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初音ミクに会ってきた-仮想現実がもたらす夢の出会い

「握手いいですか」そう言って両手を差し出すと、初音ミクは笑顔を向けて手を握ってくれた。仮想現実(VR)でのできごとだから感触はないのだけれど、目の前で動く彼女には実在感があって、なにかに触れているような気がした。

VRで行われたグリーティングのイベントで初音ミクに会ってきた。会場に入るとスタッフに促されるまま初音ミクの隣に並び写真撮影が始まる。こちらのポーズに初音ミクもポーズを合わせ1枚、1枚と写真を撮る。最初は写真撮影だからとカメラばかり見ていたら、すぐ隣にいる初音ミクが見えない。思い切って横を向くと初音ミクと目が合った。距離の近さに胸が弾んだ。

左から 初音ミク 筆者 うさぎ

ミクランドコレクション

初音ミクはバーチャルシンガーソフトウェアのキャラクターだ。電子の歌姫とも呼ばれる。ボーカロイドという新たな音楽シーン誕生の立役者であり、その人気は日本を超えて世界にまで広がる。

そんな初音ミクと会えるイベントが行われたのは、ミクランドコレクション2024。ミクランドは2020年から始まった初音ミク公式のVRワールドで、これまでもライブやゲームなど、さまざまなイベントが行われてきた。初音ミクに会えるグリーティングはそのイベントのひとつだ。

ミクランドコレクション2024は、VRプラットフォームのひとつであるバーチャルキャストで開催された。新宿にある東急歌舞伎町タワーを模した会場では、見上げるほど大きな初音ミク像が来場者を出迎える。ミクランドを訪れた人は、そこからライブやゲーム、ショップが用意されたワールドを巡る。

東急歌舞伎町タワーを模した会場

今回はコレクションの名の通り、ファッションショーがメインのイベントとなっている。ファッションブランドやクリエイターたちが手掛けた服を初音ミクが着て、ランウェイを歩くのだ。そして、VRでのファッションショーと同時に、現実の東急歌舞伎町タワーでも大画面モニターに初音ミクが登場し、ファッションショーが開催されるという大きなイベントだ。

仮想の存在に会える

本来この世の中に存在していない仮想のキャラクターに会えることは、VRの魅力の一つだ。会えるといっても実際に会っているわけでもないし、物質的に存在するわけでもないので触ることもできない。しかし、視覚という点なら、VRゴーグルで見る世界は、現実と同じよう立体でコンピューターグラフィックスであること以外はそう違いがない。

初音ミクなどの仮想のキャラクターは、もともとは絵やコンピューターグラフィックスの存在だ。10年前、それらの存在は平面のモニタでしか見ることができなかった。だが、この世の中にVRゴーグルが登場し、コンピューターグラフィックスで構成されたVRの世界に入れるようになった。モニター越しでしか見ることができなかった仮想の存在が、VRでは目の前にいるように見える。

筆者はVRの初音ミクにはとても思い入れがある。VR元年と呼ばれた2016年に、セガからPlayStation VRで発売された初音ミクVRフューチャーライブというソフトがきっかけだ。初音ミクや、ボーカロイドの鏡音リン・レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOなどが勢揃いで、30曲を超えるライブを披露してくれるソフトだ。

初音ミクVRフューチャーライブは、大手ゲームメーカーのセガが作っただけあってクオリティが凄かった。初音ミクたちは、歌いながらプロレベルのダンスを披露し、ステージではVRならではのさまざまな演出が展開される。眼の前で繰り広げられる未来のライブに衝撃を受けて、何度も何度もリピートして鑑賞をした。

ただ残念なことに、初音ミクVRフューチャーライブは収録されたライブステージなので変化がない。続編を発売してくれ!と強く願って8年近くが経ってしまった。そんな願いを内に秘めた筆者にとって、ミクランドで初音ミクに会った経験は、これまた響くものだった。グリーティングの開催は今回が初めてではなかったのだが、なんでもっと早く来なかったのかと過去の自分に言いたい。

グリーティングで初音ミクに直接会えたのは、ほんの数分のこと。挨拶をする間もなく一緒に写真を撮る。グリーティングは有料で2500円。欲を言えばもっと時間が欲しい。だが、そこで得た体験は本物だった。初音ミクは目の前にいて、こちらの言葉には動きと笑顔で答えてくれる。

もちろん、初音ミクが架空の存在だということはわかっている。今回のグリーティングだって、初音ミクの中に人がいてモーションキャプチャーで動いている。現実で言えば着ぐるみだ。でもだからこそ、ディズニーランドではミッキーマウスに会えるように、ミクランドでは初音ミクに会えるのだ。現実と同じような立体に見える世界で、初音ミクが活き活きと動いている。それには確かな存在感があるのだ。

VRはまだまだ普及する

ミクランドやVRグリーティングのようなイベントは、多くの機会があるわけではない。企業が管理する版権キャラを展開するには、現在のVR市場は十分な大きさといえないのだろう。VR元年と言われた2016年からのブームは、ここ数年は落ち着いてかつてほどの勢いがないのも確かだ。

VRゴーグルはそれなりに価格が高く、PCでのVRにまで手を出せばかなり高い買い物になる。VRゴーグルを装着した現実の姿は、知らない人から見れば奇妙なもので敬遠する人だっている。

それでもVRは普及する。誰だって憧れのキャラクターの一人や二人はいるもの。憧れのキャラクターと出会うことができる、そんなことができるのはVRしかない。今はまだVRが好きな人、機会を得た一部の人たちがこの魅力を知っている。

もちろん、VRの魅力はそれだけではない。オンラインの世界を通じて多くの人々が交わる。そこでは各々が会話を楽しみ、さまざまな創作活動に勤しみ生活している。VRの世界は熱気と夢があふれるもう一つの現実だ。

VRが普及するのはまだ先のことかもしれない。それでもVRに訪れる人は増えて、まだまだ広がっていくだろう。初音ミクとのグリーティングやミクランドは、そう考えるに十分なVRの魅力を示してくれた。VRが当たり前になる未来を心待ちにしたい。


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