📧【お金Lv.50】資産運用はこれまでの常識が逆回転する時代へ㉒(2022年5月1日号)

本編はセミナー受講者・契約者・有料メールマガジン会員向けの記事です。

会員の無料公開期間終了後、原則として有料記事として公開しております。

1年分をまとめたお得なマガジンがおすすめです。

(未経過分は毎月15日頃に順次追加されます)

WITHOVER News2022｜ポッターさん｜note

WITHOVER NEWS(定期購読)｜ポッターさん｜note

ALL Collect｜ポッターさん｜note

.note

<本編>

世の中で様々な物の値段が上昇局面にあります。

石油・ガスなどのエネルギーだけでなく、小麦を中心とした食料品関連も30年以上停滞してきた日本でさえ物価上昇インフレーションが始まり、警戒感が高まってきています。

現在、世界中の中央銀行や資産運用業界の関係者が血眼になって読んでいるある書籍があります。

著者は経済学・社会科学の世界的名門で卒業生・教授・創立者からノーベル賞受賞者を19名、各国の首相・大統領・国家元首を53名輩出しているロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)名誉教授のチャールズ・グッドハートと元モルガンスタンレー役員でコンサルタント会社の経営者を務めるマノジ・プラダーンによる共著で2020年8月に出版されました。
本のタイトルは『THE GREAT DEMOGRAPHIC REVERSAL』(人口動態の大逆回転)です。

この本ではこれまでの"常識"が、これから逆回転REVERSALを始めると警鐘が鳴らされています。

この記事を書く段階ではまだ日本語翻訳版が出ていませんが、日本証券経済研究所(JSRI)から法政大学名誉教授の渡部亮氏による書評の冒頭を少しだけご紹介したいと思います。

　本書はマクロ経済の本格的実証分析であると同時に，副題が示すように，将来の物価上昇や金利上昇，所得格差縮小などを大胆に予測した刺激的好著である。政府負債の増大という問題 に関しても政策的処方箋を提示している。本書の基本的な枠組みは頑強であり，金融資本市場 に対する含意も大きい。
(中略)
　標題のGreatDemographicReversal（人口動態の大逆転）とは，低インフレや低金利のもとで安定成長が続いた時代が終わり，今後はインフレと金利上昇が進行するといった意味である。換言すれば，2000年代から2010年代にかけて一世を風靡した Great Moderation（大安定）や Global Savings Glut（世界的貯蓄超過）が 終焉したという判断である。なぜ大逆転が起きるかというと，最大の理由は，世界レベルで労働力人口がこれまでの増加から減少に転じることである。それと同時にグローバリゼーションの終焉も大逆転の理由である。 
　通常の経済モデルは，人口動態や人口構成の変化を前面に持ち出すことはせず，人間は労働投入物として物理的に扱われてきた。それを覆したという点でも本書は画期的と言える。

本記事はこの書評を参考に、私が日頃からインデックス運用への警鐘を鳴らしている幾つかの理由でもある情報を補足し、結び付けながらこれからの時代、恐らくは十数年ではなく数十年に渡って起こり得る資産形成・資産運用における大逆転時代は何によって引き起こされるのかを紹介していきたいと思います。

時々、笑いを入れないと私の精神がもたないので
こうしたおふざけを合間に挟むことをご了承ください。

私がこの記事を通して伝えたい事だけ先にまとめると、

①大前提が崩れることによるバブル崩壊
②変化に対応できない個人および個人投資家淘汰の時代
③米国中心経済終焉の危機

大きくこの3つに集約されるわけですが、どのような対策をしていくのかはIFAとしての本業に関わるので記事では書きません。
お金と時間をかけて勉強するか、信頼できるIFAにお金を払って相談をするかしてください。

無料相談は何を対価にあなたが差し出しているのかをよく考えなければ、搾取されるだけですのでご注意を。
(私は警告しましたからね？)

資産防衛にはどんな商品に投資をすればよいかだけではなく、経済の仕組みを投資家自身が理解する必要があります。
つまり歴史と経済、そして金融について自らの頭で考えて備えていくことが求められているのです。

