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噓日記 8/7 激辛料理と外回り

今日は昨日よりか幾分気温が下がったおかげで一日過ごしやすかった。
しかし今になって今日の気温を調べてみるとそれでも最高気温は30℃を超えていた。
暑さに慣れ始めたのか、暑さを諦め始めたのか。
俺の体もちゃんと8月らしくなってきている。
さて、そんな今日は朝から外回りということで後輩を連れて一日中営業に出ていた。
客先を訪ねては喫茶店に逃げ込んで、また客先を訪ねては喫煙所で一服し、また客先を訪ねてはコンビニの駐車場で少し息を整える。
まあ、そんな感じの不良社員らしい振る舞いを後輩に仕込みつつ午前の仕事を終えた。
この後輩というのが可愛いもので入社2年目なのだが俺に懐いて俺の後をちょこちょこ追いかけては、俺のネクタイやソックスのブランドをこっそり真似てみたりする、まぁ一緒にいて居心地の良い後輩だ。
長さ1センチ以下の坊主頭でニコニコといつも笑顔なものだから客先のおばちゃん連中からは息子のようだと可愛がられているのもあって仕事がしやすく、俺がコイツを連れ歩くのも可愛いの半分、楽できるのも半分といった具合で実に助かっている。
ちょうど昼時だったのでチェーン店のカレー屋に入る。
奢ってやるから好きなの頼みな、と声をかけると店に響くくらい大きな声でお礼をいうものだからこっちが少し気恥ずかしくなる。
俺はビーフカレーの2辛を注文、後輩はポークカレーの10辛を注文した。
初めて知ったのだが、後輩は激辛料理が好きなようだ。
注文したカレーがそれぞれの前に運ばれてくる。
後輩は頂きますと俺とカレーそれぞれに声をかけてからパクつく。
一口、二口と食べて、水を飲む。
その時既に頭の坊主から汗が吹き出している。
俺はかねてから思っているのだが、激辛料理が好きな人間は人間として必要な機能が備わっていないと思っている。
危機管理能力が欠如しているのだ。
こういう奴がスケボーのトリックの練習で股座を強打するのだ。
夏こそ激辛! なんて馬鹿なことを言っている奴らの末路を俺は知っている。
最後には皆、火葬されているらしい。
一口、また一口とスプーンを口に運ぶ後輩が忌々しくなってきた。
何でこいつ社会人のくせに坊主なんだ?
汗をダラダラと流しながらカレーを食む浅ましい濡れ坊主の存在自体が気持ち悪くなった。
ジワジワと染み出してくる汗坊主の水分が俺の食欲を奪う。
俺は自分のカレーを三口ほど食べてみたはいいものの、それ以上食べる気にはなれなかった。
食べ終えた汁坊主を連れて店を後にする。
丁度店を出た瞬間、汁男優の携帯に一報が入る。
「先輩、僕のおばあちゃん、亡くなりました……」
激辛なんか食うからだろうが!
俺は初めて声を荒げた。
荒げないわけにはいかなかった。
後輩、もとい体液は俺の言葉にショックを受けたのかその場でバラバラに砕けて消え失せた。
彼の亡骸の中から一粒の玉を拾い上げる。
それが萬子の始まりだと言われています。

どりゃあ!