おこもり4月に、「人生が変わったこの曲、この演奏」をお家で、始めました。

 新型コロナで、何とも予測のつかない新年度の始まりになりました。
 ご承知のように、コンサートのようなイベントも当分自粛。会場の空気からビフォーアフターも含めて生演奏が大好きな私にとっては、大打撃です。この情勢では仕方ありませんが。

 一方で、先日ご紹介したようなストリーミング配信が家で楽しめるのは、とても貴重です。
 家にいて、できること。その点で、私にできることは何か。
 そう考えていて、とてもささやかですが、これまで印象に残った、「人生が変わった」と感じた演奏の中で、今現在「家で楽しめる」、つまりCDやネット配信で聴ける音源のある演奏をご紹介していこう、と思い立ちました。この1ヶ月、なるべく毎日更新していこうと思います。
 あくまで個人的な趣味ですので、オペラ、それもヴェルディなどのイタリア・オペラが中心になると思いますが、ご興味のある方はフォローしていただければ幸いです。一人でも多くの方に、これらの演奏の素晴らしさが伝わるように願って。
 
 第一日目の今日は、ヴェルディの「イル・トロヴァトーレ」をご紹介したいと思います。それまでどちらかというとプッチーニ派だった私が、180度宗旨替えしてヴェルディ派になってしまった作品だからです。それも、1枚のディスクとの出会いで。
 トーマス・シッパース指揮、ローマ歌劇場管弦楽団、ステッラ(ソプラノ)、シミオナート(メッゾソプラノ)、コレッリ(テノール)、メリル(バリトン)。
 CDはEMIから発売。


クラシック音楽の配信サイト、「ナクソス ミュージックライブラリー」にも収められています。


 まさに、「目から鱗」の一枚でした。

 それまで、ヴェルディって重くてしんどい、と思い込んでいたのが、ヴェルディって楽しい!と思うようになってしまったのですから。
 大のオペラファンで知られていた故ドナルド・キーン先生のご本「ドナルド・キーンのオペラへようこそ!」(文藝春秋)に、「イル・トロヴァトーレ」ほど楽しいオペラはない、と書かれていたのには、まさに我が意を得たりでした。
 だいたい「イル・トロヴァトーレ」というオペラ、それまでは敬遠していたのです。あらすじを見るととにかく暗くて、主人公は最後にはほとんどみんな死んでしまうのですから。
 ところが、見る(読む)と聴くでは大違い、というのが「イル・トロヴァトーレ 」というオペラなのです。
 とにかく音楽が素晴らしい。主役4人の大アリア。緊迫感たっぷりの重唱。軽快な合唱。それが次から次へと、息もつかせぬ勢いで続くのです。2時間があっという間、それも最初から最後までハイテンション。しかもほぼ長調で、リズミカルですから、楽しいのなんの。
 そして構成も完璧です。4つの幕の長さがほぼ同じ。アリアと重唱のバランスもいい。彼が得意だったコンチェルタートのフィナーレ(第2幕)も大変効果的です。「物語と音楽の乖離」がヒドイ、なんていう方がいたりしますが、それは極端に言えばワーグナー後、あるいはヴェルディのドラマ性が勝る作品の美学から見ているためでしょう。
「イル・トロヴァトーレ」は、まったく違う美学のもとに成り立っている作品なんです。誤解を恐れずに言えば、「ベルカント」という美学です。歌の美学。場面の美学。歌を聴かせ、効果的な場面を歌で盛り上げることを第一にした作品。その観点から見れば、完璧です。(ほぼ同じ時期に、「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」という、方向性が全く逆〜全ての音がドラマに寄り添っている〜なオペラを発表したことを考えると、全く天才としか言いようがありません。)
 そう、「イル・トロヴァトーレ」に目覚めた、ということは、結局ベルカントに目覚めたということだったのだ、と、後で振り返って気づいたのでした。
 近年でこそ、ヴェルディは考えられているよりずっと「ベルカント」なスタイルを保ち続けた作曲家だ、と言われるようになっていますが、「イル・トロヴァトーレ」こそ、力強く輝かしい音楽による、ヴェルディ流ベルカントの美学が花開き、結晶したオペラだと言っていいでしょう。

 
 ベルカントは歌手が揃わないと面白くないのですが、上にご紹介したディスクは最高です。主役4人が皆パワフルで、ブリリアントな美声を競い合い、シッパースの疾走する指揮が、時に「声」を解放し、時に全体の手綱を締めます。ぜひ、お聴きいただきたい一枚です。元気、出ますよ。
 
 

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