これは20年に渡って投資経験を積んできた私が、当初から懸念をしていたことが現実になる前触れと考えています。

知らないとまずい経済という火遊び

物価上昇インフレーション(以下インフレ)が起こると、私たちの生活にも影響がじわじわと広がっていきます。
そしてそれは資産形成・資産運用においても同様です。

インフレに対してできることは、まとめると次の３つの防衛があります

①政府・中央銀行の適切な金融経済政策
②企業・消費者の適切な行動変容
③知識と経験に基づいた資産防衛と資産運用

これを知らずに資産を云々など臍で茶を沸かすような話です。

中央銀行(日本なら日銀、米国ならFRBなど)の役割は幾つかありますが、大きくまとめると「発行する自国通貨の安定と価値を毀損しないこと」という大目標があります。

インフレが常態的に発生すると、世の中で購入できる物の値段が徐々に高くなっていきます。

数カ月や1年、3年程度の比較的短い期間ではそれほど大きくはない値段の変化が5年、10年、20年、30年という感覚で俯瞰してみると生活や経済活動をを圧迫する大きな要因になっていきます。

国債・預金金利が実質ほぼゼロ状態の日本において、インフレ目標2%(いわゆるアベノミクスの場合)が長期的に実現した場合、10年後に預金残高は殆ど変わらないのに世の中の買い物をする際のものの値段は年2%ずつ高くなっていくことで820万円分の買い物しか出来ず、20年では670万円、30年では550万円と目減りしていく現象(購買力の低下)が起こります。

世界では単年でこそ経済のマイナス成長などがあったものの、長期的には殆どずっとインフレ状態が当たり前であり、30年超に渡ってこれとは逆の現象(デフレーション、物価下落)が起こり続けてきた日本は経済の世界では殆ど独特ガラパゴスな国です。

債券や預金金利で得られる利息が、このインフレ率以上の利率を確保している場合に生活者は殆ど気になりません。

世の中のものの値段が上がる割合に対して、給与も資産も増えてくれるのであれば生活のコスト負担は相殺されますので何も問題がないのです。

日本の経済は太平洋戦争後からバブル崩壊後の平成中期頃まで、具体的には団塊世代の現役引退(60歳)、2008年のリーマン・ショックのあたりまではこれが辛うじて金利とインフレ率がバランスしていました。

しかしこれ以降はリーマンショックからの回復において経済対策の導入の遅れ・失策、東日本大震災や原発の稼働停止などと同時に団塊世代の一斉退職(65歳)を契機に日本の経済力は低下の一途を辿ります。

預金利率などがインフレ率以下となっている場合、インフレは生活にダイレクトな影響を及ぼします。

インフレの世界を想像する時には、焚火キャンプファイヤーをイメージすると分かりやすいと思います。

景気が熱量だとするならば、日本はバブル崩壊という土砂降りの雨を経験した後で、"湿気を含んだ木材"になかなか火が付きづらい状態が長らく続いていました。

中央銀行の役割は経済に火を付け、国民が暖を取れる状態にすること。
火を用いて料理や灯り、獣が寄ってこないようなどにこの火を活用できる状態にすることにあります。

"湿気"を含んだ日本経済という木材になかなかインフレという火は着かず、寒々とした季節に凍える国民も60歳までの折り返しを迎えつつあります。

*低所得や非正規、結婚や出産を望んだけれど諦めなければいけなかった人たちや就職氷河期世代

未来への希望という灯りも見えず、貧富の格差が拡大したのが平成の30年間とも言えます。

しかし世界的には、ここでは欧米を中心とした先進国を例として挙げますが殆ど世界中の国々はインフレ率を如何に抑え込むかがカギでした。

火はなかなか着火しづらくても、一度燃え上がるとなかなか容易にコントロールすることが出来ません。

中央銀行が火のコントロールができないと自国通貨の価値は毀損してしまいます。

この毀損は人々にとって脅威であるだけではなく、大量の国債を発行している政府にとってはメリットもあります。

経済について少しかじったことがある人であれば、何も経済学の学位を持っていなくても、個人投資家たちなど今や誰もが知っている事です。

「インフレーションはスローモーションの債務放棄である」(repudiation in slow motion)とも呼ばれ、究極の金融圧縮financial repressionは経済の世界における不都合な事実(利益相反)でもあります。

