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感想発表 長編出張読み切り短編博覧会Vol.1

 令和2年9月9日から令和2年10月11日にかけて開催されました長編出張読み切り短編博覧会Vol.1ですが、変則的なレギュレーションにも拘わらず参加してくださったみなさんありがとうございました。
 カクヨムでは長編が読まれにくい場合も多いので、新しい読者獲得や、既に読んでくれている読者さんに自作の本編でやるほどではないけれど世界を深めるための別の一面なんかを見てもらえるチャンスになればいいなと思っています。

 今回は、連載中の場合(※長編にするつもりであるという心意気があるもの)は三万字以上、完結済みの場合は10万字以上の作品があることというレギュレーションにした為、企画に間に合うように新たに作品を手がけた方、中断してしまった作品を下限に届けようと加筆した方なども見かけました。
 Vol.2も多分すると思うので、今回間に合わなかった方も次回までに文字数の参加レギュレーションに達するように頑張っていただければなと思います。

 短編博覧会ということで、今回は○○川小説大賞のように大賞を決めたり、全講評などはないのですが、参加してくださった短編32作品に対して、闇の感想員からの感想を書いていきたいと思います。
 今回は川じゃ無いから無限スクロールはないよ!でも気になるタイトルや感想があれば是非作品ページに飛んでみてください!
 以下、参加作品への感想です。

◆全作品への感想

謎の有袋類
 みなさんこんにちは。今回は伝統と格式のKUSO創作甲子園ではなく、長編チャレンジ応援企画です。
 なんとなく、感想は多い方がうれしいよね&未来の闇の評議員の予行練習だよみたいな感じで謎の齧歯類さんと謎の野菜さんに協力をしていただきました。
 講評では無いので気楽にやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

謎の齧歯類
 川とか森とかに伺った経験はありませんが、誠心誠意感想させていただきたいと思っております。お脳小さめの謎の齧歯類です。よろしくお願いします。

謎の野菜
 初心者故、作者様の思いを汲み取りきれないかも知れませんが、どの作品に対しても真剣に向き合いたいと思っています。よろしくお願いいたします。

 
 以下から、エントリー作品への感想です。

1 不死の呪いと魔法使いー美味しいご飯編ー/こむらさき 

謎の有袋類
 水竜、ワニみたいな味だと思う

謎の齧歯類
 よさ……だけじゃ駄目ですよね。
 でもしかしよさです。これは乙女の層に届く!
 少しのよそよそしさとすれ違いと思いやり。二人の関係性もわかりやすくて先が気になる。そういう関係でないはずの相手とのご飯なのに主人公ちゃんがやすらぎを覚えているのにグッときます。
 恋愛を描くのがお上手な作者さんですが、えぐり込むように鋭くなっている印象です。
 あと、ファンタジー!って感じの料理描写、いいですね。現実世界とは料理のやり方も違うっていうのが練られた異世界の気配がしていい。妖精へのお礼、みたいなやつがちゃんと手順としてあるのも異世界感が素晴らしいです。そう言う土俗の香りがする魔法の手順はいいものだ。好きです。
 水竜、本編冒頭でもらった鱗の主なのでしょうが、食べちゃってなんか不老不死とかになったりしないのかな、大丈夫かな……。普通に地に足のついた美味しさ、みたいな感じの味っぽく、ちょっと面白かったです。

謎の野菜
 以前、本編の方を読ませていただいたのですが、この作品はやっぱり綺麗だなあーー!!と再認識させられる短編でした。例えば妖精の「セルセラ」の登場シーン。
>ピンクがかった金色の巻き髪を揺らしている彼女の腰には、まるでスカートのように逆さまに薔薇が咲いていて、透き通る翅からはキラキラと光る粉が零れ落ちていた。
 素敵じゃないですか???僕は大好きです、こういうの。そんな素敵な描写が飛び出す世界観でお出しされる料理……。不味い筈がないですね。
>どこからともなく入ってきた半透明の小妖精たちが、歌いながら風を起こす。空中に舞った野菜に小さな風の刃が飛んでいく。あっと言う間に、野菜は細かくなって鍋の中へ落ちていった……
 みたいなファンタジー感溢れる描写も、もちろん素敵ですし、
>受け取ったローブからは微かに紫檀ローズウッドの香りが漂ってくる。
>陶器で出来た蒼いカップは、つるつるした手触りで、水が入っているせいもあってひんやり冷たい。

 なんて些細な描写からも、作者様の感性の繊細さが伺えます。駆け出しの僕からすると、こんな何気ない描写の一つ一つを見るだけで、すごくときめいちゃうんですよね……。
 料理描写はもちろん、キャラクターの心情描写も大変良い。ご主人様の優しさや、主人公の葛藤が垣間見れて、大変おいしい短編でした!!

2 クッキング・オン・ハイエルフ!~料理対決で大麻を使って優勝していくわね~/海野しぃる

謎の有袋類
 しぃるニキだ!参加ありがとうございます!
 ウンガヨさんめっちゃキマッてるやんw
 時事ネタも織り込んできて怖いよ!プロの洗礼だ……。そして多分ネタ元にした大麻クッキング番組を踏襲した今回使う品種紹介w
 色々拾って小説に取り込む手腕がすごい。
>大麻背脂マシマシの大盛りラーメンを食べさせればどとんでもないことになるんじゃないかな……って
 こいつを誰か止めろ……。
 めちゃくちゃバキバキにキマッてる役人さんも面白いんだけど、ご飯描写も美味しそう!大麻抜きのこってりラーメン食べたい!
 駄女神や、異世界ファンタジー好きな方だけではなく、結構野蛮で好戦的な生き物を読むのが好きな人も楽しめる作品だと思います。
 ドサンコノスクは実質エルフ……。

謎の齧歯類
 どこからつっこんだらいいのかしら。
 FGOにクッキングハイ、あとゴールデンカムイもかな。元ネタマシマシでくすぐりに来ている感じでゲラゲラ読めます。
 ともあれ、軽妙な語り口でよく考えたらヤバな状況をするっと読ませてくるの、いいですね。事態も飲み込みやすいし、状況もスラップスティックコメディとしてすごく面白い。その上に現実的仕組みの説明もスマートで作者さんの本領発揮という感じでしょうか。
 麻薬ハイエルフというルビ、最悪で最高ですね……。これまで見てきた中で最悪のハイエルフのルビですよ。いっそ悪口として成立するんじゃなかろうか。
 ところでほとんど○郎は経験ないんですが、興味がわきますね。普通のやつ。普通のやつ。

謎の野菜
 タイトルの時点でもう私の負けです。「麻薬+●郎ラーメン」というすごい無茶苦茶なテーマを、思わず納得してしまうくらい詳細な科学知識で強引に成立させてしまうこの手腕……恐ろしいですね……。
 その上、味の描写の一文一文に凄まじい躍動感とパワーがあります。
>それは山だった。五枚の厚切り味噌漬け猪肉の山麓、油にて輝ける味噌スープ、狭間に蠢く強力粉の極太麺、山菜ともやしを駆け上がった先に見える生にんにくの冠雪。聖地。
>舌に載せた瞬間に大麻の爽やかな香りと魔猪の獣臭が正面からぶつかりあい、乱入した生ニンニクによってかえって統率がとれる地獄のデスマッチ。
 
読んでいるだけであの油に塗れた味を思い出さざるを得ません。
 そして、その魔物ラーメンを取り囲むキャラクター達!!とっても生き生きとしています!!
>「今回の草ウィードは微睡みの煙アムニージアヘイズ、まだドラゴンがこの星の支配層だった時代からある品種でめちゃくちゃ効く。効果絶大の純粋なサティバ種で、ドラゴンも宇宙空間を航行する前に使っていたくらいだからね。効きすぎると三日三晩くらい眠れなくなっちゃうからキヲツケテネ! グッバイ!」
>「うわっ! くさっ! 獣臭い! これラーメンに使うの!? マジ!?」
>「本当はな。俺がお家でラーメン作る為の食材だったんだよ……俺が! 故郷の! 味を! 楽しむ為にぃっ! 今晩俺が! 故郷の味を! 変な薬とか入れずに! 楽しく! 健全に!」
>「猫ちゃんが見えるよ……あれは空、星、すごい……宇宙だ。お月さまの上を猫ちゃんがフォークダンスしてるよ」
 いや、生き生きとしすぎだろ!!!!!!どこを読んでも笑いが止まらないって!!!!
 というわけで、例のラーメンのように、濃厚な短編でした……。よく作れるなあこんなの……と思いました。
 ちなみに、私は例のラーメンを食べた事はありますが、完食した事はありません。濃厚すぎて、すぐお腹がパンパンになっちゃうんですよ……。

3 物語終了課―料理バトルものは料理できる人が書いた方がいいー/lachs ヤケザケ

謎の有袋類
 参加ありがとうございます!
 エタった物語を無理矢理終わらせる公務員さんのお話。
 一行目から無茶なテコ入れをいれる新人ちゃんに笑ってしまったw
 ラストのオチが「そんなのあり???」って方法にしても大丈夫!物語を終了させれば勝ちだからね!
 コンセプトがおもしろかったです。小牧ちゃん、異世界料理考えるのうまいなーと思いました。ミミックが貝類って発想もすごい好きです。
 メタ系の発想が好きな人には多分刺さるかも?気になった方は是非本編も読みに行って欲しいなと思いました。

謎の齧歯類
 なるほど、未完の物語に終わりをつけるお仕事。
 設定の開示がわかりやすくて嬉しいですね。
 物語、主人公側の舌がおかしかったのは元のストーリーからなのか、小牧さん故なのか、と考えると面白い。もしかしたら相手に食べさせて昏倒したほうが勝ちみたいなルールにする予定だったのかも、と思うとそう明示した後でなくてよかったね、危ないところだったのだなあ、と思いました。
 異世界の食べ物がちゃんと美味しいのも面白い。貝の味のミミック、言われてみればそれらしくてなるほどなあ、と思いました。殻の中に柔らかい軟体が入ってるといえば確かに貝。ところでわさびアイスとか辛いアイスは結構美味しそうなんですが、ゲホるということはよほどの辛さだったのでしょうか。恐ろしい。油脂ともなるとだいぶマスキングされるはずなのに。
 ウーバーイーツがすぐ届くところでほんとうによかった。

謎の野菜
 世界観がすごくいい!!終わらない物語を無理矢理終わらせる公務員という設定、面白いですねえ……。色々なジャンルの文脈を組み込める、とってもいいコンセプトだなあ、と素直に感心しました。
>サッカーで惑星の運命決めるのもあるのだから、料理バトルでそれをしてはいけないことはないですよ。
 とか言い出す小牧ちゃんの描いた料理バトルものの描写も、また秀逸ですね……。
>味の宝石箱~ミミックを添えて~
 の時点でかなり面白いのに、その文章を利用して二段階のギャグを踏み出すのも、作者様のセンスの良さが伺えて良かったです。
オチも、「そんなんあり???????」ってなりましたが、終わらせることが目的ですもんね。そりゃあ奴らを召喚しますよ、確かに。普通の食事が一番!!!

4 蒲萄酒新作/姫百合しふぉん

謎の有袋類
 わーい!しふぉんさんだ!参加ありがとうございます!
 懐かしい石版芸。そうだよこれですよこれ(これとは)
 BLか?と先入観を持っていたのですが、違ったのでもう一回最初から読みました。
 麗月さんめちゃめちゃ素敵だし、令さんもすごく良い……。お食事がお題でしっとりとしてロマンティックな夜の細やかな二人の宴を出してくるのしふぉんさんって感じだ……。
 石版芸も縦読みという設定のお陰で読みやすかった!あと縦読みだと漢詩が映えますね。
 キャプションにあったリンク( https://remiliahxahxa.iza-yoi.net/works.html )に可愛くてえっちなイラストもあるのでみんなも見てね!
 吸血鬼、中華系の文化や歴史、華やかで耽美な描写が好きな方にはオススメの作品です。

謎の齧歯類
 重厚な歴史物語らしい冒頭にまずドキドキしました。
 最初登場人物がどんな人達なのかふわふわしていましたが、どうも二人共女性、それも仙女とかそういう人達なのですね。
 会話の内容が漢文の読み下し文のような風情があり、なおさらに歴史物語感を高めているように思います。
「如何なるときも図画に描かれる非業の死を遂げる麗人の顔をしたまま」という描写にぐっときました。これだけでもう絶世の美女だとわかる。すごい表現だと思います。
 歌い合うシーン、いいですね。優美婉麗と言いますか、艶のあるシーンを簾の向こうから覗き見しているようなドキドキ感がありました。葡萄酒を口移しにするあたりなんか、絵画にしたら映えるだろうな、と思います。

謎の野菜
 漢詩だーー!!漢詩の世界だーーー!!
 まず冒頭の、葡萄に対する表現が大変美しい!!詩的で瑞々しい表現が、古めかしくて風格のある言い回しと絡み合う事で表現される、上品な葡萄の味わい……。それが脳に直接到来してきます。思わず、葡萄を買いにスーパーへと足を運びたくなってしまいました。この部分だけでもすごいなあ、と感心してしまいますが、しかし、これは序の口に過ぎません。文中には、素敵な言い回しや情景描写が目白押しです。
 例えば、
>瑜の文王、周霖は学問の才を持ち、詩歌に親しみ、筆を下ろせばすぐに文章となり、それでいて撃剣の達人であったため才藝兼該と讃えられた。
 であったり、
>令の身体を飾る綴られた真珠や形のいいその頭に戴く金の首飾が揺れて軽やかな音を夜に響かせる。
 であったり。
 文中に溢れるほど詰め込まれた素敵な描写達が、二人だけの静かな酒宴をロマンチックに彩ります。いやあ、最高!!!
 そして、もっと最高なのは最後。
>「そうだな、弧が歌ったような哀しい詩は蒲萄酒の甘さには相応しくない」
 うわあーーーーーー!!!!素敵ーーーーーーーー!!!(語彙力崩壊)
 残念ながら、私が持つ漢詩の知識や語彙力では、この短編が持つ魅力を十分に語り尽くす事はできません。なので是非、実際に読んで皆さんに味わって欲しいなあ……。心からそう思えるいい小説でした。

5 不能共~清瀬の愛妻クッキング番外~/草食った

謎の有袋類
 第二回こむら川から一次創作をたくさんしてくれるようになったらしい草さん!参加ありがとうございます!
 醤油イン加奈子じゃあないんだよwww
 登場人物のサイコクソ女でも笑ってしまった。
 清瀬と朝陽のコンビは最高。というか、マジで朝陽さんは困ったときは一人でなんでもしようとするのに、なんでこういう時は甘え上手なんですか?清瀬か?清瀬だからか?
 清瀬くんの咄嗟に出る関西弁も最高ですね。防御に極振りというファンタジーに出てきそうな紹介はなんなんだ。大体合っている。
 ほのぼのラブラブでよかったー!さいこう。
 トラブル有り、少しばいおれんす要素ありなBLが好きな方、関西弁長髪男が好きな方に是非オススメの作品です。

謎の齧歯類
 噂にうっすら聞いた程度でなにがなんだか知らない状態で読みました。
 じ、地獄BL!
 冒頭の罵り合いでなにかややこしい関係なんだな、何かひと悶着あったのだな、と察しつつ読み進めたところで出てくる「醤油イン加奈子」の文字。
 これは本編が気になる。一体なぜこのはんなりした関西弁の人がそんなことをしたのか。ものすごいミステリ力。
 圧倒的なホワイダニットを脳に叩き込まれつつ読みすすめると、会話は軽妙だしそれぞれ気を許し合うような雰囲気と可愛いところがある気配もして、明らかに地獄っぽい事情らしいことは垣間見えつつ、ちゃんと(?)BLなのだなあ、と納得することしきりでした。すごい筆致だ。
 ところで麻婆カレーは美味しいと思います。一度有無を言わせず食べさせてやってほしい。

謎の野菜
 え、あの、御遺骨を、醤油の中に……?????????
 その部分だけでもかなり衝撃を受けました。が、本編にはもっと薄暗くて、酷い要素が目白押しです。(誉め言葉です!!!)
 しかし、それよりも僕が驚いたのは、シナリオ回しの巧みさ。
>加奈子を一粒も無駄にするわけにはいかない。醤油イン加奈子を一先ず横に置き、冷蔵庫を開いた。
>「そりゃそうだろ。俺はお前の調理してる姿はろくに見てなかったが、というかお前自体を視界に入れたくなかったんだが」
>「今は入れまくっとるやないですか」
>「お前は自分から割り込んでくるんだよクソ長髪野郎」
>不能とつけない辺りは加奈子への対抗なのだろうか。ちょっと嬉しい。
>「たまには手伝ってやるって言ってんだよ」
>「やめましょう。ええんです俺は朝陽さんが残さず食べてくれるだけで嬉しいので、ほんまですよ。いえ、どうしてもお手伝いがしたいという心境なんやったらそうですね、どうしよな、あかんどないしよう、ええと……そのまま材料切って指も切ってもうて俺に手当てされるのと、ソファーに座りながら煙草吸うて待ってるのどっちがええですか!?」

 本編が仄めかしている地獄の様な過去の数々が、「醤油イン加奈子」といった主人公の言い回しの面白さや、ほのぼのとした二人のやり取りのおかげで、スルスルと脳内に入ってきてしまいます。
>なんというか、加奈子やほかの女性が朝陽に惹かれた理由の一端がわかった気がして、悔しくなった。
 その上、なんだか爽やかな読後感が生まれている。いやあ、すごいなあ……。

6 ダンジョンマスターは菓子を食べる/くれは

謎の有袋類
 参加ありがとうございます!
「時間軸としては本編のかなり後半になるので、本編後半の情報を多く含んでいます」とのことなのですが、召喚のルビ、食費を切り詰める……などの共感を生みそうな設定が散らばっている作品で、ワクワクしました。
 補足のところにレベルの概念があったり、職業やギルドがあるので少しゲームっぽい設定のある長編だというところがわかる親切設定な読み切り短編です。
 アダンさんと、エメちゃんのやりとりがヤキモキするというか、ラブが始まる数歩前という感じですごくいいですね。
 作中に出てくるお菓子と同じ甘い雰囲気のするのもすごくよかったです。カップケーキもだけど、アーモンドのカラメリゼの描写がすごく美味しそうでよかったです。
 ゲーム要素もあるファンタジーが好きな方は多分本編も好きだと思うので、是非読んで欲しいなと思いました。

謎の齧歯類
 あ、甘酸っぱい!
 前半の説明で登場人物二人のなんとなくの人となり、女性の方はなんだか可愛らしくて、男性の方はあまり感情を揺らさないタイプかな?とわかりやすく、あと「お菓子屋でお菓子を買う」ことがこの舞台ではどのぐらいスペシャルなことなのかすっと入ってきました。お菓子、目に見える成果と言うか、おらが村にもコーヒーショップが!的な発展の指標と言うか、なんかそういうものなんですね。いいなあそういうの。
 アダンさんの目線で見るエメさんが可愛らしくてとてもいいですね。恋の香りがする。こう、決定的なもの一歩手前の甘酸っぱい感じ、おいしいです。
 こう、全編に渡ってなんだかとても可愛いものとしてエメさんを見ているというのが描写からわかりやすくてニコニコしてしまいました。
 カップケーキを食べるあたりの描写とてもいいですね……。
 それから純粋にアーモンドのカラメリゼの描写が美味しそうでわくわくしました。
 たくさん食べたのを見て渡してくるエメさんがとても可愛い。
 甘くて幸せなひとときのお話、というキャプション、まさに、という感じでした。

謎の野菜
 甘-------い!!!!
 まず、キャラクターの描写が本当に丁寧で素敵です!
>エメは少し前まで、収入のほとんどを魔虹石錬成に注ぎ込んで、そうやって得た魔虹石で召喚ガチャをやっていた。一時期は食費も生活費も切り詰めて、一人前も食べられない程に胃が小さくなっていたエメだけれど、アダンが世話を焼いているうちに、最近ようやく元の通りに食べるようになってきていた。
>エメは食べるのが遅い。ちまちまと噛みちぎってちまちまと食べる。アダンがサンドイッチを食べ終わる頃、エメはまだ半分も食べ終わってない。スープを食べ終わってようやく半分だ。
>食べるのが遅いくせに、合間にお喋りなんかをするものだから、進みはますます遅くなる。

 などなど。この話を見ているだけで、アダンやエメのキャラクター性やその魅力がとてもよく伝わってきます!あまりによく出来ているので、アダンがお菓子を食べる所を見て、「アダンがこんなに感動するなんて!!」という、既読者が持ちそうなエモさを感じてしまいました。話の作り方がとても巧みです……(感嘆)
 アダンのエメに対する感情もまた良い!
>それでも、エメがにこにこと笑って「楽しみですね」なんて言うから、アダンはうっかりと、たまには菓子を買ってみるのも悪くないのかもしれないなんて思ってしまったのだった。
>他人のMP《マナ》が入ってくるのは、気分の悪いことだというのに、エメのMP《マナ》にはすっかり慣れてしまった。慣れたどころか、心地良いとすら感じてしまう。近くにいるのが当たり前になり過ぎてしまった。
>アダンはアダンらしくもなく、この訳のわからない感情を抱えながら、エメのすぐ近くにいる。そんな自分に苛立ちを覚えることもあるけれど、かといってこの感情を手放すのは嫌で、エメから離れるのはもっと嫌だった。

 うーん、瑞々しい!!
 こんな感じの淡い恋心を、百年以上生きて、心が乾ききったキャラクターが抱くの、良くないですか?僕は大好きです。
 その上、飲食の描写も秀逸!
>カップケーキの生地はどっしりと重く、アダンが想像していたよりも食べ応えがあった。柔らかいようでいて、確かな噛み応えがあり、噛み締めると口の中が甘いにおいでいっぱいになる。
>そのにこにこした顔のまま、エメはカップケーキに口を付けた。エメの歯が、カップケーキの表面に入り込んで、エメの唇がその生地の塊を含んで持ってゆく。そして、唇の端に細かな生地の欠片かけらをくっつけたまま、その甘さにうっとりと目を細めて咀嚼している。
>扁桃アーモンドの表面を覆っている飴が、アダンの口の中でぱりんと割れた。それから、扁桃アーモンドのかりかりとした歯ごたえ。飴を煮詰めた甘さの中に少しの苦味があって、それが香ばしくて美味しい。歯ごたえが気持ち良くて、噛んでいるうちに口の中から消えていくのが寂しくて、次々と口に放り込んでしまう。

 二人の会話を見た時に、心の底から思わず出てくる「じれったいなあ!!」という感情を、あまーいお菓子が最大限に高めてくれます。
 うーーん!!早くカップルになってくれよおお!!!と思わず言いたくなる最高の作品でした。

7 市場通り《ルドゥマ》の銀猫亭/流々(るる)

謎の有袋類
 参加ありがとうございます!
 ルビの振り方がすごいわかりやすくてワクワクしながら作品を読みました。
 本編はめちゃくちゃ登場人物が多いのですね?推しを探すのがとても楽しそう。
 その中でもブリディフという方とカリナという方の出会い的なお話。
 魚料理がすごい美味しそう!姫鱒(クイナ)は漢字の通り鮭に近い食べ物なんですね。
 香草を揉み込んで焼いたりしてるんでしょうか?
 広い世界とたくさんの人間関係が絡み合う壮大な物語の一片を感じさせられるような素敵なお話でした。
 壮大な戦記や、世界観の作り込みが好きな方は好きだと思います。

謎の齧歯類
 冒頭2段落分であっ砂漠ファンタジーだ!とわくわくしました。好きなんですよね砂漠ファンタジー。紅鶴、ぱっとフラミンゴめいた鳥で浮かびましたが、色彩のイメージの鮮烈さがいい。
 土レンガから靄のように熱気が立ち上がる、とか、どういう土地なのかを肌感覚で想像できてとても好みです。露店に並んでいる品の描写も異国情緒が感じられて、どういう国が舞台なのかをイメージさせる力がとても高いと思います。
 つけて来た誰かを確認する、という少し緊迫しているかな?という状況から現れる黒髪の少女と、少女の人となりがぱっとイメージされる感じのそこからのやりとりがいい。おしゃまというか、12,3歳の少女だけに許される打算の薄いコケティッシュさというものがあるじゃないですか。(ろくろをまわす)そういうものを感じる……。
 姫鱒の香草焼きの描写周りもいいですね。二人共山岳地帯の育ちなので魚料理が珍しい、という書き方をしているのがグッときました。同時に多分湖沼養殖タイプのマスが名物らしいのも、大きな湖がある国の首都だ、というのに多分関係していますよね。世界の手触りがして嬉しい。お話を支える骨格がしっかりした作品だという印象を持ちました。

謎の野菜
 冒頭がいい!!!!!!!!!!!!!!!(良すぎるので下に引用。)
>四方を山々で囲まれた、魔国ガルフバーンは別名「砂漠の奇跡」と言われている。
>領土の四分の三が砂漠で占められているにもかかわらず、その中央に位置するムーナクト月からの恵み湖のおかげで繁栄を得た。生活に必要な水の確保はもちろん、湖から揚がる豊富な水産物を主とした交易の拠点となり、隊商の中継地としても重宝されていた。
「砂漠の奇跡」というワードだけでワクワクしますし、その後の説明文も、なるほどと思わせるほど緻密に練られていて、もうこの時点でドキドキです。本編中においても、そのワクワク感を失う事無く、スルッと読めてしまいました。
>照りつける陽射しの中、この日も市場通りルドゥマは多くの人で賑わっていた。
>赤みを帯びた土レンガの道からは靄もやのように熱気が立ち上る
 といったその場の情景がありありと浮かぶ描写はもちろんの事、
>店先にはモスタディア名物の魚の干物(ペシュレ)干し肉、ヤシの実(パルメ)に魔道杖と、様々な品が並んでいた。
>「そりゃあ、姫鱒(クイナ)の香草焼きだよ。これはモスタディア一いちの美味しさだね」
>羊(ムト)や山羊(シェヴ)の飼育が盛んな地域でもある。
 といった独特のルビが手伝い、この場に作者様の独特の世界観が醸成されています。
>姫鱒(クイナ)の表面の皮は香ばしく焼かれ、紅色の身はふっくらとしていた。
>口に含むと香草の香りが広がり、魚特有の匂いも感じさせない。
 姫鱒(クイナ)の味描写も端的ながら、その美味しさがありありと伝わってきます。
 こちらの短編、この文中に挙げた例を見て分かる通り、世界観を浮かび上がらせるテクニックがすごいんです……。おかげで大きな負担がなく、スルリと読み込む事が出来ました。
 こんな技術を持った作者様が描く、ブリディフさんとカリナさんの闘い……気になりますねえ……。
>山で育った二人には魚料理というだけで珍しい。
>きっとこの少女も父から魔道の教えを受けているのだろう。

 という感じで、二人の共通点も描かれており、試合中の会話や、試合後の二人の関係性がどうなるのかも気になります。
 短編ながら、色々な事が匂ってくるいい作品でした。

8 黒い真珠を求めて/Veilchen(悠井すみれ)

謎の有袋類
 わー!すみれさんだ!参加ありがとうございます!
 気難しい女王の描写、世界観、文化的な背景が短編にわかりやすく詰め込まれている……すごい。
 アンドラーシさんの「──俺は味を聞いたのだが……?」でふふっとなりました。
 珍味だもんね、キャビア。
 ひっそりといくら計画も持ち込まれている……。いくらの塩漬けもおいしいし、宝石みたいに綺麗に見えるもんね。でも洋風だとごはんにかけられない問題だ……。
 ラヨシュくんとアンドラーシさんが推しになりました。本編を読んだら多分推しが増える予感がする……!
 ファンタジーや戦記が好きな方にオススメの作品。すみれさんはホラーも描いていらっしゃるので気になった方は作者ページからホラーを探してみるのも良いと思います。

謎の齧歯類
 あっすごい。大陸ファンタジーだ!!からの氷原の圧倒的な描写。
 氷原で時間をはかるのが星というのも、その星の名が《戦馬の鬣》というのもいい。
 彼らがそうしている理由、事情が違和感なく回想で述べられていて飲み込みやすいです。また、氷原の行軍というイメージにふさわしく、彼らがただ平和に魚を運ぶだけの人々ではなく、かつて戦争を経た軍人なのだな、とわかりやすい会話と描写で示されていて、本編で起こったことを垣間見せているように思います。
 国による文化差、食べるものの文化差についても示されていて面白い。
 なるほど、魚を常食しない人々なら「魚の卵の塩漬け」が残酷に思える、というのははたと膝を打ちました。連想するのが虫の卵というのもなるほど確かに、という。
 そして出されるのがフレッシュキャビアというのがいいですね。冒頭でわざわざ氷温輸送をしていた意味がここでわかり、納得しました。妙な話、慣れない軍人の方はすごく美味だ、とは思っていないのもいい。
 端正な文章と、戦記物のワンシーンを切り取ったような(まさにそのものかもしれませんが)背景に膨らみのあるエピソードだと思います。

謎の野菜
 戦記物……!!!
 突然ですが、僕は今まで「戦記物ってなんかお堅いなあ」という偏見を持ってました。(戦記物好きの皆さんごめんなさい本当に)僕は今までアニメや漫画みたいな、パッと見て何が起きているのか分かるものばっかり見てて、背景描写を文字で見るのがすんごい苦手なんですよ……。「わ、わからん……。濃厚な描写を文字で示されてもわからん……。キャラも多いし、キャラの良さとか話の面白さとか、僕に掴めるんだろうか……。」と不安に思いながら読み進めてました……。
 が、掴めました。それはもう、鮮明に。女王様のおかげです。
 さて、このお話に出てくる女王様なんですが。
>月の光を紡いだような金の髪も、宝石の輝きを思わせる碧い目も、新雪の肌も
 と描写されているくらいの美人で、しかも、
>女神に喩えられるほどに美しく気高く──ついでに、人柄の難しさによってもよく知られている。
 なんて曲者。この描写を読んだ時。すんごいヒステリーでお堅い方なんだろうなあ、という想像をしていたんです。その出自も何やら複雑だしなあ……と。
 そんな風に思いながら、この女王様が食事について語りだすパートを見たら。
>はい。よく食べられているものは塩を利かせることで保存性を高めているのだそうです。民にとってはその方が使いやすいのでしょうし、もしかしたらそちらならもっと楽に取り寄せることができたかもしれないのですが──味は台無しになってしまいますから。せっかく卵をいただくのに、それでは魚にも申し訳ないというものでしょう。新鮮なものをほど良い塩加減で漬ければ、数日のうちに熟成して風味が出ます。ほんの一瞬の食べごろの、貴重な味ということになりますわね
 いやあ、ギャップ!!!!!!!!!!!(好き!!!!!)
 私の推しが生まれた瞬間です。
 これには思わず従者も
>クリャースタ様(女王様)がこれほど饒舌なのも珍しいな……。
 とコメントしちゃうほど。
 そして、何より、この短編のすごい所は、そのギャップが生まれる理屈が非常にロジカルに説明されているという所です。
 本編を読むと「なるほど、確かに海から山に住む事になった人にとって、魚の卵って大変得難いものだよなあ、そりゃあ女王様饒舌にもなるわ」と思わず納得してしまいます。
 その上、山の民たちの「魚の卵」に対する反応もいい。山の民たちからすれば、確かに魚なんてどうでもいいし、魚の卵を表現するとき、思わず「虫の卵」って表現が出るよなあ……。と、こんな感じで「山の民」と「海の民」の食に対する文化的な差をすごく真に迫る描写で表現していらっしゃっていて……。いやあ、すごいなあ……。
 そういった大まかなストーリーを知った上で改めて見返すと。
>《戦馬の鬣》と呼ばれる星が中天にかかるのを、アンドラーシは見上げていた。冬の夜空でひと際目立つその星は、闇の中を進む者に方角ばかりでなく時刻をも教える標しるべとなるのだ。
 という序盤の描写に込められた意味も掴めてきます。
 初見で自分はなんとなく「響きは素敵だけどお堅いなあ」という印象だけで終わってしまいましたが、二度目には、すごく素敵な意味だとわかりました。
①氷原で時間をはかる物は星……。
②そして、それを見るのは戦馬の上。
③故に、その星には《戦馬の鬣》という名前が付けられている。
 いやあ、カッコいい!!!すごくカッコいい!!
 そして、女王様の素性を知った上で見返すと、ラヨシュ君と女王様の今後の関係性にドキドキしちゃったり、ラヨシュ君を見守るアンドラーシさんがすごくいい大人に見えたり、「大きな戦争がこの後起きたら、一体どうなっちゃうの?」みたいに思っちゃったり……。色々な感情が沸々と湧きあがります。
 長く語ってしまいましたが、戦記物特有の濃厚な背景を元にした、シリアスだけれどコミカルな所もあるキャラ劇!!大変おいしくいただきました!!!ついでに僕の中の「戦記物」の概念もアップデートされました。ありがとうございます!

