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【年金財政検証2024】年金財政検証20年の変遷と財務省の隠しごと(後編)

本記事は下記の記事の続編になります。


年金財政検証2024(令和6)年

前回(2019)までの年金財政検証になかったデータが、年金財政検証2024からは追加されています。

左の<人口の前提>の中の「入国超過数
つまり外国人労働者の受入状況を下記3つのケースで組み入れられています。

①25万人、②16.4万人、③6.9万人

そして<労働力の前提>も①労働力参加進展シナリオ、②漸進*シナリオ、③現状シナリオの3つが定義されるようになりました。

*漸進ぜんしん…目標に向かって順々にじっくり進むこと

また<経済の前提>にはこれまでケースⅠ~Ⅵと割り振られていましたが、①高成長実現ケース、②漸進成長型経済移行・継続ケース、③過去30年投影ケース、④一人当たりゼロ成長ケースと改められました。


人口の前提

数値の参照元である2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した『日本の将来推計人口(令和5年推計)』によると外国人の入国数と出国数を差し引いた入国超過数は2020年に概ね16万人。

東日本大震災やリーマンショック、コロナ禍における一時的な減少を除くと概ね増加傾向にあるとして直近の平均的な入国人口を中位予測②16.4万人、更に外国人労働者が増えた場合想定の①25万人、減ってしまう場合の③6.9万人としてこれらを労働人口=厚生年金の納付者として扱っています。

ここに合計特殊出生率、平均寿命でも①高位(楽観的)・②中位(概ね現状と同じ)・③低位(厳しめ)という3つを組み合わせてシミュレーションされています。


労働力の前提

出典元である独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計」(2024年3月)によると、女性と60歳以降の高齢世代の労働参加がどの程度進むかによって①進展シナリオ、②漸進シナリオ、③現状シナリオを試算。

これによってより多くの労働参加が確保できると最大で75歳まで厚生年金加入となるので、現状の年金財源を確保しつつ、年金積立金を減らさなくても済むので想定通りの人数が働けば、結果的に2040~2050年代の将来において公的年金の持続性(所得代替率50%)が維持されるとしています。

また就業率も同様に考えられており、15歳以上の総人口に対して2040年に①66.4%、②62.9%、③56.9%と試算されています。

経済の前提

社会保障審議会による「年金財政における経済前提に関する専門委員会」で設定された4つの経済モデルケースの参照元を確認すると以下のようになっています。

4 ベースラインは「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」(平成30年度雇用政策研究会「労 働力需給推計」)、成長実現ケースは、「経済成長と労働参加が進むケース」(同)
5 第16循環(2012年10-12月期~2020年4-6月期)
6 過去から第12循環まで(1980年4-6月期~1999年1-3月期)の平均

ベースラインケースは最低限、これは頑張ればなんとかギリギリ達成できるだろうという基準。成長実現ケースはチャレンジして実現できるかどうかという基準。

TFP=Total Factor Productivity。通常、経済学では資本と労働によって生産がされると定義されているが、これらが変わらないのにGDPを押し上げる要因があると考え、それを全要素で包括的に求め技術革新や効率化などがGDPの増減に貢献した度合いを指標として示す
機械設備、原材料投入、分業の進展や規模の経済の実現、不況による過剰供給、内部留保の増減など。
計算式は「全要素生産性=生産量÷全要素投入量」
TFPはシュンペーターの「イノベーション」に代表される無形財産、ブランド力などを指標化してものの一つとも言える。
2001年からウィリアム・イースタリーロス・レヴィンによって提唱され、総務省は2008(平成20)年頃から使い始めている

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h20/html/k1243000.html


日本の潜在成長率は少子高齢化、人口減少などによって何もしなければ生産性の向上を見込むことが難しいと定義し、直近である2012年10月以降の景気循環を参照したTFPと同程度(0.5%)で推移するベースラインでも生産年齢人口の減少を、女性・高齢者の労働参加で相殺するのがかなりギリギリであることについて触れられています。

そこで成長実現ケースでは官民連携の下で、岸田内閣の掲げる「新しい資本主義」に基づく重点分野への投資などによるイノベーションを行うことで1980年4月~1999年1-3月期並みの1.4%成長を2027年までに到達と想定。

2023年度はインバウンド需要の回復、半導体の供給制約の緩和に伴う輸出の増加などで実質1.6%(名目5.5%)のGDP成長率を見込み、2024年度からは「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の進展のために個人消費や設備投資等の内需がけん引する形で実質1.3%(名目3.0%)成長を見込み、その後はマクロ需要が均衡する中で潜在成長率並みのGDP推移を目指すとしています。

全ては政府のシナリオ通りに…

しかしこれらは現在、政府が行っている政策全てがシナリオ通りに達成できた場合のもので、実際にIMFを始め民間の経済予測などと比較すると官庁自身にもそれが短期的には特に楽観的(高位)な予測であると触れています。

年金財政検証の資料そのものにはこうした楽観的であると書かれてはいません。しかしそのデータの参照元や出典元には「高位平均より高め」つまり楽観的と指摘されています。


所得代替率50%維持の本音

前回の年金財政検証にはなかった外国人労働者の増減という要素が押し上げている試算結果になっています。

しかし人口の前提も全て中位推計(出生・死亡・入国)として、人口がまだ多かった過去30年投影ケースでも2030年代後半には現在の所得代替率61.2%から年金が10%以上減ることには変わりありません。

また厳しめの想定にあたる「一人当たりゼロ成長・労働参加現状」モデルでは所得代替率50%を維持しようとすれば年金積立金の取り崩しを行っていくことになり、2059年にその財源は枯渇

その後は完全な賦課方式として運用がされていくことも触れられています。

加えてこの中で各ケースでの試算に「比例」や「基礎」という部分があります。「比例」は「報酬比例」の意味で、厚生年金部分。「基礎」は「基礎年金」の意味です。

「高成長実現ケース」、「成長型経済移行・継続ケース」、「過去30年投影ケース」の3つではこの「比例」部分は殆ど変わっていません。(25.0%→24.9%)

対して「基礎」の部分はそれなりに変動幅(32.6→25.5%)があります。
この財政検証では国民年金が厳しいと見ているということになります。

そこで目下、テコ入れ策として検討されている方法の一つのが国民年金の65歳まで納付義務を延長するというものでした。

これを行った場合、特に保険料の負担が直接的に生じる自営業者・フリーランスなどの国民年金加入者においては現在と同じ保険料だとして約100万円の納付負担が増えます。

しかも国庫負担も同額相当が増えますので、国の財政規律を強く意識する財務省はあまり賛同を得られない可能性があります。

その場合、別な方法で年金財源を何らかの形で補う方法を考えなければいけません。代案としてマクロ経済スライドの調整期間を見直すというものです。

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