心地がよくて。早く出たい!という気持ちにならなかったのがすごいと感じました。
Junya それは音楽の心地よさとか、総合的な部分だと思います。ずっといたくなるっていうのも結構、音楽の作用も強いんじゃないかな?キヌさん。
キヌ とても大事だと思います。
肌で感じる「空気感」って音の影響が大きいなって思っていて。どんな場所でも本来、目を閉じたら何かしら音が鳴っていて、空間があるんだってことをずっと耳が感じてるんですよ。
だから音と空間の関係に違和感があると居心地が悪くなると思います。例えば、何も音がしない空間って長くいるのがしんどいことがあるんですよね。
なので、空間を耳で感じられるように音楽をつくろうと意識していました。
Junya このワールドはほぼ静止物の空間で、動いているのはモニターの中の画像だけなので、時間を感じるための要素としての音楽という側面もあると思ってます。
制作してる段階では無音でリファインを繰り返してきましたけど、音楽が入るとやっぱり、息づくというか。生命が宿ったなっていう感じがすごくします。
キヌ 時間の流れは特に意識しているところです。
事前に世界観やメッセージなど、ここがどんなワールドかお話を伺って、この世界での時間は、激流のように流れ去るのではなく、永遠のように長くゆったりと流れ続けているもののように感じました。
なので曲の方でも大きな展開やループしてるような感じをできるだけ排しています。なんていうか、景色が変わっていくんじゃなくて濃淡ある世界を漂っているようなイメージですね。
Junya 空間と音楽と、永遠を感じられるような雰囲気になっているのが、僕としてはとてもうれしくて。
これは僕の個人的なVRをやる動機なんですけど、肉体と時間を超越したいという思いがあります。
いつまでも最新のファッションを楽しめるようにしたい、自分が老いても、たとえ歩けなくなってもファッションを楽しめる世界であってほしい、そういう希望をVRに託しているところがあって、その思いが空間にも現れているのかなと。
生活、コミュニティの中の「ファッション」
- オープンしてみての感想をお聞かせください。
Junya 想定していたよりも女性のお客さんが多くて嬉しかったです。基底現実での女性の方という意味ですね。VRChatのユーザーの男女比は9:1と言われていますが、来客者のうちの4人に1人ほどが女性だった印象です。
VRの社会が進歩するには、女性のユーザーが増えるのが特に重要だと思っていて。ファッションがより広く盛り上がるとしたら、それもやっぱりたくさんの女性の参入がきっかけになるだろうなと思っています。
VRChatがもっと拡大してほしいって思っているかどうかも、人それぞれだとは思うんですけども、僕はユーザーがもっと増えてほしいと思っています。
より広い社会が形成されるようになってほしいと思っていて、そうなるためには多様なファッションの選択肢があることは必須です。自分らしく居られない社会には行きたくないですから。
だから、多くのファッションブランドにバーチャルでの洋服の販売に参加をしてもらいたくて、実践例をアパレル業界にアピールしているつもりではいるのですが、なかなか新規参入がありませんね......。
キヌ アパレル業界でのバーチャルの取り組みって、リアルの服をバーチャルで見に行きましょうっていう展開が今は中心になっている気がしています。それらはリアルの服の販売のためだから当然なんですけど。でも、バーチャルの身体で着る取り組みももっと増えてほしい。
Junya VRにおいても着てもらってこそファッションだという思いは、僕は強いですね。
Cap chlomaがすごくよかったなって思うのは、今回で「あーすごい、楽しかったね」って感じで終わり、じゃないところなんですよね。
ちゃんと文化として生かしていくために、次のことを常にやっていかないといけないし、それを今「やっている」のですごい。これが望ましいよね、って思います。
Junya Capさんがすごくいいことを言ってくださいましたね。
GHOSTCLUBとコラボレーションをさせてもらうことの大きな理由は、やはりそこに生きた人、生きたコミュニティを強く感じられたからです。
洋服がファッションであるためにはモノとしてあるだけではダメで、生きている空間、生きている人たち、生活、その中で使用されていくっていうのがすごく重要な要素なんです。
GHOSTCLUBやその周辺の人たちの多くは、生活の何割かをここで生きているように映りました。
GHOSTCLUBがリズムを刻むように、定期的に開催されているというのも生命や生活を感じる理由なのかもしれないですし、実際にそこに来ている、自分の重きをVRに置いている方たちがいて、コミュニティに息吹を感じたからというのが大いにあります。
- カルチャーやコミュニティから生まれるストリートファッションのようなものが、バーチャルでもできてくるんでしょうか?