9 樹雨家のおいしい日常〜樹雨家長男のいちにち〜/鮭崎

謎の有袋類
 参加ありがとうございます!
 異世界転移した兄弟と幼馴染み、あと不思議な能力を持った少年のお話みたいですね。
 飯テロ描写がすごい。細かい料理の過程や、食材の様子がすごい活き活きしていて、深夜に読んだら釣られてお夜食を食べてしまいそうになるお話でした。
>もしかして交互に食べれば永遠に食べれるのでは?
 ここめちゃくちゃ好きですw
 おいしいもののコンボが決まるときありますよね。
 登場人物の個性や、関係性もわかる素敵な作品でした。
 家族の温かさや人間関係の変化、異世界転移が好きな方は是非読んで欲しいなと思います。

謎の齧歯類
 お腹へった。
 食べ物を描く筆致が素晴らしく飯テロで、読んでいるだけでお腹が減ります。素晴らしい。
 朝、昼、夜の三話で登場人物と世界、状況を説明してくれており、本編未読者でもなんとなく事情がわかる、という感じ、とはいえ説明しすぎず、登場人物の魅力的な姿に好感と好奇心を駆り立てる感じ、長編への導線のための企画短編としては非常に完成度が高い作品だと思います。
 何より本当にごはんが美味しそう。オニオンスープ、味噌焼きうどん、肉巻きおにぎりとほうれん草のナッツ和え……、ぜひご相伴したい逸品ばかりですね。お腹へった。
 もちろんそれだけではなく、不思議な生き物とおもわれるカリブーやすずめの可愛さもいいし、夜に登場した不思議な少年も神秘的で可愛らしく、仲のいい兄妹と快活そうな幼馴染もほどよく内面と言動が描かれていて、キャラクターの魅力がしっかり描写されていると思います。
 謎の齧歯類はとりあえずほうれん草があったので茹でようと思います。

謎の野菜
 うわーーーーーー飯が美味そうーーーーーーーーーーー!!!!!
 まず朝食!この作品では、単に料理の味の描写を出すだけでなく、それを作る過程を細かく丁寧に描写してくださっています!!その洗礼を受けるのがこのパート!!
>玉ねぎを鍋底と鍋肌に焼き付けながら色を付けていく。やがて玉ねぎは、べっこうあめのような色になった。
>の中で玉ねぎとベーコンがくるくると踊り始める。あとは弱火である程度煮て、ブラックペッパーを入れれば完成だ。

 料理をしている風景が鮮明に浮かび上がってきますね……。思わずお腹が減ってきます。そんな描写群を味わっていると、いつの間にかこの作品の世界観へと吸い込まれてしまうのがこのパート。
 次に昼食!
>サビ用の消しゴムを、水をつけた相棒の剪定バサミに当てる。ひさしぶりに庭仕事したらこの有様だ。べったりと付着したヤニに、雨の中で作業したせいでついた錆が混ざり合っている。
>戸惑いはあるがとりあえず張ることにした。このテントは二重構造のようだ。まず内側に張るインナーテントをペグで固定していく。インナーテントを触ると思っていたよりしっかりした素材で、防水加工がしっかり施されている印象だ。よく見るとてっぺんに通気口が空いている。二重構造をうまく利用した換気システムだろう。あとはナバホ柄のフライシートを上にかぶせてポールで立ち上げ、ペグやロープで固定するだけだ。

 うわー!!細かい!!!!作者様がきっちりとした取材をなさっている事がにじみ出てくる感じがして、とっても好きです。味噌煮込みうどんの描写も美味しそうですし、なによりそれを食べる二人の関係性が良い……。しみじみとした終わり方も、世界観への興味を引き立てられます。
 最後に夜!
>少年の目が肉巻きおにぎりにくぎ付けになった。そのまま椅子に座ろうとして、思いっきり足をぶつけた。
>「うぅ……おにくおにぎり……。」

 グリシナくーーーーーーーーん!!!かわいい!!
 相変わらず巧みな料理描写の中で、グリシナくんの魅力が存分に表現されています。かわいいなあ!!!
 そして最後に。これはこの短編全体に通底している事なのですが、キャラクターに関する情報の出し方が本当にうまいのです!例えば夜のシーン。
>嬉しそうに顔を緩める少年の服の袖から、火傷の痕が痛々しく覗く。助けた時にはひどく衰弱していた彼が、十分な治療ができないこの環境で夜食をねだるほどまでに回復したのは、奇跡ともいえるだろう。
>机に体を預けはじめている少年を抱き上げて台所を出る。そういえば初めてこの子にあったときも、こうやってベッドまで運んでいったっけ。その時と比べると、だいぶ重くなっている。元気になったと思ってもいいのだろうか。

 こういう感じの「過去に何が起きたのかは分かるけれど、何故そうなったのかはわからない」描写が徹底されています。他の部分で言えばヘラジカが出てくるシーンとかキャラクターの過去が語られているシーンとか……。見事だと思いました……。

10 山菜を背負った人が満腹になるはなし/うぃんこさん

謎の有袋類
 ねずみさんの方からおこしの方かな?参加ありがとうございます!
 プリスちゃんかわいい!
 ポストアポカリプスファンタジーという感じなのかな?
 壮大な世界観と、設定があることが伝わってきますね。
 魔法のルールも独特っぽくてとても面白く読めました。
 不幸と幸福の関係性や、不幸清浄機とプリスちゃんが自称しているのは何故なのかなどなど、本編も気になる素敵なお話でした。
 退廃的な要素や、少し後ろ向きな主人公、アクの強い女神が好きな人は好きそうな作品だなと思いました。

謎の齧歯類
 登場人物二人の能力と世界観の説明がちょい出しされていて興味を誘います。
 断片的に設定を知っているだけなのですが、多分前提知識がなくとも能力バトル系の世界観だな、ということと主人公が悲惨な事件を経験しているということはわかりやすく、良い。
 それはともかくとして植物の名前、一種突き抜けていて笑いを誘います。植物学者さんとかいたらひっくり返ってしまいそうですね。
 アブラナも花と茎から圧搾するということは現代のものとは違うな、と今ハッと気が付きました。明確に明らかにはされていませんが通常のヤシの実、大豆、米、胡麻なんかがある上でこの名前というのでも世界観が表されていそう。
 そしてそう、山菜、だいたい揚げるんですよねえ。なんでも揚げれば食える。
 プリスちゃんカワイイよプリスちゃん。
 最後のオチもついていて、クスッと出来つつ本編の行く末も示されており、よい出張短編だと思いました。

謎の野菜
 極太ファンタジーじゃあああああ!!!!!コンコンコンコンコンコンコン!!!!(カウベル)
 まず、野草を食べる!!!これいい!!!こういうサバイバル、僕個人的に好きです!!「アブナサソウ」とか「クエナサソウ」なんてトンチキな名前を使っていますが、そこに添えられた説明文にはかなり説得力があって、とても好きだなと思いました。
>「で、油の方だが……お前、食用油が何から精製されるか知ってるか?」
>「そういえば気にした事無いですね。菜種油ってよく言いますし、何らかの野草から採れるのでは?」
>「……1割正解だな。確かに、このフロンティアアブラナでも油は採れる」
>ネクターは自分から見て左の不可食ゾーンに置いた黄色い花を指し示す。
>「ああ、だから食べられない方に置いたんですね」
>「山菜を揚げるための貴重な素材だからな。ここじゃ採れないし時期も違うが、こんなのでも油になるぞ」

 こんなところからも、作者様の取材力、設定の深さ、キャラの動かし方のリアルさ、それらが窺えます。
 そして、世界観、というかホームレスという着眼点がいい!!とてもいい!!大好き!!!ホームレスに『幸せ』を与える神と呼ばれた男と、『不幸清浄機』を自称する少女……。いやあ、そそるなあ……!!!!これだけでご飯何杯も行けちゃう。
 その上、この短編に描かれているホームレスの人々の暮らしぶりも想像しやすくてとっても好きです!!ホームレス達が力やら知識やらを共有して、一生懸命暮らしている様……。いいですね……!!(しみじみ)
 設定、世界観、着眼点。その全てが個人的にめーーーーーーーちゃくちゃぶっ刺さった作品でした!!

11 味噌汁というか最早「小松菜の味噌漬」/シ流ツっケ

謎の有袋類
  参加ありがとうございます。
 独特のテンポの良さと、世界観が展開されている作品です。
 これ、トンチキだけどダークがチラ見せされている???
 勢いがすごくてちょっと読み取れていない部分もあるかもしれないんですが、名のない存在に名を与えるとか、アカシックレコードなんてものが飛び出してくるので作者の方はオカルトとかムーとか好きなのかな?と思いました。
 アクションシーンもかっこいいです!
 本編も、もしかしてこのテンションで行くんですか???とつい気になってしまう面白い作品でした。
 小松菜が伝説のアイテムって好きw
 アクの強い文章や、極端な世界観が好きな人は読んでみることをオススメします。

謎の齧歯類
 冒頭にぽんと置かれたシーンが、おお、これは一体何が起こっているのだ? と興味を引きます。程よい悪夢っぽさと狂気感。現実感のなさは意図したものなのか。
 読みすすめると明るいボケツッコミとぽんぽんと交わされる軽妙な会話。でも「この村には饅頭と果物と水、お酒は良く届くのだけれど」とか、明らかに仏壇のお供え物っぽい。やはりどこか不穏です。
 ノリと筆致はスラップスティックで明るく、洞窟探索もその先に居る名前のないものもギャグノリで明るいものの、これはやっぱり薄紙一枚向こうは昏いはらわためいた何かかな?という雰囲気。
 そこで説明される「異世界」という概念、インナーワールドめいた、これも独特ですね。この洞窟?も異世界なのでしょうか。
 そして戦闘がこれまでの印象を周りからくりのごとく覆し、めちゃくちゃかっこいい。
 将軍さんが名付けた草が小松菜、あの少女が食べていたのはどういう時系列なのだろう。疑問は残りますが、きっとそれは本編を読めばわかることなのでしょう。
(ふと思い立ってググったら、小松菜は本当に将軍が名付けたのですね。つまりそういうことか。)最後、続きが再演されるのもきゅっとする感じで良かったです。

謎の野菜
>「■■■ちゃん。お味噌とってー」
 まずここで、おおっと?となりました。
>母が掬《すく》い終わると、巻き戻るように行動を遡さかのってまたテーブルに座る。昨日母とは喧嘩をしたばかりだったが、いつも朝になればこんな調子で日常がリセットされている。ボケーと、キッチンカウンターに置いてある水槽を眺めている。その水槽の中に魚はいないが、水中のアスレチックを赤い球が、ふんわり転がって周るというものだ。何度もトンネルを潜ってシーソーシーソー。赤が滑り台に登ったところで、少女はハッとした。
 
そしてすぐさま繰り出される、この素敵な描写のコンボ!!「ウワッ、これ面白い奴だ……。」という感想が思わず出力されました。そこから続く、お父さんとの関係描写もいいですねー。なんというか、家に帰ってこない「父親」と「娘」の関係が生々しく描かれていて、とてもいいなあって。そう思ってたら。
>「______<long long ago or future>」
 私:??????(???????????)
 疑問まみれの私をよそに、作者様の展開する圧倒的な世界観がドンドン押し寄せてきます。その情報の量たるや。
>ミノリは恨めしさ全開で商店街を歩く。この村は全部白いコンクリートで覆われているが、いろんな窪くぼみを利用して店が開かれていた。きちんと人の生業は再生されているので、その四角い横穴には色様々の暖簾のれんがしてあるし、団子を焼く匂いはするし、威勢のいい呼び込みも聞こえる。
>「それじゃあ逆に訊ねるが、お嬢ちゃんはいつ、どこでコマツナを食べたのかね?」(中略)ミノリは答えが出せなかった。そんなものいつ食べたのだろうと。
>少女の輪郭が地震計のグラフのように、ざわつき始める。
> 少女は絶望した。果たして味噌汁はできるのか!?
>次回最終話「ジェネラル・オブ・ストーム」キミは出汁の輝きを見る!

 個人的に大好きです、こういうの。非現実的な世界観をゆっくりと飲み込ませるのではなく、そのままぶっかける感じというか。勢いがとにかくすごい。それでいて、なんとなく言わんとしている事が掴めるのもすごい力量ですね……。
 言い回しもまたすごい。
>「まいったか~!?このままだと、このおいしそうなほっぺが落ちちゃうぞ~~!」
>ぼとっと落ちた。
>「ぁどりゃあああぁあぁぁぁぁ!?あァ!?」
>ミノリはまたもや尻餅をついた。それに飽き足らず、ぐるぐる後転して遠ざかっていく。
>「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごごめんなさいめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごなんめさいごめんなさいごめんなさごめんなさいいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
>「死亡フラグ将軍んンン!!!」
>壊れた少女の声がした。天高くから墜ちて来て、手には黒い長方形の大剣〈根源流転(ダフネ)〉。その不気味なほどに一切飾りの無いのっぺらな血みどろは、ホラーゲームに出てくる巨大で暴力的なボスの武器のようだ。それを華奢きゃしゃな少女の腕が振り下ろす。
>「ナンノォ!!ZAN-SHIN!」
> 続いてしまうーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 狂気じみているけれど、パワフルで痛快。いいなあ、この世界観。素直にドストライクです。
 そして戦闘描写が巧い。とにかく巧い。読んでいて爽快な描写が勢いよく、どんどんと出てきます。
>白い面の奥から歯が軋み続ける音、いつから在ったのか巨大な弓の弦と一体になった少女の肩甲骨は限界まで張られ、体操の伸脚《しんきゃく》のように低く構えた脚の白肌をのたうつ血管、両の足の指が、荒削りの岩の側面を穿って体《たい》を支えている。それはまるで神話の英雄が、被造物を射殺す瞬間のような。
>その斬撃に反対側の果てが横一線に抉られる。ところが大将軍は少女の足刀に、胴を抉られていた。少女の胸の高さを狙った一閃は、少女が頭を倒して回ったことにより回避されている。頭から左脚までを一本の棒にして、自然に倒れるように回った。だから当然倒れた頭の代わりに、少女の脚が迫る大将軍へと薙いでくる。さらにその旋状の弧には、八ツ俣《ヤツマタ》の大蛇すら鎮めた白炎が奔はしっていた。

「いやあ、すごい……。」この一言に尽きますね。いつか、僕もこれぐらいの物を書ける力量を持ちたいですね……。

12 彼と私の晩御飯/しらす

謎の有袋類
 参加ありがとうございます!
 異種族であるオークのザグくんと、同居をしている30歳の女性のお話。
 すごいほっこりしたし、飯テロの威力もすごかったです。
>3食のどこかで必ず肉をメインに食べるくらいだ
 あれ?他の人は3食のどこにも肉メインじゃない回があっても平気なの?という小さな認識の違いに驚いてしまった……。人と自分の認識の差を知ることが出来るのも創作の良い点ですね。
 お肉の油がしんどくなってくる30歳の人間の女性と、食べ盛りの若いオーク、違う種族、違う年齢の二人が食べ物を通してお互いをわかりあうすごく温かなお話でした。
 ほのぼの異種族交流が好きな方は絶対好きだと思うので是非読んで欲しいなと思いました。

謎の齧歯類
 現代社会にオークさんがやってきてしまったのかな、と言うことが冒頭の生活感あふれる単語で把握しやすく、お仕事がお忙しく、疲れた女の人が主人公だな、とすっと染みてきます。
 誰かが作ってくれる夕ご飯。いいものですね。ただ、確かに疲れたOLさんの夕ごはんとしては肉単品山盛り味付け塩コショウのみはとても厳しい。若い年下の男の子、ともなれば現代日本男子でもやらかしそうな気はする類のハプニングでもありますが、きっと異種族で、多分異世界の育ちの人ならさらにその辺の感覚には溝というものがあるのでしょうと、まず笑顔になってしまいました。
 謎の齧歯類は牛肉なら塩コショウで単体で戦えるタイプの齧歯類なので切実さはありませんが、それでもユキさんが用意した玉ねぎカルビ丼ともやしとワカメの酢の物のマリアージュはとても美味しそう。
 そして明らかになる焼き肉の山盛りを選択した理由。溝だな、と前半思ったそれは、これがちゃんと思いやりに即していて、世界の差というものを感じさせつつも、とても温かい。
 思い合う心とわかりあう経緯が温かい、良いお話でした。

謎の野菜
 ほ、ほのぼの空間……!
>11月の太陽は沈むのが早く、仕事を終えて帰宅する頃にはすでに真っ暗だ。
>暗くなってからつく家路は、寒さも相まって何となく心細い。
>明るい駅の中ですら買い物をする気になれず、家へと向かう足は自然と早くなる。
>そのうえ今夜は同居人が夕食を作ってくれることになっていた。

 冒頭のこの部分!秀逸ですねえ……。「寒くて暗い夜道だけど、家に帰れば同居人がいて、しかも料理を作って待ってくれている」という主人公の心情が、「足が早くなる」という動作を軸に、端的かつ鮮やかに描かれています。作者様の培ったスキルですとか、センスの良さといったものを感じます……。
 さて、そんな主人公の帰りを家で待ってくれているその同居人なのですが、
>稀人(まれびと)と呼ばれるその彼、ザグルは人間ではなく、オークという種族の青年である。
 そう、人間ではありません。オークです。しかし。このオークと主人公の暮らしぶりがとってもほのぼのとしているのです!!!
>「確かにザグの歳ならお肉たくさん食べた方がいいけど、私はもう30歳よ。これ以上は大きくならないの」
>「なにぃ!?ユキはもう一生ちっこいまんまだってのか!?」
>よほど驚いたのか、目を丸くして大声を出したザグルの口からご飯粒が飛んだ。
>それを指さすと彼は慌てて手で口を塞ぎ、落ちたご飯粒を拾ってしばしもぐもぐする。
>ちなみにザグルに初めて玉ねぎを切らせたときは、両目と鼻を押さえて大騒ぎしたのだ。痛い痛いと地団太を踏むようにジタバタし、キッチンから逃げ出し、床に座り込んでボロボロ泣き出す始末だった。

 ホッコリするなあ……。しかも、描写の仕方が巧みですね。上に挙げた文中の「彼は慌てて手で口を塞ぎ、落ちたご飯粒を拾ってしばしもぐもぐする。」や「痛い痛いと地団太を踏むようにジタバタし、キッチンから逃げ出し、床に座り込んでボロボロ泣き出す始末だった。」なんて特にすごいですよね。キャラクターが生き生きと動いている姿が、鮮やかに頭の中に浮かんできます。
 描写が鮮やかなのはキャラクターだけではありません。料理描写もこれまた秀逸なのです。
>甘じょっぱいタレが絡んだカルビはほどよく焼けて柔らかく、シャキシャキの食感が残る玉ねぎは甘くて、少しだけピリッと辛みが利いている。牛肉と玉ねぎのうま味が混ざった醤油ダレのしみたご飯も、これだけで食べられそうな美味しさだ。
>口の中が脂っぽくなってきたら、もやしの酢の物を食べてリセットする。
>ほどよく口の中をすっきりさせてくれるので、
>再びカルビ丼に戻ると味が際立つような気がした。
>多すぎる気がした牛肉も、これなら余裕で食べられそうだ。

 これはほんの一例。本編はもっとおいしい描写の目白押しなので、この文を読んでくださった方には、是非とも本編を見て、その描写の上手さを味わっていただきたい。
 そして、お話の展開。これもまた、ほのぼのとしていてとっても良い!!!
 オークと人間の間の文化的なギャップのお話なのかな、と思いきや……?
「その夕飯にはワケがある」というキャッチコピーがピッタリな、とっても美味しい短編でした!!!

13 わたしは知識の悪魔。経験はまだない。いろいろな意味で。/偽教授

謎の有袋類
 来たな偽教授!参加ありがとうございます!
 13番目のエントリーで悪魔というのは狙ったんですか???(深読み)
 鱧いいですね。食べた事無いのでアナゴ的な感じか?あいつもウナギの仲間だもんな。と思いながら読みました。
 っていうか、えー?リオンちゃん可愛すぎません???
 それにダンテくんめちゃくちゃイケメンの雰囲気じゃないですか。これこそ出張読み切り!って感じのお話だった。
 これはキュンですか?キュン?それにお宿のご飯おいしそう。ところどころのリオンちゃんの年相応のリアクションもかーわーいーいー!
 悪魔が好きな方、現代ファンタジーが好きな方、ツンデレロリが好きな方にはオススメな作品。

謎の齧歯類
 うおお、すごい。冒頭のわかりやすさと情報量。
 そして怒涛のごとく読み終わったところで納得がいく、タイトルの意味。
 すごい。この量の文章をなめらかに読ませる技術と、スムーズにちょっとどきどきなシチュエーション、そこにシリアスなやり取りを浮かべて少女らしい内心を流し込んでくる手腕。つわものですね?
 こんなに可愛いヒロイン(?)がカワイイ内心ながら傲慢な言動を行っている、と知ってから行く本編。とても期待が持ててしまいます。これはすごい。
 ところで謎の齧歯類ははもがすきです。鱧の梅肉和えの白身で温和な味わい、淡く焦がした皮目のとろりとした感触、ああ、鱧が食べたくなりました。

謎の野菜
 いや、冒頭文がすごいですね……。専門用語だらけの文章は下手に扱うと「何を言っているんだろう?」という感想を読者に与えかねないのですが、この文を読んでいて、そんな感想は抱きませんでした。それどころか、冒頭の説明文を読むだけで「主人公は『博識』である」という設定を、頭だけではなく心から受け入れる事も可能……。見事な技前ですねえ……。
 もちろん、すごいのは冒頭だけではありません。以下の文は作中の主人公であるリオンちゃんの独白です。
>丁寧に身体を拭き、浴衣を纏い、わたしはしずしずと旅館の廊下を歩く。だが、自分たちの泊まっている部屋が近づくと、態度を改めた。あえて尊大な風を装い、ずしずしと歩く。わたしは悪魔だ。悪魔の大公爵なのだ。
>……そうとでも気を張り詰めていないと、自分の脆さに耐えられないもので。

 この部分!ここだけで、リオンちゃんのキャラクター性がめちゃくちゃハッキリと分かります!かわいい……。
 さて、作中全体の話をしますと、リオンちゃんとダンテ(多分イケメン)が、温泉旅館の料理を食べるお話です。そして、作中の語り手はリオンちゃん。本編全部、彼女の独白なのですが、これがすんごい読みやすい。
>わたしは牡丹鱧の残りを齧り、横を向く。さて、最後に残ったのは鱧寿司。寿司といっても、今日一般になじみ深い握りずしではない。棒寿司を六つ切りにしたものだ。鱧を白焼きにし、付け焼きをして、隠し味に……ダメだ、流石に分からない。とにかく、何か隠し味を使って焼いてある。シャリは酢飯。さて、パクリと。
>きゃー、お口の中が至福!
>などと思っているが、ダンテの前では澄ました顔を貫くわたしである。最後に茶を頂いて、食事はお開きだ。仲居がやってきて膳を下げ、布団を敷いた。

 リオンちゃんが「博識」である事を生かした細かい料理描写の中に混ざる、リオンちゃんの純粋な感情……。キャラの造詣がありありとと伝わってきます。
>「あらあら。可愛らしゅうおますな」(By仲居さん)
 まさにその一言!その一言に尽きます!
(追記)え!?これ、本編は男視点なの!?その上でこの話の展開!?いや、構成力すごすぎるでしょ!!

14 独尊サバイバー/狐

謎の有袋類
 狐さんだ!参加ありがとうございます!
 フィリップくんのお話だ----!僕は既にシリーズを読んでるんですが、フィリップくんいいですよね。
 初めて触れたジャンクな味にハマるフィリップくん可愛い。そして住居を勝ち取った後に得た次の居場所。
 狐さんの作品、すごく設定も好きだし、世界観も近未来風現代ファンタジーと言う感じで大好きです。
 まだフィリップくんが分裂する能力まで追いついていない気がする……。先を読むのが楽しみになる作品でした。
 こちらはサイバーパンクや、異能バトル、少年マンガとかアメコミが好きな人は多分気に入ると思うので、これに当てはまる方には是非読んで欲しいなと思います。

謎の齧歯類
 おおっ、ハードボイルドだ、格好いい。
 主人公の少年とお付きめいた挙動のバク。
 彼がどうやら権力者の身内らしい、ということが察せられる冒頭。コインに顔がついている、というのだから父とは貴族階級とかそういう生易しいものではなくて王とかそういう権力者なのでしょうか。
 一瞬、アメリカが新大陸だったころの物語めいたイメージを持ちましたが、次のシーンで描写される風景ではミッドセンチュリー以降の雰囲気を感じます。ネオン、摩天楼、大都市、そして浮浪者と冷凍ピザ。脳内でやっぱりアメリカがチラチラしましたが、極東ということと冷凍食品の会社の名前から、やはり日本に近い場所なのか。しかしアルカトピア、方舟郷という意味でしょうか。なんだかうそざむいような名前です。
 明かされる能力と代償。うわあ、やっぱり国の名前が密接に関わってきそうな世界観。なるほど、能力というやつは得だけ出来るようなものではなく、合わないと代償があるようなものなのか。
 家主が居なくなってから自然解凍したピザを食べていた、という一節に切なくなりました。初めて食べた時の描写の力強い生命感があるとなおさらその味気なさが響きますね。最後で出てきた少年は本編での仲間なのでしょうか。彼が一緒にピザを分け合う仲間ができてよかった、と感じました。
 ところでビザと呼んでいるの、誤字でないと仮定するんですが、可愛らしいですね。そんなものに触れたこともない良家の御曹司が音から名前を知った、という雰囲気が出ていて。

謎の野菜
 カッコいい……。いや、本当にカッコイイ……。(初読時の感想)
……まずこの短編、本当に情景描写が上手です!!
 例えばコレ!!
>自然溢れていた故郷とは異なり、ビルが林立する夜景が広がっている。降り頻る雨が巨人めいたシルエットを濡らし、遠くで明滅するネオン光が煌びやかだ。まるで、自由を体現しているようだった。
 これいいですよね!!この一文だけで主人公の生まれやその思いが鮮明に伝わってきます。「まるで、自由を体現しているようだった。」なんて特にすごい。「自由」を求めて、故郷から脱出してきた主人公の思いが集約されちゃってます。教科書に載せたいくらい、巧みな情景描写だなあ、と勝手に感心していました。
>ベランダに繫がる大きな窓はガラスが外されており、厚い雲の下で輝く街の風景を鮮明に視界へ届けていた。電気は辛うじて通っているようで、周辺の建物から養分を吸い取るようにケーブルが床を這っている。
 ここも好きです!この一か所だけで、この部屋のジャンク感やら、この建物周辺しっかりと伝わってきます。特に「周辺の建物から養分を吸い取るようにケーブルが床を這っている。」なんて、詩的でカッコイイですよね……。「この廃ビルに住んでいる人たちはろくでなしばっかだよ」という事を、キャラが語らずともこの背景描写がしっかりと語ってくれています。
 また、戦闘描写もすごく鮮明かつリズミカルです。例えば。
>逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ、死ぬ。頭ではわかっているのに、身体が恐怖で動かないのだ。
 コレ。さらっと書かれていますが、すごい技術ですね……。普通に「逃げなければ、死ぬ」と書くよりも、圧倒的に切実さが伝わってきます。
>それは、巨大な猛禽だった。アスファルトに鉤爪を突き刺し、翼を畳んで静止している。表情は嘴くちばしと一体化した非生物的な仮面によって読み取れないが、決して穏やかなものではないだろう。防犯ブザーのように断続的な囀さえずりを繰り返し、しきりに首を動かしていた。
 その次の部分にあるこれもすごい。巨大な猛禽の脅威が生々しく伝わってくるのももちろんすごいんですが、個人的には「非生物的な仮面」という言い回しが好きです。こういう感じの言い回し、僕はすごく好きなんですけど、自分はなかなか使いこなせないので、こんなに鮮やかに使えるのは本当に尊敬します。
 他にも、この短編には作者様の巧みな描写テクニックが詰まっており、どれも額縁にいれて飾りたいレベルの物ばかり。一文一文を見るたびに「カッコイイ……」という感想が出力される文章、なかなか無いと思います。
 文章テクニックの巧みさのみならず、話の構成もめちゃくちゃいい!!
>相変わらず、冷たいピザだ。初めて食べたときは家主が温めたものを食べていたが、それ以降は自然解凍したものをそのまま食べていたのである。タバスコを掛けて味を変え、黙々と食す。それは、既に栄養補給へ変わっていた。
 この部分。この部分が本当にいい……。「食事」の意味合いが、以前とは変わってしまった事。それがはっきりと伝わってきます。しかも「温めたもの」から「自然解凍」のものに置き換わった事で、主人公の寂しさが、読者の舌を通じて鮮明に伝わってきます。
 こういう描写を食らった後。その最後にお出しされるのが次の文章です。
>8等分されたピザは、一枚を丸々食べていた時より満足感は少ない。それでも、冷たくないのだ。柔らかい生地は暖かく、それだけで心を満たす。今のフィリップの空虚を満たすには、そういったものが効果的だった。
「孤独」を追い求めてきた主人公が、「孤独」の辛さを知り、最終的にはこのセリフを吐く様になるのです……!!いやあ、良い!!!!!
 短編ながら、主人公の成長っぷりまでも窺える、すごい文章でした!!

15 嘆きの森の食卓/鍋島小骨

謎の有袋類
 鍋島さん!参加ありがとうございます!
 月とリリアのひとしずくはもうめちゃくちゃ好きなのでちょっと冷静に話せないんですけど、これは本当にここから入ってリリアちゃんがどうやって幸せになるのかを見るルートもありだなとなりました。
 ルビで世界観を表すのがとても上手な作者さんなのですが、古典というか伝統的な吸血鬼像を利用しながら生きているかなり変わり者の吸血鬼と、不遇少女の物語です。
 メイエさん……「子供たち」って言ってるじゃん。それにギィ……メイエさんとそんな仲になって。良い同僚とか良い同居人過ぎる……好き。
 メイエさんは人のまま一生を終えても、このまま魔族になってもどっちにしても色々な子供たちに囲まれてヴィルカとリリア、ギィさんたちと幸せになって欲しい。ううう。
 あと、鹿を解体するギィさん解釈一致です!ありがとうございます!
 不遇少女と吸血鬼、人外が大好きな人は是非読んでください。

謎の齧歯類
 いいですね、いい……。
 本編に興味を持たせる短編、というものには色々方法があると思うのですが、これは「物語が大団円を迎えたあとのエピローグ」を出すタイプで、その目論見はとても成功しているな!!と思いました。(えらそう)
 パステルで書いた絵とブルーインクのカリグラフィー文字の絵本でこのお話を読みたいな、と思うような雰囲気。
 漢字とルビの使い方もすごくいいですね。この不思議な響きの言葉の不思議な生き物の人たちが楽しそうに暮らしている、一体どういう経緯でそうなったか、というのを見てみたいと思いました。
 辛いことも色々あったのだな、というのは文面の端々から察せられますし、このメイエさんが仕えているというリリアさんは苦難の道を歩いてきた気配がするのですが、それでも最終的にこんなに幸せそうなお話が待っているのなら安心して読めそうです。
 ことばがたどたどしい小鴉3羽が作ってくれるきのこのスープ、というイメージがまたいいです。料理を作るのは人の姿なのか、魔族の姿なのか、どちらでも絶対にかわいい。ぐつぐつぐるぐるあつあつふうふう、いい。

謎の野菜
 この短編、まずネーミングセンスがいい!!!!!
>私が仕える星屑《リリア》とこの屋敷の主である新月《ヴィルカ》はお互いを伴侶としている。本当に仲の良い二人で、ヴィルカはリリアを溺愛しているし、リリアもヴィルカを心から慕っている。それはもう、ちょっと見ていられないくらいに。
 確かに「星屑」が一番煌めいて見えるのは、月が輝かない「新月」の夜ですもんね!!!本当にいいネーミングセンスをしていらっしゃる……。
 そして、次にあげる例を見てくださると分かると思うんですが、この作者様、ルビの使い方がめちゃくちゃ巧いのです。
>例えば、吸血鬼《ヴィルカ》はたいてい先に起きて書き物や料理をしたりしているが、しょっちゅうこうしてリリアの寝室に戻ってくるのだ。朝食の席で会うまで待てないのだという。まったく、付き合ってはいられない。
 新月の「ヴィルカ」と吸血鬼の「ヴィルカ」、同じヴィルカというキャラクターでも、ルビを使い分ける事で、「新月」と書かれるヴィルカは「星屑《リリア》の伴侶としてのヴィルカ」、「吸血鬼」と書かれるヴィルカは「文字通り、化け物の吸血鬼としてのヴィルカ」と、キャラクターが持つ様々な側面をコンパクトに表現してらっしゃいます。
 この上手なルビ芸も手伝って、ヴィルカというキャラクターの色々な面がスムーズに伝わってきます。ある時は星屑《リリア》の伴侶、ある時は吸血鬼、そしてある時は主人公の先生、そしてある時はリリアを苦境から解放してくれた恩人……。ヴィルカというキャラクターの魅力が、多彩な方面から描かれています。
 また、作中で描写されるリリアもまた魅力的です。
 語り手(侍女メイエさん)はリリアを主人とする仕え人なのですが、その視点から語られるリリアの過去はとても陰惨です。
>パンの焼けたいい匂い。柔らかく切り分けられたバター。湯気を立てるスープに、牛乳たっぷりのお茶。珍しいわけでもなく、豪勢なわけでもない、言ってみれば平凡な食卓だ。
 
という描写に対して
>でも私の仕えるリリアは、この食卓が夢のようだと言う。
>食べ物が与えられずに人の食事あとからパンくずを拾って食べていたという人間時代、どれほど飢えて辛い思いをしていたことか。
 という描写が返ってくるほど、辛い過去を送っていました。
 しかし、今の彼女はどうでしょう。
>木の匙さじで細かく切られた具ごとスープをすくって、リリアはそれをお行儀よく飲む。
>(中略)ああ、でも、この少女にはお行儀などよりはるかに大事なことがあるのだ。それが、溶けるような笑顔から分かる。
>「……おいふぃー」
>沁み通るような声と笑顔でリリアがそう言うと、人鴉ゼムトたちは伸び上がってお互いの顔を見比べ、たちまち輝くような、自慢げな表情になった。
>「ねぇみんな味見した? すごくおいしい、きのこおいしい」
 
めちゃくちゃ幸せそうじゃないですかーーーー!!!やったーー!!
「……おいふぃー」という口調!これがいいですね!直前の「溶ける様な笑顔」という表現と上手く絡みあい、まさに幸せの真っただ中にいるリリアちゃんの表情や声が鮮明に浮かんできます。思わず読者の顔がニンマリしてしまう、微笑ましい光景です。
>リリアに必要だったのはこれだ。
>大事なおまえが飢えないように、温かくておいしいものを、みんなで一緒に、という食卓こそが、誰も彼もに見下されお腹を空かせて孤独に生きてきたリリアには、絶対に必要だったのだ。

 これは語り手の独白なのですが、この文から語り手のリリアちゃんへの思い、そしてリリアちゃんが抱えた過去が垣間見えます。
>まったく、この私が吸血鬼に感謝する日が来るとはね。こんなことを書いて送ったら気が違ったと思われるかもしれないから、やっぱり手紙を書くのはやめましょう。
>だって、書くとしたらこうですよ。

 に続く部分なんかも併せてみると、「リリアちゃん、本当に良かったね……!」という気持ちになります。
 そして、語り手もまた魅力的。
>私の人生?
>そうね。リリアに全力でお仕えすると決めた。
>着いていける範囲でなるべく遠くまで一緒に行くというのも、仕え方のひとつではある。死の国へ辿り着きアルケ様(リリアのお母さん)にお会いするのが遅くはなるけれど。
>そして、これこそ本当にワイムさんへの手紙には書けないな、と思って私も少し笑ってしまった。

 この一文だけで、そのカッコよさが存分に伝わってきます。その上、主な登場人物を取り囲む人鴉《ゼムト》や人狼《ユール》もみーんな魅力的!!
 大きな困難を乗り越えた後の、大団円を見ているようで、とても温かな気分になれました!ありがとうございます!!

