3幕・スタンドバイミー
ある昼の部の最中、一座の子供達が神妙な面持ちで言った。
私ね、この仕事もう嫌。
転校ばかりで友達も出来ない。
学校に行っても午前中で帰らなきゃ行けないし。
私と弟は座長の子だから、跡継ぎになる。
そんなの絶対嫌。
ねえ、ここは地元でしょ?
家出先教えて。
お願い。
俺も嫌だ。
座長なんてなりたくない。
俺からも頼む。
僕は座員の子だから、一生平でやっていかなきゃ行けないの、嫌。
紅子ちゃん、お願い!!
幼い私にも皆の哀しみと覚悟が深く伝わった。
私も腹をくくって言った。
良いよ。おっきい公園あるから行こ。
山の麓で遊ぶ場所も多く、自販機もトイレもある。
先ずはここだ。
30分くらい歩いた先にあるけどいい?
大丈夫。ついて行く。
広いねー。景色が綺麗だねー。
劇場も見えないや。
幸い劇場は遠く見えず、子供らしくはしゃぐ事も皆新鮮な程だった。
滑り台、アスレチック、ブランコ。
私には当たり前の遊びも、皆には当たり前ではなかった。
お腹がすいたから、駄菓子屋さんに行こうと誘って、幾ばくかの小銭で空腹を満たした。
駄菓子屋さんで子供達だけで過ごす事も新鮮だったらしく、喜んでもらえて嬉しかった。
私は誇らしげに思い、楽しく過ごしていた時だった。
座長の娘が言った。
お父さんに見つかったら怒鳴られるかな・・・。
俺は絶対戻りたくない。
僕も戻りたくない。
私もおばあちゃんに叱られるのは覚悟の上だ。
次はゲーセン行こっ。
ゲーセンで大型筐体の隅に隠れていた。
退屈そうな店員に、何してるの?
と聞かれ、隠れんぼしてる。と言って誤魔化した。
店員は納得しているようで、放ったらかしにしてくれた。
夜の部始まるね。
お父さんにバレたら、どうなるんだろう。
大丈夫、俺が代わりに叱られる。
僕が叱られるよ。
ううん、私が連れて行ったから、私が叱られる。
それから1〜2時間過ぎたあたりだった。
紅子・・・。
おばあちゃんの声だ。
とうとう見つかってしまった。
警官とおばあちゃんと、白粉もろくに落とさず襦袢もはだけたまま汗だくの座長が、3人とも白粉より真っ白な顔でこちらを見ている。
お父さんごめんなさい。
皆を叱らないで。
私が悪いの!!
俺が悪いんだ。叱るなら俺を叱ってくれ!!
僕が叱られるから、皆を叱らないでください!!
お兄ちゃんお姉ちゃんたちは悪くない!!
おばあちゃん、座長さん、私を叱って!!
皆で抱き合って、庇いあって、わんわんと泣いた。
座長さんは絞り出すような声で、
し、叱らないよ・・・
そう言って、緊張と安堵の入り交じった複雑な表情をしていた。
おばあちゃんも
叱らんけん、何があったん?
と優しく聞いてくれた。
警官は退屈そうなゲーセン店員に
こんな小さい子供がどうのこうのと突っかかっていた。
私達はとりあえず楽屋の雑魚寝部屋で泣き疲れた身体を休めた。
夜の部が終わったあと、観念して子供達で一座に迷惑をかけた事を謝り、半日程度の家出について語った。
座長は昼の部もほぼ出ず、夜の部も休み、
おばあちゃんとうんうんと聞いてくれ、実際に叱らずだった。
急に子供達がいなくなったので、誘拐事件だと思われたらしく、警官と座長とおばあちゃんで大捜索になっていた様だ。
当時は今よりもっともっと誘拐事件が全国で起こっていたので、そう思われても仕方なかった。
土地勘の無い一座の子供達と、幼稚園児の幼い子供だったので、最悪殺されているのでは。
と非常に心配していたようだ。
とにかく無事で良かった良かった。
本当に良かった。
そう言い終わると、座長は
今度から平日で紅子ちゃんと一緒なら近所で遊んでおいで。
ちゃんと行ってきます。と言うんだよ。
夕方には帰ってくるんだよ。
笑顔で言ってくれた。
一座の子供達はとても嬉しそうに、ありがとうお父さん。
ありがとうございます座長。
私も、ありがとうございます、座長、おばあちゃん。
お礼をした後、皆で夕飯のおでんを食べた。
泣き腫らしたせいか、しょっぱめの味がした。
こんなに良くしてくれる友達出来たの初めてだよ。
ずっと友達で居てね。思い出してくれる?
私の方こそよろしくね。絶対覚えてるから!
1ヶ月後、また別の劇場に行く為、別れが名残惜しかった。
しかし、絆が深まった私達は寂しくなかった。
また遊ぼうね!!
うん、半年後ね!!
行ってらっしゃい!!
小さな身体を全力で振って、トラックを見送った。
幼き日の大冒険は熱い友情の証になった。
幕はまだ幕は降りない。
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