Junya それは当然あり得るし、既に存在していると思います。
chlomaのクリエーションの話をすると、VRChatからのフィードバックがあって、それをデザインに活かす、ということを僕はまだそこまで大きくはやってないですけれども、GHOSTCLUBとのコラボレーションはそれが生まれるきっかけになり得るんじゃないかなと思ってます。
Cap 続きがあるものはよいと思います。
Junya Capさん、すごく力強く言ってくださいましたが、その辺で思うところがあるんですか?
Cap VRとかでは特に多いですけど、さっきも言った「やって終わり」なことが多い気がしていて。
VR、「バーチャル」って言葉の新しさだけで終わっちゃってることってやっぱ多いと思うんですよね。常に「何か」につながることをやっていかないと、そこで終わっちゃうと思っていて。
GHOSTCLUBは、その活動と存在によってどこかに何か強い影響があって、それによってまたつながっていく、ということを常にやっている場所だと思っています。
chlomaさんも、ずっと前からそれをやっていて、ここで出会って、そこから相乗効果で強くなっている。これが必要だってすごく思う。
Junyaさんもツイートされていた、生きたコミュニティみたいなもの。それがうまいこと融合しながら、次につながること、広がりのあることを行っていく。
終わりではなく、常に『生き続けるもの』をやらないといけないんだな、ということをすごく思ってるんですよね、最近は特に。
Junya うん、本当にその通り。
装いを楽しむ、共有する──バーチャル空間のファッション文化
- バーチャルストアにいろんな人が来て、服を試着したり、鏡を見ながらフレンドと話したりしている光景を見て、どういう感想を持ちましたか?
Junya chlomaのバーチャルストアは今回が2回目となるわけですけれども、やっぱりその試着やショッピングの楽しさって、いわゆるリアルとバーチャルで本当に変わらないなって僕は思ってます。
もしかしたらバーチャルの方がより豊かな体験ができる可能性もあるとすら思ってますね。
ファッションやファッションのショッピングは、将来的にソーシャルVRのキラーコンテンツになり得るポテンシャルがあるんじゃないかな。
- アバターもファッションという括りにして言うと、みんなそこにお金を使ったり、Unityの操作を覚えるモチベーションになったりしてますしね。
Junya うん。そのへんは大変だけど、こんなにもやってる人全員が装いに関心を持っているという世界はファッション業界にとってチャンスだと思うんです。
ファッションブランドにとって、今まで顧客じゃなかった人に関心を持ってもらえる機会になるし、レディースのブランドが男性に向けてアピールすることもできる。すごく画期的なんだけどなあ。
- GHOSTCLUBの0b4k3さんも、「自分はこれまでファッションにあまり興味がなかった」とブログで書いていました。
Junya 本当にうれしいですね。0b4k3さんは「基底でchlomaの服に袖を通してみたいなと思った」とも書いてくださっていて。
バーチャルで関心を持ってもらってリアルでもお客さんになってもらう、というのは主目的ではありませんでしたが、
すぐではないにしても、来年でも3年後でも5年後でも、たまたまリアルでchlomaの服に触れる機会があった際に、袖を通してもらえるきっかけになったらいいなと願っています。
- お客さんの中で、面白かった着こなしとかはありましたか?