謎の有袋類
 大きな困難を乗り越えた後の、大団円なので是非読んでください(鍋島さんの強火オタク)

16 小皿の上のXXX/佳原雪

謎の有袋類
 わーい!参加ありがとうございます!ねずみさんの相互さん!
 人肉のパイ、やはり雑食の動物は臭みがあるのでスパイスを利かせるんですかね。
>青みがかった黄土色。弾力のあるビニールじみた皮膜
 一瞬魚人的なお肉かなと思ったんですが、魔術師のお肉だとは……。合成肉という響きや、自分を母だと主張しする女王など、とても気になる設定がたくさんあってすごく興味が引かれました。
 というか、リロイさんとヴィクターさん、これはおデートをする間柄なんですか?ときめいてしまう……。
 お肉系のパイ、余り食べた事が無いのでちょっと食べてみたいなと思いました(僕はキングスマンGCでもハンバーガーが食べたくなる生き物なので)
 人間より上位種族がいる作品が好きな方は多分ハマると思うので、短編から気になったら本編へGO!

謎の齧歯類
 わあい いつもお世話に(暗号文)
 ともあれ、リロイさんが特に空腹ではなくてよかったね、という事態。
 これは二人共気づかなかったなら一体何が起こっていたのでしょうね。
 祭りの日に女王の要素を摂取する、とか、そういう慣習がいつかのどこかにはあったりするんでしょうか、ありそうだな、恐ろしい。
 パイを探っていて人の表皮が出てくる、数日食欲が失せてしまいそうでリロイさんが心配なのですが、そのあたりは心が強そうなので大丈夫なのでしょうか。ヴィクターさんも数日うっかりしたときに味を思い出しそうで心配になります。
 性別を問わぬ「女王」、神託、理解できない行動をする神がかりっぽい人(しかも二種類)議会に議長。世界の要素が散りばめられており興味を引きます。
 本編既読者なのでぐっとカメラの寄ったお話である本編と、世界の要素を引きで映したこちらの違いにニコニコしてしまうのですが、これもまた良い。
 相棒が害されると怒るリロイさんも、口直しにお出かけに伴うヴィクターさんも良いものでした。仲良しだ。なにかまともなものでしっかり口直しをしてもらいたい。

謎の野菜
 うわ、怖っ……。(初読時の感想)
 ……記憶喪失の女王様、アルゴスに振り回される従者二人の物語です。
 女王様の言動が自分にはなかなか不可解でした。
>「元気にしていたか? リロイ、今日は土産がある」
>機嫌良く言ったヴィクターは花とリボンで飾られた篭から丸い包みを取り出し、リロイへと差し出した。受け取ってみるとずっしりと重い。示された通りに開けてみると、中にはパイが一台包まれていた。焼いてからそう時間の経っていないであろうパリッとした生地からは僅かにスパイスが香る。

 という感じでヴィクターがリロイへパイを持ってきた所から話が始まります。
 実はこのパイ、女王様が直々に作ったものだと言うのです。
>ヴィクターはさくさくとパイを切り分け、器用に口へ運んでいく。外を駆け回っているとどうしたって腹が減るのだろうな、と机仕事にばかり拘束されるリロイはぼんやり考えた。
 結局はヴィクターがパイを食べちゃいます。しかし。
>「ヴィク、いましがた食べた物を吐き出せ。すぐにだ」
>「これは魔術士の肉だ。俺の取り分に表皮が混じっていた。……匙を入れたとき、妙に固い肉だと思ったが『合成品』なら納得だ。ヴィクター、アルゴスに会ったと言っただろう。髪が短くなってはいなかったか」

 中身は、人肉でした……。どうやら、人肉を食べる事が大きな問題になるらしく、すぐさま対処をする二人。
>オフィキナリスだぞ、と念を押すようにヴィクターは言う。リロイは眉をひそめた。
>「それは……いや、いい。少し待っていろ、すぐ戻る……」
>すぐ戻る、といった言葉通り、リロイは時を待たず戻ってきた。ヴィクターは差し出された薬包紙を見ながら、戸惑うような声を上げた。
>「まさか乾いた薬を出されるとは思わなかったが……」
>「散剤よりシロップの方が好ましいか? 即席のものであるが……いや、だからこそ、かなり強い調剤になっている。飲み込んでしばらくしたら絞扼反射じみた吐き気が出る。二分以上腹に入れておけ。そうすればあとの憂いはない」
>「胸の悪くなるような調剤をするんだな…… いや、すまない。助かる」
>言いながらヴィクターは部屋をあとにする。リロイは無遠慮にバタンと閉じる扉を眺め、そこにヴィクターの焦りを見て取った。

 人肉を食べてしまった事に対処する二人の様子が、淡々とした語り口で語られます。この部分、いいですね。淡々とした語り口だけれど、目の前の危機に冷静に対処しようと振る舞っている二人の様子や、二人の間に信頼関係があることがわかります。
 淡々とした語り口だからこそ、冷静に対処しようと努めているけど、内心気が気でない二人の様子が鮮明に描かれている様にも感じられます。
 一旦処置が終わり、ひと段落付いたところで、「女王様、なんで人肉入れたんだろう?」という疑問を解消すべく、お互いが話し合うシーンになります。
>「どういう意味だ? 思惑によって何かをするという役回りではなかろう。アルゴスも、ディアナもだ」
>「……ディアナ?」
>「ああ、このアルゴスの下賜であるおぞましいパイのことなんだが、本来、ディアナのために作られた品なのではないかと思ったんだ。変な話じゃないだろう。この間だって……いや……」
>「何かあったのか?」
>「なんだよ、そんなに気になることか? あいつ、俺をみるなり剣を抜いて、『髪をひとふさくれないか』と言ってきたんだ。全く、気持ちが悪いったらない。今思い出してもぞっとするね……」

 ここの会話のさせ方が、すごく上手だと思いました。
 読んでいる僕も二人と同様、何やら薄ら寒くて、不気味な気持ちになってしまいます。
>「髪を? 髪だけか?」
>「だけってなんだよ、お前、ことの重大さに……ああ、そうか、前は手を求……いや、『落とされそうになった』んだったな。お前の言いたいのはそういうことか?」
>刀を鳴らして手首を落とす相談を持ちかけるディアナを思い出し、リロイは嫌な気持ちになった。ヴィクターはあのとき確かに断ったのだが、ディアナはどうも諦めていないような気配がある。手は落とせばそれきりだが、髪はまた生えてくる。そしてディアナはそのことを知っている。
>「そういうことだ。……ディアナは術士ではない。何に使うというわけでもなく、お前を損なおうという思惑もなく、ただ、欲しいだけだ。そこにおそらく意図はない」

 いやあ、ディアナさん、不気味ぃ……。意図がないというのが、かえって怖い……。
 その後。なんやかんやあって、そんな不気味なディアナの元に、二人がパイを持っていきます。そんなディアナの見た目を引用します。
>胸までしかない背丈、見た目にそぐわぬ低められた声に金の巻き髪。大きな銀の犬を連れた由来不明の少年はディアナ。歳をとらず眠らない彼は、議会所属の女王だった。
 良い……。(しみじみ)
 見た目の描写って難しいと思っていて、今まで読者に植え付けてきたディアナの不気味な印象(僕だけが不気味だと思っていたらすみません)が一気に崩れてしまうと思うんです。でも、この描写は不気味さや得体の知れなさの中にある妖しい魅力がありありと見えてきます。
 男性にも拘わらず「議会所属の女王」にされているという点も、複雑な政治事情が裏にあるんだなという事が伺えて、すごいなと思いました。
 あと、小さい背丈に、長い金髪を持つ不老者……。そこが僕の心にクリティカルヒットです。
「男」なのに「女」のような髪を持ち、年齢は18歳以上と現代日本で選挙権を得られるくらいに━━それこそ、時代によっては完全に「大人」扱いされてしまう程に━━年を取っているのに「子供」のような小ささで、その上「子供」のような風貌なのに「大人の男性」のような声を持つ……。色々な要素が反発しあっていて、とても好きだなと思いました……。
 長くない描写鮮やかに浮かんできますからでも、超常的な魅力が伝わってきます。
>ヴィクターは抱えていた篭、女王のパイを差し出す。篭を見てディアナは何かを悟ったらしく、『ああ、これか』と言った。
>「確かにそうだね、でも、私はこれを食べられない。食べてはいけないんだ。理由はわからないが、口にするわけにはいかない」
>「神託か? 一体何が起こると言うんだ? それは見えるか?」
>「私がこの世界に生まれなくなる。かなりの影響が出るだろうね。うん? 影響が出るらしい。つまりまだ私は生まれていない……」
>口元に手を当て、考えこむようにした女王の話を一方的に打ち切り、ヴィクターは質問を変えることにした。リロイはヴィクターに同情する。『神託』は不完全だ。未来視を受けたディアナはこうして断片的な言葉を連ねて黙り込む癖がある。長く聞かされるのはたまったものではなかろうな、と嫌でもわかる。

 この「神託」描写もすごく好きです。なんというか、「『神託』で未来が見えるのなら、こういう言い方になるんだろうなあ」という納得感がある言い回しだなと思いました。
 この作品で僕が一番鮮やかだなあと思ったのは最後の一行です。
 なんやかんやあってあっさりとパイ事件は解決(?)した後、主人公の二人がワープゲートを使って街中へと向かい、口直しに美味い物を食いに行こうとするシーン。
>光を放つゲートにリロイを引っ張り込み、ヴィクターは笑った。二人分の体を飲み込んだゲートがパチンと閉じると、白い廊下には何も残らなかった。
「白い廊下には何も残らなかった。」
 これ、素敵です。シーンと静かな廊下の光景が、今まで積み上げてきた不気味な雰囲気を最後まで崩しません。この描写のおかげで、良質なホラームービーを見た後のような、いい意味での後味の悪さが胸の中に残ります。雰囲気作りが徹底されていて、素直にスゴイなあ、と思いました。
 今まで示したように、この作品は様々な部分において不気味な雰囲気を作ることに努めております。作中に通底している淡々とした語り口も、その不気味な雰囲気を作るのに一役買っているように思えます。そして、そういった不気味さが「作中の謎の正体はわからないし、明らかに恐ろしいものなんだけど、それでもなんか知りたくなっちゃうなあ。」という気持ちにしてくれます。
 心地よい不気味さが渦巻く、いい短編でした。

17 エクゼルア美食事情/@hoge1e3

謎の有袋類
 たくさんの登場人物たちが、それぞれの一人称からお料理関係の逸話を話してくれるという形式でとても楽しく読めました。
 メディちゃん絶対に不穏な見た目をしていそうなのですが、内面がコミカルですごく可愛らしいですね。
 一体どんな見た目なんだ……気になる。
 魔法の仕組みなどにも触れているのがとてもおもしろかったです。杖に魔法を呪胎させるって面白い!
 そして、めちゃくちゃ攻撃性の高い地域に来てしまった防御魔法担当のイサキスくん……難儀だ。
 BBQがどうなったかも気になるし、ラブの気配もある……!
 ファンタジーでラブがあるのいいですよね。
 本編もメタな視点を織り交ぜている作品なのかな?
 メタ描写があるのが平気な人にとってはすごく楽しめそうなほのぼのしたファンタジーご飯小説でした。

謎の齧歯類
 おお、なにやら便利な道具がある世界なのですね。
 本編の食事シーンを一人称で抜粋した、という形式なのでしょうか。ページが変わる部分が結構不便というか、ぎょっとするような部分で遷移していてこれは現地の人はびっくりするのでは、などといらない心配をしてみたりします。
 ここまでで初出の形式、登場人物が明確に本編のプレゼンをしてくるパターン。なるほど、販促ならこういうのもアリだ。面白いですね。
 ……と思ったものの、もしかしてこれは本編も登場人物がメタメタな自己言及をするタイプのお話ですか? 好きです。一昔前のTRPGめいていてそういうの好きなんですよね……。
 メディちゃんの外見、とても気になります。絶対なにか恐ろしい外見をしているな……?
 水脈からそのまま出てくる泥水……ながら、珈琲の味がする発酵飲料、面白いですね。発酵ということはアルコール性かな?と思いましたが、コーヒーっぽいなら違うかな。
 魔法のルールが変わっていたりとか、魔物の人たちと人類が共存しているのだな?という感じとか、なかなかおもしろい世界っぽい雰囲気ですね。「受胎」という単語が変わっていて気になりました。

謎の野菜
 キャラに「本編読んでね」って直接言わせるの、いいなあ……!(初読時の感想)
 ……まず、この短編の中にはお話が4つあります。それぞれ違ったキャラが語り部となり、「食」についてのお話をしてくれるので、一人ずつ感想を述べていきます。
 まずは一人目。
 おじいちゃんとの思い出のスープについて語ってくれます。この部分ではあくまで、読者に直接語り掛ける事はないのですが、それでも作中世界にスッと興味を持てる内容です。短い文字数の中で、本編への導線がしっかりと引かれているのです。
「私」とおじいちゃんの関係性について、あっさりとした語り口で語られていますが、「私」がおじいちゃんに抱いている思いの深さが、「スープ」という物品を通して明確に伝わってきます。そして、おじいちゃんの話をした後、おばあちゃんの話に言及するかと思いきや……。ここでフェードアウトし、次の人物の話に移ります。これによって、自然と「おばあちゃんって何者なんだ?」という疑問が沸き上がってきます。
 杖が進化してできたと思われるスマホ技術を劇中でも巧みに利用しています。話の起点である主人公の「おじいちゃんのスープを食べたい。」という欲求をすぐさま解決することで、話をテンポよく進めると同時に、この世界の技術の進み具合を端的に示す役割を果たしています。
 次に二人目。
>やっほー、メディだよー。
>え、あたしが誰かって? あーそおだった、本編読んでないひともいるんよね。まあ、このお話のキュートなマスコットと言っとけば間違いないっしょ!
>でも、どおゆうわけだか、あたしを初見で見るとたいてえの人間は「ぎょわーーー」とかぬかしよるんよ。なんでだろおね?

 めっちゃこっちに話しかけてきます!!
 しかもすんごいフランク!そして、その話の内容もとても興味深い。
「なるほど、水脈から漏れてくる水を微生物が分解して、コーヒー(のようなもの)が生まれる世界かあ」とか「コーヒー好きなのでちょっと住んでみたいかも」とか、「現実世界よりも微生物の影響力が強い世界なのかなあ」とか「このキャラ、ラボとか言っているので、魔術関係の方なのかなあ」とか。この世界に対する感想やら疑問やらが、ポンポンと心地よく出てきます。
 次に3人目。
>やあ、僕はイサキス、マジック・ローダーの一人だ。詳しいことは本編を見てほしいけど、なんだかんだで僕ら3人は今、エグゼルア最大の町、ルカンドマルアに来ているんだ。
>僕らマジック・ローダーの役割は、みんなが持ってきた杖に魔法を『呪胎』させること。そうすると、みんなが魔法を使えるようになる。不思議なことに、呪胎ができる人間は、世界で6人しかいなんだ。だから、僕らは人気者なのさ。ほら、お客さんが来た。

 と、こちら(読者)の方を向いて語った後。作中世界の中に戻っていきます。なんというか、遊園地のアトラクションのナレーションを聞いているようでワクワクしました。
 そんな彼の得意分野は『防御魔法』。残念ながら、『攻撃は最大の防御』が鉄則であるこの世界では、世知辛い身分なのです。『攻撃魔法』が得意なカルザーナ(通称:カル様)の使い走りになってしまう程に。
 そんなカル様のお使いで、イサキスは今晩の食事の材料を調達しに行きます。ここからのパートも面白い。まるでちょっとブラックなコメディを見ているようで、クスリと笑いながら読みました。
 そして最後!4人目!
 どうやら、2人目に出てきたキャラクターの恋人みたいですね。このキャラチョイスが巧い。明らかに「2人目が一番記憶に残るだろうなあ」と計算した上でやっているのではないでしょうか?(ちがったらすみません)
 そして、1話目に出てきたスマホ技術も再登場し、メディさん(2人目のキャラクター)に加え、突如現れた謎の人物も加わって、三人でナタデココを作ります。ここでまた、「発酵」がキーワードとして出てきますね。何度も出てきているので、きっと本編でも重要な概念なのでしょう(ちがったらすみません……)
 そして、『その時』という気になるワードを残して、短編の方は幕を閉じます。
 全体を通した感想なのですが、話のテンポがすごくいいなあと思いました。
 どの話も作中の世界観に対して色々考察しながら、お話そのものも楽しめる、丁度いい塩梅になっています。
 その上、会話ベースで話が進むので、とても気楽に読めるようになっています。キャラの会話自体も面白く、読んでいて飽きない作品でした。

18 短編出張糸織り乙女~スサーナちゃんの異世界ごはん~/ねずみ

謎の有袋類
 ねずみさんの短編だーーーー!!!!
 僕はこれ読破しているのでファン目線なのですが、懐かしいお話や最新話に触れるお話までの欲張りセット!!!
 魅力的なそれぞれの男の子たちの中で推しが出来たら今すぐ読み始めてくださいとダイマをぶっこみたくなりますね。
 僕の推しは3話の第三塔さんです。長寿・ミステリアス・感情をあまり露わにしないけど薄情なわけではない長髪イケメン……最高。
 菫の砂糖漬が好きなのも良い……絵になる。ヨティスくんやレオくんももちろん素敵なのですが、推しをやはり紹介したいという主催という立場を利用したダイレクトマーケティングになってしまった。
 気になるところから読んでみて、ハマったら最新話から読んでみるというのもオススメです。
 生の花を食べる絵になる第三塔さんを見て「わあ……」となってほしい。

謎の齧歯類
レギュレーションギリギリはよくないなあ、とおもいました。
あんまり食べるシーンに力は入っていない。

謎の野菜
 びょ、描写力が高い!!!
 それは4つあるこの短編集の話の内の第1話、その冒頭を読んでそう思いました。
>「はあいおばあちゃん! 今いきます!」
>スサーナは急いで針と糸をきちんと仕舞い、木靴を履きなおしてぱたぱたと階下に急ぐ。
>「あらお嬢さん、階段は走っちゃ駄目ですよ!」
>階段ですれ違ったお針子のブリダが笑った。
>スサーナのおうちは島で五本の指に入る大きな仕立て屋だ。
>おうちには幾人ものお針子とスサーナのおばあちゃんと叔父さん、ご近所には結婚した叔母さん達が暮らしていて、みんなで服を仕立てたり売ったりして暮らしている。
>「ごめんなさい、ブリダ!」
>「奥様は中庭に行きましたよ! これからオレンジを採るんですって」

 ここ、本当にすごい!!「走る」事に直接触れる描写はほんの一文だけなのに、主人公であるスサーナが階段を素早く降りていく様が鮮やかに浮かんできます!特にすごいのは説明文の配置の仕方。お針子さんとすれ違い、謝るまでのわずかな隙間。その隙間を、ほんの短いナレーションを差し込み、会話を一時ストップさせる事で表現しています。テンポよく流れる会話文も手伝い、まるで名作映画の冒頭のような、疾走感のある鮮やかな映像が浮かび上がっています。
 その後の情景描写もすごいのです。
>夏の日差しに照らされてレモンやオレンジが葉陰に鮮やかに輝いているそのさなか、おばあちゃんが踏み台に登ってオレンジの実をもいでいた。
>さて、それから大体数時間。夏の長い日がいい具合に斜めに陰り、長くなった影が部屋を彩りだす時間になって、スサーナのお裁縫のテストをしていたおばあちゃんはさてそろそろだね、とまた台所に向かうようだった。
>シロップに浸ってしっとりした揚げ菓子は、まず少しびっくりするぐらいに甘い。しかし、揚げ菓子に絡んだシロップ煮を噛むとほんのりした酸っぱさと爽やかさが口の中にじゅわっと広がり、噛むとまだ芯のほうにはシロップが染みておらず、穏やかな甘味とうっすらした塩気のある生地はねっちりした感触で、混ぜ込まれた皮がぷつぷつと爽やかな香気を発散させる。

 素朴でわかりやすい単語を上手く組み合わせることにより、絵画の様に鮮やかで、しかも読みやすい情景描写が誕生しています。
 そんな鮮やかな描写の中。第一話では「主人公が転生者である事」「主人公は22歳の時に転生し、その時の記憶を持ったまま生まれ変わった」事が示されます。
「スサーナちゃん、生前前はどんな人だったんだろう?」なんて思いながら第2話を見た途端。
>前世は書庫の虫で、エッセイやら旅行記に端を発し、釣行ブログやら料理ブログやらを読み漁る少女でもあった彼女は普通に生活していたらまったく役立たない「男の手料理」系の記憶が無駄に豊富だ。
>大学時代、四畳半に住んでいそうだったり鴨川縁かもがわべりでカップルの邪魔をしたりするタイプのアレ、面白がりでよくわからないことに手を出す先輩方との付き合いなどもサークルであり、その手のチャレンジに巻き込まれたことも数度あるため、筋子をバラしたり烏賊の塩辛を作ったりすることが意味もなく可能な少女だったのだ。

 キャラ像をしっかりと説明してくれました。しかし、なんというかこう、「実際にいそうだなあ」感がすごい。この数行を見るだけで、そのキャラ像がしっかりと浮かんできます。
>悪い顔で段取りする。出来た煮切り酒に昆布を入れ、冷えた状態で静置したのちに取り出し、干し鰹を削って入れ、塩と、アミノ酸の種類確保の意図で干し茸の戻し汁もすこし加えてひと煮立ち。味が複雑になることを祈って赤砂糖も一匙入れておいた。
>――ここまできたら後は一息ですよ!!!
漬ける時間を考えれば工程の最初程度ではあるのだが、邪魔が入る可能性となるとここまでが一番だ。スサーナはうきうきと意気込み、鍋で白葡萄酒を煮きった。

>「うふふ、さて、これをどうしましょう。」
 ……もしかしてあなた、転生前、結構ノリノリで「よくわからない事」をしていませんでしたか???
 なんて思っていたら、スサーナちゃんの元に一人の少年、レミヒオくんが登場します。
>「味見――ですか。ええと、それ、それは……なんでしょう。その……色の悪いといいますか、妙に赤くて鮮やかな、と言いますか、魚卵は……。」
>誘われたレミヒオは調理台の上を一瞥すると、なにやら喉元で引きつったような声を出す。
>彼はスサーナの作るものに対しては、実は結構な警戒感を抱いていたりするのだ。
>それはまあ、それなりに無理もなく、これまで「健胃の為の激苦茶」だの「口の中の水分を纏めて全部持っていくたまごボーロ」だの、第一人者と言っていい被害を受けてきた為であった。一応スサーナの名誉のために言えば、おばあちゃん特製の茶葉だったり、島では一般的なレシピだったり、現代日本再現料理の毒牙にかかった、というだけではないのだが。

 かわいい!そして、可哀そう……。それでも、なんだかんだいって今回も試食に付き合ってくれるあたり、お互いにいい距離感をたもっているんだなあ、という事が伺えます。恋愛の香りが仄かにしますね……。
 さて、お次は第三話。今度は魔術師さんが出てきます。その名も「第三塔」さん。独特なお名前ですね。その由来がすごく気になります。
>魔術師とはこの世界では希少な才能である魔術を扱う人々の総称だ。誰でもなれるようなものではなく、彼らは皆白みに輝きを帯びた髪と目をして生まれてくる。個性差はそれなりにあるものの大体において整った容姿をし、常民よりも長い寿命を持つ別の種族である。
 うわー!!ということはきっとイケメン!!イケメンが目の前におるぞ!!
>「花の砂糖漬け。好まなそうだろうか。」
>差し出されたそれは深い青紫の糖衣菓子かソフトキャンデーのようで、スサーナがくんくん匂いを嗅いでみるとふんわりと自然な甘い香りがした。嫌いな香り、という雰囲気ではない。

 うわーーーーーーーーー!!!!イケメンが!イケメンが花渡してきたぞ!!しかもキャンディ!!花形のキャンディ!!キャーーーーーーー!!
 ……僕は一応男なんですが、内に秘めた乙女心がキュンキュンします!
>魔術師たちは花を食べるのだ。
 いいですね!この一文も!まさにファンタジーの持つ良さを体現したかのような、美しい一文です!
 しかもこの二人、なんか仲がよさそうな感じ……。ここでも、恋愛の甘い匂いがしますねえ……。
 乙女心くすぐる第三話を抜け、いよいよ最後のお話である第4話に。すると。
>スサーナは今年の夏、人に説明するにもちょっと荒唐無稽と言われるのでは?という状況を経ていろいろあった結果、ひらたく言うと大貴族の養女になっている。
表向きには実子であるとされており、ショシャナ・アランバルリという大層な名前まで手に入れてしまった。
>そしてレオくん、というのは自国の第五王子殿下その人である。
>スサーナとは同い年で、「お父様」であるところのミランド公、ギリェルモ・アランバルリが後見人めいた存在であるため、屋敷に気軽にやってきては滞在し、居間で伸びていたりもする。
>一体何でそんな状況になってしまったの、と言われたらさあ本当に何故でしょう、と頭を抱えるしかないスサーナだ。

 マジ??????
 自ら荒唐無稽という事は、相当な事があったんだと思います。
 気になる……。それにしてもレオ「くん」て。滅茶苦茶距離感近いじゃないですか!!
>レオくん本人はもうカジュアルに居間の長椅子で伸びていたりして結構我が家扱いをしているし、スサーナともカジュアルな接し方なのだが、召使いたちはというとそうもいかない。よってスサーナはただ夕御飯を食べるだけだと言うのに着替えさせられ、香水を吹き付けられ、カツラを変えてしっかりとセットし、さらに胴衣で最高に華奢に見えるように――元々細身でだいぶ華奢なはずなのだが――ぎゅいぎゅい締め上げられ、夜だと言うのに化粧をし直されて、ひぎゃあと悲鳴を上げる羽目になるのだった。
 そして中世ベース世界観特有のコルセット装着シーン。コミカルでいいですねえ。「ひぎゃあ」という音の響きがいい。作者様がしっかりと文化について調べ上げ、書いていることもしっかりと伝わってきます。
 さて、この後レオくんとの食事描写が入るのですが。
>牛タンの冷製ワイン煮、マスの冷製、煮て冷やしたビーツ。兎のスープ。黄金カブのポタージュ。うずらのゼリー寄せに仔山羊の串焼きにエビの鬼殻焼き。レーズンとイノシシ肉のパイ、卵のフライ。チーズを絡めた法蓮草のグリル、オリーブ漬けと葡萄、蜂蜜とシナモンをたっぷりまぶした焼き林檎。焼き栗、赤砂糖と洋梨のタルト。チーズと、さらにこれに発酵パンが数種。
 とすごく豪華なのに、味に関しては殆ど描写されません。代わりに出てくるのは次の文。
>粛々と食事が始まる。
>スサーナとしては折角一緒に夕食を取るのだから、気の抜けた会話の一つもしたいのだが、周囲をガッチリこれは一大事だぞ、の顔をした使用人たちに囲まれてしまっているのでそうもいかない。今後、もっとレオくんが屋敷にいることは増えるのだろうから、早く慣れてほしいものだと思う。

 敢えて味描写を出さない事で、緊張感がある食卓が表現されていますね。こういう細かい所もすごいなあと思いました。その後、食事をしながら二人は取り留めのない雑談をするのですが、実は……。
>食事をしながらの迂遠な雑談、と言った風情だが、実情を言えばこれは本当は少し違う。周辺全部を使用人に囲まれつつもある種の密談をしよう、と努力した結果である。
>実は今、スサーナとレオくんは秘密の計画を一つ共有しているのだ。

 この短編の元となる本編を見ていないのですが、その様を見て私は「実に彼女らしいなあ」という感想を持ちました。これは一重に、この短編において作者様が丁寧にかつ生き生きと、スサーナというキャラクターを表現してくださった結果だと思います。
 総じて、作者様の展開する世界観の魅力が詰まった、いい短編集だったなあと思いました!!

