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秀一が副部長に決まった経緯をシミュレーションしてみた(響けユーフォニアム)

季節は秋というけれど、まだまだ熱い
喫茶店では冷風がガンガンに店内を冷やしていた
「優子おそいっ!呼び出しておいて待たせるとかありえへんわ、もうコーヒー3杯頼んじゃったよー」
「すいません…」
さすがの優子も、あすかの前ではしおらしい
だが、どう見てもあすかの前にはアイスティーが置かれていた
しかも、まだほとんど口をつけていない

「でー今日は何で呼だされたんかな?部長がきまらへんとか?」
あすかの顔は満面の笑みだ、わざととぼけているのが優子にもわかった
「部長は久美子と1年前から決めてました」
あすかは口にくわえたストローで氷を転がしながら聞いている

「部員も増えた事やし、夏紀と話して来年は3人体制でいくってことで、部長の久美子とドラムメジャーの高坂は決まったんやけど…副部長がしっくりこうへんのです」

「候補は誰か決まってるの?」
興味があるのかないのか、完全な棒読みだ

「本人は川島緑輝がいいっていってはるけど…」
ストローをスポイトがわりに紙袋を濡らして遊んでいたあすかがつぶやいた
「高坂と緑輝ちゃんに挟まれたら、黄前ちゃんの胃に穴があきそうやなぁ」
「それです!」
優子の目が大きく見開く

「だったらぁ 黄前ちゃんの代わりに胃に穴あけてくれる人選らんだればええんちゃう?」

なるほど…
久美子の代わりに胃に穴を開ける人物
そんな適材がいたかどうか、優子はいろんな人の名前を浮かべた
加藤葉月…井上順菜…釜谷つばめ… どれもしっくりこない

優子の注文したクリームソーダーが届いた
よく見る緑色のソーダにアイスとさくらんぼが載っている
さくらんぼを脇によせて、アイスを頬張る

冷たい…
気持ちが逸れていたからか、少しアイスを掬い過ぎたようだ
頭がキーンとする
ふと 一人の名前が脳裏によぎった

「ふふーん 思いついたようだねぇ」
優子はこくりと頷いた
「じゃあ、一緒に言おうか?」
「はい」

二人とも悪い顔で見つめ合っている
「いくよ せーの」

『塚本秀一』

二人の声が綺麗にハモる
同時に一緒に吹き出して笑い転げた
「いまから塚本の困り切った顔が目に浮かぶわ」
涙をながさんばかりに笑い転げるあすか
「先輩それはひどい」
「何を言うか、越後屋そちも相当のワルよのぉ」
「いえいえお代官様ほどでは」
優子も涙ぐみながら答える

この二人、実はかなり相性がいいのでは
あの事件がなければ、こんな会話が日常だったのかもしれない

一呼吸おいて、クリームソーダに乗っていたさくらんぼを口に入れるとと話を再開する
「でも、少し頼りなくないですか?」
「うーん塚本はぼけっとしてるように見えて、黄前ちゃんを手籠めにしたヤツやからなあなどれんよ」

まだ悪代官ごっこは続いているようだ

「そんなもんですかね」
「おう!男子三日会わざれば刮目してみよって言うじゃない?」
三日会わなかった結果が、胃に穴をあける役目を押しつけられるという不憫さであるということは気にはしていないようだ

「優子と黄前ちゃん、どっちが驚くか見られないのが残念やわ」
この人は完全に面白がっている
優子も夏紀が副部長と聞いた時には驚きを通り越して呆れたものだった
久美子も同じ驚き方をするだろうことは明白だった

*

天井には、大きな扇風機のような羽根が喧騒をかき混ぜるように回っている
今年の吹部の様子を報告したが、あすかはあまり興味はないようだ
大きな振り子時計が5つ鐘を鳴らす

あすかはアイスティーからストローを抜くと、一気にそれを飲み干した
テーブルにカタンとおくと氷がカランと鳴った
「そろそろ行かないとあかん。またコンクールのときにでもね」
そういってあすかは、伝票を乱暴につかみとると
「大学生が高校生から金とるわけにはいかへんからな」
ひらひらと伝票を持ったまま手を振ったかと思うと既にレジの方へ歩き去っていた

緑色の液体はあと一口で、そのグラスから消えようとしていた


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