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映画#3『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』/カオスに身を任せてみる

「これはどういう映画なの?」と聞かれると答えに困る。単純にコメディというにはメッセージ性が強くダークな一面もあるし、最近流行りのマルチバースのようなSF的要素もあれば、ハイクオリティなアクションもある。

でも、あえて一言で表すなら、普遍的な愛の話。

「ますますわからない」という人はとりあえずセーフティバーを下げて、EEAOという名のジェットコースターに身を任せてみることをおすすめしたい。遠慮なく笑って泣いてほしいので、隣の席にはぜひ親しい人を。

< voodoo girl’s 偏愛ポイント >
・監督ダニエルズの”好き”の全部載せ
・ベテラン俳優たちの振り切った演技

①監督ダニエルズの”好き”の全部載せ

本作の主人公は、家族との関係も、コインランドリーの経営も、危機的状況にある平凡な中年のおばさん。そんな中、世界の危機までもが彼女の問題となり、別のユニバース(≒別次元)で全く異なる人生を歩む”自分”たちから能力を拝借して悪と戦うことになる。

こんな設定、誰が思いついたんだ,,,というくらい文字にすると余計わけがわからないし、ここから想像する以上に主人公を取り巻く状況はバカバカしさを増していく。なのに、非常に愛おしい。この愛おしさはきっと、本作の生みの親であるダニエル・シャイナートとダニエル・クワン、通称ダニエルズが自分たちの”好き”を贅沢に詰め込んだ結果、スクリーンから溢れ出るものだろう。

アクションシーンの本格的なカンフーの演出や、『花様年華』『グリーン・デスティニー』など過去の映画の名場面を彷彿とさせる映像。『レミーのおいしいレストラン』の原題『Ratatouille(ラタトゥイユ)』とRaccoon(アライグマ)をかけているのは字幕だけでは伝わりにくいが、あからさますぎるパロディに不本意ながらニヤついてしまった。ジャンル問わずとにかく好きなものを全部載せする純粋さ、嫌いじゃない。

②ベテラン俳優たちの振り切った演技

「なんだかアジア人俳優が多いアメリカ映画」という印象を持っている人にお伝えしたいのが、この映画に出ているメインキャストはハリウッドでも活躍するベテラン俳優ばかりということ。とても只者じゃない俳優たちが、全く冴えない人生を送る人物を演じ、とんでもなく真剣に馬鹿げた展開を繰り広げるというこれまた贅沢企画なのだ。

『クレイジー・リッチ!』で凛とした母親を演じたミシェル・ヨーが鼻からハエを吸い込み、ホラーの名作『ハロウィン』のヒロイン役で有名なジェイミー・リー・カーティスが奇声を上げて迫ってくるカオスな世界。他で見ることのできない振り切った演技が楽しめるのも本作の美味しいところだと思う。

お好きなベーグルの味は

最後に、本作でキーとなるエブリシングベーグルについて補足しておきたい。ベーグルのEverythingとはフレーバーの名前で、ゴマ、ポピーシード、オニオンフレーク、ガーリックフレークなどトッピングを文字通り”全部”載せしたベーグルを指す。日本で見かけるのはかなり稀なのであまり馴染みがないかもしれないが、ベーグルに全部載せてみたら〜というのは映画の中だけの話ではないことをお伝えしておきたい。お察しの通り、わたしの1番好きなベーグルのフレーバーはEverythingです。

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