19 オードブルの霊、メインの肉、デザートの私/鈴元

謎の有袋類
 神ひな川にヒューマンマンで参加していた鈴元さんだ!参加ありがとうございます。
 きゃーー!キュンです!キュンですよ!
 土蜘蛛の血が混じっている少女の幽霊躍り食いから始まって、不思議な酔っ払いお姉さんの手作りハンバーグ!そしてデザートの私……。
 最初、百合か?と思ったのですが、主人公は男の子でした。
 空也さんの能力と、初ちゃんの性質が対比の形で描かれているの業前!という感じですね。
 めちゃくちゃ面白かったです。そして咲良くんと空也さんの恋愛どうなるか気になる……!とてもおもしろかったです。
 あやかしが出る作品が好きな方、異種族交流が好きな方にオススメの作品です。

謎の齧歯類
 おお、現代伝奇だ。
 冒頭の語りの感じや、その後に続く会話風景、いかにも現代伝奇ーーー!!という感じで好きですね。キャラクターの会話の飄々とした感じ、ワケアリっぽいところとか、90年代後半~2000年代のあの感じだ、と……失礼があったらすみません。好きなんですよ、そういうの。
 自販機の白い光にたかる蛾、登場人物が気の無さそうに飲む実在銘柄のコーヒー、そして下からナメる廃墟、差し込んでくるOPの女性シンガーが歌うジャパニーズロック……!はっ、すみません、興奮してしまいました。
 妖怪の血を引いた人が幽霊を食べる、というの、ケレン味があって良いですね。
 主人公の人がそう言う食事の一種だと特にそれに対しては感想無く受け入れているのもいい。
 ヤッター大酒飲み美人お姉さん、大酒飲み美人お姉さんだ!
 細かいことなんですが、菊屋咲良という少年、雁金空也という女性、みたいなネーミングもとてもそれっぽくてニコニコしてしまいますね。
 ここで霊能力の説明と、関係性の説明があるのいいですね。初さんと空也さんが対比的存在なのだな、というこの説明が格好いい。
 山のようなハンバーグ、美味しそう。この山程作ってくるの、この短編だけ読むと愛情表現と、後ちょっと独占欲というかカワイイ嫉妬もあるのかな?という感じなのですが、なんか他に訳ありだったりするのかな。本編を読んでからだとそのあたりの視界もクリアになりそうで楽しそうですね。
 ところでデザートの私、なにか仄暗いと言うかカニバリズム的な意味かと思っていたんですが、そっちか!ご馳走様です!(また違う意味で)

謎の野菜
>人間、生きていれば飯を食べる。当然私や諸君らも例外ではないだろう。しかし私は食事をせずとも生きていける人間を知っているし、人間とは違う食事を行う人物も知っている。それによって何が変わるということはない。いわゆる海外の食事風景を見るのとそう変わらない。私はそのような食事をしないが、彼女はそのような食事をする。良いも悪いもなく、ただただ事実として存在し続けること。
>今日は少しばかりそんな話をしよう。私たちの知らない食事というのを。

 雰囲気が良すぎるので、冒頭文のナレーションをそのまま引用させていただきました。
 僕は「いわゆる海外の食事風景を見るのとそう変わらない。」という言い回しが好きですね。これから出てくるであろう超常的な食事風景、そしてそんな食事をする人物を、怖がるどころか、しっかりと受け入れていることが伝わって来る気がします。それを「海外の食事風景」という一言で纏めるセンスが素敵。
 そんな素敵なナレーションが終わり、作中世界でのお話が始まります。現代日本が舞台のお話なのですね。
>それは彼女が妖である土蜘蛛の血を……正確に言うならば土蜘蛛をベースに人間の血の混ざった存在だからだ。
>マンションの外壁にへばりついてよじ登っていく姿は本当に蜘蛛のようだ。

 そして、単なる現代社会ではなく、妖やら霊が実在する世界。
 土蜘蛛から生まれた人間……。どういう経緯で生まれたのかが気になります。
>壁に引っ付いた相生さんの手から糸が伸び、浮かぶ霊の体を捉えた。瞬く間に霊は糸で簀巻きにされてしまった。
>あの糸の塊の中で何が起きてるのか私は知っている。豆腐でも食べるかのように人の形をしたものを食べるのだ。

 そして、短編の中では、蜘蛛人間の相生初《あいおいうい》さんが、彷徨える地縛霊を捕食する様子が、さっぱりとした文体で描かれています。「豆腐でも食べるかのように」という部分がすごい。この一文だけで、相生さんが霊を食べる時の様子が、鮮やかに浮かんできます。
 ここだけではなく、短編全体を通して、あっさりとしているけど分かりやすい文章表現が為されている為、小説内で起こっている事をすんなりと受け入れられる、すごく読みやすい作品に仕上がっていると思います。
 土蜘蛛人間さんの食事シーンを見た、主人公の感想も秀逸でした。
>それを怖いとは思わない。ただ、少々衝撃的な光景だったのは覚えている。霊は人間だったもので人間でない。
>姿そのものが人間でも、人間としては扱えないし扱ってはいけない。(中略)だからこれは踊り食いと同じようなものとして処理している。案外、人に近い形をしているこの霊という存在こそ一番気後れするかもしれない。明らかに異形の存在である妖とは違うのだから。

 この部分。この部分にすごく説得力を感じます。
 ここを見て思わず浮かんできたのは、テレビのバラエティ番組かなんかで、日本人なら決して食べない様な虫を、平然と食べちゃう海外の人々が出てくるシーン。僕はそれを見て、思わずゾッとしてしまったのですが、この場面で主人公が感じている感覚ってそれにちょっと近いんじゃないのかなあって思いました。
 自分の文化では決して食べる事なんてありえない物を、自分と違ったバックグラウンドを持つ人間が普通に食べている光景を見た時のような、文化間のズレから生じる気持ち悪さ……。それを主人公が感じている様に思えてなりません(違っていたらすみません)
 しかも、霊を食っている相生初《あいおいうい》さんは、テレビ画面越しに移る「赤の他人」ではなく、今目の前にいる「友人」です。故に、例え「少々衝撃的な光景だった」としても、友人として接する以上、「踊り食いと同じようなもの」と脳内で無理やり処理してでも、その光景を受け入れなければいけませんよね。
 この作品のこのパートを読んで、僕は「『化け物』と友達になる時って、そういう困難が発生するのかあ」という気持ちになりました。「化け物と付き合う」というテーマに対して、作者様が大変真摯な姿勢で取り組んでいる様が、こんな一文から見えてきます。
 ……話が長くなっちゃいましたが、そんな食事シーンを経て、今度は主人公の元に、雁金空也《かりがねくうや》という女の人からの着信が。
>「おぉい、少年。どぉして部屋にぃ来てくれないんだよぉ」
 こんな感じでベロンベロンに酔っぱらってるこの人は、主人公の恋人です。この雁金空也《かりがねくうや》さんに対する主人公の思いがこちら。
>……悪い気はしない。
>いつも振り回されているし、ふらっと現れたりふらっと消えたりする人だし。なにより、私の恋人であるし。彼女は酒臭いが美人だ。スタイルもいい、愛嬌もある。
>しかし空也の真に好ましいの点はその精神性だ。優しく、しなやかで強い。
>鷹揚としてして……細かいところを気にしなさすぎて私の頭が痛くなることもあるが、ともかくあれはあれで細かいところを見ている人であるし。聖人ではないが悪人でもない。なにはともあれ、『いい人』だ。
>……少々超越的だが。

 ベタ惚れじゃねえか!!
 しかもその上、空也《くうや》さん側も主人公にベタ惚れのようで。主人公の代わりに電話を受けた、蜘蛛人間である相生初《あいおいうい》さんのセリフがこちら。
>「んー……ま、いいや。さっさと帰ろう幸せ者」
 なんというか、目に余るレベルのラブラブっぷりなのが、ここから伺えますね。
 というわけで、恋人の元へと主人公は帰るのですが、その時のシーンも魅力的でした。
>「はーい。飛びまーす」
>私の手首に糸が巻き付けられ、それをしっかりと掴む。強度と弾性。相生初の糸の性質は変幻自在だ。ぐっと引っ張られ、体が浮いていく。糸を使った移動。建物から建物へ飛び移る。実に爽快だが少々揺らせれて気持ちが悪くなる。

 なんと、相生初さんが糸を使って、主人公を運んでくれるのです。その後に描かれる情景描写も素敵。
>夜の街は静かで、所々騒がしい。生身でいるはずなのに車窓越しに世界を見ているようだ。それくらいに早く、景色が変わっていく。
 少ない文字数ながら、建物から建物へ飛び移り、夜空を眺めているシーンが鮮やかに浮かんでいます。まるで、アニメのワンシーンを見ているような気分です。
 そして、恋人の家へと到着。相生さんが去った後。
>「だーれだぁ」
>「うお……」
>後ろから抱きつかれた。目が手で隠される。
>……ここまで答えがわかりきった問題があっていいのだろうか。
>大学の課題もこれくらい簡単なら助かるのだが。
 キャーーーーーーーーーーーー!!!胸キュン!!!!
>「……空也、空き缶は片付けて」
>「ちょっとぉ、今手が離せないなぁ」
>「……ゴミ袋!」
>「どれぐらい食べるぅ?」
>「空也の作ったのならいくらでも」
>「空也」
>「なに?」
>「美味しい」
>「……よかった」
>笑う。お互いに顔を突き合わせて。
>「まだまだあるからねぇ、満足するまで作る」
>……やはり断れない。
 言葉数の少なさが、お互いの親密さを物語っていますね。胸がキュンキュンする!!!
>「んふふ」
>唇に柔らかな感触。酒臭い。いい匂いに混じるエチルアルコールの成分。
>「空也」
>「私はメインいらないからぁデザートぉを頂こうかなぁ」
>捕食者め。 断れないのを知っていてそんなことを言う。肩を掴まれる。匂いが強くなる。空也の目を見ている。

 うわーーーーーーーー!!!!大好き!!大好きです!こういうの!
 ここの清濁合わさった匂いの描写から、なんとなーく二人の関係性が仄めかされているような気がします。それはなんというか、「お互いのいい所も悪い所も、全部含めて好きだ」という感じの……。流石に考えすぎかな……。
 僕は舞台の小道具としての「お酒」が大好きです。その中でも特に「缶ビール」が大好きなんです。なんたってそれがあるだけで、その場面に「ほろ苦い、大人な雰囲気」が漂い始めるからです。特にこの短編は、ビールの空き缶まみれです。きっと、あの苦い麦の臭いが辺りに充満している筈なのです。そんなにがーい空気の中で恋人同士の甘々な会話なんか交わされたら……。そのギャップに心を打たれてしまうに決まっているのです!!!故に、この作品の最後のシーンを見て、滅茶苦茶心臓が高鳴りました!!ごちそうさまでした!!!
 総じて、丁寧に練られたキャラの心情が、読みやすい文章で語られているなあ、と感じました。その上、僕の性癖をドストレートに打ち抜く、大変おいしい短編でした!!

20 宿痾/神澤芦花(芦花公園)

謎の有袋類
 ほねがらみでめちゃくちゃバズった芦花さんが殴り込んできてくれた!ありがとうございます。
 円環……円環の物語でした。
 食事を食べるってよもつへぐいとかにもあるんですけど、あちら側に取り込まれる要素だったりするよね。
 芦花さんの作品は、登場人物の知人の背中からチャックをあけてぬるっと狂人が出てくる描写が好きなんですけど、今回もすごいよかったです。
 林檎……あの林檎かな……わあい。
 よかったねハッピーエンドだよ最高の料理をありがとうございます。みんなもほねがらみ読んでね!

謎の齧歯類
 しょうじきに申し上げますと、ほねがらみ、冒頭を読んだところで世間で流れている評判に恐れをなし、読み止めている、という経緯がございます。
 この齧歯類、だいぶ「こっちに影響してきそうな話」がこわい!
 冒頭を読んであれ?サイコホラーのほうか?と思ったのもつかの間、鶏が3回とか言い出してまずヒエッ、齧歯類は新約聖書の逸話を引いてくるやつがこわい!
 畳み掛けるように言動が怖い! 当然のような物言い、愛する、って、これまでそんな関係でも無さそうであったのに。静かで穏やかっぽい口調、いきなりなぜそこで数秘術なんですかあ!!! この齧歯類、場違いなものはだいたいこわい!!!
 ヒエッ、林檎。黒い林檎のパスタ? ダルマ。なんなんですかインド神話の秩序概念がなんの関係があって、いや、これは聖書に引いた話ではないのか、三度雄鶏が、確か悪魔が消えるのも雄鶏が三度目に鳴いたタイミングで、黄金の鶏も三度。顔が黒いのはなんだ。後ろ戸の神? インド神話の神々の青い肌は本当は黒い肌だとか。いや、まさかクトゥルフ神話?
 これは本編を読まねばならないのでしょうか。キャプションにリンクがあるのでクリックしてしまえば開けてしまう。クリックさえしてしまえば。

謎の有袋類
 円環ですよ。

謎の野菜
 ゾクッとさせていただきました!!
 今回、感想員という立場に立つに当たって「自分の実力では、この作品の良さを十分に説明しきれないなあ」と思う事が多々あるのですが、この作品を読んだ時、特にその思いがすごく強くなりました。
 こちらの作品はいわゆるホラーなのですが、随所にちりばめられた演出が巧みです。
 しかし、今の自分の実力では、作者様の意図する事を正確に汲み取れず、少しずれた事を言ってしまうかもしれません。色々と間違った見解を書いていたらすみません。
 鳥海秀久という名の不思議な魅力を持つ男性が、主人公である女性の家に上がって、「パスタ」を作ってくれるところからお話がスタートします。
>鳥海は、先月から私の勤める市中病院に来た整形外科医だ。年齢は33歳。都内の大学病院に勤務していたらしいが、手ひどく捨てた既婚者の看護師が自殺を図ったため辞めさせられた……というのが噂好きの看護師たちの話だ。
>しかし、実際彼と接してみると、彼は実に温厚で誠実そのものだった。若手の医師としては珍しいくらいだ。悪い噂を流していた看護師たちもすっかり骨抜きになって、今度は「鳥海先生に微笑みかけられた」「鳥海先生に誕生日を教えてもらった」「鳥海先生と同じ曲が好きだった」「鳥海先生と同じデスクで食事をした」など、こぞってマウントを取り合うようになった。
 と、一見怪しいけれど、普通に人柄がいい鳥海さんの様子が描かれています。その魅力は作中で、
>顔貌だけならとりわけ美しいというわけでもないが、とにかく全体的な印象が「美しい」なのである。私は大昔に読んだ「アーサー王伝説」のランスロット卿を思い出していた。ランスロット卿は顔は不自然に歪んでいたが、不思議な魅力で女性を惹きつけてやまなかったという。鳥海は、まさにそのような人間だった。
 と語られる程。ここの「ランスロット卿」の例えが言い得て妙だと思いました。「不自然に歪んでいる」様が、この時点で仄めかされているんですね。
 しかし、主人公はそんな不可思議な魅力を持つ男性に話しかけられて、思わず次のような感じになってしまいます。
>柔らかな笑顔で見つめられて呼吸が早くなる。私ははい、いいです、と言うのが精一杯だった。
>なにがいいです、なのか。言い方は少し失礼ではなかったか。ただの返事なのに、心の中で反省会を開いてしまう。

 ここ。冒頭の描写なのですが、これも秀逸。一見すると、イケメンに話しかけられて、上手く話せなかったことを自省する描写に見えるのですが。おそらく、ここでもう後の展開の布石を打っています。「やってしまった言動」に遅れて「心の中の声」がツッコミをしているんですよね。このように内面描写を深く掘り下げている点。これが後になって響いてきていると思っています。
>咄嗟に目線を下げると、机の上には真っ黒なパスタが乗っている。イカスミのパスタ、なのだろう。
>「お嫌いでしたか?」
>「いいえ……好きです……」
>「そう、それなら良かった」
>彼はエプロンを外し、机を挟んで正面に腰を下ろした。映画でも観ますか、と聞かれてまた曖昧にええ、と答える。彼とうまく話せない。正気でいられないというか、息切れがするほど心臓が脈打って、なにも言えなくなるのだ。
>フォークの側面に茹で蛸のように赤くなった私の顔が映った。彼はその後もなにかしら話していたが、私はただ、味のわからないパスタを口に運ぶ。

 地の描写力も高くてすごいです。主人公がイケメンを前に、興奮して上手く話せなくなってしまっている様が、伝わってきます。「味の分からなくなった」パスタを口に運んで、食べている主人公に、突然「彼」が質問を投げます。
>「ニワトリは何回鳴きましたか」
>「何回ですか」

 エッ????
 思わず、読んでた僕も声を上げました。なんの脈絡もなく放たれる、不可解な質問。
 しかし、それを受けた主人公の反応がこちら。
>こんなこと、他人にされたら普通は腹が立つ。意味不明な質問をされ、それに答えなかったからといって勝手に軽蔑される。しかし、私の心の中に芽生えたのは悲しみだった。彼をガッカリさせてしまった。そのことがひどく悲しい。ほとんど泣いてしまいそうだった。
 もう、既に怪しいムード。なんか、主人公の心がバグり始めています。そして、畳みかけるように次の質問。
>「あなたは私のことを愛していますか?」
>「つまりですね、ゲマトリアとしての生き方を捨てて、私を愛するかという、単純な質問なんです。時間がかかってもいいですから、答えてくださいね」

 ヒェッ……。恐ろしい……。
 ゲマトリアについてwikipediaで調べた所、「ゲマトリアとは、ヘブライ文字を用いて数字を表現する手法。」とのことです。数秘術という占いで主に使用されるみたいですね。いやあ、なんというか不可解……。不可解ですが、なんというかこの質問が「ヤバい事」は伝わってきます。まるで、人間としての生き方を捨てて、私に服従してくださいとでも言っているような……。
 そんな明らかにヤバイ質問を受けた主人公の反応がコチラ。
>いま、私の中には二つ人格があって、片方は厳格な家庭で育った一般成人女性のものだ。それは、私に、いますぐこの場から去れと言っている。こんな意味不明な質問を自信満々に繰り返す彼は、何かの宗教にハマっているか、あるいは単なる異常者だ。今帰れば、それで終わりだ。しょせん彼とは単なる同僚なのだ。
>もう一つの人格だ。彼女はさっきから泣いている。泣いて、恐れている。彼に嫌われ、見捨てられることを死ぬより辛いと感じている。私はもう、その泣き声に逆らえなかった。

 もう、完全にメンタルが分裂しちゃったのでは?ここにきて、今まで主人公の内面を深く描写したことが活きてきたと勝手に思っています。心の中の「本能」と「理性」が分裂しちゃって、結局「本能」の声に負けてしまう様を、まざまざと見せつけられます。
>「愛しています」
>一度口に出せば簡単だった。
>「あなたのことを愛しています」
>私の口はロボットかなにかのように何度も何度も繰り返した。

 あぁ……。やっちまったなあ、主人公。しかし。
>「家族に連絡しますね」
>私は僅かに残った理性でなんとか、この妙な空気から逃れようとあがいた。震える手でスマートフォンを取り出す。

 おお、頑張れ!
>「その選択があなたにとって良いとは思えない」
>鳥海はこちらの方を見もしないで言った。
>「あなたがお父さまに連絡をするとお父さまは電話を取り一瞬だけ注意が逸れます。ほんの一瞬、しかしそれは大きな一瞬だ。前方を走るトレーラーの後輪が脱落し、あなたのお父さまをひきつぶす。そう、赤いカローラごと。ええ、同時に今一緒にいるお母さまも、妹さんもです。だからそれがあなたにとって良い選択とは思えない」

 ヒェ……。無理……。怖い……。
 この部分。「逆らったら実際そうなるんだな」と心から理解できる凄みがあってすごいですよね。このセリフ自体の恐ろしさもそうですが、おそらく、これまで積み重ねてきた不気味な描写があるからこそ、この納得感が生まれているのでしょう。
 その直後にある、
>しばらく馬の蹄の音だけが響いた。
 も、「結局電話を掛けられなかった」という事実が、わざわざ言葉で表現せずとも伝わってきてとても好きです。その上、二人の間に不気味な沈黙まで生まれ、この話の恐ろしい雰囲気がさらに高まります。そして。
>「いつからそれがイカスミだと思っていましたか?」
>胃が痙攣した。口の中一杯に唾液腺が弾けそうなほどの幸福な旨味が広がるのに、体は受け付けていない。
>そもそも、イカスミとは、こんなに……。
>「いつイカスミだって言いました?私が?イカスミなはずがないでしょう」
>そういえば、と思う。イカスミは、甘い味ではない。
>「これは林檎ですよ」

 黒い果汁が出るリンゴ??それ、絶対ヤバイ奴じゃないですか!!!
 さて、ここの部分。ここで今までの描写が更に活きてきます。「やってしまった言動」に遅れて「心の中の声」がツッコミをしていた冒頭部分……。興奮のあまり「味のわからなくなったパスタ」を食してしまったシーン……。さりげなく積み重ねられた描写が、ここにきてその隠された意味を解き放ちます。そして。
>「あなたの食道を伝って、吸収されたダルマがあなたを覆いました。あなたはもう、髪の毛一本を白くすることさえできないのです」
>なんだか幸せな気持ちになってきた。
>私は皿を両手で持ち上げ、犬のように食い散らかし、ソースの一滴まで舐めとった。
>「ありがとうございます」
>私は彼にお礼を言った。
>私も彼も顔を真っ黒にしているからだ。
>彼は私を抱き寄せて、よくできました、と微笑む。
>背後に大喝采が聞こえる。
>私たちを祝福、せ、よ。

 ヒィィイイイイイイ……。(脳爆発)
 ……というわけでいかがだったでしょうか?僕がこの作品を見て、すごいなあと思った所を自分の出来得る限り表現してみたつもりですが、自分が汲み取れなかったところもあると思います。ゾクッとする描写のお手本みたいな作品ですので、僕のこの文を最後まで読んでくださった方は、是非実際にこの短編を見ていただき、この恐ろしい感覚を味わっていただければな、と思います。

謎の有袋類
 本編も読んで円環に加わりましょう。

21 低級悪魔の生贄/f

謎の有袋類
 第一回こむら川に参加してくださったfさん!参加ありがとうございます!
 魂を食べる悪魔の食事風景ですね。
 悪魔と人間の関係性や魔術師の在り方などもさらりと描かれていて、とても読み応えがありました。
 力のある低級悪魔アルモアが、なかなかグルメなことと、その主人であるラシェルさんのツンっとしたお嬢様のやりとりがすごく魅力的でした。
 本編では、ラシェルさんが剣術を使ったりするのかな?動けるし、策略に積極的なお嬢様いいですね。
 魂を食べる悪魔という主人公の相棒がとても気になる楽しい短編でした。
 ダークファンタジーが好きな人は多分めちゃくちゃ好きな味わいなのでは無いでしょうか?
 悪魔・貴族・魔術というワードが気になる方は読んで欲しい作品。

謎の齧歯類
 おお、幻想文学……もしくはヨーロッパのファンタジーのような重厚な入り。
 悪魔がどういうものか、という説明がわかりやすく、堕落した魂の例もゆかしい。詐欺師、娼婦、贋金造り!
 これだけでもこのお話の世界が夜が暗く、路地はジメジメとして、銅版画のような挿絵が似合う場所だととても感じられます。
 なるほど、これは本編の主人公と使い悪魔の出会いのシーンなのか。彼女の性格と立場がなんとなく察せられ、ワクワクしますね。
 父君らしい人がこの場で一番強そうなのに、一番親しみが持てそうでおもしろい。
《西方(ウェスペリア)の真珠》《在りて在る者(エヒヤー・アシェル・アヒヤー)》など、ルビの雰囲気も最高にいいですね。短編なのにたっぷりしたダークファンタジー、それもハヤカワか創元あたりのものを読んだ気分になります。
 悪魔が食べる魂の描写がまた人間の感覚だと美味しく無さそうでいい。腐った床板、おが屑、錆びた釘。この分だとにおいも素敵に最悪に違いない。硫黄かな?
 作者の方は食事が嫌いだとタグに書いてありましたが、なるほどなあ、とにこにこしてしまいました。
 ところで、おまけの罪人の歌う歌が好きですね。いかにも、という感じで。汚濁と腐敗に塗れた世界の貧民の、特に牢に繋がれた罪人はひねった小唄を歌うものです。素晴らしい。

謎の野菜
 悪魔が食べる生贄……。なるほど、そういう手もあるのか……。(初読時の感想)
 これは本編における主人公と、彼女に仕える悪魔の出会いのお話のようです。
 第一話ですが、主人公が悪魔を召喚する場面、その場面を悪魔側で描いてます!悪魔視点から描くという、発想そのものがまず素敵だと思いました。
>召喚を受け、姿を見せないまま魔法陣に現れたアルモワは、向かいの魔法陣に立つ人物を値踏みをした。
>若い娘だ──というより、少女と言った方がいい。せいぜい十三、四歳くらいだろう。場所は地下なのか、暗くじめじめとしていたが、松明に照らされた髪は輝くような金髪で、大きな目の美しい姿をしている。着ているものも上等で、宝石をあしらった見事な刺繍が施されている。
>アルモワは内心ほくそ笑んだ。小娘が一人で悪魔を召喚するなんていい度胸だ。

 と、一見非力な少女が何の考えもなく召喚したのかと思いきや。
>ざっと魔法陣を調べたが、残念ながら天使文字の文句も彼の印章も丁寧に描かれていて綻び一つなかった。
>三つ目の魔法陣には一つの手鏡が置かれている。その中に人間の魂が閉じこめられているのが、アルモワの悪魔の目にはっきりと見えた……これが彼の生贄らしい。
>契約後に鏡や水晶へ封じられる場合でも、生贄は生身の人間であることが多い。直接鏡に憑依させるために魂を鏡へ移すには、それなりに複雑な儀式が必要だ。この鏡の裏側には、その男の髪の毛や歯が埋めこまれているはずだ……。
>この少女は思ったより切れ者なのかもしれない。
>人間の血や肉体を求める悪魔なら生身の生贄が必要だが、アルモワのように魂のみを要求する悪魔にとって、この待遇は「丁重なもてなし」ととらえることができる。首を掻き切られた鹿ではなく、じっくりと熟成された上で火にかけられて薬草のソースを添えられた料理を提供されたようなものだ。

 むしろ計算され尽くした上での行動でした。
 この流れ、巧いなと思いました。まず、魔法陣全体にカメラを向け、主人公の外見的特性を見せる事で、「無知な少女が悪魔を召喚しているのかな?」という印象を読者に与えた後、魔法陣の細かな部分へとフォーカスし、そこに込められた細工を見せる事で「この少女は切れ者」であるという事実が示されています。この第一印象からのギャップによって、少女の「切れ者」という印象が強まっているように思いました。
 鏡に魂を閉じ込める、というのも興味深いですね。「鏡の中の世界」というと一見素敵なものだと僕は思うのですが、中に閉じ込められているのは悪魔の生贄。明るい物の中にどす黒い物が閉じ込められているというギャップが素敵です。
>少女は思ったよりはっきりと──というより、むしろ傲然と言い放った。
>「《立ち去りし神》、《在りて在る者(エヒヤー・アシェル・アヒヤー)》の支配下に住まう悪魔よ、我が元に参り、我が前に立ち顕あらわれよ」
>概ね人のようだが、眼窩は落ち窪んでがらんどう、頭には二対の角を生やし、骨の浮き上がった軀からだにぶら下がる腕は五、六本。仕上げに棘だらけの鎖を巻きつける。だが──それを見ても少女は特に反応しなかったので、アルモワは少しがっかりした。

 その後の描写からも、この少女は只者じゃないぞ、というオーラが伝わってきます。
 その後、少女の父上がやってきて、少女の名前は「ラシェル」である事、そしてラシェルには魔法が扱えないことがわかります。なんと、非力主人公だったとは。余計に「切れ者」感が増してきます。
>「私がこんなこともできないと思われるのですか?魔力がなくても低級悪魔との契約は可能だわ」
>「私がいなくたって困らないでしょうに──差し支えなければ、続きを行ってもよろしいでしょうか?」

 そして、この辺のラシェルのセリフから、性格も一癖ありそうだなーという感じがしてきます。父上の目を盗んで悪魔を召喚し、挙句父上に対して「私がこんなこともできないと思われるのですか?」という様は、まさにじゃじゃ馬。
 そんな彼女に向けて発する、父上のセリフ。
>「私が見ているところでやりなさいと言ったはずだ!」
>「ラシェル、これはお前にとって初めての召喚術だろう?」
> ゴワール卿(父上)はため息をついた。
>「娘を案ずる父親の心を慮ってくれ」

 じゃじゃ馬娘を上手く扱えず、手を焼いている父上の様子がはっきりと浮かんできます。
 ……なんというか、ここに描かれていない日々の気苦労までもが伝わってくるような感じがしてきます。
 その後の悪魔が供物として差し出された魂を食らう描写も好きです。
>アルモワは音もなく逃げ惑う魂に襲いかかり、長い舌で絡めとった。
>ジタバタと暴れる魂に、何本もの腕でしっかりと絡みつき、逃れることは叶わないと教えてやるのは楽しい。
>アルモワはまず、海底から引き上げた壺に入っていたかのような芳醇な香りを堪能してから、自らの肋骨を──現在の姿には肋骨がある、という前置きが必要だったかもしれないが──ぱっくりと割り、巨大な狼のような口を剥き出しにして容赦なく牙を突き立てた。
>それは腐った床板のような食感で、噛みちぎるとおが屑のように、いやむしろ錆びた釘のように崩れていった。千切れた部分から中身が膿のようにどろりと垂れてきて、それを溢さぬように舐めとる。喉ごしはねっとりと松脂のよう。

 特に味描写!!人間の舌からすると、滅茶苦茶不味そうなのが、まさに悪魔って感じがしていいですね。
 そしておまけのお話!今度の舞台は悪魔の生贄となる、罪人ばかりの地下牢獄!
>処刑場と監獄はヴェルローの地下にあり、暗くじめじめしてカビだらけだ。海のすぐそばのため、潮の臭いもきつく、時間によっては浸水する牢もあるし、なかには干潮時でなければ出入りのできない、重罪人を戒めるための独房も存在する。
>ヴェルローでは、罪人は海によって裁かれる……生贄にならなければの話だが。
>監獄にはたいてい、さまざまな理由で死刑宣告を受けた細民(ムニュ・プープル)たちが放り込まれている。罪状はまちまちである──盗み、他人の船に穴を開ける、放火、貨幣の偽造、妻の間男の殺害など。ヴェルローには常に生贄が必要だ。しかし、無実の者が捕らえられることはない……ほとんどの場合は。

 うーん、薄暗い!!(歓喜の声)
 そして、文章の抑揚の付け方がすごく巧みだなと思いました。世界観の説明文を並べる際、取扱説明書めいた退屈な文章になりがちなのですが、この作品の場合は「……生贄にならなければの話だが。」「……ほとんどの場合は。」といった感じの言い回しが、薄暗い雰囲気をより一層盛り上げてくれる為、最後までワクワクしながら読み進める事ができました。 
 そして、このパートで一番魅力的だな、と思ったのは歌。これから生贄にされてしまう、罪人の歌が素敵なのです!
>処刑場の湿気でぬるついた壁に繋がれた罪人は、鎖をガチャガチャ鳴らしながら調子外れな歌を歌っている。
>《
>主格(ノミナティーフ)はどこにもいやしない!
>我らが奪格(アブラティーフ)はすっかり腐敗し、
>処格(ロキャティーフ)をぺろりと飲みこみ、
>与格(ダティーフ)に支払われ、
>属格(ジェニティフ)を動かす。
>主格(ノミナティーフ)はどこにもいやしない!
>》

 ルビ有りでルビ無しでも、しっかりと韻が踏まれていて、その上「すっかり」や「ぺろり」といった擬音語が気持ちよく響きます。「鎖をガチャガチャ鳴らしながら調子外れな歌を歌っている。」のもまた、薄暗い雰囲気を盛り上げていて、とっても素敵です。その後の解説も含め、作者様の展開する世界観が持つダークな風味を存分に味わえるこの部分……。本当にいいですねえ……。
 その後の悪魔と主人公の会話もまた素敵なので引用をさせていただきました。
>「さっさと終わらせてちょうだい」
>アルモワは鏡から六本の腕を出し、男のはらわたに突っこみ、魂を引きずり出した。
>長年雨風に晒された帆布のように乾いて、ヤスリのようにざらついている。噛み砕くと刈られる前の羊のようにもったりとした味がするが、火花のようなパチパチとした刺激がある。最後に蝋燭を吹き消した後の煙のような香りが抜けた。
>「アルモワ、」
>後味を楽しんでいると、すでに処刑場を後にしたラシェルが話しかけてくるのが聞こえた。
>「モーリス・マルガリテスはどこにいるかしら?」
>アルモワは風の精霊にモーリスの居場所を尋ね、主人の問いに答えた──もう少しじっくり生贄を味わせて欲しいものだと思いながら。

 いい関係ですね!傲慢な少女とそれに仕える低級悪魔の主従関係……。今後の展開が気になって仕方がない!そんな気持ちになる短編でした。

22 【出張版ザデュイラル】マルソイン家のサルクススケガ(あぶり人肉)/富士普楽

謎の有袋類
 わーい!藤さまだ!参加ありがとうございます!
 人肉クッキングだ!猪とか雑食性の動物を参考にしていたりするんでしょうか?猪とかもやっぱり生前食べるもので味が違ったりするし、個体差があるって言いますよね。
 専門用語が山盛りなのと、多分言語なんかもすごい凝っていてどこかの国の言葉を参考にしてるか、言語自作勢だったりするんでしょうか?
 ルビがあるのでわかりやすい部分が多くて助かりました。慣れない言語や単語が多いので慣れるまで少しだけ大変かな?
 それでも、文化の違いや、調理の様子、死生観など短編にたくさん盛り込まれていてとても面白く読めました。
 ソムスキッラさんすき!!!
 ヘテロゲニアリンギスティコが好きな人とかは多分めちゃくちゃ面白く読めると思います!

