2021/01/13 走ることができない馬
・NETFLIXでボージャックホースマンを見終わりました。6シーズン、全74話。長かったが、シーズン3以降はあっという間だった。
・あらすじはこんな感じ↓
舞台はハリウッド、90年代に人気を博したシットコム(フ○ハウスに激似!)で主演を努めたコメディ俳優、ボージャック・ホースマンはすっかり落ちぶれてアルコール漬けの日々を送っていた。そんな彼は再起を懸けて自伝本の出版を目論見、ゴーストライターとして雇われたダイアンに自らの過去を語り始める。居候のトッドや妻でありマネージャーのプリンセス・キャロライン、同じくコメディアンでいつも能天気なMr. ピーナッツバターと共にドタバタの毎日を繰り広げる…
・基本的にはバカげたジョーク満載のコメディだが、シーズンが進むにつれてストーリーはダークさとシリアスさを増していく。エピソードで取り上げられる話題も、幼少期のトラウマや両親との確執、高齢出産、中絶、依存症などと重いものが多い。その話題を風刺や教訓に落とし込むのではなく、意地悪に笑い飛ばしそれでいて問題の核心を視聴者に突きつける手法は極めて見事。「ボージャック・ホースマン」はコメディの皮を被った"笑えない"ヒューマンドラマなのだ。
・「自らの回想録を描こうとする元ハリウッドスター」という設定の通り、「ボージャック…」では「過去と向き合うこと」が一つのテーマとなっている。
ストーリーが進むにつれて、ボージャックは償い切れない過ちを幾つも背負う。わがままや不注意から周りの人間を傷付け、その度に強く後悔し、やがてその記憶に蝕まれていくボージャック。しかし視聴者は全く彼を擁護できない。全ては身から出た錆なのだ。
ボージャックだけではない。ダイアンも、プリンセス・キャロラインも、Mr. ピーナッツバターでさえも、ストーリーを通じて何度も自分自身と向き合う。その度に絶望し、自分を変えようと誓う。そして、ほとんどの場合失敗する。仕事を変え、恋人を変え、住居を変えても、自分という人間を変えることは容易ではない。
・全ての人に過去がある。それは忘れられない些細な傷だったり、記憶から消してしまったトラウマだったり、失われた幸せな日々だったりする。「ボージャック・ホースマン」は6つのシーズンを通して、走ることをやめた馬の、過去をめぐる巡礼の旅を克明に描き切る。
・シーズンが進むにつれて視聴者はあることに気づき始める。これは"自分の物語だ”ということに。
・個人的に最も見てもらいたいのがシーズン5の第6話「チュロスはタダで」だ。
・母親の葬儀で追悼のスピーチをするボージャック。自分を愛さなかった母親への恨み辛みをくだ巻いているうちに、彼は一つの事実に気づく。
・26分のうち短い回想シーン以外のほぼ全てが、葬儀場でひたすら喋り続けるボージャックの映像のみ、というかなり攻めた内容だ。彼はスピーチの中でこのように語る。
「テレビでは欠点のある人物が突然思いやりのある行動を見せたりする。それこそ愛だ!と思いたくなるが、現実ではそんな”大きな行動(Big gesture)”だけじゃ足りないんだ。良い人間になるには、良くあり続けなきゃいけない。」
「それってすごく難しいことなんだ。」
・この「続けること」の難しさは、ボージャック自身が物語全体を通して苦しめられてきたものだ。良い人間になるには良くあり続けなければいけない。過去を償うには、償い続けなければならない。
・「ボージャック・ホースマン」の世界は、動物頭の人間が街を歩く非現実的な世界だ。しかし、同時に"大きな行動(Big gesture)"だけでは過去を償い切れない、都合の悪い世界でもある。ちょうど我々が生きている現実と同じように。
・今更1年以上前に完結したアニメについておすすめするのもなんですけど、おもしろいので見てください。個人的に1stシーズンの11話で本格的に引き込まれたので、とりあえずその辺りまで見て欲しいな〜と思ってます。でもとりあえずで11話も普通見ないですよね。
・本当はとりあえずシーズン3まで見てほしいとも思ってます。
おわり
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