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航空ファンが考察する「あつまれ どうぶつの森」の航空交通

「あつまれどうぶつの森」に登場するドードーエアラインズや水上機、島の交通を支える飛行場について、航空ファン目線で考察してみようと思います。今作のモデルとなった航空機 Quest Kodiak 100 についても解説します。
(ヘッダ画像: Hunini氏撮影。 Wikimedia Commonsより。)

筆者について

航空ファンの大学院生です。関心のある分野は幅広く、座席の話から航空管制、マーケティングなど航空機や航空業界に関するあれこれが好きです。
近年は交通に関するデータ分析を行うなど、自身の研究領域が交通関係になりつつありますが、この記事はあくまで一航空ファンとしての見解です。

島の交通網

今作は旅行業としても登録しているであろうたぬき開発が手掛ける「無人島移住パッケージ」が舞台となります。
このパッケージに参加したプレイヤーが移住するというストーリーで、ゲーム開始時の無人島への到着シーンではチャーター便として水上機が描かれています。また、その後のゲーム中でも水上機は移動手段として登場します。

水上機というと日本では馴染みが薄い存在で、海上自衛隊のUS-2が時々話題になる程度ですが、民間の水上機は世界各地で現役で活躍しています。
国内でも瀬戸内海を中心に「せとうちSEAPLANES」による遊覧飛行サービスが2016年に開始されています。(画像: 公式サイトより)

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水上機は島の間の距離が長く、船舶では移動するには時間が掛かるものの、滑走路を建設するには場所や需要が不十分であるといった状況で利用される事が多いといえます。たとえば、小規模な島々で国土が構成されるモルディブなどは水上機による移動が盛んです。「あつ森」世界も、モルディブのような交通網が成立しているのではないかと推測されます。
(動画: モルディブの水上機の様子)

ドードー・エアラインズ (DAL)

作中で描かれるドードー・エアラインズはフロート(浮き)を装備した水上機を運用する航空会社です。無人島だった小規模な島に就航していることから、コミューター航空事業を主とする会社といえるでしょう。また、無人島ツアーのようなチャーター便の運航も手掛けているようです。
モルディブのTrans Moldivian Airwaysに似たような立ち位置の航空会社ではないかと推測されます。

水上機以外の機材(たとえば大型機)の存在は明らかになっていませんが、日本航空と日本エアコミューターの関係のように、親会社やグループ会社が大型機の運航を担っている可能性はありそうです。

なお、作中でドードーエアラインズの略称はDALとされていますが、これを航空会社コードとして使用するのは難しそうです。というのも、デルタ航空がこのコードを既に使用しているからです。
ただ、航空会社の略称とコードが一致する必要はありませんし、略称が重複することに問題はありません。
たとえば、天草エアラインは略称をAMXとしていますが、メキシコのアエロメヒコ航空の航空会社コードと重複しているため、コードではAHXを利用しています。

ドードー・エアラインズの使用機材

どうぶつの森の世界観に合わせてデフォルメされていますが、ドードーエアラインズの機材はQuest Kodiak 100(クエスト・コディアック 100)だと思われます。乗員1名で操縦できる小型ターボプロップ機です。2020年現在も製造が続けられている、水上機としては比較的新しいモデルです。
(画像: 任天堂公式動画より)

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Quest Kodiak 100であると判断できる理由はいくつかありますが、
・機体の外見(ドアの位置や主翼・垂直尾翼・テールスキッドの形状など)
・水上機用のフロートをオプションで装備可能
・エンジンのエキゾーストパイプが機体前部(プロペラ付近)に装備されている
などです。
以下の画像(Hunini氏撮影, Alan Wilson氏撮影)をご覧になると、デフォルメされている割には特徴をリアルに掴んでいるのではないかと思われます。

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(上記画像のうち、青い機体(N72KQと書かれているもの)ではフロートではなく、胴体下部に貨物格納用のオプションが搭載されています。)

航続距離は「せとうちSEAPLANES」のサイトによれば、500~1000kmとされています。500kmと1000kmで東京を中心とした地図に同心円を描くと以下のようになります。
(地図はこちらのサイトで作成)

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先述した「せとうちSEAPLANES」もQuest Kodiak 100を機材として採用しています。国内で民間人(一般客)が手軽に搭乗できる水上機は同社しか存在しないため、任天堂の開発陣もせとうちSEAPLANESで取材を行ったのかもしれません。

