7幕・ご褒美パフェ
紅子、おばあちゃんと汽車で街の劇場行かんか?
父さんお母さんでも食べさせたことの無いパフェ食べさせちゃるけん。
おばあちゃんにしては気前が良すぎる話に、私は驚いた。
えー、ホントに?
ほんまじゃ。
じゃあ行く!!
子供にとってはこの上ない話に浮かれていた。
夢のパフェを思い描いていた。
当日、バッチリ準備を済ませ、つかの間の汽車旅を楽しんだ
が
街の駅から途方も無い距離を歩かされてしまった。
歩けど歩けど到着しない。
おばあちゃん、バス乗ろうよー。
もう疲れたよ。
紅子、パフェいらんのんか?
わかったよー、歩くよー。
果てしなく遠い劇場は、もはや存在しないんじゃないかとも思い始めた。
到底幼子の歩ける距離ではない。
足もジンジン痺れている。
いつの間にか着いていた。
やっとゴールした達成感は半端なかった。
外観は割烹や高級寿司屋の様な感じで、ノボリも多く、観客は行列を成していた。
大体子供には読めない難解な芸名の役者さんが多い中、一応、英才教育を施す保育園と幼稚園に通っていたので、少し読める漢字の役者さんだった。
化粧にも特徴があった。
あの人がおばあちゃんのお目当てか。
などと思いつつ、席へ座った。
地元の劇場に比べて狭いが、前の方は黄色い声のオンパレードなのは凄かった。
紅子、見てるか?
いやー、見えないね。おばあちゃん見える?
うーん、見えんなあ。
オールスタンディング状態だったので、後ろの席では何も見えない。
まあ目当ては送り出しであろうと踏んでいた。
送り出しとは、役者さんが観客ひとりひとりに感謝を述べて見送りをする。
観客サイドからすると役者さんと記念写真撮影や感想を伝えられるチャンスだ。
大きな黄色い声援と大人の背中で何もかも解らない熱狂ぶりは、田舎の劇場とは違う、グルーブを感じた。
そして送り出しの時間がやってきた。
孫がファンなんです。
良かったら3人で写真を・・・。
その人は快諾してくれ、おばあちゃん持参の使い捨てカメラで3人で写った。
何故か真ん中が私だったので、微妙な気持ちになっている。
表情にも現れていた様で、追加で3枚撮らせて貰えた。
その役者さんはおばあちゃんと握手しようとしたが、不思議にも私と握手させた。
全く知らない街の劇場で出会った役者さんは、しゃがんで優しく目線を合わせてくれ、握手してくれた。
お化粧が独特なので、カッコイイですね。
思わず私は告げてみた。
ありがとう、良かったらまたおばあちゃんと来てね。
そうして頭を撫でられ、送り出しは終わった。
おばあちゃんは満面の笑顔で
紅子、ありがとうなぁ。
小さく浮き足立っているおばあちゃんは可愛い。
そして念願のご褒美パフェに連れて行って貰えた。
テレビでしか見たことの無い、フルーツいっぱいのパフェには花火が付いていて、驚きすぎて泣いてしまった。
紅子、美味しいか?
うんっ、幸せ感じる〜。ありがとうっ!!
今度はまた違うパフェ食べさせてあげるけん、今日みたいにお利口出来るか?
するー!
お父さんお母さんにも内緒に出来るか?
もちろん!
じゃあ決まりじゃな。また近いうちに行こうな。
はーい!
少食で痩せすぎな程の私も、歩き疲れと熱狂の街の劇場に疲れが出たのか、ペロリと食べ終えた。
おばあちゃんと私はニコニコ顔で街を後にした。
まだ幕は降りない。
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