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噓日記 5/21 バトルシティ

俺はよく休日に飲み歩く。
普段彷徨いている繁華街はもはや俺の庭とも言えるだろう。
そして俺はその庭をバトルシティと呼んでいる。
酒で理性を失った男たちは皆、原始に帰る。
体が闘争を求めるのだ。
戦うことでしかもう自分がここに居る理由がわからない。
自分がここに居る理由を追い求めて目の前の男をただ打ちのめすのだ。
今日もそうだ。
行きつけの立ち飲み屋で飲んでいるとカウンターに見知らぬ男が立つ。
その瞬間、その男と目が合いお互いが暗黙の了解を得て、店の先に置いてある小さな机に向かうのだ。
男と相対して初めて気付くその巨躯。
身の丈190cmはあろうかという大柄な肉体はもはや力を向ける矛先を失い、その太い両腕の筋肉は新たな獲物を追うように脈動を繰り返している。
俺は尻についたポケットからカードホルダーを取り出し、お互いの手札を準備する。
この街では殴り合いなどという低次元なバトルは行わない。
そう、行うのはトランプ、そしてババ抜きだ。
タイマンでババ抜き。
そこには何の駆け引きも存在しない。
自分の手札にジョーカーがなければ相手が持っている、自分の手札にジョーカーがあれば相手は持っていない。
そんな1か0の戦いで雌雄を決するのだ。
正直、何にも面白くない。
ババ抜きってもっと大人数でやった方が楽しい。
ベストで言うと6人くらいいたほうがいい。
だってジョーカーがどこにあるのかみんな分からない方が楽しいじゃん。
自分の手札からジョーカーが離れた時って暫くの間無敵時間になるじゃん?
それ、ないのよタイマンだと。
マジ、不毛。
ぜーんぜん楽しくない。
だって自分の手札からジョーカー抜かれても次ジョーカー引くかもしれんのよ?
おもろないわ!
もっとさ駆け引きとかしたいわけ。
なーにが闘争じゃ!
ボケっ!
男の手札からカードを引き抜く。
ダイヤの3、手にあったクラブの3とペアができたので捨て札に置く。
ジョーカー以外もそうだ。
自分の手札になければ必ず相手が持っている。
つまり何の駆け引きも存在しない。
交互に札を取り合って最終の数択になるまでほとんどお互い流している。
目の前の男も心ここに在らずといった具合で、もはや口さえ半開きだ。
もちろん俺の口も半開き。
目も焦点があっていない。
傍から見ると何か良くない薬物でもやってるんじゃないかという様相だ。
そしてついに俺の手札は残り4枚、相手は2枚。
ここで禁術を解放する。
相手のカードを引き抜き、ついでに相手の顎を張る。
上手いこと顎に当てると脳が揺れる。
膝から崩れ落ちる男を尻目に俺は酒を呷る。
ここはバトルシティ。
何もおもろない街。

どりゃあ!