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国の重要文化財の八頭町への無償譲渡問題について話を聞いて考えてみた。

私の住む八頭町には国の重要文化財に指定されている矢部家住宅があります。今まで積極的に公開されていなかった経緯もあり、どのような価値があるのかは今回の件があるまでよく知りませんでした。

いきなり地方紙の一面に無償譲渡の話が

先日(2022年8月6日)いきなり地方紙の一面にこの重要文化財の所有者が町への無償譲渡の意向を示しているという記事が載りました。

リンク先の記事の無料部分には書かれていませんが、実際の紙面上には矢部家住宅が八頭町に寄贈された場合について以下のようなことが書かれていました。

  1. 2024年完了予定の大規模改修の費用の町負担が倍以上に増える

  2. 同様に定期的な維持管理費の町の負担が増える

  3. 観光活用のためには橋や駐車場などインフラの整備に多額の費用がかかる

3については、その集落に行くには八東川にかかる重量制限のある橋を通る必要があり、集落内道路も狭く駐車場も無いため、活用のためのインフラ整備にはかなりの費用が必要と書かれていました。

議会だよりにも譲渡についての質問が

新聞の記事はいきなりのように感じましたが、実は2022年8月の初めに配布された八頭町議会だより70号には矢部議員(この矢部家とは無関係)によるこの矢部家住宅の活用や寄贈についての一般質問が載っていました。

その中に「寄贈されるという話があれば所有するか?」という一般質問がありました。町長は「そうした話があれば一緒になって考える」と回答されていました。

私はこの新聞記事と議会だよりの記載を見て、この重要文化財の譲渡は既定路線になっているのではないかと思ってしまいました。

この記事を受けてFacebookに投稿

以前、八頭町ではある資産家から町に譲渡されたミニSLを展示する博物館を作るという話が出てきたことがありました。その時には現町長が「赤字の見込みだけどやる」と言って、1億以上かけてミニSL博物館を作りました。その博物館は予定通り赤字が続いています。

ミニSL博物館の5年間収支(以下の※の根拠から推測した数値)
入館料などの収入 合計800万円 ※HP記載の入館者数と体験者数から
町予算支出   合計2,800万円以上 ※広報やず別冊八頭町の予算概要から

八頭町HPほか

このような前例がある中で再度寄贈されたもので将来の負担が増えることはあってはならないと考えて、Facebookに「いただきもののランニングコストで八頭町の財政悪化は避けて欲しいものです。」という投稿をしました。

たくさんの方のコメントをいただき、関心の高さを感じました。

投稿を見たFacebook友達からの連絡

Facebookに上記の投稿をした次の日に町内のFacebook友達から連絡がありました。「今回の件について矢部議員と話をしてみませんか」という内容でした。

私も限られた情報から推測を含んだ投稿をしていたため、直接本人と話をした方がいいと思って会わせてもらうことにしました。

翌々日に矢部議員とお会いしました。顔は合わせたことはありますが、お話ししたのは初めてでした。一回り以上年下の若手の議員さんです。

まずは町議会議員としての活動についていろいろと聞きたいことなどを聞いてから、今回の件について話を伺いました。いろいろな資料を元に話をしていただき、今回の重要文化財の譲渡の問題についてより深く知ることができました。以下に聞いたことについて書ける範囲で書かせていただきます。

矢部家住宅の重要文化財としての価値

まずはよく知らなかった重要文化財としての価値について教えてもらいました。

矢部家住宅は17世紀初頭に建てられた鳥取県内では最古の民家とのことでした。

矢部家は若桜町の鬼ヶ城とも関係があるという情報のはネット上でも見ることができます。

矢部家住宅は現在は公開はしていませんが、活用について話を始めていたところで今回のいきなりの新聞報道には驚いていると言われていました。

いくつかの誤解

私のFacebookの投稿にはいくつかの誤解があることがわかりました。

Facebookの投稿には「関係者と思われる議員」と書いてしまっていましたが、矢部家住宅と矢部議員は同じ矢部という姓でも無関係ということでした。以前人から聞いた話が間違っていたのか完全に私の誤解でした。すぐにFacebookの投稿には訂正とお詫びを追記しました。他にも誤解を与えそうな記載があったので訂正とお詫びを追記しておきました。

