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母へ

今、どこで何をしているのでしょうか。
あなたが家を出ていった日から10年が経ちます。

正直、私はこの10年間あなたに会いたいと思ったことはほとんどありません。
私たち家族を苦しめたあなたを許すことはまだまだ難しそうです。

3回の不倫、2回の家出、常習的な万引き、何百万の借金にネグレクト。

父や兄のお金を盗んだり、パート先の人と揉めて警察に御用になったり、大量の薬を飲んで何度も救急車で運ばれましたね。



小学生の私は目の前であなたが腕を切っているのを何度も見ました。家中のカッターが血まみれだったので、私は自分の部屋の引き出しに鍵をかけて刃物を仕舞っていました。

中学生の私はトイレに小さなスプーンが置いてあるのを見つけました。異臭とともに濁った水が便器の中に溜まっていて、リビングではあなたが大量にお菓子やカップ麺をむさぼっていました。私は大切な食料は無駄にはしません。

高校生の私はあなたと掴み合いの喧嘩をしました。あなたの自殺を止めたかった。
だけどついに言ってしまった。「生まれてこなければよかった」

あなたは興奮状態だった。それでも少し驚いていましたね。

そんなこと本当は言いたくなかった。






昔からあなたに言われ続けてきた、
「パパとママは離婚しないからね。」

その言葉を信じていた。大丈夫だと思っていた。



父からどちらが子供を引き取るかという相談をされたとき、あなたは最初は兄はいらない、私だけを欲しいと言い、父から兄妹はセットだと言われると

「じゃあどちらもいらない」と言ったそうですね。
つい最近、知りました。


私は望まれない子供だったのでしょうか?
実の母親であるあなたから捨てられたような私は生まれてこなければよかったのでしょうか?






テレビで「鬱を克服しました!患者を必死で支えた家族」のような番組を見ると苦しくなります。

私たち家族は、本当はあなたを救うことができたのではないか?
努力が足りなかったのではないか?
もっと病気を理解していれば、以前のあなたを取り戻すことが出来たのではないか?

今更考えても仕方ありませんが、私たち家族は、とても辛かったです。
必死だったと思います。それでもあなたを支えてあげられなかった。

あなたの寂しさを理解できなかった。




少しずつ壊れていくあなたを、私たちは受け入れられなかった。

見殺しにしてしまった。






あなたの肉じゃがが世界でいちばん美味しいことを知っています。

「自慢の娘よ」と笑ってくれたことを覚えています。

私が交通事故に遭ったとき、
泣きながら病院に駆けつけてくれたことも知っています。

愛してくれていることを知っていたのに。




私はあなたを支えられなかった後悔を思い出したくない。

だからあなたとはもう会えません。







大切な大切な母親すら救えない私は、幸せに生きてはならない。

そう思わせるのはあなたなのに。





私たちを苦しめたあなたを、嫌いになれないのです。



どんなに酷い目に合わされても、たった一人嫌いになれない私は、人を憎むことも許されない。





今後も私はあなたを想いながら、
あなたに知られないように生きていきます。






あなたも、どうか私の知らないところで、
勝手に幸せに生きていってください。

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