📧英国に産業革命が起きた理由とビジネスモデル誕生～変革期のGAFAMT、米国人がTESLAに熱狂する理由⑥(2021年11月)

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産業革命が起きるために必要だった要素

皆さんは産業革命(Industrial revolution)が起きるために必要な条件は何だと思いますか？

私見ですが基礎研究(種)があり、そこに投資(水や日光)をしてくれる人がいて、それが芽が出て華が開くのを辛抱強く待てる社会環境(土壌)が不可欠だと考えています。

血塗られた王権を巡りグレートブリテン島を政治・宗教的に統一したジェームズ1世が晩年、後の産業革命(18世紀)が英国で起きた礎を築いたと書いた続きを今号ではお伝えしていきたいと思います。

産業革命、投資と資本主義確立の礎となったもの

イングランドとスコットランドを統一したジェームズ1世(1566-1625)は晩年の1623年、英国議会で「専売条例(Statute of Monopoly)」を可決しました。

これが今日の世界の経済・産業における歴史的な大転換点であり、イギリスに産業革命が起こるきっかけになります。

専売とはつまり発明をした人・企業が独占的にその技術を用いてビジネスができることを意味しています。

つまりジェームズ1世は今日で言うところの「特許制度」を世界で初めて公に認めたのです。

この時の専売条例は発明や新規事業に対して最長14年の独占権を認めました。

※現在はアメリカに倣って特許出願日から20年間。医薬品だけ一部例外的に安全性の観点から臨床等に時間を要するなどで5年の延長が申請できる場合もある。

尚、混同されがちですが著作権などは個人の場合には「著者の死後70年」。著者が法人の場合には「発行後95年」または「制作後120年」が設けられています。あのネズミの国のビジネスはこちらですね。

これによって新しい技術や発明などを持つ人や企業に対して、独占的に収益を上げることができる期間が定められたことになります。

もしあなたが研究・発明をする側、または投資をする立場だとしたらどうでしょうか？

特許がある、専売が認められている状況とそうでない状況ではまるで環境が異なることが想像できるでしょう。

もし特許がないとしたら類似品や粗悪品が沢山出回って、その新しい技術や発明をした人が十分に報われない可能性があります。

しかも収益はそれを労せず模倣したライバル企業が得て分散してしまいます。これはフェアではないと言えるのではないでしょうか。

投資家の立場であれば新しい技術や発明をした企業に安心して投資ができ、その新しい技術や発明が早く確立されて収益を上げるように応援する資金(成長促進剤)となります。

投資によって実現したワットの蒸気機関と英国産業革命

特許という専売が認められたことでジェームズ・ワット(1736-1819)は研究にかかる莫大な資金(現在価値で約2億円超)を各所から得ることが出来、1769年に蒸気機関の実用化に成功。

そこから彼は得た資金を元手に生涯にわたり蒸気機関の更なる応用開発を行い、現在のボイラーの原形を確立。

このボイラーは最初の発明から約50年に渡って誰も手を加えることが出来なかった程の完成度だったと言われています。

更にワットは馬に約75kgの荷物を運ばせ、1秒間に1m動かせる力を1馬力とし、現在もその名が動力の仕事率Wワットの単位として使われています。

鉄道の父ジョージ・スティーブンソンと経済学の父アダム・スミス

後に1814年、「鉄道の父」ジョージ・スティーブンソン(1781-1848)がこれを引き継ぐ形で蒸気機関車の実用化に成功し、人間の力では動かすことが困難なものも蒸気の力を利用することで動かす事ができるようになります。

英国で18世紀に産業革命の華が開き、それと同時に投資という経済の根幹を担う考え方がジェームス・ワット(1736-1819)と同時代を生きたアダム・スミス(1723-1790)によって神の見えざる手で有名な『国富論』(1776)と共に時代の中に投じられます。

そして特許という概念は海を渡り、世界の経済とビジネスの在り方を大きく変えていくことになります。

アダム・スミスの『国富論』を5分でわかりやすく解説してみる。 | LOOHCS

世界的普及を果たしたビジネスモデルの登場

イギリスで生まれた特許制度は何も科学技術についての知識や理解のある人たちばかりではなく、一般の市民の中にもその恩恵を受けるものが現れてきます。

アメリカはまだ西部開拓時代*が始まる少し前の時代、アメリカで1855年に生まれたある少年がいました。
*アメリカ大陸横断鉄道ができるのは1869年


彼は16歳の時に家が全焼の憂き目に遭い、一家は全財産を失ってしまいます。これがきっかけで彼は行商人などをしながら生計を立てていくことになります。

この強烈な体験は、彼の頭の中で「財産が燃えてしまったとしても一生お金が入ってくる方法はないのだろうか？」ということがいつどんな時にもぐるぐると回り続けるきっかけとなりました。

それが”特許”と絡むことであると漠然と気づき、彼は16歳から働きながらも特許を頻繁に提出し続けました。
若いながらも特許事務所の人に顔と名前を覚えられるほどでした。

1890年代に入るとこの少年は既に青年となり、容器・包装材メーカー「クラウン・コルク・アンド・シール」(現クラウンホールディングス)でセールスマンをしていました。

青年の雇い主はウィリアム・ペインター。彼は王冠クラウンと名付けた使い捨ての栓と、栓抜きを販売する事で莫大な財産を得ていました。

青年はペインターの言う「使い捨て製品を販売すれば客が安定する」という言葉を受け、使い捨てで、消費者がいつも使っているもの…いつも買ってくれるもの…とその種を探そうとしました。

