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4幕・小さな踊り子



旅一座達の中で、私は噂になっていった。
地元の劇場に出入りする、芝居も舞踊もこなせる子供がいると。

噂を聞いた一座達からは引っ張りだこで出演していた。

勿論スカウトも何回かあった。
全部断った。

理由は西日本をまわる劇団は、男しか座長になれない。
女は添え物に過ぎないので、お給料もお花もほとんど飛ばない。
それでお断りしていた。

そんな折、おばあちゃんが浴衣を縫ってくれた。
いつも借り物か稽古着の浴衣だったので、本番用のフリルをあしらった、花柄のピンク色の浴衣。
キュロットスカートになっていて、とても可愛い。
お揃いのリボンも作ってくれた。
シュシュも何個か作ってくれている。
孫が踊るのに稽古着では物寂しいと言って、浴衣を縫ってくれ、余り布で作ってくれたシュシュは劇場の子供達と腕に着けて可愛く踊る様にと。

私は嬉しくなり早速劇場に行き、子供達と群舞しようと誘った。
子供達に浴衣を褒められて、有頂天だった。
こういうの浴衣じゃ無いと踊りたくないと、駄々をこねる子もいた。

そして群舞の時間になった。

はい、これ着けて。
はい、はい、はい、はい。
ひとりひとりに腕にシュシュを着けていき、舞台袖でスタンバイしていた。

ところでこれ何?
劇団の子供達はキョトンとしている。

シュシュ。お揃いだよ。
笑顔で答えた。

シュシュ?
状況が飲み込めて無い様だ。

さっ、急ご。

今日の群舞は最高に楽しいものだった。
お揃いのシュシュを着けて、お気に入りの浴衣を観て貰えるなんて最高だ。

キャッチアンドリリースはされるが、レイにお花が飛び交ってきた。

コレだよコレ。
エドワード・ドガの絵画の様に、子供達が可愛く踊っていても、万札と言う現金がいやらしい。
そのギャップがより美しさを際立たせる。

それこそが大衆演劇の極。

幕が降り、いつもの様に帰宅準備を始めて居ると、おばあちゃんが手を引いてきた。

新しい幕が上がる。

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