📧カトリックとプロテスタントは何故対立するのか~イングランド女王誕生の歴史的決裂⑫(2021年3月)

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アメリカでは新大統領の就任式が開催されて間もなく3か月。トランプ前大統領(共和党)からバイデン新大統領(民主党)の政権移行期は、様々な憶測や不正が囁かれ、暴動や分断が露出しました。

政治思想や哲学の他に、トランプ前大統領はアメリカの歴代大統領の殆どと同じプロテスタントですが、バイデン新大統領はジョン・F・ケネディー大統領以来の歴代二人目のカトリック信仰である点も一つの大きな特徴かもしれません。(アメリカ国民の多くはプロテスタント信仰)

この一点だけを取り上げて対立と分断の原因とすることはできませんが、歴史的にカトリックとプロテスタントは犬猿の仲です。

ヨーロッパの歴史と文化の多くはキリスト教を中心に作られてきたと観ることができるでしょう。そしてそのうちの古代から中世までの殆どが王に匹敵し、権力と結びついて絶対的権限を持っていたカトリックによるものでした。

そして中世に新たに登場してきたプロテスタントは産業革命や資本主義、国家体制から投資など多方面へ大きな影響をもたらし、欧州の西端の島国である英国から花開いていくきっかけとなっていきます。

”技術革命”がもたらした信仰と世論の分裂

カトリックとプロテスタント、この宗教的分裂が欧州各地で広まった背景を駆け足で振り返っていくと現在のドイツの西南、フランスにほど近い領土だった神聖ローマ帝国領マインツで1445年にグーテンベルグの活版印刷による”技術革命”を契機と観る事が出来ます。

聖書はそれまで神父・司祭など聖職者の一部しか手にすることが出来ない超高級品でした。しかしこの活版印刷という技術的ブレイクスルーにいち早く投資を行い、聖書の量産・普及による信者の獲得を目論んだ教会は欧州で爆発的な信者の獲得に成功します。

そしてカトリックの総本山であるローマ・バチカンでは、新たな大聖堂(現在のカトリックの総本山サンピエトロ大聖堂)を建設しようと聖書の販売や罪を買うだけで贖うことのできる免罪符の販売を開始します。

しかし文字が読める人々の中から、聖書には教会が語るようなこと(免罪符で罪が許されること)など書かれていないと教会の営利主義を痛烈に反論(抗議)をしたのがマルティン・ルター(1483-1456)などによる宗教改革(1517年ドイツ)で誕生した、新派プロテスタント(抗議する者)でした。

ドイツを中心とし大陸欧州で広まったこのプロテスタントと元々の教義の中心だったカトリックの対立は、海を渡って当時カトリック教国だったイギリスでも国の分断を招き、多くの血が流されることになりました。

カトリック教国イギリスを統一した王家テューダー家

様々な意見があると思いますが、英国の歴史の中で今日に至る最も大きな影響力を誇る君主、その一人は中世から近世にかけてバラバラの国だったイングランド・ウェールズ・スコットランドを統一して今日のグレートブリテン島におけるイギリス領土を確定させた王でしょう。

テューダー朝の強運王ヘンリー8世(1491-1547)です。本記事はイングランドにおける宗教と政治、女王誕生の歴史にまつわる話です。

彼の父、ヘンリー7世(1457-1509)は武力で王位を勝ち取った最後のイングランド王でした。ゆくゆくは海を渡りフランスも治めたいと狙っており、フランスを挟み討ちにするためスペイン王家(カスティーリャ王家、アラゴン王家の両家)や神聖ローマ帝国(現代のドイツ・オーストリア・ハンガリー・イタリア一帯)との関係を良好なものにしようと様々な画策をしていました。

そんなヘンリー7世の長男はイングランドの将来の王位継承順位第一位(プリンス・オブ・ウェールズ)として生を受け、英国の普遍的英雄アーサー王伝説に因んでアーサーと名付けられます。

アーサー王太子がまだ2歳の時、テューダー王家は大航海時代の幕開けを飾った現スペインのカスティーリャ女王イサベル1世を母に、アラゴン王(バルセロナ一帯を統治した国王)フェルナンド2世を父に持つ生まれたばかりの末娘キャサリン(キャサリン・オブ・アラゴン)と婚約が決まります。

当時、カトリック教国だったイングランドにとっても、また教皇からカトリック両王の称号を与えられたスペイン王室とも遠縁の二人の結婚は両国の結束を確かなものとすると期待された政略結婚でした。