謎の齧歯類
 冒頭の引きの強さよ。
 チキンは大体美味しいもの、その先入観を叩きのめす一文、そして続くその理由。
 齧歯類は本編既読なのである程度先入観が入ってしまいますが、そうでない人はこれをどう読むのか。
 舞台は多分現生人類と変わらないデザインの人類と、人の肉しか食べられない「食人鬼」の人たちが存在する世界。とはいえファンタジーらしいファンタジー、という感じではないようだぞ、とわかる、まるで紀行文、それも学者が後世起こしたかのような形の文章。スラングに注釈が入っているのがまたその感覚を駆り立てます。
 読んでいくと彼らの生態が説明され、このちょっと(現代の人類なら!)ショッキングな生態と文化を持つ彼らのもとにいるこの主人公が何者か、が文化人類学の徒であり、フィールドワークである、と明かされますが、フィールドワークであると示されればなんというか、世界が文明の光のもとにあり、ショッキングに見える彼らの風習が「異文化」なのだと認識するのでこの構造はよく出来ているなあ、と思います。
 続く話題もシリアスなのに、主人公のイオくんは学者馬鹿の系統なのだな、と100%わかる語り口。笑ってしまいつつも文化差を感じさせる話の内容。そこから今会話をしている相手が食べられる役目なのだと明かされる。上手い。こんな引きをされたら本編が気になってしまいます!
 そこから実際に人を食べるための祭礼のシーンに話が移ります。ここでうまいな、と思うのは前に出てきた親友二人組、この「残される方」の婚約者の女性が出てくること。前の二人は互いに激重感情を抱いている男男の激重感情の人々なのですが、彼女はほんの少し外側からそれを一部始終見ている、という立場。
 彼らの文化を語り、食べるものの心を語る。主人公が食欲、「欲」に絡んだ邪推というか、生臭さに寄った分析をした上で、それだけではないのだと彼らの心性を語る役割は彼女の立場ならではであるのですね。
 ここまでお膳立てをしての実食シーン。彼らの習俗が語られ、この食事が多分に儀式に寄ったものだという描写。そして料理の味。
 これが美味しそうで困る。いえ、困らないんですが。
 儀式でありつつ、食事でもある。原型を残す、というわけでもない。ちゃんと美味しくなるように手を凝らし、料理としてあまりに料理なので、ああ別の生態と文化の種族なのだなあ、と感慨が深くなる。これが現生人類だったら儀式に極めて寄った形、別のやり方になりそうなものなので。
 しかし、ところで、食べられると食べた種に生まれ変わる、という信仰の社会でよくイオ君は肉を食べさせてもらえたな……と今更ながら思います。後世の融和、まさかコレが関係していないだろうな。つまり、何人かは間違いなく現生人類として生まれ変わったと彼らの社会はその後認識しているわけで。
 良い番外編でした。

謎の野菜
 カニバリズム……!!!
 僕、カニバリズム小説に触れるの、実は初めてだったりします。けれど、何となくカニバリズムに対して思い浮かべていた「狂気的」や「猟奇的」といったイメージを、この話からはあまり感じとれませんでした。むしろ、「狂気的」や「猟奇的」とみなされがちなカニバリズムの、そういったイメージを払拭する為に書かれている。僕はそう感じました。
 この作品。「食人文化《カニバリズム》」というテーマに対して、極めて真摯な姿勢で挑んでいます。まず「食人文化《カニバリズム》」を持つ種族、「魔族」の設定。これが本当に緻密なのです。
>食人鬼、または魔族。彼らは動物性タンパク質・脂質を人間からしか摂ることができない。かろうじて猿は食べられるが、それも大量の胃薬を用意して、腹を下すことを覚悟しながらの食事だ。牛、羊、豚、鶏、アヒル、魚、卵、どう調理しようと彼らは消化できない。そんなわけで、彼らは昔から僕ら人族の先祖を狩りたて、あるいは一箇所に集めて牧場を作ったりして美味しく食べ続けてきたのだ。
>しかし、彼ら魔族が最も好むものは、同族の肉である。ザデュイラルの葬儀は遺体を親族友人で食べ尽くすことであり、妊娠中の母親は夫と共に赤ん坊を煮こんだスープを食べる。子どもの角が大人の角に生え変わる時は、その子に同じ年頃の子どもを食べさせる。
>なるほど、養鶏産業がないザデュイラルでは「鶏は飛ばない」という認識すらないのか。まあ飛ぶ鳥だって、銃で撃ち落として食べるのだが。

 などなど。この短編に描かれた一文一文から、作者様が「食人をする種族がいたとしたら、どんな生態・認識・文化を持つんだろう?」というテーマに対して、数々な学術分野の知識を生かしながら、相当な時間を費やして考察をしていったんだろうなあ、という事が滲み出ています。その練りに練られた設定の一つ一つを見ていると、優れた学術書を見ている時のような、新しい知見を得られた時の感動が生まれてきます。
 そして、そんな凝りに凝った設定が施された食人種族を、文化人類学の学生である主人公の視点で語る、という設計もすごい。普通の人間を主人公にした場合、「食べられてしまうかもしれない」という恐怖に震えてしまい、冷静に物事を語ってくれないと思いますが、主人公を食人種族を調査する文化人類学者にする事で、極めて冷静かつ、分析的な語り口で語ってくれます。故に、作者様が練り上げた食人種族の魅力をたっぷりと堪能できます。
>図書室のソファはゆったりとした作りだが、部屋に家具が一つ増えたような存在感を持つタミーラクが座っていると、こぢんまりして見えた。彼はまだ十七歳の若者だが、当時二十二歳の僕より頭一つぶん以上背が高い。タミーラクについて特に奇妙に思えるのは、腰のあたりまで伸ばされた栗色の髪だ。
>若きマルソイン家当主が口を開くと、清涼な風が吹きこんだような気がした。透き通るような白皙はくせきに、つややかな鉄くろがね色の髪。タミーラクと同じ十七歳だが、その存在感は友人とは別の意味で大きい。冴え冴えとした光を内側に湛えた氷の彫像が、生命を得て動いている。そんな驚嘆すら覚えるような、そこにあることが奇跡の少年だ。その美貌の中、左目を覆う優美な眼帯だけが異質に浮いていた。

 このように、魔族の外見描写も、人間を見るのと同じような書き方で表現されています。それにしても、マルソイン家当主様、美男子過ぎませんか??(好き)
 さて、文化人類学の「文化」と「文化」を相対的に見つめる視点で描かれた本作を見ていると、作中世界の「人間」ではなく、この文章を読んでいる「読者としての自分」が持つ「文化」の自明性を疑い出す瞬間が、何度も訪れてきます。僕がこの作品を読んで「まるで、文化人類学の論文を読んでいる時のようだ」という感覚に一番襲われたのは以下の文です。
>「我々にとっては、自分の亡骸を食べられないことが何よりの恐怖ですが、あなた方にとっては、食べられることが恐ろしい。それはなぜですか?」
 た、確かに謎だ……!言語化できない……!
 その質問に対して、作中で主人公が述べている見解はこちら。
>「人が人を食べる、または食べられることへの言い知れない嫌悪。その理由は何か? あちこち聞いて回って、僕が満足したのは大学の友人の答えでした。『人間をバラバラにさばいて、焼いて煮こんで味つけして食べる。そんなのは、人間じゃなくて家畜に対する扱いだろう? 当然じゃないか』よくもまあ、当時の僕は『なるほど』としたり顔でうなずいたものです! これはまっとうな返答のように思えるが、その実なにも明かしてはいない」
>「結局、この回答は『人間は人間を食べないものだから、食べられると怒るのは当然です』としか言っていません。伯爵がお訊ねした〝なぜ食べられたくないのか〟については、一応の回答にはなるでしょう。しかし追求するならば、なぜ僕らは人を食べないのかという点から解き明かさねばなりません」

 この部分から主人公の、ひいては作者様の考察力の高さが伺える気がします。この主人公が最終的にどういう結論に達したのか、楽しみで仕方ないです。
 そしてその後、人間の身を食べ尽くす九日間のうたげ・祭宴《パクサ》のお話に移ります。ここでは、主に屋敷に飾られた絵や屋敷内の装飾について語っているのですが。その描写を一部抜粋したものがコチラ。
>壁紙の浮き彫り細工を見れば、赤ん坊が煮られる鍋が。階段の手すりを見れば、逆さ吊りにされた首なし死体が。
>壁のつづれ織りや、絨毯に使われている図案もまた、豪奢な地獄絵図の数々だ。角を持つ人間が、角のない人間を狩り立て、殺し、バラバラに捌いて食べる。

 好きです。人間と違う、魔族の文化がよく表れていると思います。
 しかし、こんな豪華なお屋敷のあらゆる調度品に、「お食事」を連想される物が描かれているとは……。我々人間のお屋敷の場合、「フルーツ盛り合わせの絵や彫刻」みたいなものをちょっと飾る事はあっても、ここまで「食事」を連想するもので統一するって事は余りないですよね。(詳しい訳ではないので、実はそういうのもあるかもしれませんが……。)なんというか、魔族の皆さまは人間と比べると、「食事」に対して深い思い入れがあるのかな、なんて思ったりもしました。
 そして「豪奢な地獄絵図」という単語!これいいですね!「豪奢」と「地獄」という相反する単語が一緒になっている所とか、「地獄絵図」という一言で人間が殺戮されているという事を表現している所とか。アラベスク文様で描かれた人間殺戮シーンが、絨毯一杯に広がっている光景が目に浮かんできます。
 その後。『コユワイ王の春狩り』という一枚の絵画を、ソムスキッラという少女と一緒に眺めるシーンへと移ります。
 そこに描かれているのは、今までのような食人描写ではなく。
>ソムスキッラが指す一点、生首がたわわに吊されたものとは別の木に、首のない死体が逆さに吊されていた。その下には、なみなみと血で満たされた桶がある。
>ふと違和感を覚えた。首を落とされた死体は、背景に山と折り重なっているが、食べるつもりなら吊るして血抜きするはずだ。だが彼女が指さしたもの以外は、ゴミのように打ち捨てられている。
>「もしかして、この絵は人狩りではなく、ただの虐殺?」
>そう、とソムスキッラは静かに肯定した。
>「吊るされている首なし死体は、コユワイ王の一人息子・キサユ王子よ。王子は初めての狩りだったけれど、獲物に抵抗されて命を落とした。怒り狂った王はこの猟場を潰すことに決め、獲物に飼っていた人族を皆殺しにしたの」

 魔族の歴史が描かれた絵画でした。ここだけでも歴史学の資料を覗いているみたいで大変興味深いのですが。
>死体を食べずに打ち捨てて、虫や獣が食い荒らすままにすることは、ザデュイラルでは重罪人への処置だ。アミパナフのコユワイ王にとっても、最大限の侮辱だったに違いない。王はこの後、血抜きしたキサユ王子を食べて弔ったのだろう。
>息子を食べる父親。ガラテヤに居た時は考えられないが、今の僕には身近な人々の顔をいくつか思い浮かべる話だ。この絵にそんな背景があったなんて。
>「コユワイ王は、愛息子の味を忘れられなかったばかりに、次男クユサユを手にかけた愚王として知られているわ。キサユ王子亡き後生まれた子で、十歳にもならなかったのに、ある日突然打ち殺してしまった。それが娘の怒りを買ったわ」
>「記録によると、コユワイ王はクユサユ王子を煮こんだシチューを食べている時に、長女カプホルに斬り殺されたそうよ。そして彼女は女王として即位し、以後アミパナフでは親が子を食らうことを厳しく禁じた」

 ここでヒェッ……となりました。弟を煮込み、食べようとしている最中の親を殺す長女……。人間界で起こったら、まったくもって意味が分からない猟奇事件として扱われそうなこの事件。しかし。
>「私たちは皆、愛するものほど食べたくなる」
>「喪いたくないから、自分の中に相手を引き留めようとして。消えてしまうから、最後に残されたものを一つも取りこぼさないように」

 ここでハッとしました。なんというか、作者様が何故「カニバリズム」に惹かれ、それをテーマにして、ここまで見事な作品を作ったのか。それをこの数行のフレーズが雄弁に語ってくれていると感じたからです。このセリフを伝えたいが為に、この作品を手間暇かけて作った……。そんな風にさえ感じました。
 さて、最後に始まるのは、主人公が人肉を調理する場に立ち会う場面。
>「……伯爵。塩が少々多すぎませんか」
>「いいえ、これで良いのです。塩が余分な脂を肉に落とし、豊潤な肉汁の源になるのです。しかし塩が足りなければ、皮はパリパリした歯ごたえになりません」

 そ、そうなんだ……。塩を沢山かけるんだ……。
 風の噂レベルで以前、「人肉ってそんなにうまくないよ」という話を聞いたのですが。
>贄の皮膚は和え物や炒め物、スナックなどにされていたが(どれも大変美味しかった)、彼の皮だけは残されていたらしい。
 少なくとも、この世界では美味しい物らしいですね。人の皮チップスかあ……。確かに腕の関節の皮膚とかプニプニしてるし、食べたら意外と旨いかも?
 ……とまあ、そんな僕の勝手な妄想はさておき、ついに宴が始まります。
>「さあ、召し上がれ《カムシーイ・デニアマザン》」〔Kamsgi dengåmasan〕
>丸一日手をかけた料理が出そろうと、その夜の祭宴《パクサ》が始まった。食前歌《イニクヴサ》を皆で歌ったら、後はおしゃべり禁止だ。ザデュイラルでは食事中に話すことは大変な無作法とされ、会話したければ正餐語《ヤクタユム・ガプサラ》という専用の手話を使う。
 なるほど。興味深いなあ、と思っていたら。
>「死者の【肉】を食はむ時、我々は死者自身と対話しているのです。そのような時に他人と別の話を始めたら、礼を失するというものでしょう?」
 すごいセリフが出てきました……。
 ここにも、作者様の「カニバリズム」に対する姿勢が伺えるような気がします。特に僕はこの「死者自身と対話」というワードに心を抉られました。魔族の文化を端的によく表していると思ったからです。我々日本人には、「いただきます」「ごちそうさま」という作法によって、食卓に運ばれてきた生命に対して感謝する習慣はあります。しかし「食事=死者自身と対話」なんて概念を日本人の中で持っている方は恐らく、少ないと思います……。(多分……。)
 しかし、これも文化の差……。とあっさり片付けるのは容易いのですが、ここ、結構深く考察できるポイントな気がします。
 僕個人の勝手な考察なのですが、人間は自分達と対話できない「動物」を食するのに対し、魔族は言葉によって対話ができる「人間」を食らいます。この「食事となる生物と対話できる」という所が「食事=死者自身と対話」するという概念が生まれる契機になったのかな、と感じました。
 この短編中で食されているアジガロさん。彼は魔族の伯爵様の傍で仕えていた使用人で、今年の贄では筆頭を務めていたそうです。きっと、食べられる前までは伯爵様と様々な会話を交わし、二人の間には信頼関係が生まれていたのでしょう。そうでなければ、伯爵様が「筆頭」に任命する訳がないですよね。
 ここに人間とは違う、「捕食者」と「被食者」の関係性が見えてきます。人間は動物と触れ合い、仲良くすることは出来るけれど、対話する事はできません。ブタやウシや鶏……。彼らがどんな思いで飼育され、どんな思いで屠殺されていくのかを、私たちは知る事が出来ません。しかし、一方で魔族は違う。人間と会話してその思いをくみ取れますし、主従関係という「信頼」が無ければ成り立たない関係性まで築く事ができます。「捕食者」と「被食者」が会話し、二人が仲の良い「友人」にすらなり得るのなら……。「食事=死者自身と対話」という図式も生まれて当然だと言えます。
>「私たちは皆、愛するものほど食べたくなる」
 と先ほど取り上げた表現と合わせてみると、何故、文中でアジガロさんが美味しいと評価されているのか、何となくわかってくる気がしませんか??ちなみに下に示すのはアジガロさんの味表現です。表現がとても瑞々しくて、まるでその旨さが直接舌の上に伝わってくるような気さえします。
>一切れ取って歯を立てると、香ばしい皮がぱりっと砕けた。おお、その歯ごたえときたら!
>カリカリと硬く、サクサクと軽く、割れると旨味に満ちた香気が広がって食欲が爆発する。そして皮の下から流れ出す、汁気と脂の洪水。もうよだれがこぼれそうだ。肉汁をすすりながら更に歯を押しこむと、筋肉の繊維が作る抵抗があった。それがぶつぶつと切れる感触に、肉を食べているなあと原始的な満足感を覚える。
 ……長々語らせていただきましたが、この短編、綿密に設定が練られている為、考察するのが非常に楽しいのです!(作者様の意図からズレていたら大変申し訳ございません……。)こうして作中に込められた設定の意味を紐解いていくと、作者様の「カニバリズム」への愛も窺えてきて、その愛の深さに思わず感嘆してしまいます。短編なのに、これほどまで深く味わえるこの作品……。名作といっても差し支えないと思います!
>「ごちそうさまでした!《スラクタ・コウ・テマル》」〔Slackta kov temar〕

23 穴蔵の髭付き樽/木船田ヒロマル

謎の有袋類
 ヒロマルさんだ!参加ありがとうございます!
 途中まで本編を読んでいるのですが、そうかあのエルフちゃんそうなるんですね……。なるほど。
 ザジさんのツンデレっぷりが好きだったりします。
 ご飯を通してドワーフのおじさんの心を少しずつ開いていき、最後にドワーフの食卓に呼ばれる。良いテンドンだーーーー!
 エルフさんたちの協力の下に出したメニューもすごく美味しそう……。
 ティタさんの故郷がどんな国なのかワクワク出来る点もすごく上手だなと思いました。
 グリステルさんが見た未来が、本編にどんな風に回収されているのかも楽しみなところですね。
 正統派ファンタジーが好きで、少し違った風味のお話が読みたい!という方にはオススメです。

謎の齧歯類
 まずのキャラクター紹介で異種族の名で呼ばれる人々がどうも北欧めいた文化の異種族の人間らしいぞ、と理解してからの、ホビットの冒険をはじめとするあの手の懐かしきハイファンタジーの1シーンのような絵面!
 先の説明がなければ脳内では覆面をかぶった人々ではなく立派な髭を蓄えた小柄な異民族やら牙ある屈強な種族やらを想像していたことでしょう。
 留守番のドワーフをもてなすやり方。グリステルさんはそのあたり、とてもうまい人なのだな、ということが何となく察されます。最初の瓶半分のワインから、どんどんと相手が次にやってくるのを楽しみにさせる土産の持って来方。最後数日空くあたりなんかとても上手い。
 いい具合に喉を乾かせて腹が減った状態で饗応を口にさせる。歩いている間に距離が縮んで愛着も湧く、という一石二鳥さ。
 さらにその状態で塩と胡椒を渡すことで印象を鮮烈にしつつ、うまく説得の文言に引っ掛ける。
 キンメリアのコナンとかそういう人々の、勇士の計略の立て方ですよこれは。いい。
 そして挑む試練のハイ・ファンタジー戦記っぷり!
 これは一体どういう未来を示しているのでしょうか。魔族と呼ばれる人々と人を両方従えた王。これがどういう戦争なのか。グリステルさんは一体何を納得したのか。本編が気になりつつも、陰惨なものではなく、どうやら彼女にとってよいものらしい、と察せられるバランス感覚の上手さ。
 ドワーフたちが仲間になる様も(いわゆるドワーフではないとわかっていても!)指輪物語めいたエピック感を感じてにこにこしてしまいました。めちゃくちゃ良いですね、好きなんですよこう、こういう「後世語られる同盟はこのように成ったのだ」みたいなシーン。
 良い出張短編を読ませていただきました!!

謎の野菜
 うわ、めちゃくちゃ章がある!!!!!?
 第一印象を正直に申しますと、こんな感じになります。
 しかも、冒頭にキャラ説明を置くという、参加作品の中ではなかなかない順番でした。他の作品の場合、本編が最初で、キャラ説明は最後、という形がほとんどでした。キャラや世界観の魅力を見せた後、キャラの説明文をかるーく乗せて、本編へと誘導するものがほとんどです。
 しかし、それが逆。キャラの説明を最初にするというのは、僕からするとリスキーに感じます。知らない世界の知らない人の説明をいきなり受けても、なかなか読者に受け入れてもらえないんじゃないだろうか……。そんな感じがするからです。
 しかし、キャラ説明を見たらその理由が分かりました。
>ザジ
>豚頭族ディスパテル(人間側の呼び方はオーク族)。43歳。男性。
>ヒュームが魔族と呼ぶ彼ら「影の民」は生来皮膚が日に弱く、種族ごとに決まった動物の革の覆面を被って暮らす北方の異民族だった。百年戦争で妻子を失い、戦いに疲れ、辺境の物見小屋の守衛をしていた時に傷付いたグリステルを救い、以後、行動を共にしている。素顔は髭面。屈強な体躯の大柄の戦士。

 オークの概念が、大方の共通認識と違うのです。「オーク」と聞いた時、大体の読者はおそらく「ブタ顔に腹の出た太った体型」を想像すると思います。実際この作品でも、外見上はそのイメージから大きく逸脱しないものとみなされています。しかし、上記の説明を見て頂ければわかる通り、「中身」は違います。人間なのです。あくまで豚のお面を被った、同じ人間なのです。それがこの作品の大きなテーマなので、ここで出しておく必要があったのですね。
 そして、こんな綿密な世界観を示された後、冒頭で示した章数の多さを思い出しました。
 読む前から、これから展開されるであろう、重厚な戦記物の世界観に、思わず胸が高鳴ります。
 そんな気持ちで本編を読んでみました。
 期待通りの重厚な物語が展開しています。
 後に延々と人々の間に伝わっていく、伝説の一端を覗いているような気分になりました。しかし、ただ重々しい話なのかといったらそうではないです。むしろ、序盤のドワーフをもてなす所は、一流のコメディアンのショーを見ているかのように痛快です。何より、軽快なテンポで進む会話がベースとなっているので、読み味が非常にあっさりとしているのです。
>そこに格調たかい重厚なテーブルが置かれ、大小の皿や鍋、酒瓶などが綺麗に並べられている。陽は傾き夕日が眼下の森を照らし、明暗のくっきりとしたシルエットを描き出している。巣に帰る鳥の群れ、流れる雲。いつも地面ばかり見て過ごすバドガーは久しぶりに景色や空といったものが美しく、心を打つものなのだと言うことを思い出した。
>運動し、汗を掻いた体に塩の効いた食材はどれも美味く、冷えたワインが進み、ワインを飲むとまた食が進んだ。食傷気味だった芋のスープも、一人で岩山の穴蔵で食べるのとはまるで別物で、バドガーは自分が芋の持つ食物としての力を半分も引き出していかなったのだと悟った。

 その上、会話中にサッと差し込まれる情景描写も良いです!難解すぎる言葉を使わずに、組み合わせ方の巧さでハッキリとその情景が心の中に浮かびあがる仕組みになっているように思いました。
 こういったシンプルで美しい情景描写達と、テンポの良い会話劇が組み合わさり、重厚な戦記物の世界観がスルスルと脳の中を流れていきます。
 そして、この作品。序盤はドワーフを歓待します。その歓待を企画する主人公の策士っぷりがスゴイ!ドワーフの外堀をジワリジワリと埋めていくその様は、見ていて爽快ですし、なにより「この主人公すごいな!」と思いました。その中でも特にすごいなと思ったシーンがコチラ。
>「塩と胡椒です。お好みで好きにお使いください」
> バドガーは小さく切った羊の肉に塩と胡椒を振って口に含んだ。寝ぼけた樹皮のような味だったそれは目の覚めるような美味に変わり、彼は調味料というものが味に関しては魔法のような力を持つのだと知った。

 という感じで、塩と胡椒を掛けた料理のおいしさをドワーフ(と読者)に食らわせた後。
>「あの偉大なる大坑道が今回の晩餐なら、そこに関わる人々は塩と胡椒のようなものだ。どんな豪華な食材でも、然るべきところに人の手が入り、その価値が引き出されければまともな食事たりえない。エルフの民も、協力は惜しまないと約束してくれています」
 というセリフで説得をします。
 ここ、本当にスゴイですね!!ドワーフの舌を通じて、主人公の凄みが伝わってきます。
 そして、後半に入ると、ドワーフは主人公に試練を課します。それを達成したら、主人公の要求をのみ込んでくれる、とのことです。
 主人公が試練を受けるために暗い暗い洞窟の中に入ってしばらく経った後。
>その時、闇の頭上から曲射の矢が一本、彼女を目指し空を切って飛来した。
>グリステルの右腕が殆ど勝手に反応して鞘から名工クイジナートが鍛えたロングソードを抜き放ち飛来した矢が彼女を射抜く前に両断した。
>その時だ。世界が一変した。彼女の振るった切っ先が、暗幕を切り裂いたかのようだった。喧騒。打たれ弾けれる甲高い金属の音。鬨ときの声。ヒバリの鳴くような飛び交う矢羽の風切りの音と軍馬の駆ける馬蹄の響き。
>「なっ……⁉︎」
>彼女は戦場にいた。慌てて装備を確かめると、剣も鎧も王国騎士団正規のそれに変わっていた。辺りはあちこちで影の民と正規軍の騎士たちが戦闘を繰り広げている。遠くに見える長城は、ナターラスカヤの砦だろうか。

 ウオォォオオオオオ!!!!(興奮の雄たけび)
 いや、スゴイ……!!描写の一つ一つが鮮やか!!
 まず「その時だ。世界が一変した。」の一言!これから何が起こるのかを端的に表しています。この端的というのが重要で、この後に巻き起こる描写のコンボのリズムを崩すことなく、超常現象を受け入れる切っ掛けを作っています。
 その次に来るのが「彼女の振るった切っ先が、暗幕を切り裂いたかのようだった。」というセリフ!こういう超常的なシーンチェンジってすごく難しいと自分は思っているのです!いきなり別の風景をポン、とお出ししても、読者からしてみれば「なんでいきなりこの映像を見せられるの??」ってなってしまう気がしますが、この作品はそうはなりません!
 この一言。このたった一言だけで、その問題を見事に解決しています!しかも、暗闇を剣で切り裂くことでシーンを変えるというのが実にオシャレ!
 そして、その後もすごい。風景描写を入れる前に、まず音描写を入れるというセンスの良さ。鳴らす音の順番も「喧騒。打たれ弾けれる甲高い金属の音。」から「鬨《とき》の声」、「ヒバリの鳴くような飛び交う矢羽の風切りの音と軍馬の駆ける馬蹄の響き」という感じで、音の具体性が段々と高まっています。これらの工夫によって主人公が段々と状況を把握していく様を、臨場感を持って体験する事ができます!
 そして、音声の描写の後に映像の描写を出す事によって、短い文字数なのに、鮮やかにその情景を受け入れる事が出来ます!映像を出す順番も「身近な物→遠くの物」と手抜かりが無いです!!
 そして、その後の描写もすごい!!
>彼女は自分の過去の戦いの記憶を見せられているのかと疑ったが、しかしすぐにそれは違うと思い至った。
>土煙の煙たいような肌触り。風が頬を撫でる感覚。怒号や剣戟の騒々しさと、ねっとりと鼻の奥に残る血の匂い。

 遅れて嗅覚や触覚を出して、この場の質感をしっかり表現しています!!それらを通して、この世界が実在の物であるとキャラも読者も認識するこの流れ!
 見事としか言いようがないです!額縁に飾りたいくらいスゴイ……。
 そんな鮮やかなシーンチェンジをした上で出てきた舞台は、どうやらこの世界における「未来の風景」のようです。
>「なぜ王が戦場に⁉︎」
>「未来も捨てたものじゃない、と言うわけだ!」
>豚頭は血と共に呪いの言葉らしきものを吐いた。
>「お前……女だったのか」

 なんというか、まさしくタロット占いのように解釈次第で色々な捉え方が出来る感じがします……。このあやふやとしている感じ、私は好きです。
 そして、試練を終えた後のオチもいいですね。
>「さて。嬢ちゃんは今日の主役じゃ。今度は我々ドワーフの石のテーブルに着いて、我々の食事の接待を受けてもらおうかの?」
>穴蔵の髭付き樽はそう言って、思いの外可愛い仕草でウィンクをして見せた。

 歓待をしていた側が今度は歓待を受ける……。爽やかでいいオチですね……。
 軽快に読み進められる文章、納得感溢れるストーリー展開、鮮やかな情景描写……。どの部分をとっても「是非ともお手本とさせていただきたいなあ」と心から思える作品でした!!

24 我食材になりしこと/鈴野まこ

謎の有袋類
 まこさんが来てくれたー!参加ありがとうございます!
 本編の「人魚の肉一切れください」の一話にもある男性の魔女ブラウの元に送られて、人魚の肉を得た女性の話ですね。
 人魚の肉を喰らった女性の独白という形で語られる一話のアフターストーリー!
 人の幸せを願う青い髪の魔女ブラウ。彼の元にはメイドの女が何人も何人も
人魚の肉を貰いに来たんだろうなとわかる部分がすごく好きです。
 人魚の肉を得て、無事死なずに済んだ彼女に待っていたのは、ブラウに言われたことよりも酷い不幸でした……。
 ブラウさんの元に訪れるみなさんは、それぞれ好きなのですが、一話のメイドさんは本当にめちゃくちゃいいので是非本編も読んで欲しいですね。
 オムニバス形式に近いので、気になるタイトルから読んでみてもいいと思います。
 遠くない未来、メイドもきっと死ねない身体で彷徨うことになるんだろうな……という本当に救いようのない結末がよかったです。
 人魚の肉を食べた人間の肉、僕もちょっと食べたいですね……。
 本編は様々な人が魔女ブラウに依頼をしにきます。幸せにしたいだけの魔女と幸せになりたい人間のお話を読みたい方は本編も読んでいただきたいです。

謎の齧歯類
 一人称の圧倒的な筆致。
 壁に繋がれたメイドが、彼女が何故そこでそうしているのか、ということを役人に語る、という入り。犯罪を暴くような話なのだろうか、と読み出すと、語られる彼女の情念に圧倒されます。
 消費される使用人、同僚たちは同じもの言う道具であり、主だけが「人間」である。
 狭い世界の王に認められたい、という感情。素晴らしい歪みと閉塞感。
 そんな彼女にスヴェン様とやらが魔女の存在を紹介した、という部分で一瞬首を傾げました。そんなに優しいことをする関係だとは思わなかったのに、と。
 すぐに次の段落でその真意が記されています。
 人魚の肉を食べた人間を更に食べても長寿にはなる。いやあ、すごい。なにがすごいってそれを当たり前のように行う富豪が沢山いるらしい、ということ。人間という生き物はすごいですねえ。凄いことを思いつく。謎の齧歯類は齧歯類なのでわかりませんが。
 男の魔女、ブラウはそういうものをたくさん見てきたのでしょうか。経験則なのでしょう言葉はまた予言のよう。会話の部分に滲んでいるのは諦めのようにも見えます。ここの言葉の使い方がぞくっとくるようでとてもうまいと思います。
 そして次の段。彼女はうまく人魚の肉を食べて生き延びた、ということが語られるのに、その結末の陰惨なことよ。
 そんなふうにうまく生き残ったなら(そしてもう死なないのなら)なにか好きに生きていけば、と思いきや、彼女の世界はその時点でも館の中だけだったのか。主に肉を求められることがそれほど、その時点の彼女の中では意味のあることだったのか。地下室に繋がれて商売を始められたということは嘆いても、唯々諾々と肉を切り取られることに甘んじた部分を語るときの彼女はそれ自体を怒りも忌避も載せて語っていない。それに気づいた時にまずぞっとしました。
 業突く張りの主が擬似人魚の肉を手に入れたら商売を始める。なるほど言われてみればそのとおりですね。
 前半の魔女の語りのせいで、個人の範囲に留めるような気がしていたし、あまり表立って喧伝したくない事柄、そっと隠すようなことのように思えたのですがスヴェン様というのはよほど肝が太いのか。
 そしてオチがなんとも効いています。お役人、壁に繋がれた女性から肉を切って食べる、ということを選択できるのはものすごく心が強いのでしょうか。
 滴るような情念と乾いた皮肉が同居する文体にふさわしい、因果応報。本編も皆このような具合なのでしょうか。よい末路を見せていただきました。

謎の野菜
 ウオオ、残酷な話だ……。(初読時の感想)
 このお話は、食べると不死になるという、「人魚」の肉についてのお話なのですが、キャラの造詣がスゴイのです!人間の薄暗い「欲望」……。それを丹念に描いています。
 まず、語り手となるアガーテさん。「スヴェン様」という貴族に雇われた住み込みのメイドである彼女が、なぜか地下室に拘束されている状態で、目の前の役人に対して発話する、という形でこの話は進んでいきます。
 そんな冒頭で彼女が発するセリフ、非常に衝撃的です。
>今の私は、食材です。
「これは、一体どういう事なんだ?」という疑問が思わず飛び出るこの一文。この一文が発する魔力に引き寄せられ、その後の話を読まずにはいられない……。
 その後の語らせ方も非常に上手いなと思いました。
>スヴェン様はでっぷりした腹の持ち主で、お世辞にも美男子とは言えない中年男ですが、私にとってはただ一人の男でした。
>ああ、こう言うと、私がスヴェン様の欲望を慰めていたように聞こえるかもしれません。そう心配することすら滑稽に思われますか?構いません、私が醜女であることは事実です。胸もなければ尻もない寸胴女に、スヴェン様が手を出すことはありませんでした。他のメイドが一度ならずスヴェン様に身を差し出し、それを嫌がっていることすら、私を惨めにさせました。
>私はスヴェン様に認められたかった。ですがメイドとしては役立たず、女としての器量も良くないときては、どうしようもありません。待遇は悪くなる一方で、歳を取れば若い娘と入れ替えに捨てられることは目に見えていました。
>どうしよう。どうすれば。

「役立たず」、「醜女」、「器量も良くない」……。そんな劣等感ばかりに苛まれた彼女の苦しみが、この切実な語りからまざまざと伝わってきます。「私にとってはただ一人の男でした。」という表現も好きです。「お世辞にも美男子とは言えない中年男」だと分かっているスヴェン様に縋る事しかできないという状況……。いいですね。まさに「恵まれない星の下に生まれた者」に生まれたものが持つ、「誰かに選ばれたい」という欲望が如実に表れています。まさに藁にも縋る思いで、スヴェン様に仕えていたんだと僕は思いました。
 しかし、そんな彼女に転機が訪れます。スヴェン様が主人公にに魔女ブラウ(イケメン男子)という人物を紹介したのです。
>人魚の肉、それこそが、スヴェン様が私に魔女ブラウを紹介した理由でした。人魚は不死の生物であり、その身を喰らった人間もまた、死なずの体を手に入れます。ですがそれは人魚の肉に我が身の有り様を作り替えられても耐えられた場合の話、耐えられなければ、人とも魚とも区別のつかぬ姿のまま死んでしまいます。
>死にたくないから人魚を食べるのに、死んでしまっては身も蓋もありません。
>ですから、スヴェン様は次善の策を取りました。それは、人魚そのものではなく、人魚の肉によって不死になった者の肉を食べることでした。人魚よりも効力は薄く、不死の力は得られませんが、老化を遅らせることができます。あるいは、死ねない体になるよりも、保険の効く手段でもありました。
>そうして、スヴェン様の食材、人魚の肉を食べる者として私が選ばれました。理由は単純、人魚との適合率が高い若い女のうち、私がいちばん死んでも惜しくないからです。

