隻眼の紅蓮丸(無印バージョン)

様々なイベントで子供から年配の方まで多くの方に楽しんでいただいている「隻眼の紅蓮丸」シリーズの記念すべき第一作品目です
マンガの様にスラスラと楽しめる作品です

登場人物
・紅蓮丸
・シュウ
・ヒヤ
・ロロ
・馬堂
・弥勒
・丈(じょう)
・馬堂子(ばどこ)
・薄影のタク
・村人たち
・娘


序章

舞台明るくなると女の悲鳴
女が走りこんでくる
その行く手をガラの悪い男が塞ぐ
女、反対に逃げようとするが、もう一人の男が現れ道を塞ぐ
女逃げ場がなくなり追いつめられる
男たちの頭領らしき男がやってくる

男1      「御嬢さん、いい加減追いかけっこはやめにしませんか。こっちも追い掛け回すのが仕事って訳でもないんでね。大人しく、例のモノ渡してもらえませんか。」
女    「嫌よ。誰があんた達なんかに。」
男1        「困りましたね、そう言われてはこちらとしても手荒な真似をしなくてはいけなくなる。出来れば穏便に事を済ませたかったんですが・・・おい、お前ら。」
男2・3 「へい。」
男1   「女だからって遠慮はいらねえ。アレを手に入れるためには手段は選ぶな。」
男2・3 「へい。」
女    「これは絶対に渡すもんか。畜生。畜生!」
男1   「やっちまえ。」

男たちが女に襲いかかろうとした瞬間、男3が肩を押さえて悲鳴を上げる
男3の方には風車が刺さっている

男3   「なんだ、これは。風車?誰だ、誰かいるのか。」

   そこへゆっくりと姿を現した男、紅蓮丸

紅蓮丸  「か弱き女性に男が3人がかりとは。男として恥ずかしくないのか。」
男2   「何だてめえは。痛い目に遭いたくなければ引っ込んでろ。」
紅蓮丸  「そういう訳にもいかなくなった。」
男3   「何だと。」
男1   「お兄さん、この娘とは知り合いかい?それとも俺たちに何か恨みでも?」
紅蓮丸  「いや、今初めて会ったし、あんたたちに恨みも無い。ただ。」
男1   「ただ?」
紅蓮丸  「この状況で見て見ぬふりをする訳にもいかないだろ。」
男2   「かっこいいこと言うじゃねえか。」
紅蓮丸  「やっぱそう思う?」
男2   「は?」
女    「あの・・・。」
紅蓮丸  「事情は後で聞くことにして、今はこの場を切り抜けたい、そうだろう。」
女    「はい。でも、何で?」
紅蓮丸  「今はそれが一番かっこいいからだ。」
女    「え?」
紅蓮丸  「悪党ども。お前たちは今こう考えている。何だコイツは、目障りな奴だ。」
男たち  「うんうん。」
紅蓮丸  「でもこの状況でこんな態度を取るなんて、こいつ実は凄腕の持ち主なんじゃないだろうか。」
男たち  「た、確かに。」
紅蓮丸  「それにあの眼帯に刀が二振り。絶対にただモノじゃないぞ」
男たち  「何故そこまで。」
紅蓮丸  「貴様たち悪党の考えそうなことなどお見通しだ。もう貴様たちに勝ち目はない。大人しく諦めて立ち去るがいい。」
男1   「おのれ、てめえ何者だ。」
紅蓮丸  「お前たちのような悪党に名乗るなんて持ってはいないが、そんなに知りたきゃ教えてやろう。この荒んだ時代を嵐のように駆け抜けて、誰よりも熱く燃えたぎり、何よりも強い信念を突き通す。隻眼なれど、太刀は二振り、名を紅蓮丸。人呼んで隻眼の紅蓮丸。七代先まで覚えておきな。」
男1   「紅蓮丸だと。」
男2   「なんて、かっこいいんだ。」
男3   「ちくしょー、俺もあんな風に生まれたかった。」
紅蓮丸  「さぁ、降参するなら今のうちだ。恐れぬのならかかってくるがいい。」
男2   「どうします、頭。」
男1   「馬鹿野郎、こっちだって手ぶらで帰れるか。やっちまえ。」
男3   「でも。」
紅蓮丸  「本当にやると言うのか?後悔しないな。」
男2   「頭。」
男1   「うるせえ。いいからお前らやっちまえ。」
紅蓮丸  「いや、やめといた方がいい、んじゃないかなぁ。だって、あ!ほら、俺強そうだし、いや、強いし。怪我、とかしちゃうよ?」
男1   「怪我が怖くて悪党がやれるかってんだ。おい、お前。」
男3   「へい。えぇい、こうなりゃヤケだ。くらえ。」
紅蓮丸  「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った・・・」

   男3、紅蓮丸に殴りかかる
   紅蓮丸、何故か直撃、その場で倒れる   

男たち  「え?」
娘    「え?」
男2   「何だこいつ?本当は凄く弱いんじゃないのか?」

   しかし紅蓮丸起き上がる

紅蓮丸  「ふっふっふ、今のは油断しただけだ。次は本気でいくぞ。」
男3   「何だ、そうだったのか。良かった。」
男1   「何で安心してるんだ。いいからやっちまえ。」
男2   「お、おう。」