Junya Blackteaさんの着こなし方はとても印象的でした。おそらく韓国の方。
「ファッションは姿勢から」というのをVRで体現していて驚きました。落ち着いた着こなしですが、とても魅力的に映ります。
ショップスタッフを勤めてくれたwa-iさんと、amanekさんが並んでいる写真もお気に入り。ここまで等身が違うのに、2人ともばっちり着こなせています。アバター自体の世界観が大きく異なっていても、装いによって2人の世界がグッと近づいて見えたのも感動的でした。
Cap 単純に改変って言うよりも、ほんとファッションとして楽しんでる人っていますよね。服もだんだん増えてきてるし、それをやる人も増えてきている気がしていて。そういうファッションを楽しんでる人にとって、ちゃんとしたファッションブランドのかっこいい服が出てくれるのはありがたいと思うから、chlomaの存在は今すごく需要があると思います。
Junya きっぱり分かれるわけじゃなく、その間にはグラデーションがあるんですけれども、キャラクター的な存在と非キャラクター的な存在がVirtual Beingにはあると思っていて。客体的存在と主体的存在と言い換えてもいい。
すごく雑に括ってしまいますけれども、例えばVtuberはキャラクター的な存在感が強い。一方でGHOSTCLUBや周辺の文化圏では非キャラクター的な存在感を持った方々が多い印象を受けました。もともとアバター文化はアニメキャラクターのデザインのトレンドから大きく影響を受けていて、客体的と捉えられるデザインが主流となっています。
GHOSTCLUBやその周辺の方たちを見て僕が衝撃的だったのは、アバターの改変やファッションを通して、主体性を持って見えるデザインにアバターがなっていたからなんですよね。キャラクター性の演出のための装いではなく、なんというか、カジュアルなんです。
それを見て、chlomaが参加するしないに関わらず、すでにそこに僕は強いファッション性があると感じていましたし、すごく新しい可能性があるなって思ってました。
やっぱり日本におけるVirtual BeingではVtuberが圧倒的に認知されているけれども、そうじゃない主体的、日常的な存在のあり方もあるんだっていうのを広く知ってもらいたいなって思いますね。
- 今回はイベント形式ではありましたが、お店で買い物をする体験は本当に日常のようでした。
Cap 本当によかったですね。自分でも普通に「これ欲しい!」ってなりましたし。試着システムが試着としてちゃんと働いていました。
「ごっこ」ではなく、本当に「試着」の体験ができていたと思います。
Junya 欲しいって思ってもらえてすごくよかったですね。
すごくクオリティーの高い空間で、すごくホスピタリティーが高くても、置いてある服が魅力的じゃなかったらどうしようもないですからね(笑)
- 試着システムはJunyaさんからのオーダーですか?
Junya それ以上のものになってますね。fotflaさんを中心に試着のギミックはつくってくださっていて、前回キヌさんがつくった試着システムを最初のイメージにしつつ、そこからもっとこうだったらいいよねっていうのをやってくださいました。
前回と違って大きさが無段階に調整できたりだったりとか。
Capさんがつくってくださったアバターウェアは手(袖部分)が動くようになってたりとか。僕はその辺、何も要求してなかったんですけど。
Cap なんか、「願い」ですよね。絶対こうした方がよい、みたいな。
程よいですよねしかも。腕だけっていう。
キヌ これは絶対に「こうあって欲しい」と思いますよね。
Junya あと、服がアバターに追従するギミック。
Cap これいいですよね。
キヌ 前回のストアだと、服が空中にあって、それに体を合わせに行く、みたいな感じで大変だったのと、どうしても服と自分が切り離されちゃう感じがあって。
今回くっついてくれるようになったので、本当に着てる感じがしてすごく親しみが出るようになってるのかなって。
Cap 鞄をちゃんと肩から下げられます。これめちゃくちゃでかいですよ。
キヌ 前回は3段階のサイズから選ぶようになっていたので、鏡の前で合わせてみて「ちょっと大きいな、別のサイズ取ってこよう」ってなるのがとても試着らしくて感激していました。それに対して、今回は無段階にサイズを変えられることで、いっしょに来た人と例えば帽子をこうやって……、
Junya そうですね、被せられるんですよね。
キヌ 友達の頭に合わせながら、被せてあげることができるんですよ。
この姿というかこの光景、これがとてもいいなって思いました。
こういう無段階の大きさ調整は基底現実の試着ではできないと思うんですけど。でもすごく一緒に試着してる感じがあって。いい光景だなって思って見てました。
Cap これ似合うかもとか、絶対これ似合うと思う!とかってできちゃうんですよね。
- それを言われると「買うしかないな~!」ってなっちゃうんですよね(笑)
Cap そうなんですよ(笑)
デスクトップの子に着せてあげたら実際にとても似合ってて、本人も「めっちゃいい~」ってなってる人とかいたから。すごくよかった。
キヌ 自分で選ぶだけじゃ気付けない可能性が見えたりとかもあって、すごく楽しい。
- 特殊な形のアバターの人にもありがたいですよね。
Cap さっきのBlackteaさんも個人的にかなりきてるんですけど、このMANEさんが本当によくて。
やっぱり、これって着ないと分からないじゃないですか。
この「ヤバッ」ってなる感じ。着せてみて、おお~ってなる感じがあるなと思って。
これネタとかじゃなくて普通にめちゃくちゃ似合う。だから超よかった。
キヌ イラストになってましたよね。
Cap それもおもしろかった。この写真、かなり気に入ってるんですけどこれをイラストにしてくれてて。
キヌ すごく納まりがよくて。自然な感じというか。
Cap そう、写真自体にちょっと感動してたんですけど、さらに絵へ昇華していてびっくりしました。
キヌ あれは試着しないと絶対に見つけられなかったやつですよね。
自分のつくったものが、生活の、日常の一部になる
- 2回目のオープンでは、来られるお客さんたちもみんなchlomaの服を着ていらっしゃってましたが、それをご覧になってどう感じましたか?
