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噓日記 1/11 もつ鍋食いたいday

今日は一月十一日、もつ鍋の日だ。
めっちゃ嘘。
普通の日。
ただ、こんななんでもない日に食べたいものといえばもつ鍋だろう。
寒い日に鍋を囲んで、プリプリのもつと美味い酒、それだけで俺はもう十分だ。
しかし、もつ鍋と対面するにあたって一人は少し悲しすぎる。
大人になってふと寂しくなった時、突然連絡しても集合してくれて一緒にもつ鍋を食いに行ける友達がいたらなぁと思うことがよくある。
成人男性の六割が同じ感覚を共有している。
そんな形の幸せを俺たちは追い求めている。
俺たちにとって、幸せになりたいともつ鍋が食べたいはほぼ同義語なのだ。
エスペラント語でmot(モト)は幸せって意味。
語源は勿論、もつ。
めっちゃ嘘。
幸せはfeliĉe(フェリーチェ)。
幸せになりたいとフルーチェを食べたいは同義。
ただ実際のところ、幸せはそう近くにない。
幸せになろうにも、なかなかそうはいかないのが悲しいところ。
まず、もつ鍋を食べたい自分というものを表に出すのが少し恥ずかしいのだ。
今夜何食べたい? と質問されたとして考えて欲しい。
「もつ鍋!!」
そんな回答をしようものなら、相手にバレてしまうのだ。
「こいつは臓物喰らいなのだ」と。
臓物を喰い散らかしたいという欲求は現代人の八割が持っている感覚らしいが、それを大っぴらに口に出している人間は一人たりともいない。
だって臓物は喰い散らかさない方がいいから。
だから大人の男は一度自分の心に蓋をする。
「あー、どやろ。……中華? とかありかも。あー、ヤバいわ。中華って言ったらめっちゃ餃子食いたなってきた(笑)そういやお前、麻婆豆腐好きやったよね? 最近めっちゃ美味い店見つけてん! そこ行ってみよか! 店名なんやったっけ、ちょい調べてみるわ。 ……あー、そこランチだけやわ。うわっ、マジかー。最悪や。今めっちゃ中華の口になってんのに。えっ、この辺なんか中華無かったっけ? 角の店? あっこ、麻婆豆腐ベッチャベチャやぞ。初めて食った時、離乳食か思たわ。この辺の中華なぁー、餃子と麻婆豆腐両方美味い店全然ないんよなぁ。あってもランチのみばっかりやし。え、どないしよ。中華やめる? 全然やめてもええよ、なんかちょっと、うわ、でもなんか酒に合うやついきたいわぁ。え、なんやろ。肉行く? 焼肉は重いしなぁ、あっ、鍋ええやん。しゃぶしゃぶとか。男二人でしゃぶしゃぶは違うか(笑)えっ、じゃああれ行ってみる? もつ鍋とか」
ここまで保険をかける。
臓物喰らいだと思われたくないので。

どりゃあ!