なお、Quest Kodiak 100のような小型のプロペラ機は「セスナ機」と言われることもありますが、セスナはメーカー(セスナ社)を示す固有名詞なので、正確には「小型プロペラ機」や「軽飛行機」などと呼ぶべきでしょう。

島の飛行場

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島の飛行場には桟橋があるだけで滑走路は存在せず、水上機発着専用となっているようです。(画像: 任天堂公式動画
一般に飛行場は旅客・貨物施設(ターミナル)と運航に関わる施設(滑走路や管制塔等)という2つの側面を持ちます。それぞれ見てみましょう。

飛行場:旅客・貨物施設

島の飛行場のターミナルは、1社のカウンターだけが存在している簡素な作りですが、地方や離島の飛行場としてはかなりリアルに描写されているといえます。以下は2008年頃の波照間空港のカウンターの画像(221.20氏撮影)ですが、あつ森の飛行場と似たような雰囲気があるのではないでしょうか。また、2009年頃に粟国空港を訪れた方のブログ記事でも似たような雰囲気の写真があります。

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ターミナルの左上にはテレビ画面が表示されており、これがフライトインフォメーションボードらしき役割を担っているように思われます。それなりの行数があることから、ある程度は定期便が就航している飛行場であると思われます。

保安検査に関するシーンは描かれていませんが、ターミナル奥の右側に搭乗口への矢印が描かれているので、右側の写らない部分に検査設備があるのかもしれません。(逆に左側は到着口のようですね)。
現実の保安検査場は写真撮影ができないので、画像で説明できず恐縮なのですが、保安検査機(X線スキャナ)が1台しかないような小規模なものが想定されます。

世界へつながる 空の玄関口、○○飛行場」と案内されますが、国際線の就航に必要なCIQ設備が設置されているようには見えません(CIQを担う職員がいません)。あくまで国際線が就航している空港を経由して「世界へつながる」ということなのでしょう。

また、貨物の取り扱いは明示されていませんが、通信販売の「たぬきショッピング」経由で購入した商品が翌日には到着することから、航空貨物輸送が行われているものと推測されます。
水上機に大量の貨物積載はできませんが、島には一度に大量の貨物が輸送されることはないでしょうし、旅客輸送を行っているドードー・エアラインズの便に混載する(あるいは座席に貨物を積載して貨物便とする)扱いで十分とされているのかもしれません。

飛行場:運航に関わる施設

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島の飛行場にはターミナル上部に管制塔らしきものが存在します。ただ、運航頻度を考えると、ここに管制官を常時配置するのはコストが高すぎて現実的ではありません。
こうした飛行場は現実でも数多く存在しており、レディオ空港リモート空港に分類されます。

レディオ空港では、管制官を配置せずに航空管制運航情報官を配置します。航空管制運航情報官は管制(航空機への指示)を行う権限を持たず、航空機に向けて滑走路や駐機場、天候などに関する情報を提供します。これを飛行場対空援助業務といいます。航空機(パイロット)はその情報を聞きながら自分の判断で離着陸するということになります。
リモート空港では、空港に物理的に職員を配置しません。その名の通り、遠隔地(飛行援助センター)から航空管制運航情報官が航空機に対して情報を提供します。これを他飛行場援助業務(Remote Air-Ground Communication: RAG 業務とも)といいます。

航空管制業務や運行情報の送出を担う資格を持った職員らしき動物は描かれていないので、島の飛行場は日本でいうリモート空港に該当すると思われます(カウンターのモーリーはあくまで航空会社の職員であり、旅客業務と並行して業務を担うことはできません。)。
ただ、管制塔らしき建物が存在していることから、かつてはレディオ空港であったものがリモート空港に移行した可能性、あるいは逆に、将来的にレディオ空港へ移行することが想定されている可能性がありそうです。

(画像:福井空港。中部国際空港からのリモート空港だが、管制塔が存在する。Hirorinmasa氏撮影の画像をトリミング。)

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また、前述のとおり滑走路のない水上機専用の飛行場ですが、「水上機は滑走路がなくても離陸できる」とはいえ、いろいろな航空機が好き勝手な方向に離着水していては危険です。安全上の理由から waterway と呼ばれる離陸(離水)用エリア(海上滑走路)が定められています。あつ森の世界でも、島の南方にこうしたエリアが存在していると推測されます。
(画像: アラスカ州にあるAngoon Seaplane Baseの例)