結婚の前年だった1500年、14歳のアーサー王太子が12歳のキャサリンへ送った手紙は早期の結婚を望むという王家の意向が含まれているものの、まだ見ぬキャサリンへの深い愛情が込められており、キャサリンはその手紙を受けて将来の夫へ親しみを感じるようになっていったとされています。

1501年11月14日、アーサー王太子15歳・キャサリン13歳の時にセント・ポール大聖堂で二人は結婚します。
二人の結婚式にはテューダー王家の正統性を示すアーサー王の伝説や、イングランドからカスティーリャ王家に嫁いだキャサリンの曽祖母にあたるキャサリン・オブ・ランカスターにまつわる劇などが披露され、式は盛大に行われました。
しかし式の疲れがあったのか、直後からアーサー王太子は元々病気がちだった体調を崩し、僅か20週後の1502年4月2日にウィルス性感染症(インフルエンザ)によって急死という悲劇に襲われます。

通常、こうした不測の事態や離婚の際に返されるハズの膨大な持参金も、度重なる戦争に明け暮れたヘンリー7世が返金を惜しんでされなかったためにキャサリンは途方もない喪失感と失意に困窮、そして異国での孤立という絶望の中でイングランドとスペイン両国の情勢に振り回されます。

そんな渦中にアーサー王太子の実弟で当時12歳だったリッチモンド公爵ヘンリー王子は急遽兄に代わってプリンス・オブ・ウェールズ(王位継承権第一位)となります。

兄から聴かされていた異国からやってきた美しい妃への憧憬だったのか、ヘンリー王子は嫁いだばかりで未亡人となってしまいイングランドで孤立、悲しみに暮れる若きキャサリンに求婚をします。

しかし、これが大陸欧州の大部分に広く普及していたカトリック(神聖ローマ帝国およびスペイン・フランスなど)と英国の分断の始まりとなってしまいます。

カトリックとの対立深まるイングランドと兄嫁との結婚

伝統を重んじるカトリックは兄の妻との姦淫(婚姻)を認めていませんでした。敬虔なカトリック教徒であり異教徒は皆死刑にするキャサリンの母イサベル1世は尚のこと、そんな事を許すはずもありません。カトリック教皇庁とイギリス王室の対立が日に日に深くなります。

イギリス王室は持参金を返さぬ代わりにキャサリンを慕っているヘンリー王子との婚姻を勧めますが、カトリック側はこの事を相変わらず認めません。
しかし議論の末にカトリック側が譲歩の姿勢をみせます。

「ならば二人に夫婦の関係があったか確認しようではないか」

新婚の寝室に祝福をもたらした(祈った)神父は呼び出され、若い新婚の二人が同じ寝室を七晩も共にしたのだからアーサー王太子とキャサリンには肉体関係があったハズだと証言すれば、女官長はキャサリンはまだ処女であると公の場で主張。
本人にとっては公開処刑さながらの議論は、キャサリンの母であるイサベル1世の「娘がここで傷物と判断されてしまえばイングランドとのフランス包囲網も崩れ、キャサリンも嫁ぎ先を失う」という打算も手伝い、「私は娘の言う事を信じます(二人に関係はなかった)」という事で結審され、両国間で二人の結婚を認めるべきかの話し合いが進められました。

その後イサベル1世はカトリック教皇庁に掛け合ってヘンリー王子とキャサリンの結婚の特免を得た後に崩御。

ヘンリー7世も続けて崩御するとヘンリー王子は1509年、18歳にしてイングランド王ヘンリー8世として即位(上記画像)します。
兄嫁との結婚に対して、まだカトリック信仰の強かったイングランドの諸侯らは慎重な姿勢を示していましたが、プロポーズから既に6年。若き王にもはやそんな声は届きません。
ヘンリー8世は反対を押し切り、王となって僅か2ヶ月後、21歳となったキャサリンと立会人を神父たった一人だけの中で結婚式、そして戴冠式を強行しました。

アーサー王太子との若くしての結婚、そして早すぎる死別。異国での困窮と孤独の6年…薄幸のキャサリンをまるで物語の騎士が助けに来たような結婚(6月11日)と戴冠式(6月30日)が行われ、多くの国民の憧れJune Brideの一幕となります。
ヘンリー8世はキャサリンを兄嫁への憧憬ではなく、今や国王としてキャサリン王妃を愛し、国民からも信頼される若き王となりました。しかし二人の、そしてイングランド国民の幸せは長く続きません。