 いいです!!いいですねコレ!!!大変いい!!!
「人魚の肉」という、まさに「天から与えられた奇跡」をそのまま受け取らず、その構造を悪用し、できるだけ自分にリスクが無いような形で受け取る……。人間の浅ましさが露出しているようで、ココ、大好きです……。
「人魚との適合率が高い若い女のうち、私がいちばん死んでも惜しくないから」という理由でその生贄に選ばれた彼女、それでも……。
>だって私がその肉を食らえば、私が死を遠ざける食材になれば、スヴェン様は私を無碍にできないと思ったからです。虫けらを見るように私を見下す男が、私に涙を流してこの体にむしゃぶりつくかもしれないと思ったからです。
>それは耐えられない誘惑でした。私は認められたかった。私が知るただ一人の男に感謝され、たとえ抱かれるのでなくとも、この体が素晴らしいものだと思い知らせてやりたかったのです。

 彼女にとっては「奇跡的」に訪れた、千載一遇のチャンスなのです。この構造の惨たらしさ。すごいですねえ……。「シンデレラ」の童話になぞらえれば、これは彼女にとってのいわば「かぼちゃの馬車」や「ガラスの靴」。しかし、その「馬車」と「靴」はすごく汚れています。なんたって、その行き先は「死」……。ただの「食い物」として食われる、という末路ですからね。しかしそれでも。
>——あたしは人魚の肉を喰らい、死なずの体を手に入れてみせます。痩せぎすの、抱く価値さえないと哂われる体でも、薬となるなら話は別です。ご主人様は有難がって、あたしにむしゃぶりつくでしょう。涙を流して喜んだりさえするかもしれません。あたしはそれが欲しいのです、魔女の方。あたしはあたしの幸福のために、あの男を悦ばせる肉体が欲しいのです。
>でも私は持たざる者。
>人とは異なる、惨めったらしい幸せでなければ掴めないじゃあありませんか。

 ここの切実さ……。大変胸を打たれます……。
 そう、「彼女は持たざる者」。シンデレラは「優れた美貌を持つ者」でしたが、運に恵まれず、悲惨な生活を送っていました。そこに魔女がやってきて、彼女に千載一遇のチャンスを与えたことにより、ハッピーエンドを迎える事が出来ました。(……と少なくとも私は解釈しています。)
 しかし、本当に何も持たざる者がシンデレラと同様のチャンスを得たとしら。美貌も器量も何もない者が、自分の価値を発揮する千載一遇のチャンスを得たとしても……。そのチャンスで発揮すべき価値が何もないのです。なので彼女にとって、「かぼちゃの馬車」や「ガラスの靴」は何の価値がありません。舞台の上で輝けるだけの「美貌」がないですからね。
 むしろ、この「価値なき身体」を「価値ある薬」に変換するこの「人魚の肉」。これこそが、彼女にとっての「ガラスの靴」なのです。例え「人とは異なる、惨めったらしい幸せ」しか得られないと知っていたとしても……。
 もしかすると、不器用ながらこういった強い決心ができる「覚悟の強さ」みたいな、そういった才覚はあったのかもしれませんね。しかし、そんなものが主人の言いつけを守る「メイド」としての役割において生かされる筈もなく。この人魚の肉に縋るしかない彼女は、その肉を食べてしまいます。
 その時の描写も気味が悪くて大変良い!!
>スヴェン様の前で取り出した肉は、魚の白味に似ていました。いつ切り出したものなのでしょう、生臭さはほとんど抜けています。でも、不思議と腐らずに、摘んだ指の間でぷるぷると揺れました。骨も血管も見えない不思議な肉でした。
 という不思議な肉を食べた途端。
>喉を通る違和感。詰まりそうになるのを、水で流し込みました。口の中に留まった時間は一秒もなかったのに、冷たい、つるんとした感触が拡がりました。冷たさは次第に体全体を蝕み、私は立っていられなくなりました。ひどく喉が乾きました。同時に、腹の中に通った一本の管から、灼けるような痛みが膨れ上がりました。
>のたうつ私をスヴェン様は見ました。見下ろすのではなく、見下していました。
>私は人ではなく魚でした。そして、魚以下の死骸になろうとしていました。
>いいえ、いいえ。私は人魚になるのです!スヴェン様に食べられる、おいしい生き物になるのです。
>私はからからの喉を動かしました。なんとか唾液をつくり、渇きを癒そうとしました。それがあまりにも魚に似た顔をしていたからでしょうか?私の浅ましさはそんなにも滑稽だったでしょうか。
>人魚という高級食材そのものではなく、あくまでまがい物にしかなれないからでしょうか。

「見下ろすのではなく、見下していました。」……。この部分も、なんとも惨たらしい!
 後の展開と合わせてみれば、このスヴェン様が彼女を「ただの肉」ぐらいにしか思っていないのがよくわかります。しかし、それでも懸命に頑張る彼女とのコントラストが本当にグロテスク!!こちらまで寒気がしてくるほどの描写が、彼女が「価値ある者」になろうと懸命に頑張っている様を表現し、そしてこの後訪れる最悪の結末の威力を高めていると思います。
>女としては無理でも、私の体はスヴェン様のものになった。
>そう思っていたのは私だけ。身を削いだわき腹が次第に回復していくのを見たスヴェン様が、私の肉で商売をはじめたのはすぐのことでした。
>ああ、ああ、どうして気づかずにいられたのでしょう!人を人とも思わないスヴェン、業突く張りのスヴェンが、まがい物とはいえ人魚の肉を得て、それを金に換えないものですか。あれよという間に私は地下室へ閉じ込められ、両の腕を壁に繋がれました。以来、世話をせずとも金を産む雌鶏として、肉を削がれ続けているのです。

 最ッ高に惨たらしいですね!!ハハハハハ!!!(愉悦)
 なんというか、ここまで綺麗に酷い結末を見てしまうと、悲しいというより、むしろ爽快な気分になります。
 このラスト、「神秘の肉」と呼ぶにふさわしい人魚の肉の「価値」が零落し、人々の間で売買され、共有される「売り物」にまでになってしまっています。しかも、売られるのは「本物の不思議な肉」ではなく「紛い物の醜女の肉」。いやあ、「神秘」に泥を塗りまくってますね!!最高!!こういうの大好き!!
 その上、ここで彼女の浅ましさまでもが露出してきてしまいます。「誰かに選ばれたい」という欲望……。その欲望に目を奪われた結果、こんな悲劇が巻き起こってしまったのです。「スヴェン様に求められたくて」やった事が、結果として「不特定多数の人に求められる」結果になってしまうとは……。いやあ、何という因果の巡りの悪さ!
 人間の欲望のどす黒い所を見せつけられる、清々しいまでに胸糞悪いこの短編!大変おいしくいただきました!!

25 黄昏る異世界旅行記外伝〜幻想世界にレンチン料理〜/ポテトマト

謎の有袋類
 ポテトマトさんの作品です!
 期間内に下限達成おめでとうございます!このまま10万字達成もがんばれ!
 ポストアポカリプスとファンタジーが合わさっている世界の二人旅。
 ○○に似ていると言われるのが嫌だったらすみません。なんとなく少女終末旅行を思い出しました。
 あっちはSFなんですが、こちらはファンタジー要素多めですよね。現時点での最新話「#7 玩 その1」の直後くらいの話っぽい!僕は本編も読んでいるので面白く読めました。
 これは本編に追加してしまっても良いのでは無いでしょうか?
 ポテサラにお酢を入れるのがすごい。我が家は塩こしょうとマヨネーズで味付け派です。
 ポテサラ、結構御家庭のレシピが出るからいいですよね。マッシュポテトにマスタードを入れる流派もあるので酸味という点ではマスタードを入れた版みたいな味わいなのかな。
 ホログラムポケモン(ポケモンではない)バトルもおもしろかったです。
 退廃的な世界での二人旅。これからが気になる良い作品でした。
 ポストアポカリプスや寂しい雰囲気の物語が好きな方、音楽が好きな方は是非短編と本編を読んでみてください。

謎の野菜
 作る際に参考にした曲は、Led Zeppelinの『Achilles Last Stand(冒頭部)』とSuspended4thの『ストラトキャスター・シーサイド(ギターのメロディ)』、ゆらゆら帝国の『午前三時のファズギター(全部)』です。
こんなにクソ長くなるとは思わなかった……。

謎の齧歯類
 真っ黒な太陽に真っ白な空、という衝撃的な色彩後に続く、現代戦闘機の名称。それが屋根に刺さっている、という描写から始まるエピソード。
 これはいわゆるポストアポカリプスかな、と当たりをつけたところに現れる、バイクと……箒。主人公は現代人めいた描写なのに、箒に乗っている方は尖った耳をしている様子で、最初の印象が小気味よく覆されます。
 つづく描写でも瑠璃唐草《ネモフィラ》の花で出来たピアス、しかもマジックアイテムということは、この世界は魔法がある世界なのですね。
 しかしその先に続くのはアスファルトの道路に崩壊した街。冒頭の描写とあわせてみるに、牧歌的なファンタジーだとは到底思われず、一体何があったのか興味を引きます。
 どうやら野営場所を探している様子の二人、主人公がどうやら道路にトラウマがある、というのが示されますが、轢かれるかも、という彼に「僕たち二人しか、この世界にはもういないんだからさ。」と相方が言うのにしびれました。世界にたった二人。一体彼らはなにをしているのか。残されたのでしょうか、それともどこかからやって来たのか。世界にたった二人とは、風景と相まってなかなかうそ寒いような感じがします。
 主人公はなぜ白塗りのトラックをそう恐れているのか。轢かれたんでしょうか。トラックに轢かれるというと異世界転生の手法だな?(わるい異世界エントリー仕草)
 もしかしたら転生の人なのかな、などと思う間に野営の場所がさくっと決定しますが、いやあこれは便利だ。野営、という単語にあたるのかどうか少し首を傾げるぐらいの便利さ。テントの代わりに家が建つのはいいですね。
 そして、鶏の唐揚げ、と並列して終末獣という物騒な単語が食材として語られるアンバランスさ。本当にこの世界はどうなっていたのでしょう。興味が惹かれるところです。
 それから語られる食事の支度。冷凍チャーハンにポテトサラダ。終末獣。終末獣と言うたびに微妙に思考が止まるのですごいですねこれ。
 この魔法?マジックアイテムはとても便利でいいですが、水を使うには普通の機械装置だったりなど、魔法的にただ便利なのだな、という感じではなく、何らかのルールが有るのが細かい描写から察されます。
「サラダボウルに冷凍終末獣を入れ、そこに水を加える事で解凍している」という表記、うん、やはり思考が止まる。冷凍する終末獣ではなく、冷凍されているんですねえ。強そうな表記なのに。
 料理描写が擬音の入り方が賑やかでリズミカルでいい感じですね。文章でリズムを刻むのが目的の文章なのでしょうか。面白い試みだと思います。
 食事描写が美味しそうでいい。終末獣、刺し身で食べるんですね。しかもビールに合う味だとは。
 食事中の会話も気になります。あの刺さっていた戦闘機は主人公が持ち込んだものだとか。やっぱり異世界から来た人なのかな。何かと戦っていたのでしょうか。
 相方さんが戦闘機のホロに見惚れだした主人公の行動が可愛い。男の子二人だと思っていたが異性同士かな?と一瞬思ったのですが、タグを見るとボーイズラブ!なるほど!
 そのあと勃発したバトルは舞台の世界の娯楽なのでしょうか。様式がゲーム風なのも相まって、とてもファンタジーなのに彼らの会話は食後にゲームをする大学生みたいな雰囲気で面白い。
 音楽に意味がある世界なのか、音楽描写がぐっと力が入れてある感じがしますね。音が掻き立てる精神の動きが真に迫って細かく、おっという感想をいだきました。
 だいたい愉快な感じで進んできた話ながら、最後の余った炒飯を捨てるところでやはりポストアポカリプス?何かそのままではおられないような状況なのだな、と表されており、どこまで行けるだろうというモノローグが胸にしみます。本編の気になる要素を少しずつ輸入した、という感じで、よい出張短編だったと思います!

26 アルル、ごはんを食べよう/帆多 丁

謎の有袋類
 帆多さんだ!参加ありがとうございます。
 ヨゾラちゃんかわいいいーーーー!アルルくんとすごい良いコンビなのがわかりますね。
 鼠を食べる様子がすごい想像できる……。キャプションに「あたしは猫じゃない」と書いてあるのですが、これは可愛いネコチャン……ヨゾラちゃんに怒られてしまう。
 そしてさらっと書いてある腸詰めの飯テロ力が高い……これは夕食前や夜中に読むには注意が必要ですね。
 二話の王族猫ちゃんと失恋ガールのお菓子作りも好きです。多分ケトはメインクーンとかノルウェージャンフォレストキャットみたいな大きくてふかふかの猫さんに違いない。
 脛に頭を擦りつけるとか、膝とテーブルの隙間へ身体を踊り込ませるとか!んーーー猫ちゃん!ネコチャンネコチャンカワイイネエ!
 三話のジャム作りでワクワクするヨゾラちゃんもすごい可愛いですね。ヨゾラちゃんは若いというか幼い個体でケトとの対比がすごい上手です。
 これは単なる好奇心なのですが、帆多さんの多作品、ユエちゃんとも関係あったりするのかな?
 すごい可愛い猫さんたちと飯テロ!欲張りな小説でした。
 猫好きさんにはもちろん、ファンタジーが好きな方にはオススメの作品です。

謎の齧歯類
 ああっ、黒猫、かわいい。
 描写されている(多分本当は不思議な生き物なのだろう)黒猫さんが、よく猫を見ている人の描写らしく、にこにこしてしまいました。ねずみを狩って食べる際の骨の音だとか、奥歯で毛皮を切るとか、そう、普通の食肉を食べる、というときとは違う。
 しょっぱいのが駄目、というのも猫らしくて可愛らしい。虫も食べられる、確かに!
 目の付け方がとても猫。可愛らしい。
 主人公さんは魔法使いなのですね。(と言いながら、確か実は流星群のおはなしをいくらか読ませていただいた記憶があるのですが)真面目な性格らしいことが物言いから透けて見えるようです。焚き火で焼いたソーセージもさぞや美味しかろう。刺し口からじゅうじゅう脂が溢れるのは美味しい焼きソーセージのしるしですね。
 次の話では、最初の話で紹介された人たちにカメラが写っているのですね。丁度さっき話に出た状況だとわかりやすく、このやり方、スマートでいいなと思います。使い魔の猫さん(王族ネコ、という響き、いいですね。きっと大きな猫だ)の視点から示される、主の奇行から導かれる回想シーン。
 ああっ、振られ料理、振られ料理だ。
 遠い目になってしまう状況の説明がとてもわかり易く、ああー、という思いで眺めるうちに出てくる細冷粉さららひゃっこにアブラウソ。どんな魔法なのでしょうか。文字からなんとなく関係するものだ、とわかるのが面白い。アブラウソ、なんとなくカワウソめいた何かで今想像されています。
 しかしこの王族ネコさん、いかにもネコらしく、時折カッコで表される注釈がとてもいい。火の前でぬくぬくし、爪は鋭く、よく伸び、そして人間が泣いているとどっしり膝に乗ってきてくれる。
 彼が見ている主さんも健気で、甘いものを食べてケト卿を抱っこして立ち直って!と応援したくなる。なんだか主人公の方が良い印象を抱いていたようだし、よこしまな齧歯類の鼻はきっとこの先に立ち直れるようなロマンスが、と嗅ぎつけたり嗅ぎつけなかったり。期待したりするような雰囲気もあったりして。
 最後の舞台は主人公の村のそばなのですね。たぶんブルーベリーめいたベリーなのだな、と思われるシロハナスノキ。魔法を使って実を集めるのがいい。感心しているヨゾラさんの可愛さよ。しかし会話が軽妙でこれまた可愛らしい。ジャム「とかいうの」という言い回しがいいですね。好奇心一杯を感じます。
 夏の匂い。時期になると村の誰もが手からその匂いをさせる。読んでいるこちらからすると胸躍るような異国情緒であり、アルルさんには懐かしいことがらなのだろうな、と察せられる、とてもいい描写だと思いました。心がほっこりするような良いお話を読ませていただきました!

謎の野菜
 猫、かわいい……(初読時の感想)
 猫飼った事ないんですけど、それでも作者様が猫をよく観察した上で、この作品を書いているんだなあ、という事が良く伝わってきます。
>ときどき、こりっ、こりっ、と音が混ざるのは何だろうとアルルは思ったが、しばらく眺めて合点がいった。野鼠の骨を噛み切る音だろう。
>黒猫は噛む位置を細かくズラしながら、奥の牙で獲物の毛皮を切っていく。
>床から伸び上がって(猫はよく伸びるのである)見てみれば、テーブルの上にはあと一回焼くぐらいの量が残っている。

 などなど。そんな感じの詳しい描写と共に、使い魔の猫(のような)と一緒に暮らす人間のお話が3つ展開されます。
 まず、第一話!
 アルルくんという男の子とヨゾラという黒猫のお話です。
 猫(喋ります!)と男の子のキャラクターが生き生きと描かれていて、なおかつ二人の会話のテンポがとても良い!
>「イイほほ、そおまんふぁ──」
>キミこそ、そのまんま。
>そこまで言うと、相棒(猫)は獲物から牙を外して振り返った。
>「──食べればいいじゃん」
>「火の通ってない肉なんか、おっかなくて喰えるかよ」
>「へ? なんで?」
>「腹下すし、虫の類たぐいでもいた日にゃひどい目に遭う」
>「虫も食べられるよ?」
>「その虫と違う」
>「ケトきょーたちは、もう家に着いたのかな?」
>口の周りを前足で拭っては舐め、拭っては舐め、ヨゾラが別の猫の名前を出した。
>「まだまだ湾の中だろ。船を降りてからも歩いて六日はかかるって聞いたことがあるよ」

 なんというか、本当に相棒という感じの信頼関係が築かれているのが、何となくですが伝わってきます。
 口の周りをナメナメする猫ちゃんカワイイ。それにしても、虫。虫を食べるんだ……。(本物の猫もそうなのか?) 謎の有袋類「そうだよ」
 さて、そんな感じで、話題はケト卿なる猫のお話へ。
>ケト卿。つい二日前に別れたばかりの王族ネコ《ガトヒアウ》。
>ヨゾラにとっては初めて出会う喋る猫だ。一緒にいた時間は二か月にも満たないけれど、思い入れも深いのだろう。
>アルルにとっては、ケト卿を連れていた魔法使いの方が印象深い。
>五年前の、まだ学院に通っていたころの先輩。ずっと音沙汰がなかったのに、仕事があると急に呼びつけてきたしっぽ髪の魔法使い。
>大講義室に差し込む光に照らされた彼女の髪が、麦畑のように輝いていたのを覚えている。思い切って褒めたつもりで「麦色の髪だ」と言ってしまい、いまいち伝わらずに気まずくなったのも懐かしい話だ。

 大変しょっぱい恋の味がしますねえ……。「思い切って褒めたつもりで『麦色の髪だ』」って言っちゃうの、思わずこの男の子の肩を叩いて「ドンマイ!」って言いたくなっちゃう、小恥ずかしいエピソードですね……。
 その後の
>多少の強がりも込めてそういうと、青年は腸詰めをかじって感想を述べた。
>「ちょっとしょっぱいな」

 という感想も、このお話のしょっぱさをほんのちょっとだけれど、強めてくれます。
 次に第二話。
 今度は先ほど出てきた王族ネコ《ガトヒアウ》、ケト卿とその飼い主であるシェマという女の子の話へ。
 そこに描かれているのは、苦い苦い失恋のお話。
>「意外と上手くいったわ。いわば西部風のバクラウァね」
>私が床の上で食べづらい菓子と格闘する間、斯様<かよう>にあるじはご満悦な様子だったが、ふいに静かになり、やがて鼻をすする音がした。
>私から見えたのは、毛織りの筒袴つつはかまに寄った不自然な皺と、膝の上で固く握られた細い拳と、その拳に落ちた水滴のいくつかと、うつむいて歯を食いしばるヒトの娘の顔であった。
>私はこの身体がどのようにヒトに作用するか心得ているので、あるじの膝とテーブルの隙間へこの身を踊り込ませた。
>あるじが驚いて息を飲み、椅子が後ろに傾く。私の重さで持ち直させる。王族ネコ《ガトヒアウ》はどっしり構えるのである。椅子の脚が大きく床を打ち鳴らし、しかるべき静寂の後、あるじの喉から「ふぅぅっ」と音が漏れてまた静寂が流れた。
>私の背を時おり水滴が叩く以外は、まったく静かなものだった。
>「結婚したんだって。どこかのだれかと」
>あるじの手が、私の背中の毛を梳いている。

 この部分は、見ているこっちも辛くなります。突然、柄でもないのにお菓子を作ると言い出したり、材料を余計に買っちゃったり。
>「いいわ、もう一度焼くまでよ」
>と何かに挑むように言った。

 何故か、意固地になっているのが、全部失恋したせいだと分かった途端のことなのです。なんというか、こちらもつられてすすり泣きをしたくなっちゃうような、そんな気持ちがしました。だって、健気なんですもん。この女の子。
>「世界で活躍する君が見たい」
>とその男は言った。王族たる私から見てもなかなか見事な演説と弁舌でもって、あるじの本家の者まで納得させてみせた。

 と恋する男に言われて。
>気心の知れた知り合いがいるわけでもない。最近になってようやく、髪切り娘がひとり顔なじみになったぐらいだ。
 そんな場所に一人で。
>二年である。
>陸路を六日、船で二日かけてようやくたどり着く街へ、二年間の派遣である。
>結果、あるじは晴れて派遣され(これは名誉なことであるらしい)慣れぬ街で仕事と生活に奮闘し、時には祖母上に、そしてあの男に手紙を書き、返事を待つなどしていた。

 しかも二年間。二年間ですよ。
 二年間といったら、高校一年生が高校三年生になっちゃうぐらいの重さですよ。まさしく青春時代の大部分に当たる時間。その時間をこの女の子はこの見知らぬ地で過ごす事を決めたのです。男の声の声が支えとなって。それなのに。男が他の女と勝手に結婚しちゃって。そのショックを甘いお菓子で何とか慰めようとしているんですよ!!ブチギレて、激しく壁やら花瓶やら何やらをぶん殴っても、仕方ないなと思えるのに。甘いお菓子を食べるだけ。めちゃくちゃ健気じゃないですか!!
>「私の西部行きを、応援してくれてるんだって思ってたのよ」
>「うむ」
>「私のやりたいことを熱心に後押ししてくれて、本家が勝手に決めた相手だけど、こういうこともあるんだなって、思ってた」
>「うむ」
>「せめて、自分で手紙を寄越しなさいよね」
>「であるな」

 そして、彼女を慰める猫さん。その優しさが滅茶苦茶染みてきます……。
>「ほんと、ばっかみたい」
>「何を言うか。愚かなのはあの男であるよ。あるじを敵に回すとは」
>ややあって、ふふ、とあるじは笑ってみせた。
>「──そうね。次に会ったら言ってやるわ」
>「なにをかね?」
>「猫の爪は鋭い」
>魔法を発動させる合い言葉であった。
>シェマ・クァタの使い魔としては、かける言葉は一つしかない。
>「ざっくりと行き給たまえ」

 いやーーー!!!!いい!!この二人の主従関係、いいなあ!!!!
 そして、第三話!
 今度は第一話の男の子が出てきて、シロハナスノキなる果実を使い、ジャムを作りだします。
>シロハナスノキの枝を下から上になぞるように、アルルは広げた手をゆっくり滑らせる。指先から伸びる魔法フィジコの力場が、ぷちぷちと実だけをこそぎとる。
>枝を離れた青紫の実が宙をころんと転がってアルルの掌に収まり、そのままジャケットのポケットに仕舞われる。

 こういう魔法を使って何か物を動かす描写、僕好きなんですよねえ……。
「ゆっくり滑らせる。」といった表現に呼応するように、「ぷちぷち」とか「ころん」とかいった優しい音色の擬音が奏でられ、それがこの描写全体にゆったりとした質感を産んでいます。まるで、絵本の一ページを見ているような、優しい雰囲気をここから感じました。
>「わ、わ!」
>ヨゾラが緑の目を丸くするのに気を良くして、アルルは小さな収穫を続ける。
>「そろそろ甘蕪《あまかぶら》も刈り入れ時なんだ」「金平糖《コンフェイト》の材料!」
>「とびすぎ。砂糖の原料。それでさ、ジャム作るのにも砂糖を使うから」
>「ちょうどいいのか」

 そんな優しい雰囲気と二人の会話が絡み合い、思わず心が温かくなる様な空間が生まれています。第二話の激しい失恋のお話を見た後に、こういうお話をスッとお出しする作者様の心遣い。身に沁みます……。
 もしかして今後、このアルルという男の子とシェマという女の子がくっつくのかな?なんて次の展開を思わず予想してしまうような、いい短編でした!

27 侍は何を食べる?/綿貫むじな

謎の有袋類
 むじなさん参加ありがとうございます!僕は本編をほぼ最新話まで読んでます。
 ミフネさんだーーー!
 ミフネさん、峰打ちにしたの……と微笑ましくなってしまいました。これはアーダルくんへの食生活指導も期待できますよ(でも、アーダルくんもある程度ちゃんと栄養バランスは考えていそうだよね)
 ラフィスさん……早口になってまくし立てるところ好きw
 そして鮭!冷凍の鮭!ミフネさんのいたところにはまだ刺身文化はなかったこともわかる部分がワザマエと感じました。すごい。
  あと、ミフネさんにも小躍りしたくなるときがあるんですね。好き。
 ダークエルフの大商人たちも本編にガッツリ出てくるんでしょうか?ラフィスさんすごい好きでした。
 夕ご飯前に読んでしまったので飯テロの威力がすさまじかったです!はらこ飯たべたい! 
 本編は短編に出てきたこちらのかっこいいサムライの物語が読みたい方、ダンジョンへ挑む冒険者が好きな方にはオススメの作品です。

謎の齧歯類

 タグでウィザードリー風、と見てから本文へ。
 冒頭から切実な話の気配。冒険者は糧食の残りと戦うものだものな、と納得して読み進めると独特の軽妙さがあります。なるほど、侍というのは主人公のこの人のことか。食べ物の東西で苦しんでいるなあ、とまずひと和みしました。
 牛は一般化するまでは乳臭いと好かれなかったらしいですからねえ。駱駝も結構な激臭らしいよなあ、とにこにこしているところに冒険者が野菜を食べない話。お、このお侍様、なかなかの理論派、インテリだぞ、とおもしろくなります。
 回想で現れたこのダークエルフの商人さん、いいですね。だいぶワーカホリックのケは感じますが、商魂たくましくて信用が置けそう。
 そのダークエルフの大商人がなにを用意してくれたのか、と見ると……醤油と味噌と米!ここまでは定番だな、と思いましたが、おまけが奮っている。鮭。そして別に分けたすじこ。解体の様子を見ると、これはいい具合に脂の乗った雄鮭と筋子を別に用意してくれたのですね。身がうまいのは遡上前の雄、筋子がうまいのが雌。これはなんという心づくしなのでしょう。非常に勘所を押さえているように思います。
 そこからミフネさんが用意しだすご飯がとても美味しそうで美味しそうで。まずひと柵ルイベ、もしくは凍らせた刺し身に、という筆致のうまそうさ。半分凍った刺し身は冷たさと口の中で溶かす楽しみがあるんですよねえ。少し炙って脂をとろかした刺し身が醤油にあぶらの膜を残す部分もそうそう、と頷いてしまいました。
 そして出てくるはらこ飯の美味しそうなこと。よく炊けて鮭のダシの回ったご飯と醤油で煮た切り身、そしてイクラ。そんな物食べてしまったら里心がついてしまうのでは、と心配になるぐらい美味しそうです。ちゃんと野菜の味噌汁を用意してあるのもいい。冒頭の野菜のバランスの話を思い出してクスッときつつ、リセットには野菜の味噌汁だよな、とわかってるねえ、という気持ちに。
 残り半身はちゃんちゃん焼きですか。明日が楽しみ……と思ったところで、次の日から刺客に次から次に襲われるという文字列で、鮭の身の安全……主に鮮度とか、が俄然心配になってしまいました。ミフネさんは刺客に襲われながらも鮭を食べ切れるのか。これは本編で確認せねばなりますまい。 よい出張短編でした!!

謎の野菜
 冒頭。どうやら、出身地から離れた文化圏で活躍されているお侍さんの話のようですね。
>西方に行くにつれ、主食は麺麭パンという小麦を粉にして練った食品へと変わっていった。主食なので味わいは強くなく、何かを乗せて食べる分にはちょうどいいのだが、困った事があった。腹持ちが悪いのだ。冒険の最中に腹が鳴ったり、夜中に腹が減って起きだして夜食を食べる羽目になったりと随分と苦労した。
 そして、地元である東方と西方の食文化の違いにも悩んでいらっしゃると。
>それとは別に、冒険者と言う連中はとにかく滋養の偏った食べ方をしている。脳みそが筋肉で出来ているのかと思うほど肉ばかり食らい、野菜などまるで省みようとしていない。俺が作った味噌汁と、菜っ葉の漬物を見た時は馬かと笑われた。
>勿論、峰打ちで成敗してやったがとにかく食事とは偏りなく食べる事が肝要である。肉を暴食し、エールを鯨飲する馬鹿どもは冒険で死ぬ前に不健康に陥って死ぬ。

 そして、意外と健康を気にする方という事も分かってきます。それにしても峰打ちとは。結構強引な説得手段を使ってらっしゃる……。それでも「肉を暴食し、エールを鯨飲する馬鹿どもは冒険で死ぬ前に不健康に陥って死ぬ。」という一文から仲間思いなんだなあというのは伝わってきます。
 そして次の話。ダークエルフから食料を買うお話へ。
>冒険者は体が資本。食べなければ満足に動けず、危険に対応できなくなる。それに故郷の食べ物が恋しくて夜、寝床の上で悶える日々が続いていた。
「冒険者は体が資本。」この一文から、主人公のプロフェッショナルっぷりが伺えます。前の話と合わせて考えると、何故食にこだわるのかが良く見えてきますね。なるほど、自分の身体が資本だから、健康管理を怠ってはならないと。他の「肉を暴食し、エールを鯨飲する馬鹿」な冒険者像と合わせて考えると、この描写からかなりの強者感が漂ってきます。
 そして主人公は肌が黒いエルフ、ダークエルフと接触します。
>一般的にエルフは食事に関してはこまごまとした戒律があるらしく、特に酒を厳しく禁じ忌み嫌っている為か酒場に訪れる事はない。しかし彼らは違う。
>エルフは寡黙で、他種族との交流は積極的に行わない。ここがまず違う。
>ダークエルフは交流を好む為か口も達者で、また商売もうまい。

 おんなじ種族なのに全然違う……。
>ダークエルフとエルフはお互いに何故対立しているのかを他種族には語りたがらない。
 とあるけど、ここまで性質違ったら、そりゃあ対立もありますよね、って気分になります。
>「私はラフィス=フォルト。この商人たちを取りまとめて長をやっている」
>「俺は三船宗一郎だ。ま、見ての通り冒険者だよ」
>俺の稼業を明かすと、ラフィスの目が光を帯びたように見えた。
>「おいおい、こんな酒場で、しかも冒険者相手に商売するのですか、長よ」
>部下たちは既に大分酒が回っており、ラフィスを囃し立てると彼は顔をしかめた。
>冷やかしや冗談ではなく、真面目に俺に商売を仕掛けているのだ。
>「この方の身なりを見てわからないのか、お前ら。背中に負っている刀は逸品だ。鎧や具足も長く使われているが、質が良く、加工技術も高い。これだけの装備を持っているなら、冒険者としての腕も良く稼げるって事だ。商機は逃したら二度と掴めない」
>だからお前らは商人として二流なんだ、と続ける。

 この一連の流れ!いい!ラフィスさんの格と主人公の格も、両方とも上がります。この主人公は只者じゃないぞ、というのはその前の部分からも仄めかされていましたが、それをラフィスさんが見抜くという形を取る事で、「やっぱり主人公、只者じゃないぞ!」感と「このラフィスという奴、切れ者だな?」感が高まります。それにしてもこんなにいい装備を持って、わざわざ西方まで来ているって事は、結構大きな任務を背負っているのかな?なんて気持ちが湧きましたが、それは恐らく本編を読めばわかるのでしょう。この辺の本編への誘導も上手いなと思います。
>「おい、流石に手厳しいだろう。こんな酒場で、息抜きしに来てるんじゃないのか」
>「それでも商人なら、他の酔客やバーテンの様子を伺うなり、店がどんな酒や食品を提供しているか、調度品は何を使っているのか、それらも見るべきなんだ。売れそうな物があれば、次訪れた時にリストを持って提示できる。あいつらはそれを怠っている。私の教育もまだ浸透されていない」

 というその後の会話もいい。お互いの知性の高さとか、ラフィスさんの普段の気苦労とか、色々見えてきます。
 さて、その後、地元の食料を持ってきてもらうという取引は成立。
 そして「ティラヒム」という街に向かい、お待ちかねのその食料を受け取りに行きます。
>丸一日砂漠を歩きとおしたが、まるで苦にならなかった。一刻も早く手に入れたいという思いが強くなるばかりで、休憩を入れつつ歩くという鉄則すら忘れかけていた。いつも平常心を保てという教えすらも忘れるとは、俺もまだまだ侍としての修行が足りぬな。
 この描写も好きですね!いかに、地元の食料を食べたかったのかが、良く伝わってきます。その上「丸一日砂漠を歩きとおした」という、その体力もすごい。これも日々の鍛錬のおかげなのでしょうか。
 さて、港町であるティラヒムに到着すると、そこには
>「イルフィス。久しぶりだな」
>「おお、君はソウイチロウか? 随分と久しぶりだな!」
>ラフィスの孫、イルフィスだ。孫と言ってもダークエルフもエルフと同じくらい長命で、イルフィスも既に三百歳を超えている。見た目は俺と変わらないくらい若いのだが。

