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『正チャンの冒険』読者投稿欄のご紹介(5)

今回も読者投稿欄に来ていたお便りをご紹介します!

突然ですが、皆さん『親爺教育』(ジョージ・マクナマス作)というマンガをご存知でしょうか??1913年にアメリカで連載が開始された4コママンガで、正チャンの冒険から遅れること約3ヶ月、日本に輸入される形で1923年4月よりアサヒグラフ誌上で連載が開始されました。同年9月のアサヒグラフの休刊に伴い、正チャンの冒険と一緒に朝日新聞に移籍し、長く読者に愛されたマンガです。

読者投稿欄が設置された当初は、掲載場所が正チャンの冒険の直下だったこともあり、正チャンの冒険に対する投稿が大部分だったのですが、1924年3月頃から親爺教育や、主人公のヂグス君への投稿も増えてきました。

朝日新聞 1924年4月3日朝刊

神田駅西口の靴屋の店窓を、ふと見たら立っていたよ!ヂグスと正チャンが!そのブラインドに!通りがかりの人が「やー、ヂグスがいる」と言い合わせた様に大笑いをしてゆく、あれも朝日の愛読者だと私は思った

正チャンだけでなく、ヂグス君もすごく人気があったことが感じ取れますね!というよりこの投稿でも「ヂグスと正チャン」とヂグス君が先に来てますし、通りがかりの人もヂグス君にのみ反応しているので、少しの寂しさとともに強めの嫉妬すら覚えます。

実際、当の本人たちもライバル意識があったのかなかったのかこのような記者さんのお遊びも・・

朝日新聞 1924年3月29日朝刊

正チャン私は大のおてんば娘なのよ、ですから正チャンの様に冒険をやって見たいのです、私にはリスがないから大好きな「チャメ」と言う犬をつれて行くつもりよ、正ちゃんどの方面に行ったらよいでしょうか?何なら一緒に行きませんか

わきで聞いていたヂグス椅子から飛び上がって「オーライ、正チャン俺が行く」と、もう支度をしています(記者)

ヂグス君が案件の横取りをしてきてます。ちょっと文脈がよくわからないので、そのような意図ではなかったかもしれませんが、「オーライ」「俺」という言葉遣いからそんなような雰囲気が感じ取れてしまいました。

同じ新聞連載の4コマと言っても、正チャンの冒険と舶来の親爺教育とでは、当然のことながら作風も異なっていて、ファンの棲み分けもあったようです。

朝日新聞 1924年4月20日朝刊

記者君、僕はヂグス・ファンさ、弟と妹は正チャン・ファン、今三宅坂の桜が真っ盛りだが皆で一緒に花見に来るように言ってくれたまえ

やはりどこかヂグス・ファンの方は洒落ていますね。穿った味方かもしれませんが、「正チャンは子供向け」「ヂグスを読んでる僕はお兄さん」といったようなプライドすら言外に感じ取れます。

気持ちはすごく良くわかりますね!私も周りが奇面組やついでにとんちんかんを読んでいる中、男塾のような字の多いマンガを読んでいることに誇りを感じていました。

両作品の違いに関してはこの様な意見もありました。

朝日新聞 1924年4月9日朝刊

日本の正チャンは義侠心に富んでいるが、アメリカのヂグスはどこか狡猾なところがある、それにしても正チャンはなぜ兵隊につかまったのだ

まぁこの辺りはキャラ設定の問題だと思うので、国民性云々といった話ではないとは思いますが、いずれにしても両作品とも違った持ち味で、幅広い読者の獲得に一役買ったのではないでしょうか。

またこの日の他の投稿では正チャンが死んだというような不穏なワードが飛び交っております。

正チャンが死んだ時リスが泣きながら屍にとりすがり共に天国へつれて行ってと正チャンを慕う様を見た僕は、たまらない気持ちがして、そうしてリスの心に感心しちゃッた

僕は正チャンが牢屋に入れられた時お姫様がきっと助けるのだと思っていたのに、とうとう死んでしまうとは何という情けないことだ、正チャンをあんな目に合わせる作者の気がしれない

これは、3日前の回で正チャンがお芝居をやっており、その演出で死んだことについての投稿となります。本当に死んで最終回を迎えた訳ではありません。

朝日新聞 1924年4月6日朝刊

ちなみにその回が掲載されたのが日曜日で、月曜は正チャンが休載の日なので、芝居と気づいていなかった人たちの中には相当ハラハラして火曜が待ち遠しかった人もいたことでしょう。いわゆるヒキがバッチリでしたね!100年後の現代であれば「正チャン 死亡」などのワードがX(旧Twitter)のトレンド入りをしたと思います。

朝日新聞 1924年4月12日朝刊

正チャン、僕は驚いたよ、でも芝居と思ったから安心した、ほんとに死んだら僕は泣き悲しんだでありましょう

主人公が死んだと思ったら生きていた系マンガの元祖かもしれませんね。今だったら異世界に転生してもよかったかもしれません。

また、月曜日(というか日曜祝日の翌日)に休載になることについては、賛否両論あったようです。

朝日新聞 1924年4月24日朝刊

病気だと、なお、月曜がつまらない。正チャン休まないでくださいな。おもちゃの国は面白い。

また今日は月曜だ、つまらない、正チャンがやって来ないのだもの 記者様お願いですから次の月曜から正チャンを出して下さい

すみませんがよんどころない都合がありますので日曜祭日の翌日はどうぞ正チャンを休ませて下さい(記者)

よんどころない都合というのは、わたしの想像ですが、今でいう労基的な話だと思うので、仕方ないですが、すごく読者の気持ちはわかります。

一方でこのような投稿も。

朝日新聞 1924年4月12日朝刊

僕のお父さんは「月曜の朝だけは新聞がよく読めるがその他の日はどうも満足に読めなくて閉口だ」と言っています、なぜ閉口なのでしょう、当てた方には「ゲンコツ」を一つあげます

あなた方がお父さんの新聞を横取りしないからでしょう・・・アイチッ!(記者)

クイズ形式の楽しい投稿ですね!最初わからなかったのですが、記者さんの回答を見て納得。月曜は正チャンが休載なのですね!どうやらこれが正解のようで、ごほうびのゲンコツもいただいてます!