Junya もちろんうれしいです。
同じ服を着てても、あんまり同質化して見えないのもバーチャルの良いところだなと思いました。すごく雑な言い方になってしまいますけど、人間よりも見た目の種類が多いじゃないですか、アバターは。
個性の出る部分が、洋服の比重が大きくないというか、アバター自体の存在感がかなり大きいので、仮にここにいる5人が同じ洋服を着ていたとしても画一的に見えづらいんだろうなと思いました。それは今回の気づきでしたね。
キヌ その人に組み込まれてる感じになるというか。周りでよく見る人達にchlomaのお洋服が組み込まれていってるのが嬉しかったですね。
Junya あと、あんま似合ってないなこの人っていうの、1人も見なかったですね。
Cap うん。それよかったですね。
- Capさんはいかがでしたか?
Cap 今回のように、洋服でなくても自分のつくったアバターとかでもいつも思うんですが、その人の日常とか生活の中の一部になるのってすごいうれしいんですよね。
その人の思い出、そのわずかでも、ある時間の中のある瞬間の想い出の一部になるっていうのはすごく、うれしいんで。
僕にとってそれが一番望ましいというか、そうありたいと思ってるので。
いろんな人が試着しているところや洋服を着て生活しているところ、またGHOSTCLUBで踊ってるのを見たりして、それを感じました。
Junya Capさんはそのようなことを考えてやっているんですね。素晴らしいです。僕も結構Cap派です。
僕がなんで洋服をやってるかって言ったら、人と合体できてその人の生命の一部になれるものだから。
その人の生活とかその人の血肉になり得るものっていうものを僕は大事にしてます。「リアルにない、VRだからこそ可能な洋服とかもデザインして売ったらいいじゃん」みたいなこともわりと言われるんですけど、もちろんそういうのをやってみたい気持ちもなくはないけど、もっと血肉になっていくものをつくりたいって気持ちが強いです。
だから、バーチャルならではの煌びやかなものっていうよりは、ある程度の現実みを持ったものをやっていくのがうちの強みでもあるし、僕のやりたいことでもあります。
「文化」を「継続する」、日常を過ごす
- バーチャル空間でリアルの服を買うっていうことも、今後はあり得ると思いますか?
Junya それは全然あり得ると思いますね。
だってオンラインストアで普通に洋服買えてるんだから。買うに至るだけの情報が見られるんだったら、購入に至るとは思います。
VRChatでの欠点は購入までのプロセスがかかっちゃうっていうところで、FacebookがやるソーシャルVR等では絶対その辺りを解決してくるでしょう。
だけど、FacebookのソーシャルVRはアバターの自由度が低くて、ビジュアルも良いと思えない。あれに支配されたら、ファッション的にはディストピアです。
将来VRChatが生き残るかどうかっていうのは置いといて、VRChatでのファッションの楽しみを世界中の人に見てもらって、ソーシャルVRでのファッションは自由なのが当たり前だよねっていうコンセンサスを作っていかないといけないなと思います。
僕にとっては、限られたフォーマットの中から選ぶだけじゃファッションとは言いたくないところがあるので。
Cap やっぱUnity触らないとダメですよ。
Junya そういうことなんだよね。多くの人にとってUnityが難しいとしても、もしかしたらすごく優れたサービスが解決してくれるかもしれないし。
ちょっと未来にVRでファッションが広がっていくかどうかはちょっと分かりませんが。うちも頑張りますけど。
- Junyaさんにかかってますよ(笑)
Cap みんな、仲間はいっぱいいるんで。
みんなでやりましょう(笑)
Junya でかい資本が…(笑)
Cap 資本がなくても、文化自体をつくっていくみたいな。
結局、資金力があっても文化がないと虚無なんで。
コンセプトだけじゃどうにもならないですよ。本物がないと。
ここには本物があるからなんとかなるんじゃないかなと思います。
Junya なるといいな。
- VRChatにはカルチャーが存在するのがすごいですよね。
Cap 人間主体なんです。VRChatが主体じゃなく人間主体だから。
VRコンテンツが伸びるか伸びないかは、それがわかってるかわかってないかが、やっぱ出ちゃうのかなとは思いますよね。そろそろみんなわかってると思いたいですけどね。そろそろ。
Junya Capさん、ちょいちょい良いこと言いますね(笑)
Cap ありがとうございます(笑)
Junya 人が最大のコンテンツっていうのは本当にそうだと思う。
Cap VRChatをやっていて思うことが結構あるのでよく考えるんですよね、そういうこと。Facebook Horizonとかもそうだし、何か「わかってないな」ってなるじゃないですか。「ちょっとこれは違うな~」みたいな。その、言語化できないけれどみんなが「うーん」ってなってしまうものってあって。