   今度は男2が殴りかかる
   紅蓮丸再び直撃、倒れる

男たち  「・・・。」
娘    「ちょっと、あんた。何なのよ、かっこつけて出てきたんだから何とかしなさいよ。ねえ、聞いてるの。ねえったら。」

   娘の台詞の最中でゆっくりと暗転
   OP曲が流れる

S1

   曲がゆっくりとフェードアウトすると同時に声が聞こえる
   

声    「ねえ…ねえ…大丈夫…?」

   舞台徐々に明るくなる
   そこは声の主、ヒヤの自宅である
   そこに紅蓮丸が寝ている

ヒヤ   「あの、大丈夫ですか?起きれますか?」
紅蓮丸  「う、う~ん…。」
ヒヤ   「聞こえますか?起きれますか?」
紅蓮丸  「(飛び起きる、そして辺りをひとしきり見て)悪党どもはどこにいった?追われていた娘は。君は誰だ。」
ヒヤ   「あ、私は怪しい者じゃ無くて、その森で倒れていたあなたをここに連れてきて、それで…。」
紅蓮丸  「え。」
ヒヤ   「つまり私が森に山菜を取りに行ったらあなたが森の中で倒れていて。」
紅蓮丸  「森で倒れてた?誰が。」
ヒヤ   「あなたが。」
紅蓮丸  「悪党どもは。」
ヒヤ   「え?」
紅蓮丸  「娘は。」
ヒヤ   「見ていませんけど。」
紅蓮丸  「そうか、夢か。」
ヒヤ   「夢?」

   そう、先ほどの場面は紅蓮丸の夢だったのである

紅蓮丸  「いや、気にしないでくれ。そうか、君が助けてくれたのか、礼が遅くなった。かたじけない。俺は紅蓮丸と言う旅の者だ。」
ヒヤ   「いえ、いくらなんでも森で倒れている人を放っておけませんから。それにしても変わった名前ですね。」
紅蓮丸  「かっこいいだろ。」
ヒヤ   「でも、この刀の後ろに書いてある「又吉」と言うのは。」
紅蓮丸  「それは本当の名前…じゃない。又吉は、又吉は…親友なんだ。」
ヒヤ   「親友。」
紅蓮丸  「そう、親友。俺の唯一のね。良い奴だったなぁ、又吉。」
ヒヤ   「親友の刀、ってことはもしかして形見。」
紅蓮丸  「…うん、死んだ。死んじゃったんだよ、又吉。良い奴だったんだけどなぁ。」
ヒヤ   「そうだったんですね。変な事聞いちゃってごめんなさい。」
紅蓮丸  「何かこっちこそごめんね。」
ヒヤ   「ところで、どうして森で倒れていたんですか。」
紅蓮丸  「ああ、実は道が分からなくなって迷子に…。」
ヒヤ   「まさか迷子になんてなる訳ないだろうし。」
紅蓮丸  「だよねえ。」
ヒヤ   「もしかして、悪い人達を追って来たんですか?」
紅蓮丸  「え?」
ヒヤ   「さっき言ってた悪党を追ってたんですね。女の人に頼まれて悪い人たちを退治しようとしたら、森に逃げられた。それを追って森に入ったはいいけど、卑怯な悪者たちは後ろから紅蓮丸さんを襲って気絶させた。」
紅蓮丸  「すごい想像力だな。」
ヒヤ   「どうですか、当たってますか。」
紅蓮丸  「八割方当たってる。」
ヒヤ   「やっぱり。そうじゃないかと思ったんです、そんな眼帯を付けてる位だからきっと強い人なんだろうなって。」
紅蓮丸  「あえて否定はしないけどね。」
ヒヤ   「その眼は生まれつきなんですか?違う、きっと戦いの中で失ったんですね。例えば、そう親友の又吉さんの命を奪った男。又吉さんの命だけでなく、紅蓮丸さんの片目も奪った。そして男は言った「片目になった貴様に用はない」。その男を追いかけて旅をしてるんですね。」
紅蓮丸  「ちょっと話変えてもいいかな?」
ヒヤ   「あ、ごめんなさい。私ばっかり喋っちゃって。」
紅蓮丸  「いや。ところでここは?見たところ君の家の様だが。」
ヒヤ   「はい。そういえば自己紹介もしていませんでしたね。私はヒヤと言います。ここはムスリ村にある私の家です。」
紅蓮丸  「ムスリ村。初めて聞くな。」
ヒヤ   「ええ、とても小さな村ですから。」
紅蓮丸  「ご両親は?」
ヒヤ   「いません。父は戦の為に駆り出され、母は流行り病で随分前に。」
紅蓮丸  「それは、悪いことを聞いたな。」
ヒヤ   「大丈夫です。村のみんながいるし。」
紅蓮丸  「そうか。」
ヒヤ   「それより…。」

   ヒヤが話そうとした時、一人の老人ロロが走りこんでくる

ロロ   「ヒヤ、すまんが急いで来てくれんか。」
ヒヤ   「ロロ婆さん、どうしたの。」
ロロ   「またあいつじゃ。あのいたずら小僧が。」
ヒヤ   「すぐに行きます。(紅蓮丸に)ごめんなさい、ちょっと用があって。すぐに戻るので。」
紅蓮丸  「え、あ、ちょっと…。」

   ヒヤがロロと去る
   一人残される紅蓮丸

紅蓮丸  「何なんだ。」

   暗転

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