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世界の善は歴史に残らないような行動によって支えられている - A HIDDEN LIFE - テレンス・マリック


あまりに美しいテレンス・マリックのA Hidden Life。

テレンス・マリックはハイデガー哲学を学び、哲学者にならずに映画監督となった。

周りの世界が流れる方向に流れる中で、ノー。と言い続けた名もなき一人の農夫と家族の実話を元にした映画。

”過ちだと信じていることをすることはできません”

DPはJoerg Widmer。カメラはRed HeliumとDragon 。12mmの超広角レンズ、パンフォーカスでほぼ全てのショットが撮られている。観客は監督が見せたいものではなく、見たいものを見る。

ほぼ全て自然光のみで撮られている。マリックは自然に撮影する。良い光になるまで何日でも待つ。

役者は役を演じるのではなくそこに居る。本当に農作業をし、その時代のその人物として自然に振る舞うまで待つ。カメラの前で起こることを撮影するのだ。

マリックは俳優にスクリプトではなく、ハイデガーの一説を渡し、どう思うかと聞く。良いカットも悪いカットもない。指導なく何十分もカメラも回し俳優は途方にくれて座り込む。自分を見失うという過程をマリックは待つ。

フランツを演じたアウグスト・ディールは撮影がすすむに連れてどんどん黙するようになったという。

映画の中のオーストリアの美しい風景の中の家族が住む小屋は本当にフランツ・イェーガーシュテッターが暮らしていた小屋だ。牢屋や裁判所も実際にそこで使われたもの。実際にそこで暮らし、閉じ込められ、暴力をうけ、死刑を宣告された場所だ。俳優はそこに連れ出される。

映画ができるまで、編集には2年半かかった。

ジャンプカットのような編集が何度も繰り返される。広角で超クロースアップを撮影する。顔の歪みを避けようとしない。

見終わると自分が生きている時代と、自身の生き方を厳しく問われる。何度でもみたい映画だ。


”鍛冶屋の教えですハンマーで叩いても
金床はそのまま
打ち返しません
そしてハンマーより長くもつ
鋼の鍛錬にはハンマー以外に
金床も必要なのです”

”もし我々の指導者が善なるものでなく 
悪しきものなら
どうすべきでしょう?
命は大事ですが、自分を裏切るのはいやです”

”手は縛られているけれど意思が縛られてるよりいい”

”命への執着を捨てると新たな光が差し込む”

真実とは
消して消えない光


それでも6月は始まる
最も美しい月だ
自然は人々の悲しみに気づいていない


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