VRの中でも、VRChatはちゃんと生きている場所として確立されているじゃないですか。この違いは何かっていうのを考えたんですけど、まず『生きている人間がいるかどうか』っていうことと、それだけじゃなくて『日常を過ごせるかどうか』があると思うんですよね。人間にとって一番長い時間は日常なので。
VRChatにはイベントもありますけど、そういうのを含めてどう過ごせるか。普通に誰かと話したり、のんびり時間を過ごすようなことを普通にできるかどうか、というのがあって、そこをいかに大事にしているか。それがないと結局メタバースとか言ってらんないよね、みたいな。アトラクションで終わっちゃうな、と思っています。
体験としてその場で面白いものも重要だとは思うので、アトラクションは普通にちゃんとアトラクションとして成立してるならいいんですけど、ソーシャルVRを目指してたり一つの『世界』として確立させることを目指してるのに、単純なアトラクションで終わっちゃってるのって違うんじゃないかなって。やっぱりそこに文化がないと始まらない。
VRChatは運営がゆるいからなのか、その辺はユーザーに任せたほうが多分いいって分かってたからかな。何かうまくいってますね。
Junya そうですね。GHOSTCLUBとchlomaのコラボレーションをやりたいって思ったのって、点と点で存在していたものが、つながりを持つことによって面になっていくから。
多くの人に、ここにはフィールドがある、っていうのを示せたんじゃないかなと思っています。
GHOSTCLUBをはじめとしたVRクラブだけでフィールドになってるのはもちろんなんですけども、そこに軸を1個増やすような。多次元的になる意味でうちがお役に立てたかなっていう感じはします。
- バーチャルにおけるchlomaの展望を教えてください。
Junya 3回目をやるっていうのはまずすごく大きな目標。
それ以上のスケールは正直、僕は予想し尽くせないことなので「あり続ける」ことが大事だなと思っています。続けていけば少しずつでも広がっていくんじゃないかなと期待していますね。
すごく先の展望としては、死ぬまでファッションを楽しめるようにっていうのがあって、中間の目標としては、やはりうちだけじゃなくていろんなブランドがこのようなバーチャルストアというか、洋服を見られたり着られる空間を持つようになってほしい。
それをどうやったら広げられるかなって思っていますが、なかなか難しいですね……。
Cap 淡々とやっていくしかないですよね(笑)
Junya すごく元も子もない話になっちゃうんですけど、僕がVRやってない側でこれ見せられたら「あ、ちょっと参入できない」ってなりかねないんじゃないかな。ハードルを上げてしまっていないかと心配になることがあります。
Cap 今回のやったすべての要件みたいなのを「こうすればできますよ」って話ではないですもんね。関わってる人間の量とかGHOSTCLUBの存在とか、あらゆる文脈の縁の結果ですから。
でも一応、こういうことができたという事例として、経緯をまとめたりするのはアリなのかもしれないですけど。ノウハウとしてじゃなくても、何が起きたかの報告として。
キヌ 依頼する側からしたら、こういうのを依頼するときに、こういうお願いしたとかこういう情報を渡したとか、そういう話だけでもたぶん貴重な知見なんじゃないのかなっていう気はします。
ただ、依頼して終わりという感じじゃないので、そのまま再現はできないんですけど。
- 先ほどの「一回やって終わりになってしまう」という話もありますし、難しいですね。
Cap まずVRChatをやるべきなんですよ。
キヌ そう、本当にそれなんですよ。
Cap まずVRChatやんないといけないんですよ。日常を過ごしてないとダメなんだと思います。開発するとか、何かやろうとしてる人間が。
そこをわかってないとダメだから、まずVRChatをしないといけないんですよね。
キヌ たぶんclusterでもREALITYでも、他のプラットフォームでもいいと思うんですけど、こういうバーチャルな生活っていうところにまず自分が入らないと分からないですよね。
ソーシャルVRの生活に何かを提供したいなら、ソーシャルVRで生活しないとダメだし、バーチャルの人に何かを提供したいなら、アバターだけでもいいからそれを日常的に使わないと絶対に分からない。
Cap やっぱり、今までのVRの印象ってあるわけじゃないですか。
現在を知らないとそれがいつまでもアップデートされなくて、今までの感覚のまま開発したらわかってないものができちゃう。
- VRChatをやるべき、というのはクリティカルな回答だと思いますが、やったことのない人たちに伝えるにはどうすればいいんでしょうか?