王家の血を後世へ…絶倫王ヘンリー8世

イングランド王室(テューダー朝)は長男アーサー王太子の結婚の直前に、三男エドマンド王子も夭折していました。

前王ヘンリー7世とその王妃エリザベスもその危機感からなんとか男児を求めますが、それが元で産褥死。

今やヘンリー8世だけがテューダー王家の正統な血筋(姉は王位継承者にはなれなかったために北イングランドを治めるランカスター家へ嫁いだ)となり、男児の後継者が不在でした。ヘンリー8世とキャサリン王妃の仲はとても円満でした。しかしヘンリー8世は王妃の体が休む間もなく度重なる妊娠を繰り返し、そしてその度に流産・死産に二人は悲しみました。

1511年1月、ヘンリー8世21歳・キャサリン24歳の年、二人の間についに男児ヘンリー王子が生まれました。ヘンリー8世の喜びようは凄まじく、神に感謝を捧げて盛大な祝賀行事をする日々でした。
しかし生後わずか52日でヘンリー王子も亡くなってしまいます。

ヘンリー8世の失意は彼を愛妾(あいしょう)、そして戦争へと駆り立てました。ヘンリー8世はフランスへ軍隊を率いての遠征を仕掛けます。

迎え撃つフランスでは、キャサリンの故郷であるスペイン王家がイングランドとの同盟を破棄。フランス・スペイン・神聖ローマ帝国による新たな欧州大陸同盟によってイングランド軍は返り討ちに遭います。

その中でキャサリンは再びの流産、そして実父の裏切りを目の当たりにして祖国スペインとの決別をします。

同年更に男児を死産し落ち込む二人の間に、1516年ようやく女児メアリー(後のメアリー1世)が誕生します。キャサリン29歳、ヘンリー8世は26歳でした。メアリーはとても健康で、ヘンリー8世はメアリーを溺愛し、
「イングランドでは女子の王位継承を妨げる法はない」と宣言*しました。

これが今日のイギリス王室の王位継承の礎となります。

*英国は今日もなお、不文憲法の国。憲法条文が当たり前の世界の国々からすればちょっと信じられないかもしれないが、成文化されていないことは英国が英国たる所以でもある点は独特と言える。

タイトル未設定

ヘンリー8世はメアリーに”プリンセス”・オブ・ウェールズの称号を与えます。キャサリン王妃はこのヘンリー8世の言葉を信じて、彼女をイングランド王室の正統後継者として育てようと宮廷行事から退き、メアリーにカトリックの教義を徹底して学ばせます。

しかし1519年、メアリー3歳の時にヘンリー8世とキャサリンの侍女との間に男児が誕生します。ヘンリー8世は29歳、相手は21歳の宮廷でも噂になる程の美女でした。この子に自身の名からヘンリー・フィッツロイとしました。

イングランド王室には第二夫人などの仕組みがなく、ヘンリー8世は庶子には王位を与えられない我が子に破格のリッチモンド公爵(前王ヘンリー7世の即位前がリッチモンド伯爵)の称号を与えます。しかし彼は僅か17歳で肺結核のため死去。

ヘンリー8世はメアリーを溺愛する一方で、メアリーの婿探しに早くから奔走します。メアリーが2歳の時には22歳で即位したばかりのフランス王フランソワ1世との縁談を持ちかけ婚約に至りますが破談。

メアリーが6歳の時にはメアリーにとって16歳年上で、従兄にあたる大陸欧州で絶大な権力を持つ神聖ローマ皇帝カール5世と婚約するも後に破談となかなかうまくいきません。

メアリーが9歳になる頃にはキャサリン王妃は38歳となり、ヘンリー8世はキャサリンとの間にこれ以上子供が望めないことを悟り、またしてもキャサリン王妃の別な侍女に愛人になるよう持ちかけます。

カトリックとの分断の末に

しかしこの時の侍女アン・ブーリンは愛人で納得する女性ではありませんでした。結婚してくれないなら肉体関係は拒否すると言うのです。

イングランドは当時カトリックの国、夫婦の離婚は死別などを除き認められなかったためにヘンリー8世はローマ教皇に相談をします。

すると「カトリックの教義で不貞や死別など以外での離婚は認められないが、結婚そのものが無効であったことを立証すれば事実上の離婚は可能である」という例が過去にあった事を伝えます。

ヘンリー8世はキャサリンが元々兄アーサーの妻だった事を利用しようとしますが、これはイサベル1世が特免としたために合法となっていました。
自らが合法と認めたものを違法とはカトリック教皇庁は決して認めません。

またキャサリンにとって甥である神聖ローマ皇帝カール5世もカトリックへ絶大な発言権を持ち、教義に反する事へは断固反対をしており、教皇庁は二人の離婚を認めませんでした。
また異国で数々の悲運を乗り越えて王妃となり、今や母となったキャサリンにイギリス国民の人気は高く、無理矢理に離婚しようとする王への信頼が揺らいでいきます。

