【下積み時代③】ボーイ・ミーツ・チャンプ

ユース決勝でボロボロになった私の自尊心でしたが、そんなしょうもないプライドはすぐにポイしてやりました。
ダーツ界で言うと、リッキー・エバンスくらいの速度でポイッ。

自分なりに勉強もして、練習もしてきたけれど、本番では全く役に立たなかった。
本当に、自分でもびっくりするくらい何もできなかった。

悲しいね。悔しいね。

でも、そこで役に立たなかった私をクビにせず、すぐに2試合目の機会をくれた事務局の皆さんの期待に応えたい!
その一心で、私は再度マイクをとった。

レディース決勝戦は、韓国のNo.1女子キム・アルム選手vs鈴木未来選手。
ダーツプロはほとんど知らない私でも、鈴木未来選手は知っていた。
知っていたもなにも、このときの鈴木選手はJAPAN LADIES(国内の女子ダーツプロツアー)17大会連続優勝中で、誰にも止められない連勝街道を驀進中だった。(参考までに、当時のプロツアーは年18大会なので、ほぼ1年無敗で突っ走ったことになる)

そんな鈴木選手は、スティールダーツでも圧倒的だった。
とにかく20を外さず、圧倒的なスコアリングでキム選手を寄せ付けず、余裕をもってダブルを沈めていく。
121を60→25→36のハイオフで優勝を決め、私が高らかに優勝者の名前を読み上げると、鈴木選手はいつも通りの笑顔を携えながら「コーラーさん、音割れてますよ」と指摘してくれた。
(これ以降、鈴木選手とは国内の大会に限らず様々な場所でお会いしお世話になるのだが、それはまた少し先のお話)

こうしてビッグトーナメントでのコーラーデビューを果たした私は、この後思わぬご縁に恵まれて海外に赴くこととなる。

次回!
なんとコーラーはお休み!
アジアパシフィックカップ通訳編、始まるよっ!

(続く

余談 ~鈴木選手の狙い方~
当時、日本のダーツ業界では「スタッキング」という技術が脚光を浴び始めていた。
細かい説明は省くが、端的に言うと「先に投げたダーツに後から投げるダーツをぶつけ、絡ませ、狙ったエリアに矢を集める技術」のことである。
このとき、鈴木選手はスタッキングも駆使していたが、それ以上に「先に投げたダーツの上下位置に関係なく、1本ずつ狙ったエリアに飛ばし、着弾させることができる技術の高さ」に戦慄しながらコールしていたことはよく覚えている。
先に投げたダーツが邪魔で狙いにくいポジションであっても、鈴木選手はその上からふわりとT20を狙いに行ける。
鈴木選手は「ボードを平面で捉え、利用する技術」のスタッキングに加え、「ボードまでの空間を立体的に捉え、利用する技術」も併用していた。
このとき以来、私は「スタッキングよりも自身の飛びと刺さり方を理解して、それに合わせて自身の狙いを変えていくことの重要性」を提唱しているのだが、悲しいかな私にその技術が一向に備わらず、選手としても結果を残せていないため説得力を持たないまま3年が経過してしまった。
しかし、我らがチャンプ鈴木未来選手はやはり狙ってそれを行っていると伺ったので、賢明なる読者の皆様におかれましては是非その考え方も検討されたし。

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