 さ、三百歳……!!流石はエルフといった所……。と驚いていたら。
>「ラフィスは元気か?」
>「全く、七百歳も超えてるってのに元気だよ。さっさと引退して、僕に商売を任せてほしいってのにね」

 ラフィスさんはもっとすごかったです。七百て。日本で言ったら、ざっと室町時代の始まりから現代までか、それ以上はずっと生きている計算になりますね。
 さて、ラフィスさんの元に到着した主人公はというと……。
>店員からもう一つ杯を貰い、ラフィスが飲んでいた火酒という蒸留酒を杯一杯に注がれる。
>グッと酒を喉に流し込むと、カッと燃えるように熱くなって思わずむせそうになった。火の神イフリートの酒、と言うあだ名があるのも納得の品だ。

 あいさつ代わりにスンゴイ度数のお酒を渡されます。これを割らずに飲んでるラフィスって……。もしかしたらエルフは人間よりも肝臓が強くて、アルコールを分解しやすかったりするんですかね。
>「こんな強い酒を割らずに飲むなんて、体壊しますよ」
>「人生なんか、酒を味わう為に生きているんだよ。最近私はようやくその真理に辿り着いた。だからこそ世界を飛び回っているのかもな」

 その後の会話も「らしさ」が出ていていいなと思いました。本編を読んでいないのに「この主人公なら『体壊しますよ』って絶対言うよな……!」という納得がすでに生まれています。
 そしてその後、樽詰めされた味噌と、米俵にぎっちりと詰められた米、そして瓶詰めされた醤油が渡されます。そして……。
>「これは一体? 頼んだものは味噌と米と醤油だけだったはずだが」
>「ラフィス様からのお土産です。凍結魔術が掛かっているので、箱に入れておけばしばらく鮮度は持ちますがなるべく早めに食べて欲しいと。上の小さな箱は、更に早くお食べ下さい。生ものですからね」
>これが土産とは、中々気が利いているじゃないか。恥も外聞も無く、この場で小躍りしたくなる。

 何やら、おまけがついていたみたいです。ここ、ラフィスさんの商人としての腕前も見えますね……。こんな事されたら、絶対次回も頼みたくなっちゃうに決まってます。
 そして、最後の話で、その謎のおまけの正体が明かされます。
>今日の主菜はラルフィからの土産、生の魚だ。冷凍されているから正確には違うが、解凍すれば生に近い食感は得られる。
>しかも、鮭だ。

 なんと、鮭だったとは!
>上に乗っていた小箱の中身は、鮭の卵だ。これほど嬉しいものはない。
 しかもイクラのおまけ付き!ラルフィさん、なんでそんなに日本人の心を知り尽くしているんだ!?
 そして、その後に続く鮭の料理描写!
>鮭は凍っているが、半解凍にすれば少し力を入れるだけで切れるようになる。鮭をまな板に乗せ、頭を落としてカマを切り、腹を切って内臓を取り出す。次に背骨に沿って包丁を入れ、半身を取る。もう一つの半身も身をひっくり返して同じように骨に沿って切る。そうすると三枚おろしの形になる。中骨も使うので取っておく。
>半身からハラスの部分を落とす。これは焼いて食べると余分な脂が落ちて美味い。
>そして残った背側の皮を引く。尻尾側の身を皮を落とさない程度に切り、身と皮の間に包丁を滑り込ませる。あとは皮を残した尻尾の先端を持ちながら、包丁を滑り込ませ続けると、綺麗に皮が引けてサクの身が残る。しかし、皮も捨てない。これはかりかりになるまで焼くと最高の酒のつまみになる。
>サク取りした半身を薄切りにし、白い皿に並べた。半解けした刺身が輝いている。俺はとっておきの故郷の酒――これもラルフィ紹介を通じて手に入れた酒だ――も準備した。最近は濁り酒ではなく、澄み酒が生まれたという。蒸留酒のように透明な酒は、味わいも澄んでおり口当たりも良い。すっと口に入って次々と飲めてしまえる、危ない酒でもある。気をつけなければ二日酔いに陥る。

 いや、スゴイ!描写の一つ一つが細かい!これはほんの一部分を抜粋したものなのですが、短編中では、鮭を丸ごと調理しちゃってます。見ているだけで、お腹が減ってきます。
 そして、いざ実食!
>「いただきます」
>刺身を醤油に浸け、一切れを口に放り込む。
>ああ、美味い。これ以外に表現する語彙が出ない。もはや美味いの一言で十二分に過ぎる。言葉で語る前に、まず鮭の存在そのものを感じなければ鮭に失礼だ。
>だがあえて言葉を並べるとすれば、凍っている食感が心地よい。砂漠は暑い事もあって、冷たくしゃりしゃりとした食感がより際立つ。口の温度で身が融けてくると、鮭の脂がじわっと染み出してそれがまた美味い。

 相当感動してますね……!?
 この部分、最初に「ああ、美味い。これ以外に表現する語彙が出ない。」という事によって、主人公が如何に鮭の刺身に感動しているかが伝わってきます。今まで冷静に物事を分析してきた彼の語彙力が、一瞬だけ完全に崩壊しちゃってます。しかも、その後ちゃんと読者にもその味を教えてくれます。それがまた美味しそう……。
 この他にも。
>次に、あえて刺身を少しだけ火であぶる。すると身がとろけだし、醤油にちょいとつけると脂が醤油に小さく輪を作る。で、それを口に運べばもちろん、今度は柔らかくなった身が小気味よく歯で千切れる。今度は脂の味がよりはっきりと感じられる。これもまた、美味い。
>その名ははらこ飯と言う。炊きこんだ飯をどんぶりに盛り付け、その上に先ほど茹でた切り身と鮭の卵を醤油と酒で作った調味液に漬け込んでいたもの、いくらを更に盛る。いくらの橙色の煌めきはいつ見ても素晴らしい。生命の輝きとは、まさにこのような色だと形容しても良いくらいに。
>鮭の出汁と米の味が口に広がり、いくらの食感が口中で弾けまたその味も混ざっていく。刺身も美味いが、鮭の身と卵をひと口に味わうのが一番美味く鮭を味わえる料理法だと思っている。これ以上の御馳走は、今の所故郷でも、西方に来ても味わった事はない。幸せとはまさにこれだ。今の俺にとっては。

 など、読んでいて思わず涎を垂らしてしまう描写ばかり。どれもこれも、額縁に入れて飾りたい表現ばかりですね……。
>付け合わせの味噌汁で口の中を一度正常に戻す。西方の野菜でも、味噌汁に入れればだいたい口に合うようになる。味噌は何にでも使える万能の調味料だ。切らしてはならない。そしてまたはらこ飯をほおばる。
 その後味噌汁で野菜を摂取するくだりも、「この人なら絶対そうするよなあ!」感があって微笑ましいです。
 巧みなご飯描写が凄まじい密度で展開されている為、ご飯を食べている気分を追体験する事が出来る小説でした!!ごちそうさまでした!(手を合わせる)

28 ハナハミ/2121

謎の有袋類
 異類恋愛譚や、人外の話を書くのが得意(だと僕は思っている)2121さんだ!参加ありがとうございます。
 これは……!めちゃくちゃ気になる引きの短編だ。
 花の人という種族も気になる。なにより異形頭が僕はめちゃくちゃ好きなんですよ……。
 雑草のシンデレラの時も思ったのですが、2121さん自然と人外の交わり方というか、在り方を書くのが本当にお上手ですよね。すごい。
 ケーキもすごいオシャレでおいしそうです。お花を使ったケーキ、見た目もかわいいですし、いいですよね。
 寒天でお花とか金粉を閉じ込めてあるオシャレケーキすき。
 お菓子と花と花の人、そして周りの人達と2000字の中に気になる要素を綺麗に閉じ込めた素敵な短編でした。
 人外や異形頭さんが好きな方は絶対に楽しめると思います。

謎の齧歯類

 異形頭のひとだ!!
 冒頭のつかみから素晴らしい。
 異形頭のひとがその実体を見てどう思っているのか、たまに気になっている謎の齧歯類です。金魚鉢頭の人とか、置いてある金魚鉢がどう見えるんだろう、とたまに思うことあったんですよね。
 このお話に登場する「花の人」は人魚みたいな言い伝えがあるパターンなのなら、花の乗った食べ物は不気味なのかな?でも花屋をしているんだったらどうなんだろう、などと読み進めると、気にしていないような反応で少しホッとします。あれ、でも「気にしなくなった」であって、最初から気にならないタイプではないのか。
 このタイプの異形頭さんはそのへんで生えている花なんかはどう思っておられるんだろう。本編で語られていそうな気がしますね。気になる。
 主人公の人は花男くんになんだか好意的な様子。食べたい、の発露の仕方になんとなくどきどきするものを勝手に感じてしまいました。
 あと職場の人達みな仲良くていいですね。雰囲気の良いお仕事もの、という感じがします。こういう雰囲気の良さとかが読み取れると本編を安心して読めて、嬉しい。
 本編が気になる良いお話を読ませていただきました。

謎の野菜
>花男くんと呼ぶ彼は人間ではない。
>一際目を引くのはその頭だった。彼には頭と呼べる部分がない。代わりに白いシャツから覗く首から色とりどりの花が花束のように咲いていた。

 開幕のこの部分で「!?」となるこの短編。「2225文字」という短い文字数ながら、そこには深い世界観が表現されています。
 ……深すぎて、「作者様の意図をくみ取れるのか?」と不安になる程に。(今の自分の実力では、作者様の意図する事を正確に汲み取れず、少しずれた事を言ってしまうかもしれません。間違っている部分があったらすみません……。)
>“花の人”は希少な種族で、花や体は万病に効く薬になるという言い伝えがあると聞く。そのせいで凄惨な事件が起こり、海外では絶滅の危機に瀕しているのだとも。
 という非常に不穏な描写の後に出てくる
>「食用花、いいですねぇ! 市場でもよく見かけます」
>「花は咲いてしまえば、あとは枯れてしまうだけのもの。ゴミとして燃やされるくらいならば、いっそ人が食べて栄養になるのも一つの素敵な花の終わりだと思います。人が花の美しさを“食べたい”と思う気持ち自体を、僕は否定しませんよ。それに店長も家でよくブロッコリーとかアスパラとか菜の花を食べていますからね。野菜としても成り立っている以上、受け入れるしかありませんしもう慣れました」

 “花の人”本人から出てくる強烈なセリフ。なんというか、ここに一種のグロテスクさを感じます。なんというか、マイノリティとして社会の中に溶け込もうとするあまり、自分の感情をマジョリティに合わせて調整しているような。「受け入れるしかありませんしもう慣れました」なんてセリフから、もしかしてコレは本心じゃないのでは?という気さえします。
 そしてその後。
>「それともいろはさんは、僕を食べたいとでも思っているんですか?」
>彼が小首を傾げると、ガーベラが揺れる。そんなこと、今まで考えたことが無かった。花男くんの花は、いつも綺麗で可愛くて、装花の花よりもイキイキとしていて……。
>「た、食べてもいいのなら……?」
>気付けば、そんなことを口にしていた。

 このやり取り。これから恋愛的な甘々なシーンが始まるかと思いきや。
>「え」
>「へ?」
>一歩、二歩と、花男くんは後退る。これは、明らかに身の危険を感じている動きだ。
>「……帰ります」

 一気に、ヤバイムードに。花男くん、逃走本能が出ちゃっているように思いました。
 ここ、さっきのセリフの中で出てきた「人が花の美しさを“食べたい”と思う気持ち自体を、僕は否定しませんよ。」というセリフが、100%の本心ではない事を表現している様に感じました。
 その後のチーズケーキを食べるシーン。職場の人達が仲良くて、いいなあと思ったんですが。
>「花男くんに謝らなきゃな……」
>「大丈夫でしょ。彼も冗談だって分かってるだろうし」

 ここも、個人的にグロテスクな風に感じました。
 なんというか、「た、食べてもいいのなら……?」という発言、どう考えても「冗談」じゃ済まされないと思うんですよね。
>“花の人”は希少な種族で、花や体は万病に効く薬になるという言い伝えがあると聞く。そのせいで凄惨な事件が起こり、海外では絶滅の危機に瀕しているのだとも。
 という事情がある上に、当人も
>一歩、二歩と、花男くんは後退る。これは、明らかに身の危険を感じている動きだ。
 という感じで明らかに相当な危険を感じています。こういった事情があるのに、「冗談」と片付けちゃうというのは……。いや、悪気があって言っているわけじゃないと思いますが。
 この「花の人」に対する理解度の微妙な低さ。個人的には凄くリアリティがあるような気がするんですよね。もし、職場に「マイノリティ」━━例えば、「LGBT」や「ADHD」━━である事をオープンにしている人がやってきたら、もしかしたらこんな風な感じになるのかなあって。確かに一緒に仕事をするうえで、その人の特性を「知る」事はあると思います。しかし、「相互理解」をするのって大変だと思うんです。
 この作品で言えば「た、食べてもいいのなら……?」という発言に対する「花の人」と「人間」の間における反応の差にその難しさが表れているような気がします。「花の人」は「食われる」という事に対して、明らかに根源的な恐怖を感じています。「た、食べてもいいのなら……?」という、仄めかす程度でもです。しかし「人間」はそれに気づかず、「冗談だと思っているから大丈夫でしょ」と言っちゃってます。
 この場面。人間は「『花の人』に対して『食う』と言う事はとんでもない」という知識を共有することはできていますが、「『食われる』と言われた時の『花の人』の恐怖の度合」を理解する事が出来ていません。故に、こういうギャップが生じるように思えます。
 しかし、だからと言ってこの作品の人間達を簡単に批判するのも違うと思います。互いの「感覚」に対して理解を深めるという事は、相当難しい事だからです。例え同じ人間同士であっても、感覚の齟齬が生まれることがあるのに、ましてや相手は「花の人」。頭が花束で出来ている為、その表情が全然わからないのですから。
━━とまあ、長々自分の考察を流してしまいましたが合ってなかったら本当にごめんなさい……。
 しかし、この作品。こんな短い文字数の中に、センシティブな問題が見え隠れしているということだけは明確に言えます。
 ここから主人公と花男くんがどう対話して、どう理解を深めていくのか。それが気になって仕方がない短編でした。

29 始めるための物語/三谷一葉

謎の有袋類
 ファンタジーといえば三谷さん!参加ありがとうございます。
 こちらも骨太のファンタジーですね。
 お菓子もおいしそう。思い出の味って結構引きずりますよね。
 戦女神の加護や、黒騎士の設定もすごい好きでした。いいですよね不死。不死でも一度死んでから蘇る系の不死……良いですよね(二度目)
 心が折れると復活しないのもすごい好きだなーと思いました。
 個人的なファンタジー作品すきすきポイントなのですが、パンを「白パン」って描く人好きなんです。
 あ、硬いパンと発酵させたパンが違う世界だ!とわかる人にはわかるみたいな感じでいいですよね。
 死にたがりの女戦士と魔王を名乗る少年の旅、本編ではどんなことになるのか気になります!
 キィルの実がクイナの実と呼ばれているとわかったところで「そういうことかー」となったのがすごい気持ちよかったです。
 不死属性が好きな方にはオススメ!三谷さんは世界観をしっかり作られている骨太ファンタジーが他にもあるので作者ページに行って気になる作品を探すと素敵な出会いが出来ると思います。

謎の齧歯類
 子供の頃の夢からはじまる冒頭、負けず嫌いの女の子の様子が語られる描写。
 けっこう男の子たちひどい!と思いながらもどうも周りの反応的にそれが日常であるというような雰囲気で、いつものこと、なのでしょうか。でも、ちゃんと周りには温かい人達がいるな、という象徴のように出てくるパンとゆで卵とキィルの実。
 ほっとしたところで故郷が滅んだらしいということ、生き延びたのがセレネさんだけだという落差が胸に来ます。
 次のシーンで生き埋めになっているの、最初、故郷が滅んだ直後の話かと思ったのですが、どうも違うらしい。この土の中で冒頭の夢を見ていたのかな、と察されます。それがなんとも悲しいというか、寂しいと言うか。
 セレネさんが生き返る理由が語られ、それが「呪い」だという。心が折れなければ死なない、というのに、彼女はどうやら死にたがっているらしい。このアンバランスさ。心が折れなければ、というのは死にたくならなければ、と似ているように思うのですが、どうやらそういうことではないのか。
 彼女を埋葬した男の子も気になりますね。一話目でセレネさんの故郷を滅ぼしたのと同じ宗派の様子。でもなんだかいい人そう。
 一人では倒せないらしい強さの巨人を一人で倒した、という強さも気になる。
 酒場での展開、ひょんなことから一緒に行動するやつだ、とワクワクしつつ、左手が短い、というのはこの世界でなんだか特殊な身体的特徴なのかな?という感触がうっすらして気になりますね。よくある身体特徴というのとは少し違いそうな反応。しかし使者二人のイヤさよ! こういう人物が書けるというのはすごい。謎の齧歯類は類型的なイヤテンプレートに従ってしまうので、この生き生きとしたイヤさに感動してしまいました。
 アイシャちゃんと接するセレネさんが優しいのもいい。前半の感じからして「付き合いづらい」タイプの造形なのかな、と思っていたんですが、とても優しいお姉さんでほっこりしてしまう。クィナの実の焼き菓子、すごく硬いとかそういうところからすると保存食用のものなんだろうな、とわかるのですが、こうして貰うのは嬉しいだろう、とか、素朴で美味しいんだろうなとか、アイシャちゃんの気持ちを考えるとニコニコしてしまいますね。
 街道を行く際のハプニングと戦い。セレネさんが「死にたがり」なのだ、という意識があるのでだいぶハラハラしてしまったのですが、この戦いではそういう要素は見えなかったのでなんとなくホッとしました。それでも厳しい戦い。戦いを終えた後に強化魔法の反動に苦しむセレネさんに与えられたクィナの実の菓子。直前の過去の夢。セレネさんがこれまでのシーンでクィナの実のものを好んでいた理由がここでぱっと意味がわかり、わあーっとなりました。そうか。クィナの実、キィルの実だったのですね、あの思い出の……。
 無事に話が済みそうだ、というところで少年の発言にええっとなりました。魔王!?
 ここまでの部分でも「このセレネさんが多分変わったりしていくのかな?それが見てみたいな」「彼らが会話するのをもっと見てみたいな」という誘引力は強かったのですが、本編へ引っ張るベクトルの種類が増えたぞ。とても気になります。
 最後に、アイシャちゃんの未来はあまり暗く無さそうで良かった。普通の神聖教会の人にはちゃんといい人もいるらしい、と示されてなんとなくホッとしました。少年の様子でもそう思ってはいたのですが、明らかに特殊な運命を背負った人だと直前で明らかになったので。なんというかこの落差もうまいですね。引き込まれます。
 良い出張短編でした。

謎の野菜
 なるほど、死にたがりの不死者……!大好き!!(初読時の感想)
 まず、冒頭の夢のシーンから触れていきたいと思います。
>夜の女神キィノの剣であり盾でもある黒騎士になるために、訓練に明け暮れていた頃だ。まだ十三か、そのくらいの時だと思う。
 という主人公の大まかな生い立ちが、一番最初にに示されています。夜の「女神」という所。後の描写を見た後に見返すとオォッという気分になりますが、それは後程触れたいと思います。
 主人公は「黒騎士」というものを目指していたのだな、という事が示された後。
>男女の差がはっきりして来る時期だ。それまで自分よりも小さく、力も弱かった少年たちの背がすくすくと伸びて、鍛えれば鍛えただけ筋肉がついた。
>置いて行かれまいと必死に訓練をしたが、同年代の少年たちのようにはいかなかった。

 主人公が女の子であることがわかります。
>「泣き虫セレネめ、お前みたいなチビがいくら頑張ったって無駄なんだ。さっさと諦めちまえ!」
>そうはやし立てられて、頭に血がのぼった。
>無駄かどうか確かめてみろと、少年たちの大将に決闘を挑む。力では敵わなくとも、技には自信があった。頭上から降ってくる木剣を弾いて軌道を逸らし、相手の懐に飛び込む。無防備に晒された顎を、下から掌底で打ち抜いてやった。
>勝ったと思った。それまで呑気に観戦していた取り巻きの少年たちが、全員揃って襲いかかって来るまでは。四方八方から打ち込まれ、そのうち捌ききれなくなった。急所を守るために身を丸め、容赦なく加えられる打撃にひたすら耐えるしかない。

 いや、血気盛んだな君たち!?なんというか、調子に乗ってヤンキーを一人を喧嘩でボコしたら、そのバックについてた暴走族が集団でやって来たみたいな……。そんな荒々しい雰囲気を感じます。でも、13歳だもんなあ。確かに一番血気盛んな時期ではあるよなあ。
>少年たちの暴力は、騒ぎを聞きつけた指導役の黒騎士がやって来るまで続いた。身体中に青あざを作ったセレネは、そのまま医務室に担ぎ込まれた。治療を受けながら指導役の説教を聞いた。見習いの分際で乱闘騒ぎを起こすとは何事か。セレネが骨折していないこと、深刻な打撲がないことを確認して、指導役は去って行った。
 その後の描写も「喧嘩が多くて、治安が悪い学校」みたいな雰囲気がありますね。慣れた感じの手つきで踏まれる治療から説教のステップから、一種の冷淡さを感じました。まるで喧嘩ばかりする問題児を見る、中学校の先生のような。
 そんな冷たい医務室に一人取り残された主人公、セレネの元に。
>「セーレネ、泣いてる?」
>「な、泣いてないっ」
>医務室のベッドの上で、膝を抱えて丸まっていると、頭上から明るい声が降ってきた。慌てて顔を上げて、念の為に目元を手で拭う。いつの間にか、枕元に少女が立っていた。
>赤い髪をうなじのあたりで緩く束ねて、背中に流している。年齢はセレネと同じだ。袖がぷっくりと膨らんだ白いシャツに、ふわりと広がる茶色のスカート。右腕には、パンや水差しの入ったバスケットをぶら下げている。

 ルナという少女がやってきます。
>ルナは、生まれついての異形である。左腕が極端に短く、肘の辺りまでの長さしかない。本来、手や指がある部分は、丸い肉の塊だ。この異形を忌み嫌って、ルナの両親は幼い娘を捨てた。セレネは異形ではないが、親に捨てられたのは同じだった。似たような境遇のルナは、姉妹のようなものだ。
 
その後、ルナは「生まれついての異形」であるという設定や、セレネやルナも親に捨てられた子供だったという事が明かされます。「親に捨てられた子供」という所から察するに、「この黒騎士養成所に集まった子たちって、そういう薄暗いバックグラウンドがある、心が荒んだ子供達が多いのかな」とか「夜の女神キィノさんが、この子供達を拾ったのかな」とか。色々想像しちゃいます。
>「白パンでしょ、アオナキ鳥のゆで卵でしょ、それから、じゃじゃーん」
>握り拳程度の大きさの白いパンが二つ、青みがかった卵が一つ、それからルナはもったいぶって、最後の一つを取り出した。パンと同じぐらいの大きさの、赤く可愛らしい小さな果実。
>「キィルの実!」
>「へへーん。セレネ、これ好きでしょ」
>歓声を上げたセレネを見て、ルナが得意げに胸を張る。キィルの実は、春の果物だ。セレネの大好物である。
 セレネとルナの会話が微笑ましいですね。荒んだ空間だと、二人の関係性がより一層明るく深いものに見えてきます。なんて思っていたら。
>………………子供の頃の夢だ。
>セレネの故郷は、神聖教会によって破壊された。生き延びてしまったのは、セレネだけ。

 うわあ……。なんというか、明るい会話からのこういうギャップ、シンプルな物ですが、それゆえ心にグサリと刺さりますね……。
 喧嘩っ早いけど、元気いっぱいの男児達、彼らを教導し、時にはその行き過ぎた行動を咎める指導役の黒騎士さん、主人公にとっての大事な友人であったルナ……。
 端的に示されたこの事実から、大切な仲間を一気に失った主人公の悲しみの深さを察しました。
 そして、セレネはこんな胸糞悪い夢から覚めます。
>目が覚めたら、自分の手の影すらわからないような深い闇の中にいた。左肩を下に、横になっているようだった。固く冷たく湿った大きな何かに挟まれているようだ。息苦しい。少しでも楽な姿勢になろうともがいた時に、右肩の上に被さっていたものがぼろぼろと崩れていくのを感じた。
>(土? …………生き埋めにされた?)
>何故そんなことになったのか、わからない
>何故そんなことになったのか、わからない。肩の上の土を押しのけるように、右腕を上へ上へと押し上げて行くと、指先が冷えた空気に触れた。手を少し下に下ろすと、乾いた砂の感触がする。
>(外に出た。これなら)
>右手は土の外に出したまま、何とか姿勢をうつ伏せに変えて、両手で地面を押すようにして起き上がる。背中の上で、ゆっくりと土が崩れていくのを感じていた。額に風を感じる。ようやく顔が出た。上半身を土の中から引きずり出したところで、セレネは大きく息をついた。やっと呼吸がまともにできるようになった。ほっとして息を吸い込んだ時に、土の欠片まで吸ってしまったらしい。激しい咳の発作に襲われる。

 生き埋めにされていて、そこから脱出する様子が描かれています。
「固く冷たく湿った大きな何かに挟まれているようだ。」→「右肩の上に被さっていたものがぼろぼろと崩れていくのを感じた。」という順序で流れる描写が良いなと思いました。
 主人公が状況を把握する様子を臨場感を持って追体験できる気がします。
「やっと呼吸がまともにできるようになった。ほっとして息を吸い込んだ時に、土の欠片まで吸ってしまったらしい。激しい咳の発作に襲われる。」この部分もすごく素敵です。なんというか、「自分も土の下から蘇ったら、きっとこうなるんだろうな」という説得力があります。
 そんな彼女の目の前に現れた少年。
>「い、生きてる…………っ!?」
>何とか顔を上げて、声の主の方を見る。涙で滲んだ視界の中で、黒髪黒瞳の少年が、大きく目を見開いてこちらを凝視していた。年齢は十代半ば。さすがにセレネよりは背が高いだろうが、同年代の少年たちと比べれば小柄である。顔は可愛らしい部類だろう。髪と同じ、黒い長衣に身を包んでいた。正義の神アスタを信仰する神聖教会の使者が身につけるものだ。

 墓場から蘇る姿を見て、すっかり恐怖している様子なのかと思いきや。
>「…………驚いた?」
>「多少は」
> 掠れた声が返ってくる。セレネは口元に、うっすらと苦笑を浮かべた。
>「そりゃそうか。普通は生き返ったりしないもんな」

 そうではなかった。
 この緊迫感の使い方が巧みだなと思いました。ホラー映画にあるワンシーンのような緊張感を一瞬だけ与えた後、その後に軽快な会話を流す温度差から「二人は結構親しい間柄なんだな」とか「復活するのを前もって知っていたんだな」とか、色んな事が察せられる表現になっている気がします。
>夜の女神キィノの"祝福"────"呪い"。そのおかげで、セレネは心さえ折れなければ何度死のうとも生き返ることができる。
>(生き返るつもりなんかなかったんだけどな、私は)
>(次は、必ず)
>────今度こそ、生き返ることなく、二度と目覚めぬ眠りにつきたいと思う。

 このシーン。一話にある夢の話があるおかげで、何故死にたがっているのかが何となくわかります。きっと、早く仲間が待つ冥界へと行きたいんでしょうね……と僕は思いました。
 そして、次は酒場のシーンに触れていきます。
>全てを赦し受け入れる夜の女神キィノは、神聖教会によって、正義の神アスタに刃向かう愚かで淫靡な魔女だと貶められた。彼女に従う黒騎士たちは、女神の色に溺れた哀れな傀儡なのだという。神聖教会の使者たちは何度も改宗を迫った。それに応じなかった。夜の魔女キィノに魅せられた者はもう救えない。その死を持って浄化するしかない。
>次に生まれ変わった時は、きちんと正義の神アスタを信仰できるようにと、神聖教会の使者達は祈ったのだと言う。神聖教会にとって、あの虐殺は聖戦だった。心さえ折れなければ生き返ることができる黒騎士たちは、生き返るたびに殺された。何度も何度も。心が折れて、二度と目覚めなくなるまで。

 うわあ、惨い……。
 この描写だけで、思わず目を覆いたくなるような惨状が頭の中に浮かんできました。
「全てを赦し受け入れる夜の女神キィノは、神聖教会によって、正義の神アスタに刃向かう愚かで淫靡な魔女だと貶められた。」事や「次に生まれ変わった時は、きちんと正義の神アスタを信仰できるようにと、神聖教会の使者達は祈ったのだと言う。」という所。すごく真に迫ったものを感じます。なんというか、「宗教戦争の敗者の末路ってきっとこんなものなのだろうな。」という気持ちになりました。
>「私は黒騎士だ。一人だけ取り残された。だから、早く夜の女神のところに行きたいんだよ。他の皆と同じように」
>「…………お前、あの虐殺の」

 しかし、男の子はしっかりと「聖戦」ではなく「虐殺」として理解している模様。何でなんだろうなあ、と僕が疑問を持った矢先。
>「あなたたちですの? 仕事を探しているっていう人間は」
>高飛車な女の声が割り込んできた。
>テーブルの脇に、灰色の長衣を着た中年の男女と、まだ十代前半あたりの少女が立っている。
>「光栄に思いなさい。正義の神アスタ様の忠実なる使者のこのわたくしが、あなたたちに仕事を差し上げましょう」

 なんか、いやーーな奴らが現れました。
 このタイミング、上手いですね。「男の子の出自」が気になりそうなところへ割り込む事で、それが謎に包まれたまま話が進みます。
「男の子の出自」という謎を追う為、話を読み進めたくなります。更に、話を遮ってくるこいつ等に対して、ヘイトが向くようになる構造。
>女は四十代半ばあたり。白いものが混ざり始めた薄い金髪をきっちりと結い上げている。瞳は灰色。長身だが、かなりの痩せぎすだ。頬に丸みはなく、長衣の裾から出ている手は骨が浮き出ている。
>男の方は女よりもやや年長だろう。つやつやと光っている黒髪に、青い瞳。身長はセレネよりも低いが、横幅ならセレネの倍以上あるだろう。顔や腕に、たっぷりと脂肪を蓄えていた。

 その上、いかにも、いやーーーな感じがする風貌が、そのヘイトをさらに引き立てます。しかも。
>男の陰に隠れるようにして、くすんだ茶髪の少女が身を縮めている。まだ十歳になるかならないかぐらいだ。灰色の長衣の裾を掴み、うつむいている。少女の左腕は、肘の辺りまでの長さしかなかった。本来、手や指がある部分は、丸い肉の塊になっている。
>(ルナと同じだ)
>夢の中に出てきた幼なじみのことを思い出した。ルナは明るく笑っていたが、この少女に笑みはない。

 夢の中に出てきたかつての友人と同じ姿をした、異形の少女を連れています。その上、「ルナは明るく笑っていたが、この少女に笑みはない。」と来た。
>「わたくしはブリジット。こちらの紳士はジェローム様です」
>「我らはアスタ様のお導きにより、その忌まわしい異形の娘をメイスルの教会まで連れて行くことになった。道中、アスタ様の加護に守られた我々に嫉妬し、襲いかかってくる愚か者から身を守るための護衛が欲しい」
「その忌まわしい異形の娘をメイスルの教会まで連れて行くことになった。」……。
 はい。悪人決定!!!!!
 これで安心して、中年金持ちどもにヘイトを向けられますね!!!!
>「私の可愛いブリジットを傷つけるわけにはいかないからな」
>「まあ、ジェローム様ったら」
>ブリジットが小娘のような甲高い声を上げて、身体をくねらせた。ジェロームはにやにやと笑っている。

 まあ。仲がよろしくて、微笑ましいかぎりですなあ……。(怒筋をビキビキに浮かべながら)
 この部分。なんというか、中年の夫婦の割にはなんか仲良いですよね。中年夫婦ってこんな初心ウブな感じじゃなくて、もっとタイトな感じの関係性を築いているイメージが個人的にはあるのですが。もしかしたら、この二人、ちょっと闇があるのかもしれませんね。中年が甲高い声を上げるという気持ち悪さのおかげで、もの凄い勢いでこいつ等へのヘイトが溜まっていきます。
 しかし、それでも頼まれたからには、仕事を断れず。その護衛の旅が始まってしまいます。冒険者の世知辛さが伝わってきますね。
>「今夜は冷えるね、ブリジット」
>「ええ。でも大丈夫ですわ。ジェローム様が暖めて下されば」
>二人の世界に夢中になっている中年男女を残して、セレネは馬車を降りた。黒衣の少年と、アイシャもついて来る。

 ……なんなんだろ、この老夫婦は。それを完全無視する主人公ペアも面白い。なんというか、中年男女の横を無表情で通り過ぎる主人公ペアの顔が浮かんできた気がしました。
 そうして異形の少女、アイシャちゃんと、死にたがりの主人公との交流が始まります。
>「アイシャ、おいで」
>手まねきしてやると、アイシャはおそるおそる近づいてきた。セレネの隣に腰を下ろして、膝を抱え俯いた。
>「甘いものは好き?」
>小さな頷きが返ってくる。セレネは自分の手荷物の中から、小さな布袋を引っ張り出した。
>「そう。じゃあ、これ、食べてみて」
>中には小さな焼き菓子が入っている。そのうちの一つを、アイシャに握らせた。
>アイシャはしばらくの間、手の中の焼き菓子を見つめていた。やがて、座った時と同じように、おそるおそる口に含む。