ではヘンリー8世はこの世間の反対をどう乗り切ったのでしょう？
驚くべきことにヘンリー8世は、カトリック教皇庁と断絶。大陸欧州で始まっていたルターによる宗教改革によって誕生したプロテスタントをベースとして、”イングランド国王の名の下にイングランド国内において国王こそ宗教的にも政治的にも最高指導者である”と宣言しました。(1534年、国王至上法)

今日の”イングランド国教会”の誕生です。

1533年5月23日、ヘンリー8世は国教会最高指導者の権限の下にキャサリンとの婚姻の無効を宣言。
涙ながらに裁判で離婚に反対をしたキャサリンを庶民とし、宮廷から永久追放。
溺愛していたメアリーからも王位継承権を剥奪し、庶子として王宮からも追放。しかもキャサリンは愛するメアリーとの面会も手紙のやり取りも一切禁じられます。

そして舌の根も乾かぬ同年6月1日にキャサリンの侍女だったアンを正式な王妃として結婚をします。ヘンリー8世42歳、アン王妃32歳。そして大勢の人々が見守る中で戴冠式を行いました。

同年9月、アン王妃はヘンリー8世との子エリザベスを出産。女児の出産に落胆しつつもヘンリー8世は娘であるエリザベスに王位継承権を与える事にします。(後のエリザベス1世)
王妃となったアンは前王妃キャサリンが追い出された後の宮殿を改装、家具・衣類・宝石などを贅の限りを尽くした買い物を続けました。

宮廷を追い出されたキャサリンは幽閉先の周辺の住民たちと王妃時代と同様に人々と接して評判となり、地域の人たちは彼女を王太子妃(プリンセス)ではなく、王妃(クィーン)と呼び慕われたそうです。

カトリックの逆襲に対する弾圧、王妃の死と再婚

キャサリンはカトリックの総本山であるローマ教皇や甥のカール5世(上記画像)に幽閉先からも極秘裏に呼びかけ、カトリックやその周辺国(仏へ嫁いだヘンリー8世の妹メアリー・テューダーなど)までもがそれに応えてイギリス国教会およびイングランド王室を国際的に非難。

メアリーの王位継承権の正統性を認める判決を出しますが、ヘンリー8世はこの判決を封殺。国内でこの横暴な国王の決定に反発したカトリック教徒の国民たちは次々に処刑されていきました。
(イングランドの現状を痛烈に批判し、架空の国を舞台とした自由と平等で戦争のない理想社会を描いた『ユートピア』の著者トマス・モアの処刑など)

1538年10月、キャサリンは若い時からの心労がたたったのか幽閉先で病に伏せ、1539年1月7日に幽閉先で48歳で崩御。
宮廷を追放されて以降、愛娘メアリーとは二度と会うことが叶わず、その波乱の生涯に幕を閉じます。

部屋に遺されていた亡くなる数日前に書かれたと思われる手紙には夫ヘンリー8世、愛娘メアリー、更に従者たちを気遣った手紙が遺され、署名には”イングランド王妃キャサリン”と記されていたそうです。

葬儀においても愛娘メアリーの出席は禁じられ、盛大な葬儀も禁止されました。それでも王妃キャサリンを慕う人々が次から次に葬列に加わり、40km先の修道院まで人々が代わる代わる棺を担ぐために行列を成したとされています。

そして奇しくもキャサリンの葬儀の日、王妃となったアンは身篭っていた男児を死産。

ヘンリー8世の寵愛を失うと同年5月に捏造された王殺害未遂と、5人の男との不義密通の反逆罪によってロンドン塔*で斬首されました。(エリザベスは王位継承権を剥奪され庶子とされ宮廷追放)

*ロンドン塔はテムズ河のほとりにある城塞。正式名称は「女王（国王）陛下のロンドン塔の宮殿および要塞」（Her (His) Majesty's Royal Palace and Fortress of the Tower of London）。通称は「塔（the Tower）」。

塔と呼ぶと隣接するタワーブリッヂを想像する人もいるかもしれないけれど、これは誤解です。

現在も儀礼的な武器などの保管庫、礼拝所などとして使用され、世界最大級のカット・ダイヤモンド「カリナン」はロンドン塔で保管されているとされている。(Wikipediaより)