一方でインフレが酷い場合には大火事のようになってしまう現象(ハイパーインフレーション)に陥ることで経済恐慌が起こります。

世界各国の中央銀行の経済政策は主眼として、「インフレコントロール」にあるのです。

第一次世界大戦によって多額の賠償金を課せられたドイツ共和国は
1922年、ハイパーインフレ(1年で16億倍)によって利払いに行き詰った。
お金をトランプのように積んで遊ぶ子どもたち。
買い物のためにリアカーに紙きれ同然の紙幣を積む人の様子

経済の大前提、世界人口とGDPの関係

これまで世界人口は記録が残る時代(有史)以降、基本的に右肩上がりの人口増加時代が続いてきました。

短期的にはペストやスペイン風邪などの世界的流行パンデミックで一時的に減少する地域や時代もありましたが、総じて観れば世界人口は右肩上がりで増え続けてきました。

特に18世紀半ばに英国で産業革命が本格的に興ると、資本主義(自由主義)と民主主義の興りと足並みを揃えるように経済は活性化し、世界の経済は拡大基調に入ります。

株価は先行指標、そして人口動態(Demographic)と株価は相関性*が強い
*完全に一致ではないが、同じような方向に動く傾向があると考える。

GDPは経済の基本ですが、その国・地域の人口が増えればそれだけその経済圏の中で住居費・光熱費・食費・被服費・通信費・娯楽費などの消費が増えます。

現代に赤ちゃんが生まれれば殆どの人は、およそ80～100歳まで消費者になります。就労年齢*に到達すれば消費者であり、かつ退職年齢になるまで生産者と消費者の二役をこなします。

*国連の統計的では大卒・大学院卒が世界標準なので経済的自立という面で25歳以上と定義されている。

日本は既に2019年に被扶養者である25歳未満人口22％+65歳以上人口28％=50％に到達。
今後より少子高齢化が進むと生産年齢人口が50％以下となり衰退を免れないと予測されている。

経済の規模を表すGDPという指標は、その国の経済の中で新たに生み出された付加価値の合計です。

野菜の種を仮に1粒25円で手に入れた人が、土を耕し、種を植え、水をやり、雑草を抜き、日当たりを調整してという手間暇をかけ、時期を見て収穫をして、農協や卸業に納品をして、それがスーパーに並べられ消費者が手にすると100～300円などの値段がつけられ野菜1個25円の値段では手に入りません。

この野菜を、もしお店の人が調理・加工したり盛り付けをしたりしてお弁当やお惣菜のようにするとお弁当やお惣菜は300円とか500円とか物によっては1000円とかの値段が付けられます。

原価や流通コストを重複しては計算しませんので、増えた付加価値のみが国や地域内ごとに一定期間(四半期や年単位など)で合計されたものを国内総生産GDP(Gross Domestic Product)と呼びます。

<全ての経路で75円の付加価値が均等に生まれた場合>
①種25円→②水・肥料・人件費・輸送費100円(+75円)
　　　→③農協など市場へ175円(+75円)→④スーパーへ卸し250円(+75円)
　　　　　　→⑤消費者が購入325円(+75円)

この場合、GDPは300円分の付加価値が生み出されたことになる。
生み出された付加価値から企業・お店・従業員は売上・利益として店舗・光熱費などのコストを差し引いて給与や賞与などとして支払われる。

