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映画#1『プロミシング・ヤング・ウーマン』/シュガーコーティングされた毒を食す

映画には、観客に伝えたいメッセージがある。
そのメッセージが社会問題や政治的なそれだとわかると、「現実から離れて楽しみたい気分」が台無しにならないよう、あえて選択肢から外すという人は少なくないと思う。仕事終わり、ソファに埋まってリラックスしたい時に、なんでそんな重たいことを考えなきゃいけないのか?

本作のメッセージも決して軽いものではない。それでもこの映画を強くつよくおすすめしたいのは、テーマとは不釣り合いなほど甘く彩られた映像とスクリーンから沁み出す毒の刺激に病みつきになるから。

男ばっかり悪者にされるのはごめんだって?
いいえ、この映画は男女問わず安全ではありません。

< voodoo girl’s 偏愛ポイント>
・エメラルド・フェネル監督の意地悪なユーモア
・新しさと懐かしさを織り交ぜたセンス抜群の劇中挿入歌

①監督の意地悪なユーモア

この物語は、観る側の予想や期待に対する裏切り連続だ。

まずは映画の冒頭。私たちが最初に目にするのはクラブで踊る人々の姿なのだけれども、若く華やかな男女はそこにはいない。代わりに、ベルトにもったりと脂肪が乗りかかった仕事終わりであろう男性たちの下半身が映し出される。初っ端から容赦ない、この居心地の悪さ。

次に、主人公の設定に関して。男性に対峙する女性像として、多くの作品では「クールで自立したフェミニスト」が描かれる。しかし、本作の主人公は、ピンク・リボン・花柄と、とにかくガーリーに振り切れた実家暮らしの女性である点で観客のステレオタイプを揺さぶってくる。

極め付けは、展開の意地悪なサプライズ。真面目なシーンで、シュールな小ネタや滑稽さを演出してこちらの笑いを誘うのに、結局笑えない展開に持ち込んで気まずくさせる。逆に、良くないことが起きたことを仄めかされ、こちらが身構えると肩透かしを喰らう。

あらゆることが意地悪にこちらの期待感をかわして、「今あなた、こう思ってたでしょ?」と嘲笑ってくる。これはエメラルド・フェネル監督なりのユーモアであり、個人的にこういう皮肉っぽさは大好きなのだけれど、何よりも、観る側を巧みに巻き込みながら核心に迫っていく手腕に感心せずにはいられない。

②センス抜群の劇中挿入歌

この映画のプレイリストはもう何回聴いているかわからない。
古いものから新しいものまで、時に映画の世界観に合わせたアレンジを加えながら、印象的な楽曲を集めるセンスは脱帽もの。

Charli XCXの『Boys』は物語の幕開けにふさわしくポップでガーリー。その直後、タイトルバックと共に流れる『It’s Raining Men』は1983年の楽曲をアレンジしたもので最高にセンスがよい。(はい、いい男が雨のように降ってくるそうです。笑)

最近ドラマなどの挿入歌で起用されることが多く、個人的に気になっていたバンドCigarettes After Sex。彼らの代表曲である『Nothing’s Gonna Hurt You Baby』も本作では女性ボーカルにアレンジして使っているあたり、憎い。

Britney Spearsの『Toxic』の毒素増し増しバージョンも、エンドロールの後半に流れるFLETCHERの『Last Laugh』も、ぜひ映画を通して聴いてほしい。

最後に

この映画はスカッとするような復讐劇ではない。
最初に書いた通り、本作はシュガーコーティングされた毒であって、見た目や口に運んだ瞬間は甘くとも後味はしっかり苦い。でも、苦味があるから観た人の心に残るわけで、現実でこの苦さを体験してしまう前に映画を通してありがたく毒見をしてみようじゃないか。

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