Cap こっちはこっちでやるしかないんじゃないかな、と僕は思います。
積極的にこっちから呼び込みをするための策を練るかどうか、とかはあると思うんですけど、僕はわりと、やっていると勝手に、発見する人は発見すると思っているから。VRChatのファッションの文化でもそうだし、クラブのカルチャーでもそうだし。
結局そこに本物があるなら、どんどん勝手に露出しちゃう気がするので。ちゃんとここに、何かいいものがあれば、楽しいことをちゃんとここでやっていれば、だんだん外には勝手に漏れていくのかな、とは思ってるんですよね。
Junya 僕はCapさんが浸ってるほどVRchatを日常的にはやってなくて、週に1~2回インするしかしないかくらいな感じで。
それでもVRに希望を持てたのは、定期的に週一でやってるGHOSTCLUBの存在がすごく大きかったです。そこに点じゃない、継続している社会があるっていうのを感じられたから僕もつられて定期的にログインし続けられてるというのはありますね。
キヌ バーチャルに興味を持った人に知ってもらえる場所はあってほしいし、そのために活動していくのは大事だと思います。
Cap キヌさんの立場はすごく貴重で必要な存在だと思います。
バーチャルをまだよく知らないという人たちを、いい感じに案内することができるナビゲーター。すごく必要ですよね。
キヌ アンバサダーとか、いろんな形で活動してる方もいますね。そんな風に、知りたくなったときに聞いてみようってなれる状態って大事ですね。
- バーチャルとリアルの生活の融合というところで、人間のライフスタイルはどういう風に変化していくと思いますか?
Junya VRChatの立場が特殊に思えるのも、もしかしたら今だけかもしれないなって思っていて。今ってもうあらゆるSNS、Twitter、Instagram、Tiktok、LINE、discord、あらゆるプラットフォームを横断して、ひとつの人格で地続きに生きている。
それにVRChatのようなソーシャルVRがプラスされるというのが、多くの方にとってあり得る現実なのかなって思ってますね。
VRの存在がリアルの延長であるべきか否かっていうのは人それぞれでいいとは思うんですけども、自分であるままにあらゆる環境へ行けるようになるというのは人間の望むところだと思うんです。
ファッションは、リアルとバーチャル関係なく、世界のあらゆるところに自分のままで存在することができるという実感を得るための大切な要素だと思っています。
- VRが日常生活の一部に組み込まれていくイメージですか?
Junya そうですね。僕は今で言うところの電話をかけるぐらいの感覚でVRをするっていうのがあり得る未来なんじゃないかなって思っています。
電話もいわゆるテレイグジスタンスの走りなわけじゃないですか。
電話口の向こうをバーチャルな存在だとは誰も思ってないし、リアルと何も変わらない存在だと認識していて。常に接続するものではないけれども、必要なときにだけ使う。
電話は誰かと会話をするために使われて、VRはおでかけをしたり、誰かと会うために使われる。僕はVRがそのような形で世界に浸透していくのが一番ありえるんじゃないかなってなんとなくイメージしてます。
- Capさんはいかがですか?
