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vol.550「燕三条に学ぶ、中小企業繁栄の三原則とは?」


燕三条市の製造業視察:9人の経営陣と2日間で7社を訪問

去る6月21〜22日、クライアントの社長と部長以上9人と新潟の燕三条市の企業を2日間で7社見学してきました。製造業を見学して多くを学びたいというご依頼で、私がコーディネートしました。

燕三条市は、皆さんご存知のようにスプーンやフォークなど金属製の洋食器の製造が盛んな街です。結婚式の引き出物として洋食器が当たり前だった頃、街として急成長しました。

製品は「1. 材料注文」→「2. ブランク加工」→「3. 成形加工」→「4. トリミング加工」→「5. 研磨加工」→「6. 溶接」→「7. 洗浄」の工程を経て生まれます。この工程ごとに分業化が進んでいます。一社で1. から7. までを担う会社もあれば、ひとつしか担っていない会社もあります。後者が圧倒的に多く、ほとんどが小規模企業です。

「工場の祭典」:燕三条の復活を導いたイベント

この燕三条、ジミ婚化と共に衰退します。街全体が危機感を持って取り組む中、奇跡が起こります。それが同地区の「工場の祭典」というイベントです。

「工場の祭典」は今から10年前、工場を開放しお互いを見せ合うことからスタートしました。同じ下請け同士ですから工場を見せることは手の内を晒すリスクがあります。が、やってみたら次のような変化が起きました。

「貴社はこんなことをやっていたのか?ならば、この仕事を発注したい」という受注量増にも繋がりました。工場の祭典は、同業者だけでなく市民が見に来ます。汚い現場ではそこでできる製品の品質すら信用されません。そのため、工場内も職人さんの格好もキレイになっていきました。

その上、工場を見に来た人の中から「是非貴社で働きたい」という若者も出てきました。燕三条でも、人材難は変わりません。就職希望者が出てくることは、とても有難いことです。

以来「工場の祭典」は参加企業が増え毎年10月に開催されています。

オープンファクトリー:工場見学の新しい形

このように見学できる工場のことを「オープンファクトリー」と言います。燕三条には上記の「工場の祭典」の期間以外でも「オープンファクトリー」を実施している会社があります。

そのような会社は、見学コースを設け、タイミングさえ合えば、説明員が作業内容を丁寧に説明してくれます。皆さん、大変慣れているのでしょう。各工程の説明がとても流暢でわかりやすく、尚且つ、「この会社が好き!」「この商品が好き!」からくる「このことを伝えずにはいられない!」という想いに溢れていました。

当然、見学している私たちも楽しくどんどん引き込まれていきます。

中小企業繁栄の3大条件:良い物づくり、厚利小売、そして説明

こうして短時間に7社を見た私たちですが、明らかに好業績な会社と、苦戦を強いられている会社が見て取れました。私は7つの会社を見比べながらモラロジー研究所発行の『徳づくりの経営』に書かれていた以下の一説を思い出していました。

「物をつくるにも売るにも、名物になるような良い物をつくりなさい。最高級品ではなく、大衆向きの中級以上でその中でも上物をつくりなさい。それに薄利多売はつまらぬ(中略)。厚利小売(こうりしょうばい=利潤の多い物を小量売ること)をするのです。そして、説明すること。説明は、新聞やラジオ、印刷物ではなく、口から口へ伝わるようにすること。なぜかというと、(中略)品性の善い者であれば相手に感じさせる何かがあるはずです。

一、良い物をつくること。
二、薄利多売ではなく厚利小売。
三、説明すること。

この3つを実行すれば、3年で運命が開きます」

この3点は、規模の追求ができない中小企業が繁栄する3大条件です。そして、明らかに好業績な会社は、この3つをしっかり実行していました。特に、「三、説明すること」の効果は顕著でした。

例えば、見学日が土曜日だったこともあり、あるオープンファクトリーは、工場の中は見られるものの稼働なし。説明はなく、私たちはパネルのみを見て同社のモノづくりを知りました。そのすぐ横に同工場で創られた商品のショップがあったのですが、そこでは誰も買いませんでした。

ところが、説明を頂いた他の会社のショップでは、10人のうち誰かは、自分のために、あるいはお土産として商品を購入しました。

作り手がどんな思いで創っているのか。作るプロセスでどのような苦労があるのか。それを「三、説明すること」によって買う気が増したのです。

以前、酒造りの人に、売り物には「製品」と「商品」と「作品」がある。と教えていただいたことがあります。それに当てはめると、上記のように「三、説明すること」で、「製品」が「商品」へと変わったのでしょう。

伝統と革新:燕三条の企業が示す未来への道

他にも、伝統工芸品を作っている会社も見学しました。金属製の急須で、GINZA SIXでひとつ80万円もするそうです。

こちらは説明を受けてもさすがに誰も買いませんでしたが、芸大生の就職企業者が、毎年全国から50人!よって職人の半数以上が20代で、技能伝承に困らないといいます。同社では終業後は会社の空間、道具を使って自分の好きなものを創作して構わない、という特典を社員に与えています。そこに惹かれたのだろう、という説明でした。

「作品」をつくり、「厚利小売」をし、「説明をする」会社に惹き付けられるのは、学生も同じなのです。

もう一社、前段に書いた1.〜7.のプロセスは試作でも量産でも同じですが、試作ほど高くつきます。その試作品に特化して少量生産を請け負う会社も見学しました。

燕三条は後継者難で、上記1.〜7.のプロセスのうち近い将来担い手がいなくなると予想される工程が少なくありません。その問題をわが社が解決する、という説明でした。

「儲けるためでなく、地域を救うためにやる」髪型が坂本龍馬と同じだったこともあり、そんな決意をした社長の「三.説明をすること」にも心を揺さぶられました。

ということで、改めて「一、良い物をつくること。二、薄利多売ではなく厚利小売。三、説明すること」の大切さを痛感した2日間でした。

あなたの会社のビジネスはこの3つに照らしていたかでしょうか?是非、検証してみてくださいね。

実践に役立つ動画の解説

このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。

質問項目

  1. 長年「薄利多売」の戦略で来た会社が「厚利小売」に転換するには?

  2. 「大衆向きの中級以上でその中でも上物をつくりなさい。」をBtoBに置き換えると?

  3. 職人の多くが人前で話すのが説明するのが上手くなるには?


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#燕三条市 #新潟 #GINZASIX #モラロジー研究所 #工場の祭典 #オープンファクトリー #坂本龍馬

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