PDC Asia公認レフリーのやりがい

前職に勤めていた頃は月~金曜、9~17時のフルタイムで働く完全週休2日制のサラリーマンでした。
そのため、アジアツアーのレフリーとして活動する際は金曜夕方まで働き、退勤したその足で空港に赴き、深夜便で土曜早朝に現地入り。設営や大会運営、レフリー業務で土日フルに拘束され、日曜深夜便で帰国して月曜朝にそのまま出勤…というスケジュールを組むことも珍しくありませんでした。
上記のスケジュールをこなした上での自腹とあって、友人知人はおろか、ダーツ関係者やファンの方々にも「コーラーの何がそんなに楽しいの?」と尋ねられることが多々ありました。
今回は、そんな多忙なコーラー業務の中で感じる私なりのやりがいについてお話させていただきます。

言うに及ばずではありますが、私はダーツが大好きです。
しかし、悲しいかな私には世界の舞台で競っていくだけの腕前がありません。
そんな私ですが、コーラーとして舞台に上がると、目の前で日本やアジアを代表し、世界の最前線でも活躍できる一流の職人達の、文字通り人生を賭けたしのぎ合いを見届けることができます。
その熱狂と興奮、非日常を誰よりも間近で感じることができるという事実だけでも素晴らしいのですが、その場を「お前がアジアで一番のレフリーだ」と断言して任せていただけていることは、趣味の枠を超えて私の人生にひとつの意味を授けてくれます。(特に、そう断言して任せてくれる人が世界最高のレフリー、ラス・ブレイ氏であるという事実が本当にありがたいです)

そして、アジアツアーの賞金は各ステージでベスト4が約4万円、準優勝が約15万円、そして優勝が約30万円です。
我々日本人には決して手が届かない金額とは言えず、プロスポーツの賞金としては物足りないと思われがちな金額ですが、アジア諸国には今でも平均年収数万円という国がある中で、それらの国々の選手にとってはその1投、その数ミリの差がもたらす勝敗で、文字通り人生が変わる可能性があるのです。
その瞬間に対峙するとき、自分自身はどうなのか。彼らのように、日々を一生懸命に生き抜こうと、戦い抜こうとしているのか。
華やかなスポットライトの下、そう自問自答することも、私にとっては得難い経験であると感じています。

ダーツという一見お手軽な競技の1投1投に、大の大人が歓喜し、涙する。
そこに凝縮された各選手の人生に私は心から尊敬の念を抱くと共に、そんな彼らの人生を左右する場面に自分が立ち合い、マイクを握らせていただいているという事実を重く受け止めて、より良い自分、より頼れるレフリーでい続けようと思わされます。

いちダーツ好きとして、自分が好きな趣味に携わるための手段として歩み始めたコーラーという道が、いつしか自分自身の在り様となりました。
ダーツに携わり、人の人生に携わり、人との触れ合いを通じ、自身の人生にひとつの意味が生じたと思っています。
この道を今後も歩んでいくため、上記の気持ちを忘れずに、大切にし続けていくことで、大好きなダーツに恩返しができるのではないかと、そう感じています。
長くなりましたが、これが私がダーツのレフリーとしての活動を通じて得たやりがいです。

小野口 漢

追伸
今後、入澤さんや私の後に続く公認レフリーの誕生を心待ちにしています。
ですが、全員がアジアツアー公認レフリーを目指す必要はないとも思っています。
まずはレフリーの仕事に触れ、その楽しさを知り、責任や緊張に悩んだりしながらも、各々のやりがいを見つけていってくれることを心より願っています。
そのうえで、「アジアツアーでも通用するレベルのレフリーを目指したい!」という意思を持った方が出てきてくれれば、それは日本のダーツ界にとっても本当に喜ばしいことだと思いますし、そのときには私も全力でサポートします。

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