マガジンのカバー画像

認知言語学のテキスト

45
認知言語学を研究する大学院生が、認知言語学の最近の研究をまとめたマガジンです。1ヶ月に20回くらい更新します。言語学に興味がある人なら、誰でも楽しめる内容になっています。認知言語…
運営しているクリエイター

#言語学

多義語についてのボツ原稿をアップロードしてみた(序章のみ)

第1章:序章本節では、まず多義性の概念について論じる。多義性に関する知識が重要である理由を述べた後、本論文の中核をなす概念である「多義語のパラドックス」について説明し、関連する概念についても触れる。最後に、本論文の構成を明らかにする。 ①多義性とは何か 単一の単語形態が複数の異なる意味を持つ現象は、言語において広く知られているものである。 この現象は多義性と呼ばれ、自然言語において広く見られるものである。任意の辞書の多くの項目には、様々な意味(および/または用法)が記載

独立研究者になって研究したいこと

こんにちは。今回は、独立研究者として取り組みたい研究テーマについてお話しします。これまでの経験や学びから、私が独立して研究を進めたい分野や具体的なテーマをいくつか挙げ、その理由や意義について説明したいと思います。 1. 認知言語学のこれから - 学際的とは何か 認知言語学は、言語を通じて人間の認知を探る学問です。私が特に興味を持っているのは、認知言語学が他の学問とどのように連携し、どのように応用されていくのかという点です。学際的な研究は、新しい視点や方法論を提供し、従来の

英語教育に認知言語学の知見を活かすことは、どうして大事なのか?ー文法と語彙から考えるー

1. はじめに外国語教育において、言語学の研究成果は非常に重要な基盤となります。しかし、最近の言語学、特に認知言語学の発展を知らない人の中には、「言語学は語学教育には役立たない」という誤った固定観念を持つ人がいます。そのような誤解が広まると、外国語教育の基本的な土台が揺らぐことになりかねません。本論では、認知言語学的アプローチが外国語教育のさまざまな側面において重要であることを示していきます。 2. 外国語習得の困難さと言語学の重要性言語を習得するためには、綿密な計画と多大

第2言語習得研究における応用認知言語学の役割についてー架け橋は成立するか?ー

はじめに第二言語(L2)習得の分野の研究は、日々進歩しています。そんな第2言語習得の研究において、認知言語学の視点がますます重要視されています。指導法などに、教育者や学習者に新たな道が開かれたと言っても良いでしょう。 応用認知言語学(Applied Cogniitve Linguistics : ACL)は、言語学習の効果を高めるために認知科学からの洞察を活用します。実践的な教授法に情報を提供するフレームワークを提供します。 この記事では、ACLの中核となる原理を掘り下げ

生成文法と認知言語学を比較してみる

はじめに言語及びその構造に関する研究は、広範にわたり複雑です、決して1つの理論では収束しない深い深い深い世界です。その証拠に、人間による言語の獲得、処理、利用方法を解明するため多様な理論やモデルが提案されて、実行されてきました。 これらの中でも、言語理論として、生成文法と認知言語学は特に影響力があり、広範囲にわたって議論されている二つの枠組みです。生成文法も認知言語学も、人間の言語理解を目指す共通の目標を持ちながらも、そのアプローチ、基本的な前提、そして意味するところにおい

多義語と同音異義語:その違いを理解する

はじめに認知言語学において、多義性と同音異義性を区別することは、言語のニュアンスを理解する上で不可欠である。両者は一つの語形が複数の意味を持つ現象であるが、その意味の性質は大きく異なる。本稿では、多義性と同音異義性の区別を、具体例を豊富に用いて明らかにすることを目的とする。 多義性とは何か?多義性とは、一つの単語が複数の関連した意味を持つことである。これらの意味は、共通の語源に由来することが多く、概念的に結びついている。 多義性の認知的根拠認識上、多義性は異なる概念間のつ

認知意味論についての簡単な導入

はじめに進化を続ける言語学の分野において、認知意味論は、言語と人間の認知との関係についての理解を再構築する画期的なアプローチとして、そして認知言語学の一分野として登場しました。この記事では、認知意味論の核となる原理、従来の言語理論との違い、そして言語処理と習得に関する理解への影響について書いていきます。 認知意味論の起源認知意味論は、形式的な言語理論の限界に対処するために20世紀後半に登場した、認知言語学という広範な学問分野に根ざしています。チョムスキーが創始者となった生