このためGDP÷総人口で算出される「国民一人当たりGDP」は国民一人当たりの平均所得と呼ぶこともできる。

実際の平均所得は現役世代人口だけで算出されるが、1人あたりGDPはその国の経済力(豊かさ)を示す指標として使われる。

人口が減るとGDPには何が起こる？

GDPは人口によってその大部分を支えられていますので、原則として人口が増えている地域ではGDPは増加傾向に、人口が減少する地域ではGDPは減少傾向になります。

人が一人亡くなると、その消費されていたはずの支出がその国・経済圏から消滅しますから、当然の結果です。

日本では総人口は2008年にピークを迎えて減少社会に突入しました。

そしてその後、日本経済に一体何が起きたでしょうか？

株価(×発行済み株数=時価総額)というのは先行指標ですので、実体経済よりも先回りする傾向にあります。

人口が伸び悩み始めると株価は停滞や下落圧力が強くなります。

人口だけが必ずしもGDPにおいて絶対的な要因ではありません。
たとえば省人化や機械化、デジタルトランスフォーメーション(DX)などによってその国・経済圏における生産性や一人当たり所得などが向上すると人口を補う効果が得られるため、人口減少によるGDPの縮小を軽減することはあります。

経済の観点で考える際、更にここに少子化と高齢社会という事態が二重、三重に重なるとGDPの縮小という現象を相殺しきることはできず、じりじりと経済は縮小基調に陥りやすくなります。

1970年代～2010年代、グローバル経済

1970年代に入るとニクソン・ショック*を端緒に、グローバル経済が本格的に始まります。

*対立して国交のなかった中国への電撃訪問、ドルの金兌換停止を発表。管理通貨制度体制(不換紙幣と為替の変動相場制)に並行して、国の信用が紙幣価値の裏付けとなった。

授業レポート〔1〕 | 公民科（現代社会） | 一般社団法人 全国銀行協会

1980年代には世界中の企業がそれぞれの国の得意なことを産業として諸外国を相手に貿易取引を行うというグローバル化が加速。先進国の企業はより人件費などの安い地域へ工場の移転を始めます。

以前の記事で触れた日本の企業がこの時代に工場を国内から東南アジア諸国へ移転させたのは何も日本だけの現象ではなく、世界的な潮流だったのです。

1989年には東西冷戦の象徴でもあったベルリンの壁が崩壊。
1990年代に入るとソビエト連邦が崩壊し米ソ冷戦が終結し、ソビエト連邦を構成していた東欧諸国が次々に西側諸国(EC、EU)を目指して一斉にグローバル経済に飛び込んできました。

また中国も市場開放を始めたことで、廉価な人件費、豊富な労働力、そして「世界の工場」としての可動をアジア地域は担います。

社会主義陣営という隔てられたもう一つの世界が、資本主義陣営に飛び込んできたことで世界は旺盛な需要にこたえるため分業と分散、つまりグローバル・サプライ・チェーンが構築されます。

これを『THE GREAT DEMOGRAPHIC REVERSAL』の書評の中では労働供給ショック*と呼んでいます。

*経済の基本である「需要と供給」の概念。世界で安い労働人口が急増したために賃金の安い地域に工場を移転することでコストを抑えて大量生産ができるようになり、商品価格が下がる要因になった。「人口ボーナス」によっても類似の現象が社会に起こる。

この時代の代表例はアメリカの西海岸、カリフォルニアのシリコンバレーです。

創業者マイケル・デル(1965-)
1988年、24歳でNASDAQへ上場。
1992年フォーチュン500入りし最年少経営者。
2004年に会長を辞したが、2007年に復帰。

コンピュータメーカーのDELL*は1990年代後半のインターネットが世界中に普及した時代にBTO(Build To Order)によるオーダーメイドパソコンの販売を世界で先駆けて行いました。

*創業者マイケル・デルが19歳で学生寮で企業した時はPC's Limited、上場時にはDELL COMPUTER,2003年より現社名DELL

店頭販売の既製品ではなく、CPUはIntel Pentium〇の〇.〇〇GHzにアップグレード、メモリーは〇〇MBに、HDDは〇〇GB、OFFICEの有無、OSはHome/Professional…

ケースは同じなのに、中身だけオーダーメイドというセミオーダー方式は既製品では飽き足らないユーザーや職種や用途別の性能を求める企業の大量受注に無駄なく応え大ヒット。

