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【コラム】アプリを開発して、行き着いた場所。

Vocagraphyをリリースしてから3年が過ぎ、約2万ダウンロードされました。今でも「子どもと一緒に使います」とコメントを頂き、大変嬉しく思います。1000人に1人は聴覚障害児として生まれますので、これからも必要としている方にご活用頂けることを期待しています。

紙で作っていた絵カードをスマホで簡単に作ることができるようになったことはアプリを開発した成果と言えますが、Vocagraphyを上手に活用して頂くには大きな壁があると感じています。そもそも、どのようなオリジナル教材を作ったら良いのかを考えるステップが難しいのではないでしょうか。苦手な言葉や勉強はお子さんによって異なります。言語聴覚士などの専門家に保護者がアドバイスをもらい、適切な家庭学習の方法が分かれば良いのですが、必ずしもそのような環境にあるとは言えません。

今日のコラムでは、聴覚障害児をとりまく環境に何が必要なのかについて、私が感じていることを話します。そして、この数ヶ月取り組んでいた、新しいプロジェクトのアイディアを共有します。

▶︎最も重要なのは、誰一人取り残さないコラボレイティブな社会システム

聴覚障害児にとって最も重要なのは、関係する人たち、つまりステークホルダーがうまく連携できる社会システムです。特に、情報共有がとても重要だと感じています。ステークホルダーは、本人や家族の他、耳鼻咽喉科医、言語聴覚士、学校の先生(地域の学校、ろう学校、特別支援学級、通級を含む)、補聴器や人工内耳のメーカー、自治体の窓口などが挙げられます。

また、聴覚障害児が必要とする支援は、個々の状況により大きく異なります。聴覚障害の種類や聴力レベルはもちろんですが、補聴器や人工内耳の装用、手話や音声言語といったコミュニケーション手段の選択、ろう学校や通常学級など学校の選択、保護者や兄弟姉妹の状況、住んでいる地域の事情、家庭の経済状況など多くの要素が関係します。

これだけ多くののステークホルダーや、状況を左右する要素が複雑に絡み合っているため、困っている聴覚障害児や家族がいたとしても、なかなか支援に繋がらないケースも少なくありません。

▶︎少なくて遠い、聴覚障害の相談窓口

聴覚障害児の支援窓口はろう学校ですが、数の少ないろう学校に、車で片道1時間以上かけて通わなければなりません。極端な例ですが、離島に住んでいる難聴児は支援が受けられないため、中学校から島を離れて寮に入らなければならないこともあります。

東京には複数のろう学校や分校がありますが、それでもラッシュアワーの中をバスや電車を乗り継いで、1時間くらいかけて通う幼児もいます。聴覚障害児の支援窓口であるろう学校が少ないため、専門的な助言をもらうために大変苦労している家庭が多いことがお分かり頂けるかと思います。

▶︎担い手不足と将来への不安

聴覚障害児は早期発見・早期療育が重要であり、厚生労働省が主導して支援窓口を増やす取り組みが行われています。しかし、聴覚障害の専門家が急に増えるわけではありません。聴覚障害児の支援に必要となる分野は、医療、聴覚、言語、発音、電子機器など多岐にわたります。そもそも聴覚障害児が少ない(対象者が少ない)ため、聴覚障害児を支援する仕事の枠も限られています。

ビジネスで考えれば、マーケットが小さければ儲けが少なくなるか単価が高くなります。聴覚障害児の支援はビジネスとしては成り立たないため、公的な支援を強化する以外に方法はありません。

▶︎「距離」と「人員不足」の課題を解決する唯一の方法はオンラインサービスとAI

これまで話したように、聴覚障害児を支援する上で課題となっているのは、「距離」と「人員不足」に関する問題です。この2つを解決するには、オンラインサービスとAIを活用する他にないと考えています。

そこでスタートさせたのが「ステークホルダの知識とビックデータを融合するポータルシステムの開発」という研究プロジェクトです。

簡単に説明すると、聴覚障害児・者向けのポータルサイトで、支援者とオンラインで情報共有をしたり、自分に必要な情報が最適化されて提示される仕組みです。聴覚障害であることが医師の診断で分かった時点でIDが発行され、小学校を卒業するころまでは保護者が管理します。中学生くらいからは同じ障害を持つ仲間や先輩とつながることで、学問分野や職業を選択する際に活用し、人生の可能性を最大限に広げるために活用します。結婚や子育てなどにおける悩みも共有でき、最終的には老後の介護スタッフと共有すれば自分の障害について理解してもらうのに役立ちます。

図:ポータルシステムの役割

現在、様々なステークホルダーの方々の意見を聞きながら、実現に向けて少しずつ前に進み始めています。また、ご報告します。



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