工夫満載の「ホール・オペラ」~DOTオペラ「アイーダ」


 1年ばかり前に結成された「DOTオペラ」というグループの、3回目の公演「アイーダ」にお邪魔してきました。文化庁のコロナ禍における芸術支援事業の後援を受けて、急遽実施が決定したようですが、とてもクオリティの高い公演でした。オーケストラなどは小編成ながら、会場のミューザ川崎のステージを生かし切った演出であり、音楽的にも質が高く、大変見事だったと思います。
 ちなみに「DOTオペラ」というのは、結成メンバーであるソプラノの百々あずささん、コレペティトゥールの小埜寺美樹さん、メゾソプラノの鳥木弥生さんの頭文字を取った名称のようです。


 成功の第一の要因は、ホールの空間を生かし切った演出(ダンサーでもある山口将太郎さん)です。
 ミューザはいわゆるワインヤード型のホールで、舞台を囲んで客席があり、ちょっと円形劇場のような趣があるのですが、今回の演出では、オーケストラを中央に置き、そのぐるりに半円形の階段を設け、この階段と舞台前方の空間が演技空間として使われていました。
 この半円形の階段がまさに円形劇場のように機能し、客席も円形劇場の残り半分を構成して、観客もドラマに参加しているような気分を味わえたのです。「アイーダ」は元々動きの少ないオペラで、古典的と言えばそうなのですが、作品のそのよう性格が今回の舞台にマッチしていました。ミューザの大オルガンにさまざまな色を投影して活用した照明(稲葉直人さん)も効果的でしたし、衣装(どなたの担当かわからず)もセンスがありました。例えばラダメスの軍人風の衣装はベースは明るいグレーですが、エジプトのために働いているときは赤いマントが加わり、最終幕で牢屋にいるときはグレー一色になります。それ以外のキャストの衣装もそれぞれのキャラクターにマッチした古典的なもので、衣装からも全体のトーンが統一されていました。


 さらに今回、ダンサーが加わったのが大正解。男性3人、女性2人のダンサーが、本来のバレエ場面のみでなく活躍し、人数の少なさを不利だと感じさせない活躍ぶりを見せていました(振り付けも山口さん)。まさに総合芸術ですね。
 歌手も階段を上り降りして演技をし、歩き方なども颯爽として、山口さんの指導がかなりあったのか?と思わせられる身のこなしでした。
 音楽も充実。ソリストの方々も揃っていて穴がありません。中でもうまいと唸らされたのは、ラダメス役の村上敏明さん。どの音域もムラがなくスムーズで、高音も豊かに響き、時に凛々しく時に悩めるラダメスの造形も共感できます。新国立劇場のジークムントでも頑張っていらしたし、充実の時を迎えているのではないでしょうか。中でもこの役は今の村上さんに合っているように感じました。
 アムネリス役鳥木弥生さんは、整った美貌がまずこの役にぴったり。陰影のある声は安定し、色気もあり、劇的な迫力にも不足はありません。ランフィス役伊藤貴之さんも豊麗な美声、明るめの色合いはイタリアオペラに向いています(9月の藤原歌劇団「清教徒」ジョルジョ役も良かった)。歌い盛りですね。アモナズロ役高橋洋介さんも演劇的な美声で、これからがおおいに期待できそうです。エジプト王役松中哲平さんも将来性あり、巫女役やまもとかよさんも威厳のある美声。
 アイーダ役百々あずささんは、「声」の魅力という点では今回のキャストの中でピカイチかもしれません。高音域の輝かしさ、豊かな響きと声量は圧倒的です。ただ、技術的な不安定さが散見されたのと、高音域に比べて他の音域が響かないのが気になりました。


 「アイーダ凱旋オーケストラ」と名付けられた今回のためのオーケストラは、金管をカットするなど小編成ながら、その分を小埜寺さんのピアノが補ってうまくまとまっていました。小編成で金管なしの柔らかめの音響は、「アイーダ」というオペラの室内オペラ的な面にぴったりです。佐藤光さんの指揮も歌や躍動感が感じられて好演。

 東響コーラスの有志で構成されたという合唱coro trionfoはP席に配され、高い位置からの歌は豊かに響き、劇的な場面での彩も十二分。やはり「アイーダ」は合唱の役割が大きいですね。


 というわけで大満足の公演。何より「アイーダ」というオペラの可能性を見せてくれたことを高く評価したい。しばらく前に座間で見た、「オペラ・ノヴェッラ」の「椿姫」と言い、いろんなところでいろんなカンパニーやグループが、意欲的なオペラを制作しています。
 文化庁の後援があるとはいえ、これで五千円はコストパフォーマンス良好ではないでしょうか。開演が平日夜の17時半というのもあるかもしれませんが、空席が多くて残念でした。

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