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Radiomics超入門:モルフォロジカル特徴#概要

IBSIリファレンスマニュアルでは、2023 年 8 月時点で、29 種類のモルフォロジカル特徴を定義しています。以降の解説から、これらの特徴を1つずつ解説していきますが、その前に、本解説では、これらの特徴を計算するための前提として大切になる知識について紹介します。

モルフォロジカル特徴(形態学的特徴)は、関心領域(ROI)を対象として、その幾何学的な特徴を定量的に表します。代表的なものは面積や体積などです。

ボクセル表現

面積や体積を計算する上で、欠かせないのがボクセル表現です。当然のことながら、モルフォロジカル特徴は、ROIのボクセル表現の影響を受けます。

ここで、代表的な 3 つのボクセル表現を使った体積の計算方法を紹介します。

  1. 体積が決まっているボクセルの集まりから体積を表現する(i.e., ボクセルの個数で計算する)。

  2. ボクセル中心の座標からなるボクセル点集合$${X_c}$$で体積を表現する。(i.e., ワールド座標を使って体積を計算する)

  3. サーフェスメッシュで体積を表現する。

IBSIでは、1 つ目の表現は、ROI エッジ部分の部分容積効果をうまく除外できないため、体積の概算を算出する目的以外では使用しないことが推奨されています。
2 番目と 3 番目は、体積の内部構造が重要な場合は 2 番目の表現を、外側の表面構造が重要な場合は 3 番目の表現を使用することが推奨されています。
ただし、この後者 2 種類の表現をオブジェクトごとに使い分けた場合、ボクセル表現の統一ができずに比較が難しくなってしまいますから、これを避けるために、アルゴリズムの統一をする配慮が求められます。

このうち、メッシュベースのボクセル表現は、研究に広く利用されるようになってきました。ここで、メッシュベースのボクセル表現について確認していきたいと思います。

メッシュベースのボクセル表現

ボクセルベースの表現では部分容積効果によって表面積や体積の過大評価を引き起こしますが、ボリュームの外表面をメッシュで表現することで、ボクセルのサイズに依存しない表面積と体積の一貫した評価が可能になります。

ROIボリューム(3次元なROIボリューム)の表面は、メッシング・アルゴリズムを用いてメッシュに変換されます。このとき、三角形メッシュ(トライアングル・メッシュ)が一般的に用いられます。メッシング・アルゴリズムは複数存在しますが、IBSIでは、広く利用されているマーチング・キューブ(Marching Cubes)アルゴリズム [Lorensen1987][Lewiner2003] の使用を推奨しています。その理由は、異なるプログラミング言語で広く利用可能であり、表面積と体積の合理的な近似が可能であるためです[Stelldinger2007]。

メッシュベースで計算されたモルフォロジカル特徴は、メッシュ生成アルゴリズムの影響を受けます。メッシュの計算の実装方法の違いによって、わずかな差異が生じることがあります[Limkin2019]。

図1 ROIを覆うように面と頂点を描くメッシングアルゴリズム:三角形メッシュ
(頂点 a, b, cからなる 1 つの三角形メッシュ。頂点は 3 つの辺(ベクトル)$${\overrightarrow{ab}}$$、$${\overrightarrow{bc}}$$、$${\overrightarrow{ca}}$$を定義する。面の法線$${n}$$は、反時計回りルールに基づいて決定され(まるで、電流の流れる向きをベクトルの探索方向とした右ねじの法則のように)、$${n=(\overrightarrow{ab}×\overrightarrow{bc})/||\overrightarrow{ab}・\overrightarrow{bc}||}$$として計算される。すなわち、辺 ab と辺 bc の外積(ベクトルの外積)をその長さ(ベクトルの内積)で正規化したものである。)

メッシュ生成アルゴリズムは、ROIボクセルの点集合$${X_c}$$を使用してClosedな(閉じた)メッシュを作成します。

広く利用されているマーチング・キューブ・アルゴリズムは、ボクセル間隔が 0.5 倍された値をデフォルトレベルとして使用することが多いようです。また、アイソボクセルが前提として必要な場合もあります。例えば、ボクセルが x, y, z それぞれの方向で 1 mm であるアイソボクセルであるとき、ボクセル中心間の中間のメッシュを大まかに描くために、ボクセルサイズを 0.5 倍する(リサンプリングする)などです。

Closedなメッシュは、$${N_{vx}}$$個の頂点によって分割された$${N_{fc}}$$個の面から構成されます。図 1 に三角形メッシュの例を示します。頂点の集合は$${X_{vx}}$$です。単にメッシュというと、四面体メッシュなどの意味として捉えられる場合がありますが、本解説では、メッシュは三角形メッシュとして表記しています。

メッシュを用いた体積の計算では、すべての面の法線の向きが一貫している必要があります。規則的なClosedなメッシュでは、すべての辺はちょうど 2 つの面の間で共有されるため、向きの一貫性をチェックすることができます。例えば、頂点 a と b からなる辺があり、2 つの面を分けているとします。この辺は、一方の面では$${\overrightarrow{ab}}$$であり、隣接する面では$${\overrightarrow{ba}}$$でなければなりません。頂点の探索方向として反時計回りルールが適用されるためです。このように並んでいる面から、面の法線が一貫しているかを確かめることができるようになっています。

モルフォロジカル特徴計算のためのROI

ROI は、モルフォロジカルマスクと信号強度マスクの 2 種類があります。

モルフォロジカルマスクは、ボクセルのセット$${X_{c}}$$として表現されます。モルフォロジカルマスク内のホール(穴)は、セグメンテーションの結果であり、意図的なものと解釈されます(穴があってもいいということ)。

信号強度マスクのボクセルのセットは$${X_{gl}}$$と表現されます。これは、ある条件を満たすボクセルの集合であることを意味し、モルフォロジカルマスクからさらに特定の条件で抽出されたROIとなることが一般的です。

特徴の集約

モルフォロジカル特徴は、面積など、スライスごとに2Dで計算することができるものもありますが、IBSIでは定義上、スライスごとではなく、3Dで計算することを推奨しています。なにかの事情があってスライスで計算しなければならないようなときも、スライス内のROIを3Dオブジェクトとして扱うということになります。スライスで計算したとしても、それをスタック単位で平均化したりする(オブジェクト単位で集約する)ことは想定されていません。

距離単位

モルフォロジカル特徴は、DICOM規格で定義された長さの単位、すなわち、ほとんどの医用画像モダリティでは$${mm}$$ (ミリメートル)を用いて計算されます。

長さの単位がメタデータとして明示的に定義されている場合は、その定義を使用します。また、距離単位は全データで一貫している必要があります。

以上、モルフォロジカル特徴を計算する上での前提知識について紹介しました。次回からはより具体的に、RadiomicsJを用いた実例を示しながら計算していきます。


RadiomicsJの引用はこちら

Kobayashi, T. RadiomicsJ: a library to compute radiomic features. Radiol Phys Technol 15, 255–263 (2022). https://doi.org/10.1007/s12194-022-00664-4

RadiomicsJのリンク

https://github.com/tatsunidas/RadiomicsJ


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