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サキミの事例インタビュー⑧『自分という素材を活かす』

サキミの事例インタビューは、今回が最終回となります。
最終回は、マネジメントコンサルテーションというより、管理職ご自身が自分の在り方・マネジメントについてご相談くださった事例をご紹介します。 サキミが管理職支援の重要性と拡がりを実感したこの相談は、ビジョン・クラフティング研究所で提供しているビジョン・クラフティング面談にも通じています。
※実体験をもとにした架空事例です。

人事紹介3月

私がやらなくちゃ!

サキミ:
I社の管理職Dさんは、社運をかけたプロジェクトを担っている部の部長です。成果を発表する展示会があと一ヶ月に迫ったある日、ご相談にいらっしゃいました。

Dさん:
あのときは、「これから、すぐに相談に行きたい」と電話をして、EAPには無理を言いました。最も大事な時に、人事から「リフレッシュ休暇を取得していないから、今月中にとれ」と言われて、憤慨していたんです。

サキミ:
それはそうですよ、大事な展示会まで一日一日が大事な時間ですから。
よりによって、この時期に…という感じでしたよね。

Dさん:
本当にそうでした。「なぜ、このタイミングで!」と。人事はうちの部を潰しにかかっているのかと思ったくらいでした。

サキミ:
まだまだ詰められていなくて、ご心配なことがたくさんあったんですよね。

Dさん:
心配しかなかったです(笑)なかでも、特に、自分のすぐ下で陣頭指揮をとっている課長が頼りなくて。抜けが多い多い…。

サキミ:
社運をかけたプロジェクトですから、なおさら細部にわたって気を張り巡らせて、それは大変だったと思います。
こうした責任のかかる仕事を数多く手がけてきたDさんからご覧になると、「課長が頼りない…」というのも、そうでしたね。

Dさん:
そう、「そうでした」です。今は、そう思っていませんが、あの当時は気が気じゃなくて。あれも終わっていない、これも終わっていない、で、結局私がフォローしている状況で、とても休めるわけないと思っていたんです。
土日も休みたくないくらいなのに、一週間も休めませんよ。

サキミ:
これまでの職業人生も、ずっとそんな感じで、仕事に全力投球だったんでしたよね。丸一日休むという感覚も薄れていたのでないでしょうか。

Dさん:
そうなんです。若いころから、土日に休むのが惜しくて、今と違っていろいろ緩かったから実際に自主的に働いていました。産休も最低限しかとらなかったし。細かいところまで気になってしまうんですよね、で、気になりだすと、あちこち数珠つなぎに。だから、課長がさまざまなことを曖昧なまま進めるやり方が信じられなくて。

サキミ:
そうですよね…。Dさんは、さらっとお話しなさっていましたが、長年トップスピードを維持して仕事をなさってきたこと、こうしたご経験の積み重ねにより今のDさんがあることに重みを感じました。
あのときも、ご自身のお力がいつも通りに発揮されて…。結局、陣頭指揮をとっているのはDさんでしたよね?!

Dさん:
それ、面談の時にも確認されました。「今、実際に陣頭指揮をとっているのは、どなたなんでしょうか?」って。
「まあ、私ですよね」と即答していました。

サキミ:
それで、「実際はDさんがまわしていますが、陣頭指揮を課長にお任せしたときは、どのようにお考えだったんですか」と尋ねました。

Dさん:
そこで、ハッとしました。その課長は自分の後任・次期部長として、もう一段マネジメント力を高めてもらいたいと思ったからです。それなのに、自分が手を出していたら、成長の機会を奪っていることになっていると、そこで、ようやく気づいたんです。


ちょっと間をとってみる

サキミ:
そこから、ご家庭のお話にもなりましたね。

Dさん:
子どもたちに「お母さんは手も口も出さないで!!」って言われることですね(笑)相手が子どもでも、つい「こうした方がよい」「こうやった方がうまくいく」って、工作とか私がやっちゃって。思春期のお姉ちゃんは、何か言われたくないからって、あんまり話をしてくれなくなっちゃった。家のことは私の母がやってくれているので本当に有難いけれど、私の居場所がない。それも、リフレッシュ休暇を取りたくない理由の一つでした。結構大きな…。

サキミ:
その話をなさるとき、Dさんのお姿が小さくなっていました(笑)

Dさん:
その辺りでは、人事への怒りも消えていました。ちょっと間を置いた方がいいかもと思い始めて。

サキミ:
Dさんが、何か変えてみようとなさる雰囲気が感じられました。それで、仕事以外に何をするかを話し合いましたよね。

Dさん:
はい。仕事以外のことをと…思ってみたものの、長年考えていなかったから、何にも出てこなくて。でも、サキミさんが学生時代までさかのぼって訊いてくれたら、洋楽が好きで「レコード」にこだわっていたことを思い出して。引っ越しの度に捨てられず、レコードを詰め込んだ段ボールがいくつかあることに思い当たり、引っ張り出してみようかと。

サキミ:
ちょうど金曜だったので、「ご帰宅なさったら、すぐやってみたら」とお勧めしました。

Dさん:
すぐやってみたのがよかったです。めちゃくちゃ懐かしかったし、仕事から少し距離がとれたんですよね。珍しく、娘の方から「何やってるの?」と話しかけてくれたし。

サキミ:
それで、思い切って、翌週からリフレッシュ休暇をとったんですよね!
さすがの実行力です。

Dさん:
はい。年休もつけて、思い切ってニ週間!