1990年代のDELLのBTOでバカ売れしたタワー型PC

自分の予算と好みに応じてカスタムできる受注生産方式をWeb上に構築して、カリフォルニアで日中に受けた生産をワークタイムが終わった時間に
インドへ生産するようにオーダーを出します。

インドで組み立てされた商品を船便で世界中に輸送し、1日は24時間で地球は丸いという現象(時差)を用いることで24時間フル稼働でオーダーを受けて企業向けで圧倒的な存在感を示していたIBMやApple Computerを凌ぎ、同じく米国市場で価格競争を繰り広げていたCompaqを抜き去り当時世界シェアNo.1のパソコンメーカーへと駆け上がりました。

またこれと同じことを米国はシステム開発でも行い、アメリカで日中ディタイムに話し合ったシステム設計の続きを、就業終了時間にインドへ引き継ぐことで短期間でシステムの開発を達成するという生産性の高さを確立します。

代表格はアクセンチュアなどシステム系コンサルティング会社

元よりインドは数字の「0」の概念を生み出した国。
掛け算は日本では「九九」(9×9)までですが、インド式は「九九九」(99×99)。

しかもイギリス植民地時代(1600年代～1947年まで)で英語を話せる人たちも多く、欧米の西洋文化に対しても馴染みがあったためにITにも強くなる下地がありました。

喩えば仏教には「零」の概念、「空」の思想がある。般若心経はサンスクリット語(梵字)で609年頃に書かれたとされる大乗仏教の仏典。
マントラ(真言)を唱えて心呪を得、出家によらない救済を目指す。代表格は玄奘(三蔵法師)

余談ですが2022年現在、Microsoft社を率い三代目CEOとなったサティア・ナデラもインド出身です。

2014年にスティーブ・バルマーCEOから引き継ぎ
MicrosoftをGAFA"M"と呼ばれる時価総額1兆㌦企業に再成長させたナデラCEO

低廉な賃金と旺盛な労働力は世界の物価を押し下げただけでなく、先進国の労働組合などの力を削ぎ、賃金上昇を抑止する効果をもたらしました。

かつて世界中で観られた労働組合ストライキが今日殆ど見られなくなったのも企業が強く、労働者の立場が弱くなった影響も要因

日本でも企業はバブル崩壊後の景気が良い状態ではないハズの時期、特にコロナ禍で上場来最高益を達成した企業が次々と現れる一方で、いわゆる先進国での非正規雇用と正規雇用の所得格差の拡大などが広がっていきました。

上場企業の3割が最高益　4～12月、コロナ前上回る水準

これに対して先進国の受注を担った新興国では労働者の所得が向上し、先進国との格差は縮小。

この時代に先進国でも大きく所得を増やしたのはIT関連企業の経営者、技術者エンジニア、国や企業に融資を行った金融事業者、そして低金利になると資金が流入してきて起こる株高や不動産価格の上昇の恩恵を受けた投資家たちでした。

『じぶん年金セミナーAdvanced2』より
この潮流に乗ったシンガポールの国民一人当たりのGDPは米国に匹敵。
2019年には7位シンガポール65,641.31㌦、8位米国65,051㌦になった。

そしてこの流れは世界各国の国債金利を低金利化させ、1980年代初頭には高インフレで苦しみ米国10年国債で12～13％もの高金利(1981年15％超)だったものが、2020年のコロナ・ショック発生直後には1％以下という低金利時代をもたらしました。

1871年来の米国10年債券利回りの推移(2020年まで)

2008年のリーマン・ショック頃まではこうした問題は表面化してきませんでしたが、リーマン・ショック後の世界経済は低成長・格差拡大・政府の負債増大といった三重苦に陥り、2016年には英国でEU離脱の国民投票によって可決。

同年にはアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ候補が勝利し、翌年の政権発足から「自国第一主義アメリカ・ファースト」が掲げられました。

