📧「引きこもり」で世界の覇権国家へ～アメリカの伝統的外交戦略⑧(2022年4月1日号)

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<本編>

「引きこもり」というとあまりポジティブなイメージを持たれないことが多いようですが、世界経済の中心アメリカ合衆国(米国)は引きこもりに関しては戦略的国家と呼べるかもしれません。

また日本でも江戸時代に「鎖国」という外交的引きこもりをしていた期間があります。しかし両国のこの政策には大きな隔たりがあります。今回は米国と日本の引きこもり政策について振り返ってみたいと思います。

　まずは日本から。アジアの植民地支配を巡る英国と中国(清国)の対立からアヘン戦争(1840年)が勃発。香港の99年租借と、広州、福州、廈門、寧波、上海の5港開港や治外法権、関税自主権などのない不平等条約(南京条約)を結ばされます。

南京条約 - Wikipedia

更に調子づいたイギリスがいちゃもんをふっかけて、フランスも参戦した第二次アヘン戦争(アロー戦争)で領土をごっそり分割。

更に弱り目の国には近代史で必ず進出するロシア帝国までも加わり清国は国土をいいように蹂躙され、産業革命でモノ余りの欧州からの物品を広く流通させるために港の開港や勝手に鉄道路線まで各地に引き込まれメタメタにされます。

日本は古くから文化・政治・法律を中国から学んできました。そして日本にとっては長年のお手本とも呼べる先進国である中国が、手も足も出ずに崩壊していく惨状を知った日本の知識人らからは開国と近代化への機運が巻き起こりました。

日本は江戸時代に何故、鎖国をしていたのか？

諸説ありますが、外の世界を国内の人々が知ると将軍家のやり方に対して疑念を抱く大名や家臣たち、民衆が出てくるかもしれません。

そこで1612年に徳川2代目将軍:秀忠が天領地(幕府が直轄して治める土地、幕領地とも呼ぶ)にてキリスト教の禁教令を発令。

1616年には長崎の平戸、1934年に出島が完成するとここ以外での交易を原則禁止しました。

1637～1638年に島原の乱が起きると鎮圧に苦労した幕府は中国以外との貿易を禁じ、積極的に布教をしようとするポルトガルとの交易を禁じました。

当時の日本にとってポルトガルは世界最先端の国と考えられていました。1415年にアフリカ北部のセウタを攻略したポルトガルは大航海時代にいち早く乗り出して海外領土を広げていきます。

1497年にバスコ・ダ・ガマがアフリカ南端の喜望峰周りのインド航路を発見、翌年にはインドへ到達。

西インド・南インドを植民地としたポルトガルはここを拠点に東南アジアへ進出を進めます。

また1500年に南米に到達した同国は現在のブラジル一帯を支配、植民地としました。1543年に種子島へ鉄砲を伝来させたのも、1549年に日本へ初めてキリスト教(カトリック)を布教したのもポルトガルのイエズス会(男子修道会)でした。

戦国時代、日本国内で大名に匹敵する民衆をまとめる力を持っていた仏教・寺院勢力への牽制という織田信長の利害と合致して、イエズス会の創設者の一人フランシスコ・ザビエルは日本国内でのキリスト教布教を認められます。

しかし信長の死後、国内を統一した豊臣秀吉はキリスト教の教義である「神の下では平等」という考え方は大名が治める日本と合わないと、キリスト教の弾圧を行いました。

また秀吉は宣教師によってもたらされた世界地図を観てスペイン・ポルトガルとその植民地が如何に巨大で、日本が小さいかを理解します。

当時のスペインはポルトガルと同君連合の蜜月時代。スペインだけでも現在の米国南部・キューバ・メキシコ・南米の太平洋側に加えてフィリピンを植民地支配してハプスブルク家による黄金時代を築き上げていました。

　秀吉は大国スペイン・ポルトガルがやがてアジアに攻めてくるのではないかと恐れ、アジア平定(最低でも緩衝地帯を作る)を目指して朝鮮出兵を目指したとされています。

またこの説は信長の構想を秀吉が受け継いだとも言われています。一方で秀吉に代わってその後の日本を統治した徳川家康は関ヶ原の戦の半年前にオランダ(蘭国)船リーフデ号が大分県豊後に漂着したことから海外に目を向ける機会を得ました。