Cap 個人のコミュニケーションの取り方がもっと変わるというか、選択肢が広がるのかなと思ってて。VRとかって何か現実の逃げ場所みたいな印象があると思うんですよね。
でも実際は、自分から逃避するための場所というより、人によっては基底現実よりも殻が外れた自分になれたりする。
物理的な壁とか、いろいろな要因でちょっと引っかかりがあったり、何か無意識につくっちゃう壁みたいなものが、バーチャルだと余計なものを見せる必要がないし、なくすことができる。
そういう状態だと、自分はあまり人と話したいタイプではないと思っていた人でも、実はめちゃくちゃ話せちゃったりする。毎日会って、ものすごく近い距離で話しちゃうくらいの関係になったりしますし。
みんな誰でも、人好きなのかな、人間はもともとコミュニケーションを取りたい生き物なのかな、ということを思うので、より自分になるためのコミュニケーションの手段として広がってくれたらいいなと思うし、なるんじゃないかなと思います。
VRというものが、自分じゃなくなるための場所じゃなくて、自分になる、なれる場所みたいな扱いになるんじゃないかなと思うんです。
Junya やはりCapさんは熱のこもった想いがありますね。VRが自分になれる場所になるという捉え方はとても納得感があります。
僕は、ファッションは自分に没入することのできるメディアだと捉えています。服などを通じて、あるべき自分の姿を模索し、新しい自分を発見し、獲得してゆく。自己実現のひとつの手段として、CapさんのVRの捉え方と僕のファッションの捉え方は近いのかもしれません。
- キヌさんはいかがでしょうか。
キヌ バーチャルの価値は人によって違うので、逃避場所と揶揄する人もいるけれど、もっと切実に感じている人もいると思います。
「バーチャルの世界がすごいって言うけど、インドに行って人生観が変わったってのとどう違うの?」みたいなことを言われたことがあって、それはうまいこと言うなって思って。
あんまり違わないと思うんですよ。それぐらいの感じでスムーズにつながってるものだと思うんですね。単純に、世界の一部なんですよ。
でもやっぱりバーチャルは特別にすごいって思う気持ちがあるし、そう捉えてる人はいっぱいいると思います。
そこにどんな違いがあるのかなと考えたんですが、例えば、人間って陸上だとお話できるんですけど、水中ではしゃべれないじゃないですか。
もし生まれてからずっと水中で生きてきた人がいたとして、その人が陸に出られたら、世界ってこんなだったんだ、友達としゃべったりできるんだ、って思うじゃないですか。たぶんそういう状態なんですよ。
Cap 水中で溺れていて、やっと陸地に上がって助かったら「陸に上がるのは逃げじゃない?」って言われたら、いや違う違う、みたいな(笑)
生活と環境が自分に合ってなかったのが、正しくなったという感じですよね。
キヌ そうですそうです。世界の一部という点では同じではあるんだけど、その違いをそれだけ切実に感じる人もいる。
だからこれだけインパクトを伴ってVRが社会に受け止められてる面があると思うんですね。
私はここで生きてる人たちが本当に好きだし、自分もこの世界でしか生きられないと思うので、この世界が何としても残っていけるよう、この世界がつぶされないよう、この世界楽しいよ、こういうのがいいんだよっていうのを、もっと見せられたらなって思います。未来予想というよりも、意気込みです。
Junya 三者三様のとらえ方がありますね。
みんな、バーチャルを語るときに、ある種の自分の生き様抜きでは話せないところがありますよね。皆さんの言葉の後ろに人生の厚みを感じました。
キヌ 今回のバーチャルストアのような楽しいものを見せつけていく、という決意!
Cap 楽しいことをやってれば、物事は良くなると思うんで。
これからも面白いことをやっていきましょう。
ソーシャルVRにおけるバーチャルファッションの歴史の中で、間違いなくひとつのターニングポイントとなるであろう今回の「chloma Virtual Store in GHOSTCLUB」。そこはまさしく、バーチャルで生きる人々の想いや願いが形を成して存在する世界だった。1人のユーザーとしてこのバーチャルストアを体験できたこと、そしてこのように取材をする機会をいただけたことをとても光栄に思う。
インタビュー中でも話されていた通り、ソーシャルVRの魅力はその中で過ごしてみないとわからない。もし少しでも興味を持ってもらえたのなら、ぜひ恐れずに飛び込んできてほしい。きっと何かが見つかるはずだ。
取材に協力していただいたJunyaさん、Capさん、キヌさん、本当にありがとうございました。また、記事化の許可をくださいましたGHOSTCLUBの0b4k3さんと、インタビューを受けてくださったお三方を始めとした「chloma Virtual Store in GHOSTCLUB」制作スタッフの皆様にも、この場を借りて御礼申し上げます。
監修・インタビュー:タカオミ
編集:hukukozy
写真撮影:Yuki Inagaki、タカオミ、キヌ