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#21 ベンチャーキャピタル用Tinderの到来

ベンチャーキャピタルファンドは資金を持っていて、有望なスタートアップを見つけて投資します。しかし、ベンチャーキャピタルファンドが持っている資金は一体どこから来ているのでしょうか?その質問に対する答えは、そのVCファンドに投資する投資家がいるということです。彼らはLP(リミテッド・パートナー)とも呼ばれるのですが、LPは資金を持っていて、ベンチャーキャピタルファンドが有望なスタートアップに投資をするのと同様に、彼らも有望なベンチャーキャピタルのファンドマネージャーを見つけて投資をします。LPには、年金基金、大学基金、アセットマネジメント会社、大企業、富裕層家族の資産を管理するファミリーオフィスなどの投資家がいます。

ベンチャーキャピタルのファンドマネージャーは、自分の投資戦略と実行力を信じてくれるLPを探し、LPは自分の投資基準を満たすファンドマネージャーを探します。しかし、残念ながらこのプロセスは殆どのファンドマネージャー、特に新規参入した新しいファンドマネージャーやVC業界では主流を占める白人ではない有色人種などの過小評価グループ(Underrepresented groups)のファンドマネージャーにとっては非常に難しいプロセスです。時間も早くても6ヶ月、大体1~2年くらいかかるのが普通です。

この特殊なマッチングには、Tinderのようなソリューションはありません。Tinderはマッチングの候補者を画面上に表示してくれるので、ユーザーは左か右にスワイプするだけで最適な相手を簡単に選ぶことができます。しかし、ファンドマネージャーとLPのマッチングとなると、オンラインデートのマッチングアプリどころか、まるで昭和のお見合いのようで、未だに共通の知り合いからの紹介によるものが多いです。つまり、システム化された出会い方ではなく、極めて手動的かつ受動的な方法で一人一人と出会っていくのです。このような前時代的な方法でのマッチングを経て、ベンチャーキャピタルファンドはやっと最先端のテクノロジーに投資を開始できることになります。このプロセスに矛盾を感じるのは僕だけではないと思っています。

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この課題を解決する必要性は年々高まっています。まず、過去に複数の記事で紹介したように、小さな規模のファンドの数はこの10年で増加しています。下の図は、毎年の5,000万ドル(約$50M)未満のファンドの数とファンドサイズの合計額を示したものです(Data source: Pitchbook)。

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次に、ベンチャーキャピタルファンドに投資しようとする投資家も増加しています。例えば、2008年に1,000社だったファミリーオフィスの数は、2020年には11,000社以上に増加していますが、ファミリーオフィスの80%がベンチャーキャピタルファンドに関わっています。さらに重要なことは、シリコンバレーバンクが発表したレポートによると、ファミリーオフィスにとってベンチャーキャピタルファンド投資の最大の障壁は、魅力的なマネージャーへのアクセスが限られていることだと言います。

幸いなことに、このプロセスがついにディスラプトされようとしています。Allocate社は、First Republic Bankにて8年以上に渡ってVC/PEファンド事業のSenior Managing Directorを務めていたSamir Kaji氏が設立したテクノロジープラットフォームです。同社はLPが最も魅力的なファンドマネージャーを適切に発見できるテクノロジープラットフォームを構築しており、同時にベンチャーキャピタルアセットにアクセスするLPのプールを拡大しています。また、ファンドマネージャーとLP両方にとってネットワークを持っている人とそうでない人の間の格差をテクノロジーによって解決することを目指しています。これでやっとVC業界はオンラインデートのマッチングアプリに追いつくことができそうですね。

Oper8rは、ベンチャーキャピタルのエマージングマネージャーのためのYCombinatorのようなものです。参加者は8週間のプログラムを通じてLPへのアクセスを増やしたり、ユニークなフィードバックをもらったり、ベストプラクティスを習うことができます。

言うまでもなく、「アイアンマンのベンチャーキャピタルファンド」記事で紹介したAngelListのローリングファンドも、新しい形態のマッチングプラットフォームです。同社のスキームを使えば、ファンドマネージャーがより多くの適格投資家(Accredited Investors)とより簡単にマッチングすることができます。
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わずか10年前、ほとんどのスタートアップ創業者にとって、ベンチャーキャピタルファンドからの資金調達は未知の世界でした。ベンチャーキャピタルとは何かを理解している人も少なく、それを知る方法もあまりなかったのです。また、ベンチャーキャピタルファンドの数も今と比べれば多くはありませんでした。しかし、今では、資金調達のプロセスを学ぶためのリソースは非常に豊富にあり、色々な方法で投資家により簡単に出会うこともできます。

さて、同じことが新しいベンチャーキャピタルファンドのファンドマネージャーにも起こっています。上述したように、資金調達のプロセスにはまだまだ未知の部分が多く、ほとんどの新しいファンドマネージャーにとって、見込みのあるLPにアクセスすることは難しいです。また、それを手軽に勉強できる方法もありません。しかし、これからAllocate、Oper8r、AngelListのようなプラットフォームは、資金調達のプロセスにより透明性をもたらし、プロセス自体をも簡単にしていくでしょう。

これは言うまでもなく、ベンチャーキャピタルのエコシステムに大きなプラスの影響を与えていきます。新しいファンドマネージャーや有色人種などの過小評価グループの有能なファンドマネージャーは今より公平な資金調達の機会を得ることができますし、さらにその資金は有望なスタートアップに投資され、エコシステム全体の成長を促進していくと思います。

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References

- Allocate - http://allocate.co/
- Oper8r - https://www.oper8r.io/
- Angelist Rolling Fund - https://www.angellist.com/rolling
- Introducing Allocate - https://samirkaji.medium.com/introducing-allocate-2be46c1e7918
- Family Offices allocate to VC funds and direct investments: Campden Wealth - https://www.svb.com/family-office-report-2020

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