家康に仕えた二人の漂着外国人。青い眼のサムライたち

英蘭は当時、共に東インド会社を経営しており東南アジアへ交易を広げようとしていた途中での難破でした。リーフデ号は2年前にアムステルダムを5隻で出航しましたが、宗教的敵国スペイン・ポルトガルの船に2隻が拿捕され、1隻ははぐれ、1隻は沈没。

出航時の乗員は110名いたのですが、赤痢などで次々に倒れ、日本に漂着した時にはわずか24名だけ、歩けるのはわずか6名という過酷な旅でした。

その中で日本への駐留が許されたのは英国人のウィリアム・アダムス(下記の写真)、そして蘭国人のヤン・ヨーステンでした。

　先に日本でキリスト教を広めていたスペイン・ポルトガル人宣教師(カトリック)たちは英蘭のプロテスタントの教義を日本で広められるのを恐れ、「英蘭(プロテスタント)は野蛮な一派なのでさっさと処刑した方が良い」と流布しますが、アダムスたちは国や宗教の違いなどを丁寧に説明して家康からの信頼を得ます。

二人は家康に召抱えられ、西欧事情を伝える重役を与えられます。彼らは布教ではなく商売がしたいと申し出たのです。
　この先を見据えた戦略が後に宗教支配から資本主義による大英帝国やオランダによる世界的植民地支配につながっていきます。

　蘭国人ヤン・ヨーステン(上記の写真)は現在の東京駅近くに居を構え、彼の名前からその屋敷があった場所周辺を”八重洲”と呼ぶようになります。

　また英国人アダムスは家康から250石の旗本として帯刀許可と神奈川県の三浦半島に領地を与えられ、三浦按針(あんじん、航海士・水先案内の意味)の名前が与えられました。

青い眼のサムライ・アダムスこと三浦按針はガリバー旅行記のモデルになったとも言われている

按針 (ハヤカワ時代ミステリ文庫)

日本橋三越の向かい側にあるスルガ銀行沿の通りの”按針通り”の名はアダムス(三浦按針)に由来します。

なお、アダムスは静岡県の伊東に日本初の造船所を設け自身が知る幾何学・数学・造船技術・航海術・天文学を日本にもたらしました。

後にイギリスではジェームズ6世統治の時代のイギリス東インド会社が、日本との交易を求めてきた際にも家康との謁見に同席して朱印状の獲得に貢献します。

しかし家康の死後、徳川秀忠はキリスト教徒を恐れ、長崎・平戸でのみの貿易に制限して鎖国体制を敷き始めたとされています。

超高速! 参勤交代 (講談社文庫)

　さて江戸幕府が鎖国だ、参勤交代だと日本国内の内政で他の大名たちの反乱をさせないための政策に明け暮れていた時代に西欧諸国では植民地の拡大と資本主義の確立が積極的に進められていた時代でした。

信長・秀吉・家康が何処まで考えていたのか、今では仮設の話となりますが、見方によっては欧州列強の脅威に対して日本は江戸幕府264年という時間の長さを、臭いものには蓋をするごとく問題を先送りし続ける引きこもり政策を行ってきたと言えるかもしれません。

欧州との相互不可侵宣言「モンロー主義」

他方、同時代のアメリカの引きこもり政策を見てみましょう。

イギリスから押し付けられた数々の増税や政策に反発し、「代表なくして課税なし」をスローガンに自主権を求めて1775年から独立戦争が始まり、1776年7月4日に独立宣言が出されます。

Independence Day 4th Julu ,1776(アメリカ独立記念日、ID4)

日本では1600年に徳川家康が豊臣方(大阪)との関ケ原の戦いを制して、江戸時代が始まったことを考えると江戸後期にあたります。

暴れん坊将軍吉宗の少し後、家治から家斉の時代にアメリカは独立・建国。
家治は吉宗の孫で印旛・手賀沼の干拓などを行い、田沼意次を重用し蝦夷地開拓・ロシア貿易も。
家斉は寛政の改革で田沼意次を罷免。飢饉を受け、農業の奨励や減税、備蓄を奨めた。

新国家アメリカでは、独立宣言を経てイギリスからの文化的、経済的独立を目指し”ヨーロッパ諸国との相互不干渉”を掲げる「モンロー主義」と呼ばれる外交理念が確立されました。

ジェームズ・モンロー(1758-1831)
第五代アメリカ大統領(任期1817-1825)

これは第五代アメリカ大統領ジェームズ・モンローが、1823年に議会へ提出した外交理念ですが、これは絶妙なタイミングで世界に掲げられます。