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『正チャンの冒険』書籍ができるまでの道のり

こんにちは!viviON THOTH編集部です!!
今日は8月末日!いろいろと熱かった夏も少しずつ終わりに近づき、季節は秋へと移ろいますが、われわれは『正チャンの冒険』連載開始100周年を記念した書籍の刊行に向けてラストスパートの毎日です!
そこで、今回は少し趣向を変えて『正チャンの冒険』の書籍ができるまでの道のりと題しまして、裏っかわの作業の様子などをお伝えできればと思います。

原稿あつめ

まずは原稿を集めるところからスタートしました。

この段階では、何ぶん100年も前のことですので、どれくらいの量の『正チャンの冒険』があるのか、どのようなバリエーションがあるのかなどの全貌がまだ不明な状況でしたが、インターネットの情報や、ご協力いただいた有識者の方の証言などにより、少しずつわかってきました。

雑誌や新聞での連載のほか、単行本や絵本なども出版され、他のマンガ家の方による関連商品や、非公式のものも含めると膨大な種類・数がありましたが、今回の記念書籍の収録範囲は、「連載版の全話」とすることにしました。

雑誌・新聞での連載版と一口にいっても、掲載誌もアサヒグラフと朝日新聞があり、また、タイトルも『正チヤンのばうけん』『正チヤンノバウケン』『お伽 正チヤンノ冒険』『正チヤンの冒険』『正チヤンのその後』『水曜日の正ちやん』など多数のバリエーションがありました。

さて連載版全話(866話)の収集ですが、地道にオークションで当時の読者の切り抜きを落札していき・・・、ということはなく、幸いにも国立国会図書館に当時の掲載誌を写真にしたもののデータがありましたので、そちらを利用させていただきました。

全話分の掲載誌のデータを複写申請し、紙に印刷されたものを再度スキャンしてデジタルデータにしていきます。
※複写申請1回あたりにお願いできる枚数に制限があるため、何度にも分けて申請していきます!1日で終わらず、コロナ禍で入館が予約制となるなか、何日も正チャンの原稿を求めて国立国会図書館に通ったのは良い思い出です!

この時点では、元のデータが当時の紙面(紙媒体)を写しとったものであるため、劣化が激しいものも多く、これをこのまま載せることはできません。

『正チャンの冒険』の記念すべき第1話が掲載されたアサヒグラフ創刊号の紙面(アサヒグラフ 1923年1月25日 通常号 1号 14〜15ページ)

コマ分け・ごみ取り・塗りつぶし・文字の流し込みなど

そうして収集した原稿は、元の紙面の物理的な劣化によって、文字がつぶれる、シミなどのノイズが入り込む、などの問題があったため、書籍として刊行するには、まずこれらを綺麗にすることが必要でした。

文字のつぶれや彩度の調整をおこなったもの

また、今回の書籍は、資料的な意義で出版するというよりも、「100年前のマンガを現代の読者に楽しんでもらいたい」という思いで出版することとしたので、セリフやキャプションにおける以下の点を修正することとなりました。

  • 基本的にカタカナで表記されている

  • 横書きの際に左→右ではなく、右→左の向きに書かれている

  • 旧仮名遣いで表記されている

  • 現在では使用されていない文字が使用されている

また、当時はマンガ黎明期で、4コマのスタイルも確立されていなかったため、コマの配置がその時々によって区々なので、それを上→下に統一する作業も必要でした。

『正チャンの冒険』第1話(アサヒグラフ 1923年1月25日)
コマは右→左の順
朝日新聞移籍後の第1話は上→下の縦書きに
現在でも見かける【田の字型】ですが、読み順が右上→左上→右下→左下となっています

文字の校正・校閲

次は、文字の校正や校閲をおこなっていきます。

今回はここに難しい点がありました!!

誤字や「てにおは」のチェックはいつもどおりなのですが、正チャンの場合は、それに加え、時代背景の違いによる不適切な表現の修正や、当時は漢字で記載していたが現在では平仮名で記載されるものの修正など、100年前のものを現代向けに修正する作業が必要でした。

校正中の原稿

古めかしい言い回しなども、現代ではあまりに意味が通じにくいものは修正しますが、あまりやりすぎると元の作品の雰囲気が違ってきてしまうので、基本は連載時のものをいかすように努めました。
100年間でここまで日本語が変化してきたんだという時代・文化の流れも感じられ、苦労したと同時にとても有意義な時間となりました。

また、元々の紙面に誤植等の不備が見つかった場合も修正をします。

一番大きかったのは、「チョウセン」というシリーズの16回目と17回目です。

『正チャンの冒険』チョウセン(16) (1924年12月12日 朝日新聞 朝刊)

なんか絵とキャプションがうまく噛み合っていないような・・・

『正チャンの冒険』チョウセン(17) (1924年12月13日 朝日新聞 朝刊)

あれっ・・・!!16回と同じ絵が!?

誤って16回目の絵のところに17回目の絵が掲載されてしまったいたようです!

この16回目〜17回目は、シリーズの最終2話で、クライマックスの部分なのですが、幸いこの2話で起承転結の「結」の部分を描いている構成になっていたため、そこまで大きなネタバレにはなっていないようで、良かったです。

その翌日、メモ欄に編集部からお断りの文章が出されていました(「モナ」に見えますが、当時は横書きでも右から左へと読むので「メモ」です。洋装の青年がほがらかに乾杯していて楽しそうです!)

1924年12月14日 朝日新聞 朝刊

【お断り】過失から冒険第十六回の番を落とした事を赦して頂きます

男気に満ちた、簡潔で潔い文章です。この辺りにも時代の流れが感じられますね。過ぎたことは言ってもしょうがないですからね!

こちらの修正ですが、単行本になった際に正しい絵に変更されているので、こちらを差し替えとして使用しました。ただ、単行本版はカラーなので、それを白黒に直し、全体的なトーンも調整するなどの変更をしています!!

入稿・ゲラ確認・印刷・製本

このようにして、書籍となる全ページの完全データを作成していき、それを印刷会社さんに入稿します。現在は、この完全データを鋭意製作中となります!!

その後、ゲラのチェックを経て、最終版が確定した後、印刷・製本され、皆さんのもとにお届けできる予定です。

もう少しすると、発売日等の詳細や、書影の紹介などができると思いますので、それまで公式X(旧Twitter)で朝・夕の更新を眺めながらお待ちいただけますと幸いです!!!