我を通すかわりに…

サキミ:
いかがでしたか?

Dさん:
本当によかったと思っています。最初は、会社から連絡がくるかなと、どこかで期待?していたんですが、課長が頑張って止めていたようで、全然連絡がなく(笑)、社会人になって一番仕事を忘れた時間でした。レコードを整理していたら、好きな音楽を聴きながら、ジョギングというかマラソンをやってみたかったことも思い出して、走りに行ってみました。そうすると、あんなにせわしなかった頭の中が嘘のように、すっきり爽快でした。それに、家族とも自然に何気ない話ができていることに、自分でも驚きでした。

サキミ:
そのときも、でしたが、この話をするときのDさん、嬉しそうです。
なかなか、こうもがガラリと行動を変えてみることは難しいですが、別の世界が見えましたね。

Dさん:
いや、本当に。仕事以外で楽しいと感じたのが久しぶりで。それでも、休みが終わる二日前くらいから、現実に引き戻されるというか、展示会の準備がどうなっているか心配になってきて…。

サキミ:
実際は、いかがでしたか?

Dさん:
もちろん、大丈夫でした。自分が思うものと違うこともたくさんあったんですけれど、目に見えて形になっていました。休む前だったら、自分の思いと違ったら修正させていたと思うんですが、不思議と「こういうやり方もあるか」と思えて。まあ、自分の方がもっとよいものにできるという思いは変わりませんが(笑)
何より嬉しかったのは、課長が「Dさんの期待するところには達していないとは思うんですけれど、Dさんがおっしゃっていたマインドの部分を大事に、自分なりにやってみたんです。どうですか?」って、目をキラキラさせて言うわけですよ。「よくやった」という言葉をもらえることを疑っていない目で。

サキミ:
どうおっしゃったんですか?

Dさん:
「期待以上だよ」と。「気持ちが伝わってくるよ」って、言いました。本当にそう思ったからです。技術面ではまだ伸びしろがあるけれど、思いをちゃんと共有してくれていたんだって、今まで感じたことがなかったから感動しちゃって。あ、でも、「緻密さでは、私も負けないぞ」と言ってやりました。

サキミ:
Dさん、面接でもその話のときにちょっと泣いていました。

Dさん:
まあ、うれし泣きです。部下の成長をこんなに自然に嬉しいと思える自分にも驚きました。私の様子に、課長もすごく嬉しそうで、部内がすごくよい雰囲気になりました。皆、準備でボロボロに疲れていたのに。おかげで、展示会は大成功と言えるものになりました。

サキミ:
あのとき、ぐっと堪え一旦間を置いて、よかったですね。

Dさん:
はい。本当に…。
それに、展示会の後も、課長だけでなく、皆が「こうしたい」「こうしてみていいか」と自分の意見を言い合うようになりました。もちろん、私にも言ってきます。活気が出ましたね。
これまでは、私一人の独壇場で、我流を通す感じだったのかなと。今は、皆それぞれが「自分の考えを活かそう」としている感じになっているように思います。

サキミ:
皆さんそれぞれが自分を活かす…素敵です。
部内の変化を感じて、Dさんご自身の変化はいかがですか?

Dさん:
心配する時間が格段に減りました。何かあっても、たいていのことなら何とかなるだろうって。だから、隙あらば、休んで走りに行きたい(笑)タイムを意識し始めたら楽しくて。健康的な楽しみができました。
50を過ぎたあたりから、役職定年、定年と、仕事が今のようにできなくなったら、自分はどうなるんだろうと、漠然と不安だったんです。でも、今は仕事以外にも楽しみを見つけたことで、そこを起点にいろいろできそうだなと、ワクワクする気持ちが出てきました。

サキミ:
まだまだこれからですね。

Dさん:
そうです。仕事もまだまだ、部下たちと一緒に成長していきますし、プライベートも楽しみます。健康にも気をつけるようになって、最近は下の息子と毎朝散歩をするようになりました。
そうそう、今回あらためて自覚したお節介おばさんは返上しません。求められる場面では、ジャンジャン出していきます。皆に負けずに、私も自分を活かさないと!私がお節介を自覚したことで、やりすぎのときには皆もツッコミやすくなったみたいです(笑)

サキミ:
そうですね。求められているときは、お節介ではなく、Dさんの緻密性と実現力の高さという長所が発揮されるということですから、是非!


年を重ねていく中で、それまでの経験、特に成功体験が積み重なっていくにつれて、自分の特徴も強化されていきます。しかも、そのことが当たり前となっていて、実際に周りに与える影響も気づきにくくなることがあるかもしれません。当たり前を「ないもの」とするのではなく、「積み重ねてきたもの」とプラスに捉え、その使い方を意識する、こうしたことで、より長所が活かされると思います。
サキミたちは、人それぞれの「当たり前」になって意識されない長所や経験の積み重ねという「素材」を意識化し、それぞれが思い描く未来のために、意識化した「素材」の力も発揮できるようにお手伝いしていきます。

事例インタビューは一旦終了しますが、
これからも、よろしくお願い申し上げます。


■サキミのプロフィール
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント
臨床心理士・公認心理師・1級キャリコンサルティング技能士


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