OVER物語〜OVERの多義性研究〜

はじめに認知言語学の領域において、多義性(一つの単語が複数の関連した意味を持つ現象)の研究は最強に魅力的な研究分野です。その中でも、前置詞 "over "は特に興味深い研究対象です。この記事では、多義語研究における「over」の旅を掘り下げ、このシンプルな単語が、言語と認知の仕組みにいかに深い洞察を与えてきたかを探ります。 初期段階 "over"の多義性の特定まず、OVERの多義性を研究するには、もちろんのこと「なんでOVERが多義語なのか」ということを解明する必要があり

多義性ネットワーク:認知言語学における単語の意味の相互関連性について

要旨認知言語学において、多義性ネットワークという概念は、1つの単語が持つ複数の意味が人間の心の中でどのように相互に結びついているのかという興味深い洞察を提供します。本稿では、多義性ネットワークの本質に迫り、それがどのように形成され、機能し、言語と認知の理解に寄与しているかを探ります。 はじめに多義性とは、一つの単語が複数の関連した意味を持つ現象で、自然言語によく見られるものです。古い文献ですと19世紀の頃から多義性ということは言われてきました。 これらの複数の意味がど

語彙研究: 第二言語習得(SLA)における軽視された側面

はじめに第二言語習得(SLA)の分野では、伝統的に文法、音声学、構文に焦点が当てられてきました。しかし、同様に重要な要素であるボキャブラリーの研究すなわち語彙の研究については、あまり注目されていません。 そこで、本稿では、第二言語習得における語彙研究の重要性を強調することを目的とし、語彙習得についてより深く理解することで、言語学習や教授法を大幅に向上させることができると主張していきます。 SLAにおける語彙の重要性語彙力は言語習熟の礎です。語彙のない言語はそもそも存在しま

認知言語学における最近の研究手法

実験的手法アイトラッキング 視線追跡技術(アイトラッキング)は、認知言語学研究の要の1つと言って良いでしょう。視線追跡技術により、ある刺激に対して人の視線がどこに、どのくらいの時間留まっているかを観察・記録することができます。この方法は、言語処理や読解の研究に特に有効です。Rayner(1998)による代表的な研究では、眼球運動データから読解中の言語処理の時間経過が明らかになり、根底にある認知プロセスについての洞察が得られることが示されています。 反応時間(RT)測定

認知言語学は言語学史全体にどのような貢献をしているのか?

概要認知言語学は、言語が人間の認知に組み込まれていることを強調することにより、言語理解に革命をもたらしました。文字通りの「革命」と言っても良いでしょう。この記事では、認知言語学の理論的革新、方法論、関連分野への影響に焦点を当てながら、認知言語学の言語史への貢献について考察します。 認知言語学の登場によって認知言語学の登場は、生成文法などの形式主義的な言語モデルから、人間の認知能力に不可欠な部分としての言語の理解へと、言語理論のパラダイムシフトをもたらしました。この転換は、言

語彙意味論から見た「多義性」

はじめにいつの世も、言語は魅力的で複雑なシステムであり、有限の単語の集合を通して無数の意味を伝えることができます。この複雑さを示す現象のひとつが多義性です。多義性とは、ギリシャ語で多数を意味する「poly」と、意味することを意味する「semaino」から派生した言葉です。多義性とは、1つの単語が関連する複数の意味を表す能力のこと。この記事では、多義性の複雑さを掘り下げ、語彙意味論におけるその役割、それがもたらす課題、言語理解とコミュニケーションへの影響を探ります。 多義性の

大学以外で言語学を学ぶ方法

はじめに言語の科学的研究である言語学は、言語の構造、意味、使用について掘り下げる魅力的な分野です。従来は大学の枠の中で研究されてきましたが、現在では、このテーマを自分で探求したい人のために、数多くのリソースや戦略が用意されています。この記事では、大学以外で言語学を学ぶ様々な方法をご紹介します。 1. オンラインコースとMOOC大規模公開オンライン講座(MOOC)は、これまで以上に教育を身近なものにしました。Coursera、edX、Khan Academyなどのプラットフォ