2020年代～世界の再分断と少子化が加速

1970年代のニクソン・ショック以来続いてきたグローバル経済という仕組みや、近年世界各国が足並みを揃えて取り組んできた地球温暖化対策としての脱炭素など世界中を巻き込んだ協定からトランプ大統領は次々と離脱。

現在の地球温暖化対策の始まりは1992年リオデジャネイロで行われた
国連気候変動枠組み条約サミット、
そして1995年にベルリンで行われたCOP1から。

国内産業への回帰やアメリカ国内に工場を建設するように個別に企業を名指しで呼びかける保護主義政策はトヨタ自動車をはじめ多くの企業を巻き込みました。

話を今回の主軸である人口に戻すと、アメリカは中長期的にバランスの取れた人口構造をしています。

特に注目するべきはベビーブーマーと呼ばれる第二次世界大戦から帰還した人々が家庭を持ち、彼らを親に持った1970年代半ば～1990年頃にかけて生まれたミレニアル世代*と呼ばれる人たちがいます。

*Y世代またはミレニアル世代、日本ではやや時代間がズレるが団塊ジュニア世代・ロストジェネレーション・就職氷河期世代などとも呼ばれる。

日本と同じく世界的に晩婚化は進んでおり、彼らが結婚・出産適齢期となり2010～20年代頃*から正に多くの人たちが家庭を持ち、マイホーム・マイカー・ベビー用品と生涯で最も旺盛な消費世代に入ったことはアメリカ経済、また世界経済にとっても特筆すべき点でしょう。

*2019年のアメリカは男性29.8歳、女性28.0歳と日本とほとんど変わらない。
海外では仕事に恋愛を一通り経験した後で、35歳頃から40歳頃までにようやく結婚を考え始める人も少なくないくらい。

https://youtu.be/8k3X5S8-dXY?t=374

しかも女性も結婚しても働くのが決して珍しくない時代です。共働きデュアル・インカムによる高い家計所得は消費も活発パワフルです。

中には子供を選択的に持たないことを選ぶ夫婦や、子どもを望んでも迎えることが叶わない人たちもいます。

これは晩婚化の大きな弊害の一つですが、個人の価値観は兎も角として社会全体で考えると子どもが養われないとなると人口減少はより加速していきます。

東アジアで広がる儒教思想が根強い国ほど婚外子に抵抗があるとされているが…

欧米では日本よりは養子縁組が受け入れやすく、アップルの共同創業者の一人スティーブ・ジョブズもジョブズ家に養子(長男)として迎えられた話は有名です。

しかしその一方で、この世代を世界的な危機が襲いました。2020年に世界中で猛威を振るった新型コロナウィルス感染症によるパンデミックです。

2020年3月12日、WHOがパンデミック宣言。

世界中で男女の出会いが減り、仕事などの所得の先行きが見通せないと結婚や出産を先送りや断念する人たちが数年間に渡って増えたことで、本来であれば生まれるはずだった子どもたちがこれまで想定されてきたようには将来に渡って生まれてこない可能性が高まってしまったのです。

世界の世代別人口(2017年5月A.T. カーニーによる調査による2027年の予測)

これは既に日本でも原因こそ違うものの1990年代にバブル経済が崩壊した際、就職氷河期(1993-2005年卒)などと言われた世代が生まれ、非正規雇用や所得の不安定・先行きへの不安などから結婚・出産を見送った世代がいたことと重なります。

更に日本ではタイミングの悪いことに最も多い世代人口を誇る団塊世代の子どもたち、団塊ジュニア世代をこの氷河期が直撃しました。

新型コロナウィルス感染症はアメリカのベビーブーマー世代を直撃しました。また世界中の2017年以降に生まれるであろう子どもたちの世代(アルファ世代)が今後劇的に減る引き金となり、長引けば長引くほど取り戻すことの困難な世界的な人口減少社会へのアクセルを踏んでしまったことになります。

この問題の大きさは世界中のどの国よりも私たち日本人が一番よく知ることではないでしょうか。
著書の中ではこうした日本の平成年間(失った30年)のような低インフレ・低成長で低賃金化する現象を皮肉を込めて日本化Japanificationと呼んでいます。

