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12幕・白檀の香り

おばあちゃんのおじいちゃんへの悪態は凄まじい。
この非国民、所詮なまくら刀、などなど。
以前にも書いたが、もはや悪態セラピストだとしか言いようの無い状態。

決まっておじいちゃんは背中を丸めて真鍮のキセルを片手に、扇子で仰ぎながら、黙って囲碁を打っている。

おじいちゃんのよく居る部屋を見渡すと、妙に高価なものが多い。
たまーに使う純銀のキセル、ずっと飾っている大判小判の入った額縁、赤ちゃんの頃の私がちょっと欠けさせてしまった白檀の透かし彫りの扇子、蛤でできた高級な碁石、カヤと言う木でできた高級な碁盤などなど。

私の知っているおじいちゃんが、なぜそんな高価な物を持っているのか。
何度聞いてもはぐらかされる。

「○○さん」と「‪✕‬‪✕‬さん」についても聞いてみたが、無言を通し切っているばかりだ。

仕方がないので、おばあちゃんにお灸をして貰って、もくもく香るもぐさの匂いと温かさにまったりする。
元々はヤンチャをすると、罰を受けるかたちでお灸を据えられたのだが、寒い日などは気持ちいい事に気づいて自らお灸をして貰う様になった。
肩らへんは、シールタイプのお灸を貼って貰っている。
おばあちゃんは罰を受けさせるのを諦め、健康に気を使ってくれる様になった。

小4になった私は、相変わらずの悪態セラピーに、ふと疑問を持つ様になりはじめた。

ねえ、そんなに言うなら離婚はしないの?

紅子、今いくつじゃ?
10歳だよー。
ほうそうか。ほんなら数えで11歳じゃのう。
もう大人みたいなもんじゃけえ、教えちゃるわ。
え?何を?

おじいちゃんはキセルをカンっと鳴らして灰を捨て、おばあちゃんはどこかでガサゴソ音を鳴らしている。

何が始まるのか、予測がつかない。

幕は再び上がった。

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