見出し画像

Aが好きなのは僕だったけど。

たぶんAは、いいとこの子だったはず。一族で経営している医療法人の理事かなんかの席をあてがわれて、仕事してるのかしてないのかわかんない感じだった。

読みが鋭くて、人が考えていること、言うに躊躇していることを何のてらいもなく口にした。 そんなデリカシーのなさが、僕はちょっと苦手だった。

Aといると、Aの手のひらの上で泳がされているような気分だったし、Aもそういう態度をとっていた。「お前のことは全部お見通しなんだよ」って、いつも人より上に自分をマウントしていた気がする。

ただ、そんなAにとって、僕がタイプの人だったらしい。どんなに強がっても、「オレは人をコントロールできる」と思っていても、「好き」は別だよね。それは隠しきれない。

そしてある日。 僕はまた転職活動をしていて、いくつかのポストに応募していた。それは応募者と募集者しか知らないことのはずなのに、なぜかAは、僕が応募したポストも、そこで選考に残っていることも知っていて、僕にそのことを匂わせてきた。

Aはたぶん、政治を使える立場にあったと思う。何らかの人脈で僕の動向を掴んでいて、いつものように「すべてお見通しさ」ていう態度で迫ってきたんだ。

ついに僕はキレた。電話口で罵った。正直、怖かったというのもある。なぜバレるんだ?Aは何者なんだ? 人が悩んで、がんばって転職活動しているのに、「そんなところでがんばってんの?」と高みの見物しているのが不愉快で気色悪くて。いい年して、泣きながら罵ったのを覚えてる。

それでもAは、ほとぼりが冷めると僕を飯に誘ってきたりしたんだ。 よせばいいのに僕もその誘いを断りきれず、何度か2人で飯を食いに行き、飲みに行った。

それはそれは非生産的なデート。Aが僕のことを持って回った言い方で持ち上げようとするんだけど、僕は概ね無表情で、必要最低限の相槌しか打たないんだから。「そう」「ふーん」「そうなんだ」

Aはものすごくプライドが高かったから、自分が片思い、自分の方が立場的に弱い、というのを認めたくない態度がありありで、それが僕を一層冷めさせたよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?