日本化 - Wikipedia

また言い換えるとするならば、将来に渡って人口が増え続ける…という、どこかの誰かが言っていたこれまでの予測*はそうしたことが起こらないという、かなり楽観的すぎたとも言えるのかもしれません。

*国連による人口予測(中位推計)ですが。

https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/

やはりインデックス運用、冬の時代が来る

世界のGDPのうち、約6割を個人消費が占めています。
アメリカはこれよりやや多く7割近く、日本も凡そ6割近くが個人消費です。

人口が減ると、その国や地域の経済規模を縮小させますが、そうなると世界経済では、一体何が起きるでしょうか。

『投資信託の教科書セミナー』より抜粋

これまでも人口が増え続ける国・地域(世界または米国)と人口が減り続ける国・地域(日・中・韓・ロシアを含む欧州)がありました。

濃い緑ほど深刻な高齢化を抱える地域

人口が増え続ける国・地域へ投資をしていれば経済規模(GDP)が長期的に拡大し続けるのですから企業は利潤を追求し、企業も長期的に成長し続け、株価はそれを反映していくという…人口動態に基づいた世界経済の成長の果実を得るというインデックス運用の正当性(根拠)がありました。

しかし米国でさえその例外でなく世界的な高齢化が進み、人口減少社会となれば、この状況はそもそもの大前提が根底から覆ります。

世界中で人口が減っていくとするならば、このインデックス運用のペースは現在考えられるよりも減速か停滞、衰退を始める危険性が高まります。

そしてこれは何も上図のように予測されている2064年になってから突如としておこるのではなく、これよりもかなり早い段階で先進国を中心として始まることが考えられます。

その引き金は急速な社会の「高齢化」です。

濃い青ほど深刻な高齢化と生産年齢の減少社会を示している。

日本を基準に年金支給開始年齢65歳=高齢者とすると、彼らがその国の人口全体に占める割合によって、その国の生産力は大きく変わってきます。
退職した人たちは単に消費者となるだけですから、労働人口(生産年齢人口)から退場すると社会の活力が失われていくのです。

世界標準で人口の7％超を高齢化社会、14％超を高齢社会、21％を超高齢社会と呼びます。

日本およびアジアの国々は高齢化(7％)から高齢社会(14％)へ世界の先進国の中でも突出して非常に短い期間で突入してしまっているのです。

アジアの高齢化は欧米よりもかなり急激に進む傾向にある

これをGDPと比べてみると次のようになります。
一般的に日本のバブル崩壊はいくつかの要因が引き金となっていますが、1992年をバブル崩壊の年としており、この当時の日本の高齢化率は12～13％で高齢社会でした。日本のGDP 3.9兆ドルの時代です。

日本の総人口がピークアウトした2008年、高齢化率は21％の超高齢社会に到達。日本のGDPは5.03兆ドルでした。

日本が世界第二位の経済大国から中国に抜かれ第三位に転落したのは2011年でこの時の高齢化率は23％です。

『年金・社会保障制度の歴史とこれから』セミナーより

日本の場合、60歳で完全に退職する人というのは実はかなり少なく男性なら70歳までおよそ3人に一人が働いているという統計が内閣府から発表されています。

また東日本大震災を受けた2011年の日本のGDPは6.15兆USDと戦後最高水準に到達していました。

2020年、2021年のコロナ禍は経済が減衰していますので、その前年の2019年で比較すると日本のGDPは5.06兆USDとほぼ2008年頃(5.03兆USD)までおよそ10年分逆回転し始めています。高齢化率は28～29％です。

高齢者が増えると働く世代(就労世代・勤労世代)の人口が減り、その国・地域での生産性が大きく落ち込みます。

また高齢者はその国の社会保障や財政上の重荷となります。
病気や介護に罹り易く社会のリソースをむさぼります。
また所得税などの税収を現役世代ほどは殆どの場合には支払いません。

