(第640回）増やすべきは「残業？人数？生産性？」
本日の記事：Overtime sole option to make ends meet: Vietnamese workers
（残業は生活費をやりくりすための唯一の選択肢）
記事リンク：
（写真：セラミック工場で働く労働者）
【ポイント】
（１）ベトナムでは「もっと時間外労働ができるよう」法律を変更する声が労働組合や労働者からも出ている
（２）現在の時間外がない賃金では、ワーカーなどの生活はかなり苦しいのが実情
（３）時間外を増やすだけでなく、新規人材の採用、生産効率の向上、をバランス良く上げる、というのが王道ではあるが、新規人材を採用すれば一時的には生産性が落ちるし、生産性向上のため機械化すれば雇用を脅かす側面もあり、なかなか一意に回答が出ない問題である。
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【解説】
アジアゲートベトナム代表の豊田です。
さて、今日の記事について。
「ベトナムの残業時間の上限規制が厳しすぎる」
という話は何度か触れてきたと思います。
今、労働法では年間の時間外労働の上限が200時間（一部は300時間）となっています。
年間労働日が260日くらいだとすると1日1時間前後、というイメージかと思います。
まぁ、この上限に関しては、正直、守っていない会社は相当数、いるというのが実態だと思います。
ただ、「守っていない」にも２種類あって、
（１）上限規制は守らないが、時間外手当はきちんと支払う
（２）上限規制も守らないし、時間外手当も誤魔化す
で、多くの企業は、当然、（１）が多いですが、時々、（２）の会社もあり、そういう会社はやっぱり、よくストライキ的なことが起きて、労働者が工場の外で座り込みをしてる映像が出たりしております。
まぁ、ベトナム政府は基本的には、あまり、この「時間外上限」を増やしたくないようですが、この問題の難しいのは、
「むしろ労働者も、残業時間の上限を増やすことを望んでいる」
ケースが多い、ということなんですよね。
一般的なワーカー層の賃金、まぁ、3００ドル〜３５0ドルくらいとしましょう、では、今のベトナムではかなり生活は厳しいですよね。
私のベトナムでの生活実感として、ベトナムの生活では日本に比べて給与に占める
・医療費
・教育費
・食費
・住宅費
が明らかに割高だな、と感じます。
ここに加えて、日本に比べて年金制度が脆弱もいいところなので、そうなると、親の分の「医療費、食費、住宅費」もサポートしないといけなくなるので、負担がさらに重くなってきます。
時々、実家に仕送りしてるベトナム人を見て、「えらいなぁ」と感心しますが、逆にいうと、日本みたいに年金や医療保険が充実していないので、両親に仕送りしてあげないと本当に生活できなくなってしまいますから、、、
そして、この「時間外上限を増やせ」論があると「カウンターパンチ」で必ず出てくるのが、
「いや、もっと、人を採用しろ！」
「もっと、生産性を向上させろ！」
という話でして、、、
この議論はなかなか難しいですよね。
生産量＝(a)投下時間 x (b)従事人数 x (c)生産効率
と、こういう方程式で考えると、今の時間外規制の話は(a)投下時間を増やそう、という話ですが、それをやりすぎると、従業員も健康を害するし、企業として時間外割り増しがあるのでコスト高になってしまいます。
じゃあ、やっぱり、(c)生産効率をあげるべきだな、という話になると思いますが、しかし、今の時代、生産効率を上げるにはAIを含めた機械化が避けて通れないですが、そうなると、今度、従業員の雇用自体が脅かされますから、組合も慎重な部分もあります。
じゃあやっぱり、(b)従事人数を増やしましょうと言っても、今のベトナムは以前のように「若いワーカーがいくらでもいる」ような状況ではなく、採用も難しくなってきていますし、人を雇えば、工場や駐車場、食堂も広げないといけないですし、制服や装備品なども購入しないといけないですし、そう簡単な話ではないです。
おそらく、来年あたりには時間外上限はある程度、増えるのではないかなぁ、、とは思いますが、企業としては、いろいろな角度から、「最も効率よく、最大限のアウトプットが出るバランス」を「時間x人数x生産性」の観点から考える必要があります。
弊社が人事制度のご相談を受ける際にも、この辺りには十分、留意しながら偏ったアドバイスにならないようにと、いつも肝に銘じております。
以上 豊田英司
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