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無人島ツアーの桟橋

プレイヤーが住む島以外にも、あつ森では「無人島ツアー」の無人島へ航空機で移動する機会があります。こうした島には住居や飛行場が確認されず、桟橋のみが設置されています。

航空法第79条では以下のように定められています。

第七十九条 航空機(国土交通省令で定める航空機を除く。)は、陸上にあつては空港等以外の場所において、水上にあつては国土交通省令で定める場所において、離陸し、又は着陸してはならない。ただし、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。

陸上であれば「空港等以外の場所において離陸または着陸してはならない」というホワイトリスト方式であるため、無人島を場外離着陸場として申請する必要があります。しかし、水上であれば「国土交通省令で定める場所では離着陸ができない」というブラックリスト方式なので、法律上問題なく離着水ができるということになります。
桟橋の設置などが法令で義務付けられているわけではありませんが、乗降の利便性のために設置されているのでしょう。

国内でいうところのオノミチフローティングポートや、宍道湖のなかうみスカイポートのような取り扱いがなされているものだと推測されます。両者とも水上機の発着が行われていますが、航空法に基づく空港や場外離着陸場に該当するものではありません。

DAL地上職員のモーリーは何をしているのか?

地上職員(グランドスタッフ)のモーリーは、プレイヤーがカウンターに赴くとフライトの手配をした上で、パイロットのロドリー(事業用操縦士あるいは定期運送用操縦士)に出発の要請を行うことがゲーム中で確認できます。

プレイヤーが「マイルりょこうけん」を使って無人島ツアーをする場合や、通信で他の島に行く場合、モーリーはPCの操作をしたのち、ロドリーに無線で連絡します。

この際にモーリーが実施しているとして考えられることは
・航空券発券・予約処理(グランドスタッフとしての仕事)
・フライトプランの作成(運航管理者としての仕事)
です。

航空券の発券・予約
「マイルりょこうけん」などでのフライトがチャーター便なのか定期便なのかは明示されていませんが、いずれにせよ航空会社の社内システムで予約処理が必要だと考えられます。

フライトプランの作成
航空機を飛ばす場合、自家用機や小型機であったとしてもフライトプランを航空当局に提出する義務があると航空法で義務付けられています。万が一、事故が発生した場合の救難に必要になるからです。登山における「登山計画書」と同じ位置付けですね。

航空会社でこういったフライトプランの作成を行うのは運航管理者(ディスパッチャー)という職員です。国家資格もあり、「陸のキャプテン」と呼ばれるような重大な役割を担う存在です。
大規模な航空会社であれば、本社等に運航管理者が集まる部署があり、そこで一括してフライトプランが作成・管理されています。たとえば、ANAはOCC(Operation Control Center)という部署を置いています。

DALは一見すると小規模な航空会社のようですし、モーリーが直接操縦士に無線(カンパニーラジオ)で連絡を取っていることから、モーリーが運航管理者資格も保持しており、旅客ハンドリングに加えてフライトプランの作成・提出も担当していると推測できます。

作中では

モーリー:
お連れするのは毎回違う島でして、どんな島にたどり着くかは、
お客様の運とパイロット ロドリーの気分次第

というセリフがありますが、モーリーが運航管理者だとするとフライトプランの提出段階で行き先を既に知っていることになりそうです。

余談: 航空ファンたちが「メーデー」に困惑した理由

本作におけるメーデーイベントは当然ながら労働者の日であるメーデーを指しているのですが、航空機の救難信号(SOS)もメーデー(mayday)といいます。フランス語の(venez m'aider, 訳すると come and help me の意)に由来するもので、発音が労働者の日と一致したのは偶然でしょう。

上記の動画ではブリティッシュ・エアウェイズのパイロットが、地上走行中に火災が発生したためにmaydayを宣言していることが確認できます。
同音異義語とはいえ、こういう使い方をされる言葉なので「りょこうけん」と同時に使われたことに「縁起が悪い」と考えた航空ファンも多いのではないでしょうか。「SOSりょこうけん」「緊急事態りょこうけん」などと考えると、確かにちょっと怖いですよね。