何も姥捨て山のようなことをしろという話ではありませんが、数字の上では負荷であることは否定できません。(また感情を抜きに経済的合理性だけの面で言えば子どもも家計においては負荷ではあることは言うまでもない)

このためシンガポールなどは国の経済に長期的に貢献が見込めない単純労働者の移民を受け入れしていません。

現役世代(生産年齢人口)は自分たちの生活や将来への備えをしながら、子どもたち(年少人口)を十数年かけて養い、更に高齢者(老年人口)も数十年にも渡って支えなければなりません。

高齢化率が21％を超えると年少人口を支えながら働き、子育てをしながらというのが社会全体で困難に陥る臨界点ポイント・オブ・ノーリターンに達します。

一度この状態に陥ると社会の生産性(プラスのGDP)を生み出すよりも、これから老いて亡くなっていく、感情を抜きに経済の観点から言うなら社会に利益をもたらさない老齢者たちのために社会の仕組み・経済が食われていく現象が起こります。

彼らが健康で元気、自力で病院などへ通えているうちはまだかなりマシです。
認知症や介護など人の手を煩わせるようになったらそれは止めどなく、社会経済とその世話をする人の生産性を蝕んでいきます。

特に危惧されているのが首から上と下の病気の差です。首から下の病気というのはいわゆるガンや心臓病などの病気です。
20世紀以来、科学技術の目覚ましい進歩発展とDNAの解析が終わったことで入院期間が短くなり、治癒の可能性または病気との共存に可能性が大きく開けたのが今日です。

一方で首から上の病気、つまり認知症やパーキンソン病などの脳・神経やうつ病を始めとした精神疾患についての研究・治療は首からの下の病気と比べて大きく進んではいません。

『年金・社会保障の歴史とこれからについて』
老後2000万円問題レポートを参考にした項目

肉体が長寿化する一方で、認知症患者はますます増え続けることが想定されており日本でも入院や介護期間がより長期化することが懸念されています。

2030年には認知症患者が日本の人口の約7％に到達し、2035年には65歳以上人口の3人に1人は認知症患者となる予測がされています。

年金・医療・介護などの社会保障費の増大、介護や病院などへの付き添いなどの人手を奪うと同時に、老親の介護のために仕事を時短したり退職したりすることになり社会的な生産性も削いでいくのです。

そしてやがてその親が亡くなった時に、世話をしていた子どもたち世代は職を失っています。

旧来の時代は、親の結婚・出産年齢もある程度早かったために親が50代を迎える頃には子どもは成人して経済的に自立をしていた上に寿命がそれほど長くはありませんでした。

このため子どもの自立から比較的短い期間で働いて蓄えた資産を老後のために蓄えることができ、金利もある程度高く、退職金も多くもらえ、また退職後にそれほど長生きしないために十分に余生を過ごすだけの経済力を確保出来ました。

しかし近年は晩婚化が進み、子育てには教育費・養育費がかつてよりも高騰し、さらに精神的な自立心を含めた子どもの自立が遅れ30歳になっても実家暮らしやお小遣い・お年玉を親や祖父母たちからもらっている子ども達もいたりします。

本来であれば自分の仕事やライフプランを思い描いたように進み、所得・年金・また労働所得に支えられた資産形成もできたことでしょう。
しかしそれらは全て絵に描いた餅に終わる人が出てくることを意味します。

彼らは親の介護のためにと、人として当たり前の道徳観と倫理観に基づいて介護休暇や離職をして介護をしただけです。

しかし働いていたであろうはずの年代に公的年金を積み立てられず、余剰資金で資産形成・資産運用ができたはずのものができず、運用益も当然に得られないために貧しい老後を迎えるリスクが高まります。

働く人だけでなく、家族の介護などによって働くことに制約を受けるとしたら
親の介護は本人が働けない状態と近いリスクがその人に降りかかることになる。

歴史から学ぶ世界の覇権国家が凋落する時

こうした日本のような人口と経済の反転リバーサル現象は具体的にいつ頃から世界の主要先進国では顕在化してくるのでしょうか？