国の重要文化財の管理の難しさ

重要文化財管理の費用については、国と県と市町村と所有者が決められた一定の割合で負担することになっているそです。その比率は新聞の紙面には以下のように書かれていました。譲渡により町の負担割合がかなり上がるのは痛いところです。今回の大規模補修については総工費8,945万円ですので、町の負担額は約900万円から約2,000万円に上がることになります。

矢部家住宅の改修費用負担割合
現状  国60% 県20% 町10% 所有者10%
譲渡後 国65% 県12% 町23% 所有者−

日本海新聞の紙面より

さらに10年程度に一度、茅葺き屋根の葺き替えが必要になるとありました。検索してみるとその費用は500万円〜2,000万円程度と書かれていました。

この費用も譲渡されるかどうかで町の負担もかなり変わってきます。

国の重要文化財は歴史文化的に価値のあるものなので、税金を使って維持管理していくのは当たり前という考え方もあるようですが、町民の理解を得ることなく進めることは難しいと考えています。

重要文化財は解除できない

一番驚いたのは国の重要文化財は解除ができないということでした。

文化財保護法には以下のように書かれています。

第二十九条 国宝又は重要文化財が国宝又は重要文化財としての価値を失つた場合その他特殊の事由があるときは、文部科学大臣は、国宝又は重要文化財の指定を解除することができる。

文化財保護法より

「解除できる」とは書かれていますが、「重要文化財としての価値を失つた場合その他特殊の事由があるとき」と言う条件ですので、事実上解除できるのは火事や災害などで全焼や全壊となってしまった場合に限られるのでしょうね。特殊な理由にお金の事情が含まれているとも思えません。

そうなると所有者は通常の家のように古くなったから壊すことができず、維持費の負担から逃げることができなくなるため、手放したいと思う気持ちもわからないでもありません。

重要文化財の譲渡について

新聞には重要文化財の建造物を自治体に無償譲渡した例はないと書かれていました。

矢部議員からは県内の重要文化財となっている住宅の状況についても教えていただきました。地方自治体に譲渡している例はありませんでしたが、財団を作って県や広域の自治体で管理していたり、保存会のような団体で管理していたりするようです。

地方自治体が重要文化財の譲渡を受けた場合、自治体の負担割合が増える上に同様に維持費の負担から逃げることができなくなります。そのため、積極的に取得したい自治体はないと思います。取得するにしても住民への十分な説明が必要だと思います。

重要文化財の活用について

重要文化財の活用については以前は明文化されていませんでしたが、平成30年の文化財保護法の改正によって保存だけではなく活用について明記されたそうです。
しっかり活用してお金を生み出さないとこの人口減少社会の中では維持管理していくのは難しいからでしょうか。

活用方法としては一般公開して入館料をいただくというのが一般的ですが、その場合はひとり数百円程度いただいても維持管理費に充てられるほどの収入は見込めません。一方で宿泊や飲食などで高単価のサービスを提供することも考えられますが、そのようなサービスに経験とノウハウが必要になってきます。

国の重要文化財の活用は単独の町にはとても荷が重いと感じました。

話を聞いてみて

今回矢部議員から話を聞くことで正しい情報を知ることができてよかったです。私が誤解していたことがわかりましたし、懸念していたことも無さそうでした。

国の重要文化財の保存が所有者にも自治体にも大きな負担となっていることがわかりました。所有者が負担できなくなった時にどのように保存していくのかは難しい問題です。

いずれにしても国の重要文化財は解除できませんので、所有者が誰になっても継続的に維持管理費は必要になってきます。こうなると、少しでも町の負担をできる限り減らすために、お金を生み出すことができる活用方法を真剣に考えるしかないです。

矢部議員からは活用を検討する動きがあることを聞きましたので、ひとまずその動きを見守ろうと思います。私にできることがあれば協力はしたいと思います。

また続報があれば書かせてもらいます。

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