また、日本で単にメーデーというと、「メーデー!航空機事故の真実と真相」というナショナルジオグラフィックの番組を指すこともあります。もちろん番組名は「メーデー」が由来です。たぬきちのツアーにも、こちらの番組名の意味で反応された方も多いようですが、いずれにせよ航空機事故を連想させる言葉であるのは間違いないようにと思われます。

追記: 英語版では完全に航空オタク化するロドリー

この記事を書いた後に英語版でプレイして気付いたことがあるので、更に加筆します。

「あつ森」ではSwitchの言語設定を英語に切り替えることで英語版でプレイできます。
日本語版では民間航空パイロットとしてしっかりやっている印象がでしたが、英語版に切り替えると空軍などでの軍事英語を意識した「航空オタク」な表現が確認できます。

以下は到着直後のセリフです。要は「到着したぜ。何か道具が必要だったり帰りたかったりするときは声を掛けてくれよな」と言っているのですが、注目すべきは I'll be in a holding pattern here. という部分です。

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holding pettern(ホールディングパターン)は民間機でも使う用語ですが、旋回待機に入っている様子を示します。
航空機(固定翼機)は他の乗り物と違い、何かあっても上空で停止することができません。泳ぎ続けないと死ぬマグロと一緒です。そのため、空港の混雑や悪天候などで今すぐ着陸できない場合は旋回飛行しながら待機する必要があります。旋回飛行して待機することをholding(ホールディング)といいます。
ただ、どこで旋回しても良いわけではなく、可能な場所が定められています。以下は羽田空港の例です。(画像: AIS Japanより)

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これら定められたものをホールディングパターンと言い、指定された場所で旋回待機することをホールディングパターンに入ると言います。
「あつ森」ではロドリーは着水・到着後にこのセリフを言っているので比喩的なものには過ぎないようです。私も航空ファンの友人と出掛ける際などは「それじゃコンビニでホールドしてるわ」などと冗談を言い合ったりしますが、ロドリーはそれを一般の客に言うあたり、相当癖のある航空オタクなんだと思います。

また、squawk(スコーク)という表現も登場します。辞書的に直訳すれば「用事があったら声を上げろ」となりますが、なかなかsquawkというのは日常では使わない表現です。

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航空においてsquawkとは、無線機(トランスポンダ)の識別番号です。4桁の数字が航空管制官からの指示でセットされます。
(詳細な解説は元航空自衛隊戦闘機パイロットの空飛ぶたぬき氏による「航空よもやま話:スコーク(Squawk)ATCトランポンダーのコード」という記事が参考になると思います。)
Flightradar24などでも表示されているのが確認できると思います。

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また、無人島でタランチュラやサソリに刺された場合のセリフは空軍用語に準拠しています。
「準備が出来たなら戻っていいぞ。敵には気をつけて、後方には十分注意しろよ」という意味になるのですが、bogey(ボギー)とon your sixは航空軍事用語ではかなり頻出です。(エースコンバットをプレイしたことのある方なら既にご存知の用語かもしれません。)

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bogey は「所属が未確認の航空機で、敵の可能性があるもの」を示す軍事用語です。軍用の航空機は敵味方識別装置(IFF)をつけており、それで味方ではないものと判別された航空機などがこれにあたります。敵であるかどうか確認するためにスクランブル発進などが行われます。bogey がこちらへの攻撃の意思を持っているなど、敵であると確認された場合には bandit(バンディット)となり、必要に応じて交戦(engage)が許可されます。
戦闘機ゲームの「エースコンバット7」のトレーラー映像でもbogeyの使用例が確認できます。(42秒ごろ)

また、on your six(6時の方向)は「背後」を示すものですが、空軍(特に戦闘機)では「背後に注意せよ」ということでcheck six!と言うことがあります。ロドリーがあえて「6時方向(six)」という言葉を用いたのはこの辺と関係していそうです。
後方に敵が迫ると撃墜される可能性があるため、戦闘機による交戦においては背後の確認は非常に重要視されます。
戦闘機のキャノピー(窓)は背後まで見ることができるようになっており、以下の画像のように全身を使って背後の様子を確認することになります。

以上、駆け足で「あつ森」を航空ファンの視点から考察してみました。
また何か航空ファン・交通系の視点で考察できるコンテンツがあれば書いてみたいと思います。

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