そして1895年、青年が出張先のホテルでいつものように髭を剃ろうと剃刀の刃を研いでいる時、彼に天啓が訪れました。

「なんでこんなに頻繁に分厚い刃を研がないといけないんだろう…」

「自分で剃らないなら理髪店に行かなければいけない…なんて面倒…？」

刃を、もっと薄くすれば…安く…使い捨てにできるのでは？？？

青年はその後6年かけて改良に改良を重ね、遂に1901年、『替え刃式T字剃刀』の特許を取得します。

誰にでも簡単に真似できるものであれば特許を取ることができないのです。

この特許を取得した人の名はキング・キャンプ・ジレット。世界一の剃刀メーカーとなったジレット・セーフティ・レザー・カンパニーの創業者です。

しかしジレットのT字型安全カミソリは初年度に本体51本、替え刃は168個しか売れませんでした。

そこで彼は諦めず、米欧の様々な雑誌・新聞に広告を打ちました。

男性が読む雑誌には「替え刃式カミソリ」という新しい常識を理髪店まで行かなくても自宅で気軽にできるようになるし、自分で刃を研がなくてもよいと宣伝。

また女性が読む雑誌には「あなたの恋人へのクリスマスプレゼントに最適です」と広告を出しました。

翌年1904年の売り上げは本体約9万本、替え刃12万枚と大躍進。

1918年には本体100万本、替え刃は1億2,000万枚(本体の120倍)を達成。

このうちの儲け(収益)の中心は言うまでもなく「替え刃」でした。

ジレットの替え刃は第一次世界大戦では戦地の米兵の個人用装備として正式採用され、瞬く間にアメリカ男性の身だしなみの新常識として定着していきます。

その一方で、多くの企業や個人がジレットの特許を無効だ、侵害だと訴えます。

ジレットはこれに対して特許を盾に辛抱強く戦い、抵抗。

時には相手企業ごと買収するなどして黙らせました。

その代表例は彼の没後の1967年、ドイツの大手電気機器メーカーBRAUNを買収した事でしょう。

BRAUNは、産業革命によって量産化され工業製品の質が低下する中で、手工業時代(ギルド時代)への回帰を追求する英国アーツ&クラフト運動の流れを汲み、ワイマーク共和国内(現ドイツ)に設立されたバウハウスの系譜*を受け継いだ近代のプロダクトデザインにおいて高い評価を得ている企業です。
*ドイツのマイスター制度、”職人”という社会的地位の確立へつながる。

また電気シェーバーでも有名な企業であり、ジレットのビジネスの競合相手でもありました。

ジレットの替え刃ビジネスは単に新しい収益モデルを確立しただけではありません。

ビジネスモデルそのものの革新でもありました。

本体を安く売り、その後の消耗品やサービスで長く収益を稼ぐビジネスモデルは後に、世界中で数多くの商品やサービスに応用して採用されるようになります。

以下はその代表例です。

●安く売る部分

〇利益を稼ぐ部分

エレベーター/エスカレーターメーカー

●エレベーター本体

○保守サービス

自動車メーカー

●自動車

○車検/修理・点検サービスなど

コダック

●ポラロイド/交換式フィルムカメラ

○専用フィルム

携帯キャリア

●携帯電話/スマートフォン

○通話料・データ通信料・オプションサービス

プリンタ

●インクジェットプリンター/レーザープリンタ

○インク/トナー/廃ボックスなど

電動歯ブラシ

●電動歯ブラシ本体

〇替えヘッド

コーヒー

●コーヒーメーカー/コーヒーポッド

○コーヒー豆など

その他にも我々の現在の生活の至る所にこの仕組みを応用した商品やサービスは浸透しています。

ジレットの場合、「替え刃は純正品のみ」を如何に実現するかによってこのビジネスモデルの成否が変わってきてしまいます。

儲けるべき替え刃部分が互換品に横取りされたら終わりなのです。

「替え刃」ビジネスは絶対無敵のビジネスモデルではないのです。

【エコリカ・キヤノンのインク裁判】エコリカが悪い！だけで済まない理由を法律を踏まえて解説

ジレットはそれを特殊な技術や特許を駆使して守り、互換品を排除し、戦い抜き、そして市場での占有率を高めていきました。

またターゲットとなる顧客を変え、新しい価値を生み出すための研究開発(R&D)に収益を投じて開発を続けています。

Gillette Japan ジレットジャパン

最新の「フュージョン5+1」(2006-)は発表時にその刃の数を揶揄され、「その内ジレットはロケットでもカミソリに付け始めるのではないか」とインターネット上で騒ぎ立てられました。

しかし結果的にこれは大いに売れ、かつ多くの特許に守られ高収益を維持。

今では競合の電気シェーバーでさえ上位モデルは5枚刃が当たり前になりつつあります。

2005年度のジレットの売上は遂に1兆円を超え、利益率は25%を達成しました。

今日、「消耗品ビジネス」と呼ばれる収益ビジネスは無数にありますが、これを持続するためには強固なケイパビリティ(企業の持つ強み、経営資源。ヒト・モノ・カネ・オペレーションなど)を駆使して、常に新しい価値を市場に提供し続ける勇気と覚悟が必要と言えるでしょう。

※2007年にジレット社自体がプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に吸収され、同社の一事業となる。

変化を続けるコングロマリット企業からGAFAMTまで