vol.560「売上目標のない会社ってあるのですか?」(2024年9月27日配信)
はじめに
大谷さん、あっという間に新記録を樹立してしまいましたね。まさに、常識破壊ですね。経営でも、常識破壊がいくつも起こります。そのひとつが前々回の第558号で紹介した、売上を追わない会社です。
「酒井さん、売上目標がない会社って、あるんですか?」 以前、ある経営者から頂いた質問です。正解は、「あります」。しかも皆、好業績企業ばかりです。
そこで今回は、その中から3社を選び、なぜ売上を追わないのか、それぞれの会社のポリシーをご紹介します。
1. 中央タクシー(株) - お客様第一のサービス
1社目は、長野県にある中央タクシー(株)です。この会社はタクシーの稼働率が90%以上。それ故にこれ以上売上追いかけると、運転手さんがパンクをしてしまいます。故に、売上目標がありません。
ではなぜ、それほど稼働率が高いのか。それは、同社のタクシーがほぼ予約で埋まっているからです。顧客の多くが高齢者。彼らが病院や買い物に行くときに中央タクシーを選んで予約するのです。なぜなら、同社のドライバーがとても親切だから。
同社を見学させていただいた時に、私は、お客様から同社に届いた手紙を見せてもらいました。そこには概ね以下のような内容が書かれていました。
「他のタクシー会社は足の悪い私が車に乗るのを待っている間、運転手は運転席に座ったままチッと舌打ちをしました。が、貴社の運転手さんはタクシーから降りてきて、私の悪い足をまるで宝石箱を触るかのように手を添えて座席に座るのを手伝ってくれました。こんなに親切にされたことはありません。とても感謝しています」
このようなサービスを提供するために、同社は毎朝、朝礼の時間にロールプレイを実施しています。運転手役とお客様役が行うロールプレイをみんなで見て、一人ひとりがポジティブフィードバックします。これにより、全員がとても親切で温かい対応ができる環境を築いているのです。
同社の経営理念は「お客様が先、利益は後」です。その理念に共感した人たちが、その担い手になろうと高い意識で仕事をしています。故に売上を追わなくても結果がついてくるのです。
2. 清川メッキ工業(株) - 同業者との共存
2社目は福井県にある清川メッキ工業(株)です。
この会社は名前の通りメッキ加工をする会社ですが、とても小さなナノ部品にメッキできる技術がウリです。企業からメッキができるかどうかの問い合わせがあるとメッキを施したい部品を預かってトライします。やり方を工夫し、「できる」となれば、見積もりを出して受注します。
同社が売上目標を設けない理由のひとつが、同業者を守るためです。売上目標を掲げると、営業マンは売上を獲得するために同業他社の客先を訪問し、「私たちも同じことができます。値段も安くします」と言って、安値で受注しようとします。すると、当社が満足な利益を得られないだけでなく、同業他社の売上を奪ってしまいます。この状況が続くとその同業他社が倒産してしまうかもしれません。そしてその他社は、同じ福井県内の会社かもしれないのです。
同社の社長は、こうした潰し合いを望んでいません。だから売上目標を追わせないのです。
ではどうやって受注を伸ばしているのか。同社は年に2回、大規模な展示会に出展し自社の技術をアピールします。またホームページで自社の技術を丁寧に紹介しています。それに興味を持ったお客様から、上記のような問い合わせが届きます。そのニーズに答えることで、受注を増やしているのです。
3. 未来工業(株) - 顧客ニーズの追求
3社目は、岐阜県にある未来工業(株)です。
同社は、電気工事店が使う様々な道具を作っているメーカーです。自分たちが作った道具を、問屋を経由して工事店に売っています。24年3月期の決算は、売上441億、経常利益率16.8%を誇る上場企業です。
そんな未来工業が売上目標を持たないのは、自社の商品企画力を高めたいからです。営業マンに売上目標を持たせると、営業マンは売上拡大のために取引先の問屋に行きます。問屋の倉庫を見て回り、自社製品の在庫がどれだけ減っているかを確認します。そして「在庫が減った分だけ補充しておきますね」と問屋に代わって発注します。それが自分の売上になるからです。
同社の社長はこの状態を危惧しました。というのも、同社は「電気工事店の職人が喜ぶものを作りたい」のです。これが目的です。それには電気工事店の職人が、仕事中どんなことに困っているのか、どの作業を不便だと感じているのか、お客様のニーズを知る必要があります。
ところが売上目標を持たせると、上記のように営業マンは直接のお客様である問屋をばかりを訪ねてもしまい、その先の電気工事職人のところに行かなくなってしまいます。すると、お客様のニーズがわからず、永遠に目的を果たせなくなってしまいます。
そこで営業目標を無くしたのです。すると営業マンは、問屋に以下のような依頼をします。
「工事職人さんに喜んでもらえる商品を作りたいので私を貴社のお客様の工事現場に連れて行ってください」
問屋に同行した営業マンは、現場で職人の仕事ぶりを観察したり、職人の話を聴いたりして、ニーズを掴みます。帰社後、それを自社の設計部門に伝えます。そこからお客様に喜ばれる独創的な商品が生まれるのです。
まとめ - 本質的な価値の追求
こうした3社のこだわりと、前々回に紹介した「仕事があると皆が安心するしてしまい革新が生れなくなってしまう。だから、安値で受注しない」と語った金属加工のA社を加えた4社。
売上目標がない彼らに共通しているのは「自分がやりたいことは何か」が明確なことです。お客様に喜んでもらいたい、同業者と無益な競争はしたくない自分たちの技術力を高めたい…そうした視点に立った時に、どんなマネジメントが一番必要なのか。それを突きつめた結果、各社各様の、売上を追及しない独自スタイルが生まれています。
上期の成果が出る時期です。自社のマネジメントを振り返ってみましょう。そして、本当にやりたいことができているか。常識にとらわれて窮屈になっていないか。ぜひ確かめてみてくださいね。
実践に役立つ動画の解説
このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。
質問項目
「売り上げを追わない会社」には、そうなるきっかけがあったのでしょうか?
目的ファーストの経営にシフトチェンジするには、何から始めるべきでしょうか?
シフトチェンジがうまくいかない原因になりやすいことはなんでしょうか?
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