男児がやはり欲しい王の恋のから騒ぎと悲劇

その後、わずか11日後に45歳となったヘンリー8世はアン王妃の侍女だった28歳のジェーン・シーモアと3度目の結婚。翌年、ヘンリー8世とジェーン王妃の間にテューダー家待望の男児エドワード6世が誕生します。しかしジェーンはその月のうちに産褥死。
エドワード6世はヘンリー8世からプロテスタントの教義を強烈に植え付けられ育てられていきます。

その後ヘンリー8世は49歳の時、次の妻を神聖ローマ帝国から贈られたお見合い用の絵画で一目で気に入り、19歳のアンナ・フォン・クレーフェと4度目の結婚を決意します。

しかし結婚式当日にやって来た実際の花嫁アンナは絵画が実物よりも美しく描きすぎていたのか。

王は彼女の寝室に通う事もなく、彼女に”王の妹”の称号を与え、僅か半年ほどで宮廷の外に追いやられます。(縁談を持ち込んだ臣下は処刑)

ヘンリー8世はその後も元妻アンの侍女であり従妹(前王妃ジェーン・シーモアから観るとはとこ)のキャサリン・ハワード(19歳)を見染めます。
しかしこのキャサリン・ハワードはかなり早熟な少女だったようで家の秘書官や教育係の男性と恋仲となり、記録によると10歳前後の時には恋人を寮の寝室へ招いたりしていたとされる恋多き女性でした。
王に見染められた時にも王の廷臣トマス・カルパパーと恋仲でした。

王妃となってからも二人の密会は続き、ヘンリー8世とキャサリン・ハワード王妃の遠征に帯同し、王の目を盗んで恋文(下記画像)を交わし、王妃の寝室に招かれ関係を続けたとされています。

これを知っていた侍女たちが保身のためにこの事を暴露するとトマス・カルパパーは拷問の果てに当時最も残忍な”首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑”に処され、またキャサリン・ハワードも処刑を言い渡されます。

当時の処刑は王家の血脈の者以外は衆人監視の中で行われ、キャサリン・ハワードは「トマス・カルペパーの妻として死にたかった」と言い残して21歳で斬首されました。

王位継承権の行方、血塗られた愛の果てに…

ヘンリー8世が血塗られた愛を求めて晩年、最後に結婚をしたのは52歳の時でした。6人目の妻の名も最初の妻、そして5人目の妻と同じキャサリンでした。
このキャサリン・パーは16歳、21歳の時に結婚をしましたがいずれも夫と死別。
ヘンリー8世の3番目の妻となったジェーン・シーモアの次兄トマス・シーモアと恋仲でした。

しかしヘンリー8世はキャサリン・パーを見染め、トマスを海外へ公務で出向させてその隙に求婚。
王の過去の妻たちの行末を知るキャサリン・パーは躊躇いますが、1543年に王に押し切られる形で31歳で結婚。

彼女は読書家で教養の高い女性でした。壮年となったヘンリー8世は若い頃と異なりこの頃には体力の衰えを感じたのか、肥満気味になり、かつてのように子を過剰に求める事はありませんでした。
キャサリン・パーは心を砕き、この王を愛しました。この甲斐があったのか、キャサリン・パーは庶子となったメアリー、そしてエリザベスを宮廷に戻すよう説得します。
ヘンリー8世は娘メアリーに対して宮廷に戻るために傲岸な態度で条件を提示します。

反カトリックであるイギリス国教会の存在を認めること、そしてメアリーの母キャサリン・オブ・アラゴンとの結婚の無効を認めること。

メアリーはこれに抵抗しますが、亡き王妃からメアリーの行末を託されていたカトリック教皇やカール5世らはメアリーの命の危険を懸念して従うよう説得して渋々承諾。

31歳のキャサリン・パー王妃はプロテスタントでしたが、宮廷に戻ってきた28歳のメアリー(カトリック)、そして10歳のエリザベス(プロテスタント)の教育係も引き受けます。

メアリーはこの継母と宗派を超えた深い信頼で結ばれ、手紙で「大好きなお母様」と記したほどだったそうです。

そしてやがて死期を悟ったヘンリー8世は王位継承権第一位を息子エドワード6世としながらも、まだ幼く病気がちな我が唯一の男児を案じてメアリーを第2位王位継承者(下の画像)と認めます。(エリザベスは第3位)

ヘンリー8世が崩御すると僅か9歳でイングランド王となったエドワード6世はプロテスタントを国内に広めようとします。しかし、その道半ば15歳で崩御。

王位継承権によってメアリーが初の女王としてイングランド王位につくハズでしたが、王座には別な者が付きイギリスの宗教と政治の混乱は続いていきます。

(続きはまた別な機会に)