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ゴーギャンの妻(4)[小説]

 こんなふうに母と叔母のいうことが、ことごとく一致しない。実母が2歳で生きわかれた息子に洋服の1枚送ってこないなどということがあり得るだろうか? そんなことなら、9歳で遺棄された姉も洋服や靴に困ったろう。姉がグレたのも当然な気がする。叔母は実の兄である僕の父の悪口はあまり言わなかったし、祖母は叔母の話を聞いても表情を崩さなかったから、父のことは何の情報も僕には入らず、どこで何をしているのかさえも知らない。外語大を出て今45歳くらいだとまで知っているだけである。
 
 中学1年のとき、姉は高校を出て一人暮らしがしたいと言い出て行った。いま思えば彼氏ができたのかな?
家族がどんどん減っていく家庭もあるのだ。物心ついてから、母とは数回、父とはたったの1回しか会っていない。それも会ったのは祖父の葬儀のときである。子どもより親が大事だと思う人は、意外に多いんじゃないか?(太宰氏、そうでなきゃ僕は浮かばれません)
 
 しかも誰がどういうウソをついているのか分からないので頭がおかしくなりそう、芥川龍之介の『藪の中』を読んだとき僕は、
(ああ、これ、うちの話だ)
とケラケラ笑ってしまった。まあもう、どうでもいいやと思っている。 
  
 エレベーターで最上階に近いラウンジに連れて行かれる。床には外国製であろう立派な暗茶模様の絨毯が敷かれているわけだから,みっともない古い靴を履いて来てはまずかった。 
  
(まあだあれも見てへん見てへん)
高杉家は徳島から大阪に出てタバコ屋を10年ほど営んでいたので、たまに関西弁が出ることがあった。祖父も
「よっしゃーっ!」
とかよく言っていた。
 
 母は座ると珈琲と紅茶を注文した。値段を見るとどちらも破格の1200円だったので(たっけえええ!)と思わず声を出しそうになった。(インベーダーゲームが12回もできる!) 

>続く

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