 なんというか、警戒心バリバリのアイシャちゃんの様子が手に取るようにわかります。きっと、今まで散々酷い目に合ってきて、人を信じられなくなっているんだろうなあという事も。
>「噛まないで、口の中で溶かすんだ。凄く硬いからね」
>言われた通り、口の中で焼き菓子を転がしていたアイシャの目が丸くなった。ふわりと花が綻ぶような笑顔が浮かぶ。
>その笑顔に、セレネは少し見蕩れていた。
>「おいしい、です」

「目が丸くなった」……。シンプルだけれど、これまでの緊張した表情が和らいだ事がよく伝わる、良い表現ですよね。その後の「ふわりと花が綻ぶような笑顔が浮かぶ。」という表現と組み合わせることにより、思わずセレネさんのように見惚れてしまう笑顔が脳裏に浮かんできます。
>「麦の粉と砂糖、それから…………干したクィナの実を混ぜて焼いたんだ。お菓子だけど、日持ちするから、私みたいな旅人がよく保存食代わりにしてる」
>にこにこと笑っているアイシャの膝の上に、布袋を置く。膝の上の布袋とセレネを交互に見るアイシャに、セレネは言った。

 このクィナの実(=キィルの実)の使われ方がいいですよね……。かつての友に貰った果実を、今度はその友と似ている少女に渡す……。すごく感動的なシーンです。同時に、恐らくこの少女に過去の友人の姿を重ねているんだな、という事が伝わってきます。そりゃあ、確かに過去の親友━━それも死に別れてしまった親友━━の空似が目の前に居たら、思わず優しく接しちゃいますよね。例え他人だと分かっていても。
 そして次のシーン!急に街道を外れ、危険な道へと馬車を向かわせる中年男女!いままで貯めてきたヘイトが爆発しています!!この展開をスムーズに行う為、ヘイトを稼いでいたんですね。そのおかげでヘマを犯したこの中年共に対する、主人公の怒りを臨場感を持って体験できます。
>「あの、青と白の馬車! 見たでしょう! 青の使者様の馬車ですよ!」
>神聖教会の使者には、位がある。一番下が黒、その上が灰色。最上位が白で、その下が青だ。
>「あ、ああああ、青の使者様の目を汚すつもりですか! そもそも穢れた異形の忌み子などが、街道など利用してはいけなかったのです!」

 上には媚びへつらい、下には酷い扱いをする。
 上への配慮がから回るあまり、状況を冷静に分析できず、その上「穢れた異形の忌み子などが、街道など利用してはいけなかったのです!」という台詞を口走ります。名作パニック映画のような緊張感が走ります。
>「大体、あなた、なに呑気にしていますの!? 護衛でしょう? さっさと仕事をしなさいよ!」
>「…………それもそうだな」

 それでも、しっかりと仕事を全うするセレネさん。結構、真面目なタイプのようです。「死にたがり」とは言えど、無為に死のうとはせず、場をきっちりとわきまえています。
>最後の一匹を斬り捨てて、セレネは大きく息を吐いた。
 そしてちゃんと、依頼人を守っています。しかし。
>手足についた小さな傷が、不快な熱を帯びていた。一番酷いのは、右肩の裂傷だ。灰色狼の爪で切り裂かれた。まだ出血が続いている。
>重い身体を引きずるようにして、街道の方へと歩き出す。灰色狼の死体が見えなくなったあたりで、膝が限界を迎えた。ずるずると座り込み、杖のように地面に突き立てた剣に縋り付く。

「不死」が故の無茶はするようですね。
>何度か深呼吸を繰り返して、覚悟をする。左肩を下にして横になり、小さく解除の呪文を呟いた。
>「────っ!」
>骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げ、内蔵がゆっくりと巨大な手で握り潰される。喉元までせり上がった悲鳴を押し殺して、セレネは身を包む苦痛にひたすら耐えた。
>経験的に、知っている。これではまだ死ねない。苦痛が通り過ぎるまで、耐えるしかない。視界が滲む。傷が燃えるように熱いのに、背筋から悪寒がじわじわと広がっていく。
>(早く、早く終われ)
>いっそ死んでしまえれば、気絶することができれば楽になるのに。

「死に場所」を求めている「不死者」としては、かなり真面目な方なんだなと思いました。あんな依頼人を守るために戦い、こうして苦みに耐えているのですから。不真面目で無軌道な不死者なら、まずこの依頼を受けるかどうかすら怪しいですし、依頼を受けても、護衛をせずに死にに行くことをまず真っ先に目指しちゃう気がします。もしかしたら、生きる事に何らかの目的を見出していたりするのかも、と思いました。
そして。
>酷い悪寒で、目が覚めた。
>森の中だ。冷たい土の上で、仰向けになっている。

 痛みが終わり、目が覚めた後。
>「ハチミツとクィナの実の果汁を混ぜて固めたんだ。クィナの実は熱冷ましになるし、何より美味い」
>少年は得意げに言う。

 なんと、少年が手当てをしてくれています。
>「それに───セレネ、これ、好きだろ?」
>「…………」
>「サフラの酒場で飲んでたのもクィナの実の酒だったし、アイシャにあげてた焼き菓子の中にも入ってた。だから、好きなんじゃないかと思ってさ」
>「…………。ああ、好きだよ」

 キャアーーーーー!!!恋愛の匂い!恋愛の匂いがします!
 そして、少年のリサーチ力の高さ!これは精神的に完全にイケメンです!
 そして、その後。何とか無事、護衛任務を終了。教会にアイシャの身柄を引き渡します。その後のシーンがこちら。
>「すみませーん、遅くなりましたー」
>教会の方から、ドタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。先ほどの黒衣の女が、今度は人の良さそうな笑顔を浮かべて走ってきた。
>「あのおじさんおばさんったらほんっとにわがままで。大したこともない武勇伝山ほど聞かされましたよ。あ、ごめんなさいね、愚痴っちゃって。私はグリンダ。お嬢さん、お名前は?」
>「あ、アイシャ」
>「そう、アイシャ。綺麗なお名前ね。あなたにぴったり」
>グリンダにそう言われた途端、アイシャの表情がぱっと明るくなった。視線が合ったので、小さく頷いてやる。
>「長旅、大変だったでしょう。少しならお食事、用意できますよ。お二人もいかがですか? おじさんおばさんとは別の部屋にしますから」

 思わず、「アイシャちゃん、よかったねえ……!」という微笑ましい気持ちになりました。アイシャちゃんの未来が明るそうで、何よりです。
>最後に一回ずつアイシャと握手をして、セレネと少年はメイスルの教会を後にした。
>アイシャは、セレネたちの姿が見えなくなるまで、大きく手を振っていた。時折振り返って、手を振り返してやると、小さくとび跳ねて喜んでいた

 ……ちょっと寂しい気持ちもしますが、主人公二人組は次の場所へ。
>────いつか永遠の眠りにつく日を夢見ながら、何度も何度も繰り返し死に続ける、孤独な旅。
>それが、しばらくの間、二人旅になるようだった。

 このエピローグがいい……!
 爽快な読後感の中、これからの二人の旅路に思いを馳せられる、良い終わり方ですね……。
 ストーリー回しが非常に上手く、読んでいて飽きが来ない作品でした!

30 邪神様がご飯~禁断のタコ焼き編~/蒼鬼

謎の有袋類
 ハートフルコズミック飯テロ小説「邪神様とご飯」を連載中!?ガチ勢だ!しぃるさんの方面から来たのかな?参加ありがとうございます!
 邪神と暮らす愉快(?)な御家庭のお話。
 僕はクトゥルフに詳しくないのですが、それぞれの神話生物たちが仲睦まじく愉快に暮らしている様子がすごくよかったです。
 ヴルトゥームくんがすごい人を惑わすショタですね。あの有名なハスターさんの弟さんなのですね。
 そして無邪気にハスターさんの足をねだるのが魔性のショタという感じですごい好きです。
 個人的には「──テケリ・リ!」のみ話すショゴスさんが気になっていたんですが、最後の最後でススキノのキャバクラで働くシュブ=ニグラスに持って行かれました。
 北海道邪神勢が多いのはやはり北海道には実際に邪神がいるからなのではないですか?エルフの土地で、エルフたちと邪神がしのぎを削り合ってると思うんですよ。
 ホタテそんなお手軽に買うの?と思った伏線がまさかここで回収されるとは……。
 北海道の海の幸で作るたこ焼き、美味しさの破壊力が内地とは桁違いだろうなあ……と思いました。
 どこまでクトゥルフ神話の元ネタ要素を拾っているのか浅学のため把握できませんでしたが、クトゥルー初心者にも馴染みやすい登場人物たちですごく楽しむことが出来る短編でした。

謎の齧歯類
 神話的恐怖がほのぼのとたこ○きマントマンを視聴している……。
 いや、クラーカシュトン流に普通に異星人なのだろうか、と思ったのも一瞬、やはり神話的恐怖でした。リン・カーターのほうやこれ。
 なんとか平穏な解釈で正気を保とうとした謎の齧歯類の正気度は爆発四散!
 さらにヴルトゥームちゃんはなんとタコ焼きを所望します。たこ焼き。
 そっと登場人物を確認した謎の齧歯類、その中にクトゥルフ氏、ダゴンとハイドラ氏がいないことを確認して一安心し――あっなるほど、ハスターがタコ類似の姿をしているパターン!謎の齧歯類は一時的狂気に陥り、駄目だあ!などと口走ります。
 ちょっとぼくは大人しくあちらの壁の中にいますので。そんな、宇宙的恐怖なたこ焼きが発生するかもしれないなんて。
 戦々恐々と最悪の光景を想像して読み進めると、生活感あるスクーターに、美味しそうなタコパの具材。コーンツナホタテ……タコパでレバーというのは経験がないのですが、いいですねえ。主人公の方、美澄香さんが料理上手なのだろうなと言う具材の選択と、悲劇が回避できそうな種類の豊富さ。これは邪神に触手焼きを見せずに済むかもしれない。いえ、邪神はべつにタコではないので気にしないのかもしれませんが、やはり美澄香さんも気にしているということは気にする要素はあるのかもしれない。心配です。
 安心と、それと裏腹なほのかな惨劇の時を待つような、もしくはドリフで盆回りを待ち構えるような気持ちで更に続きを読み勧めますと、また一人登場人物が。いいなあショゴスさん。じんるいの夢ですね。反抗されないか心配になるものの、美澄香さんとはしっかり信頼関係があるようで安心しました。
 それから始まるタコパ、とても楽しそうで素敵です。どうもちゃぶ台の周りにいらっしゃるのはSAN値直葬して余りある高名な方々のようなのですが。
 いいなあ、おいしそうだなあ、デザートに鈴カステラなんて最高だよね、などと思っておりますと、やはりぶっこまれるタコを求める言葉。そして……予想を更に超えた、心広く触手を一本提供してくれそうなハスター様。
 アカン。多分それ食べちゃだめなやつや。そんな感想で一杯になります。邪神同士なら食してもそう大きな問題はないのかもしれませんが、多分人類にはあかんやつのような気がしますし、焼いたりしてもなんらかの神話的悪影響がご近所に出てしまうのではありませんでしょうか。
 妖神グルメの発生を覚悟したところで届くタコ足の有り難さ。舞台は北海道なのですね。良かった北海道で。タコ足をくれるような人のいるところで。人類はもしやそんなこととはつゆ知らぬその人に救われたのでは?ささいなことで破滅が回避される、素晴らしいですね。
 最後に美澄香さんがちょっと食べてみたかった、と感想を抱く、その心の強さにこの人が何故この名だたる邪神の皆様と暮らせているのか悟ったような気がいたしました。

謎の野菜
 初めに申し上げときますと。僕はニコニコ動画でクトゥルフ神話TRPGのセッション動画に一時期ドハマり、そこからwikipediaなどでクトゥルフ神話のキャラ設定を読みふけり、そのスケールのデカさや独特のセンスに感動した経験はあるものの。肝心の原作を読んでいないという、大変冒涜的な人間です。故にそのガワの部分でしか物を語る事が出来ません。大変申し訳ございませんが、あらかじめご了承ください。
 ……そんなガワしか知らない僕ですが、それでもこの短編はクッッッソ面白いかったです!!!!
 まず。本編に入る前に説明文を紹介します。ここの部分のおかげで、例えクトゥルフ神話知識が0であっても、だいたいどんなお話なのかなあ、ということが分かります。大変親切な設計ですね。
>美澄香さんは25歳元バリバリのキャリアウーマン、亡きおばあちゃんから引き継いだ藁葺き屋根のお家で3柱の邪神と2匹の神話生物と仲良く暮らしている。
>ある日テレビを見ていた花の邪神ヴルトゥームちゃんがこう言った。
>「タコヤキというものを、たべてみたいです」
>遂に来てしまったリクエスト。兄にあたる風の邪神ハスターさんがタコ足だというのを分かっていて言っているのだろうか。なので美澄香さんはハスターさんに考慮してタコ以外の様々な具材を買ってきて、いざ楽しいタコパの始まりだ!!!
>宴も終盤、デザート用の鈴カステラを焼く準備に取り掛かる美澄香さんに、ヴルトゥームちゃんはこう訊ねた。
>「ミスカ タコは どこですか?」
>「ヒェッ」

 ……「お家で3柱の邪神と2匹の神話生物と仲良く暮らしている。」
 ええっと。
【3柱の邪神と2匹の神話生物】
 ……クトゥルフ神話を未読の方でも、なんとなーくヤバイ状況ということは分かると思います。
 普通に考えて、家に「神」が3柱いる時点でヤバいし。
>「タコヤキというものを、たべてみたいです」
>遂に来てしまったリクエスト。兄にあたる風の邪神ハスターさんがタコ足だというのを分かっていて言っているのだろうか。

>美澄香さんはハスターさんに考慮してタコ以外の様々な具材を買ってきて、いざ楽しいタコパの始まりだ!!!
>「ミスカ タコは どこですか?」
>「ヒェッ」

 ……なんというか。もう既に、なんとも楽しい地獄が生まれてますね。
 そんな地獄を横目に、さあ、いざ本編へ!
>「タコヤキというものを、たべてみたいです」
>テレビ画面を指差して、下半身が薄桃色の大輪に置き換わった、目の眩むような美貌の少年がそう言った。

 ここのインパクトがすごいですね。
「下半身が薄桃色の大輪に置き換わった」という強烈な見た目の描写が「目の眩むような美貌の少年」というこの世で一番(?)美しい表現と合体し、恐ろしい魔力を放つ生物が誕生しています。しかも、そんな方が「タコヤキというものを、たべてみたいです」という素朴なセリフをおっしゃるという、このギャップ。開幕から頭の中に魔空間が広がっております。
 しかも。
>思わず引き攣る声を発しながら、この家の家主である美澄香さんは、少年……ヴルトゥームちゃんがずっと指している画面を見た。そこにはタコ焼きから生まれたの5人のヒーローが、正義のために戦う20年前のアニメの再放送が流れていた。画面の向こう側では、割腹の良いおばさんが慣れた手つきでタコ焼きを作って子供たちに提供している。
>「たべたいです」

 というこの子供っぽさ。その上さらに。
>感情で色が変わる2つの目は、好奇心を意味する黄色に変わり、複眼も相まってまるでカッティングされた宝石のように煌めいている。
 こんな目つきで見られたら。
>ただでさえ顔面偏差値が高いのに、そんな視線を向けられたら断れるはずがない。
>「わかりましたぁ~っ! 今日はタコパしましょうねえ~っ!!!

 ってなりますよねえ。
 この一連の流れ。この納得感がすごいです。
「下半身が薄桃色の大輪に置き換わった、目の眩むような美貌の少年」という、明らかに化け物だというにも拘わらず、美しいと感じられる魅力的なビジュアル。数々の子供っぽい言動。そして妖しく光る美しい眼。これらの要素が組み合わさる事で、「親しみやすさ」と「化け物感」が調和しています。
>やったぁ~! と美澄香さんの言葉に大きく手を挙げて喜びをあらわにするヴルトゥームちゃん。そんな無邪気で……きっと計算され尽くした仕草を見ながら彼女は、家の書庫にこもって読書をしている彼の兄でありタコ足の邪神に対して心底申し訳なさそうに心の中で合掌しつつ、タコ焼き粉を買いに財布とエコバッグを手に取ったのであった。
 そして、子供特有のずる賢さも有している……。この数行で完全にキャラが立ってます。ついでに、なんか書庫にいるタコ足の邪神様のキャラも立っていますね。なんというか、「かわいそうなポジションなんだな……。」という事が伝わってきます。
>──テケリ・リ!
>「あーショゴスさんおかえりなさーい! そしてただいまー!!! お荷物持ってーーー!!!」

 ……来ちゃった。神話生物その1。ショゴスさんが。
>琴を鳴らしたような声で答えたお手伝いさんは勿論人間ではない、その姿はオバQをそのまま大人の大きさにまで伸ばしたような玉虫色の粘液、居候の邪神達はこの粘液をショゴスと呼んでいる。
 雰囲気が「オバQをそのまま大人の大きさにまで伸ばしたような」という一フレーズで壊れるこの描写。すごいです。
>──テケリ・リ?
>「そう~それ全部台所にお願い! 私手洗いうがいしてから向かうから~!」
>──テケリ・リ
>「あっ今日はご飯もお味噌汁も大丈夫! 代わりに袋に入ってるこの粉を、説明通りにお水で溶いてくれる?」
>──テケリ・リ!

 ショゴス、かわいい……(正気をうしなった目)
「テケリ・リ」という鳴き声。これは一般的なクトゥルーを扱う作品では、怖いシーンで使われることが多いのです。
 この不可解な鳴き声を「対話不能」であるという恐怖を煽る演出に使います。しかし、この短編の場合、とてもコミカルに使われていてすごいなと思いました。
>何故だか会話がしっかりと成立しているのは、彼女とショゴスの間でしっかりとした主従関係が結ばれているおかげなのだろう。
 会話も成立しているし、信頼関係まで構築している。すごい。
 そして、そんな神話生物の手(?)を借りて、ついに。
>「と、言うことで準備が出来ました!!!」
>「わぁーい! タコパですよぉー!!!」

 ……始まってしまいました。タコパ。
>「ソースとマヨネーズはこれですよ~! 出来上がったらお好きにかけて食べてくださいね~!」
>と、縁日でよく見かける赤いキャップの細口ノズルがついた入れ物を、ちゃぶ台の隙間に置いた。
>「では、いきますよ!」
>深呼吸をして、美澄香さんはホットプレートにたこ焼きの生地をお玉でドパっと流し入れた。熱されたプレートに冷たい生地が触れて、ジュッと小気味よい音が響き、出汁の香りを含んだ蒸気がふわりとあがる。
>「では次に具を入れますね!」
>列ごとにホタテやチーズ、ひき肉で作った肉味噌に甘辛く煮たレバーやエビを入れて、竹串でまずは半回転。
>「まるめないんですか?」
>「それは最終工程です、でもこうすると仕上がりが綺麗な丸になるんですよ」
>そういいながらほっほと2本の竹串を使ってくるくる焼いていけば、最初は生焼けな色味のたこ焼きが、綺麗なきつね色に焼き上がり、くるくる丸く可愛らしい形になっていく。

 うわ、滅茶苦茶美味そう……。
「深呼吸をして」と「ドバッ」とが絡まり合うことで、生地が勢いよく注がれる様子が目に浮かんできますし、「熱されたプレートに冷たい生地が触れて、ジュッと小気味よい音が響き」という描写によって、まるで目の前でタコパが始まったかのような臨場感が生まれています。
>「と、自慢している間に完成です! 熱々のうちに召し上がれー!」
>「わぁい! いただきまーす!」
>「うむ、いただきます」
>──テケリ・リ!

 いや、やっぱりショゴス可愛くない??????(一時的狂気)
「!」の一文字だけで、ショゴスが喜んでいる事がよくわかります。しかし、ショゴスって喜ぶ時、どういう動作をするんだろうな……。
>各々が好き勝手にソースとマヨネーズをかけてから、箸を持つ。熱々ホッカホカのタコ焼きをつまみあげ、ほぼ同時に全員が、ふうふうと湯気を吹いて表面を吹いて冷まし、ゆっくりとそれを口に運んだ。
 ショゴスがお箸を使って器用に食事をしている……。
>「なかみがとうもろこしですよ~! しゃきしゃきであまくて~! これだーいすき!!!」
>「ぼくはレバーだ、舌の上でほろっととろけてとてもおいしい」
>──テケリ・リ!

 いや、何食ってるかわかんない。でもかわいい!(不定の狂気)
>「つぎ、つぎやいてください~!」
>「肉味噌とチーズ一緒にいれて焼いてくれ」
>──テケリ・リ!
>竹串を持ったショゴスが、自分も焼いてみたいと言いたいように手を振っている。

>器用なショゴスなら任せても大丈夫だろうと、美澄香さんは一通りの手順をもう一度見せて教えれば、飲み込みの早い万能神話生物は次々とタコ焼きを焼き始めた。
 しかもめっちゃ器用……。
 このギャップ……。ダメだ……。カワイイ、可愛すぎる……。(SAN:0)
 ……コホン。(咳払い)
 そんな感じでタコ無しタコパは終わり、締めの鈴カステラに移行。これでタコ足の兄上の機嫌を損ねることなく、タコパが終わる……。
>「ミスカ タコはどこですか?」
 筈でした。
>それは疑問。なんのことは無い疑問だ。
>タコ焼きタコ焼きと言いながら、一切その存在を出さなかったタコという食材の所在をたずねただけの、なんの変哲もない事のはずなのに。なぜ彼の無邪気な声の中に、ヒヤッとするような、背筋が凍るようなものが含まれているのだろう。
>「ヒェッ」
>だから思わずこんな声が出てしまったのだろう。人の感情を読む事に長ける彼は、瞳の色を疑惑の黒に変えてスっと細めた。

 この部分。ヴルトゥームちゃんの「化け物じみた凄み」がしっかりと表現されていていいですね。「それは『疑問』」→「<なんのことは無い>『疑問』だ。」→「<なんの変哲もない>事」と文の意味をつなげる事で、彼女の動揺がありありと伝わってきます。それにより、「なぜ彼の無邪気な声の中に、ヒヤッとするような、背筋が凍るようなものが含まれているのだろう。」という文の威力が高まっています。「瞳の色を疑惑の黒に変えてスっと細めた。」という、いかにも化け物らしい表現も合わさって、思わず僕も背筋がゾッとしました。全体的にギャグなのに、ここで緊張感を煽る事で、お話に緊張感が生まれるんですね。この技術……、是非とも見習いたいです。
 さて、緊張が走る中。ヴルトゥームちゃんが一言発します。
>「あにうえ~タコいりのタコヤキがたべたいので あしをいっぽんください」
 ……とうとう出てしまった、この言葉。
>とんでもないお願いをしたもんだ。確かにハスターさんの足は時々元の姿に近いタコのような吸盤をもったものに変化する。しかしそれは似ているだけでタコとは別物……いや、タコなのか? まあタコであったとしても1本くれとはどうなのだ。邪神といえども常識的なハスターさんの事だ、きっと断るに違いない。
 と、思わず主人公も驚いています。それに対する兄上のコメント。
>「いいぞ、どこがいい」
 あっ、いいんスか……。
>「ダメですってば!!! そ、そういうのは倫理的な問題が!!!」
>「りんり???」
>「あーっ! ここで出ちゃいますか邪神成分!!!」
>「僕は気にしないけど」
>「私が気にするんですーーー!!!」

 このやり取り、すごくコミカルですね。
 コミカルなやりとりを終え、ついにもう一人の気になる邪神さんがやってきます。
>「ただいま~♡ねえ見てこれー! 常連さんから馬並みの交接腕1本まるごともらっちゃったわ~ん♡」
>甘やかな声、艶やかな夜色の髪、美を集結した言っても過言ではない顏に、たわわに実って今にもこぼれ落ちそうな胸。
>過疎村には似つかわしくないほどの美女、シュブ=ニグラスさんがどうやら一旦職場から帰ってきたようだった。

 シュブ=ニグラス様です……。
 しかも「美を集結した言っても過言ではない」と表現される美女のお姿で顕現なされております。
 ……この場の顔面偏差値、どうなってるんでしょうね。計算したら、宇宙一高い数値が弾き出されるような気がしてならないです。
>早く美澄香さんに見せたかったのだろう、縁側がある庭の方に顔を出したシュブ=ニグラスさんの手には、それはそれは立派な冷凍のタコ足が握られていたのであった。
 しかもシュブ=ニグラス様。なんと、丁度タコを持っていました。
>その後、彼女が持ってきてくれたタコを使い残りの生地で立派なタコ焼きを作り上げた。甘辛ソースとたっぷりのマヨネーズ、かつお節が踊り狂うあっつあっつの、正真正銘のタコ焼き。外側はカリッ、中はとろっ。コリコリ食感の大ぶりのタコは噛む度に滋味がじゅんわり広がり、細切れの紅しょうがのピリッとしたアクセントが絶妙だ。
 それを使い、なんともおいしそうなたこ焼きが出来上がっていきます。
>「これがタコヤキなんですね~!」
>はふはふと白い頬をりんごの様に赤くして、タコ焼きを頬張るヴルトゥームちゃんはご機嫌な様子。
>共食いになるのではと思っていたが、ハスターさんも愛妻であるシュブ=ニグラスさんに「あーん」と食べさせてもらっているタコ焼きは満更でもないらしい。しかし、ハスターさんは腕を1本ぶった切られる寸前、しかもそれを食べられそうになったというのにいつもと変わりがない。

>『もう少しで邪神様がご飯になる所だったのに』
>ちょっとだけ食べてみたかったような気もすると、少し残念に思いながら美澄香さんはタコ焼きを頬張る。

 マジすか……邪神を食べる……。
 冷静に考えると、どう考えても碌な結末にならない気がしますね?
 でも、この世界なら普通に食べれそうな気がする。
 クトゥルフ神話というものが放つ世界観の魅力を利用した、すばらしいコメディ小説でした!
 個人的にはショゴスの魅力に気が付く事が出来て、大変有意義でした。今度儀式をして呼び寄せてみようと思います。

31 機動白百合戦士ユリリンガー外伝 ᕱ⑅ᕱ 追憶 ガンスミスバニーの人参料理教室 ᕱ⑅ᕱ/@dekai3

謎の有袋類
 でかいさんだー!この企画のために長編を書き始めてくれてありがとう!進捗エンジンが怖いよ。
 そしてガンスミスバニーちゃんはどこに行けば会えますか?僕が養いますよろしくお願いします。
 それは置いておいて、後々本編も読むと思うのですが、これはまたけしからん軍団ですよ。なんですか……各種動物モチーフの敵役……最高ですね。
 生足の軍服レオタードで自主的に床に正座している姿を納めた動画や、クロスなビデオに投稿する用の動画はいくら出せば買えるんですか?
 それにコメントもけしからんですよ。やはり広報を担うモノとして真摯な『おっぱいは複数ありますか?』という重要な質問には答えるべき……。
 お料理が苦手なガンうさちゃんことホソバちゃんが本編でどんなことになるのか楽しみですね。
 人参ケーキ美味しそう……あとホソバちゃんも美味しそう。ホソバちゃんに副乳はあるんですか?本編を読めばわかりますか?
 本編が完結するのも楽しみです!機械帝国サイコー!

謎の齧歯類
 機動白百合戦士ユリリンガー外伝。(頷く)
 ええと謎の齧歯類は川というものに不慣れなものでして、もし不適切な感想がありましたらどうぞ申し訳ございません。
 冒頭、いかにもかっこいいお姉さんがワイルドに夜食を食べているぞ、と思ったところにスムーズに差し込まれる説明。エグいハイレグの軍服バニー服がトレードマークの元幹部!!なんて趣味が良い悪の組織なのでしょうか。機械帝国、ちょっと一口ふるさと納税をしたくなるセンスです。
 なるほど、悪の組織が滅んだ後の怪人の生活かな?と思いきや、始まった回想シーン。導入がわかりやすく、かつスムーズで素敵ですね。しかし、youtubeで活動をアピール……。
 はじまった悪の組織会議。帝王の名前、これは突っ込んで良いやつなのでしょうか。男性か、女性か、それで生き残れる度合いが変わりそうな名前だなあ、と思いながら読み進めると、youtubeで広報をという面白い作戦を立てていながらもシビアでちゃんと悪の組織らしい内情が語られます。
 いいですね、群雄割拠であわよくばと支配闘争を繰り広げるタイプの悪の組織。好みです。
 怪人たちもちゃんと優秀っぽいのもいい。私情を挟まず計画行動が取れる悪の組織、これは強いですよ。
 ところで鼻をピスピスさせるガンスミスバニーちゃん、とてもかわいそうでかわいらしい。好みです。
 ミスティックヤマネコさん、冒頭で最近嫌な顔をするとありましたが、なるほどそういう理由ーーー!とニコニコしてしまいました。百合の花が咲き誇っている……。
 しかし、こうして日常の作戦行動を示されると、機械帝国、会社組織としても風通しがよく仲がよいのが目に見えますね。少なくとも足の引っ張り合いには見えず、行動がいちいち有能で真摯ですごい。正義の味方は大抵敵幹部の足の引っ張り合いから勝機を掴むという印象があるのですが、これはとても攻略しづらそうな悪の組織ですよ。
 しかし料理をすると高威力の何らかの爆発や炎上が起こる、これはむしろ活かすべきユニーク能力だったのでは?という気がしてなりません。装備の消費なしに起こせる爆発、とても強い気がします。ガンスミスバニーちゃんはユリニー様の優しさだったのではと回想していますが、あれだけ有能そうな悪の組織の帝王です。普通に料理の支度を続けていれば勝機があったのでは、とか。
 しかし、本編はこの壊滅するまでの経緯なのか、カメラが当たるのは乱入してきた二人なのかな。と思って読み終えかけたのですが、どうやら本編に現在軸のホソバさん、つまりガンスミスバニーちゃんの出番があるような描写があり、やった!と拳を握ってしまいました。幹部たちはどうなったのか、出会うという思いも寄らない人物は誰で、別れとはなんなのか。このガンスミスバニーちゃんと悪の組織へ沸いてしまった愛着から本編を読ませる力がすごい。先が楽しみな出張短編でした!

謎の野菜
「機動白百合戦士百合リンガー外伝 ᕱ⑅ᕱ 追憶のガンスミスバニー人参料理教室 ᕱ⑅ᕱ」とは????(タイトルを見た時の感想)
 ……と最初はその情報量に面を食らいましたが、中身を空けたら、あらかわいい。
 動物をモチーフにした怪人さんのお話でした。
 この作品。描写のひとつひとつが可愛いのです。それは冒頭のパート。
>名前は高砂ホソバ。年齢は三十代前半で、歳の割にはかなりしっかりとしたプロポーションを誇る大人の女性だ。
 という主人公が、
>ホソバは部屋に入ると流れるような動作でローファーを脱ぎ、冷蔵庫までの途中で豊満な胸を押し込めていたブラウスを脱ぎ、冷蔵庫を開けながら器用に足だけでゆったりとしたワイドのジーンズを脱ぎ、500mlの牛乳パックと人参数本を取り出してから冷蔵庫を閉める。
>そして、脱いだブラウスとジーンズを床に散らかしたまま人参を食べる。

  というような、パートでよく表れています。
>ポリポリポリ
>牛乳を飲む。
>ゴクゴクゴク
>人参を食べる。
>ポリポリポリ
>牛乳を飲む。
>ゴクゴクゴク
>人参を食べる。
>ポリポリポリ。
>牛乳を飲み切る。
>ゴクゴクプハー
>若干物足りなかったので、冷蔵庫を開けて追加でセロリを取り出して食べる。
>シャクシャクシャク

 か、かわいいウサギさん……。
 この部分というより作品全体に通底している事なんですが、擬音が半角カナで表現されている事で、とってもカワイイ空間が生まれています。
 前もってホソバの容姿をしっかりと描写している為、その光景がしっかりと伝わってきます。更に半角カナの擬音による、コソコソと響く感じがカワイイ。一行丸々使って擬音表現を入れるというの、今回僕が出した短編でも似たような感じの事をしたのですが、半文字になるだけでここまで可愛らしくなるのですね。
 他の部分の擬音もほとんど半角カナで統一されており、
>「今ハアフリカデモスマートフォンヲ使ウ時代。トテモイイト思ウ。動物動画トカ人気出ル」
>ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ

>突拍子も無くユリニーに『youtube』と言われた時は驚いた幹部達だが、上位幹部であるショーグンマナティーが賛同した事により、ここは自分達も同じ方向に並んだ方が立場的に良くなるだろうと考えて堰を切ったように肯定意見を発言しだした。
>ガンスミスバニーは自分がやらかした事に気付くと同時に全身にぶわっと汗を掻きながら頭を抱えてしゃがみ込み、鼻を ピスピス させながら必死に起死回生の手段を考え出した。
>そして撮影当日。
>ジャーハイシンカイシシマース! ジュンビイイデスカー?
>「あ、ああ。だ、大丈夫だ…」
>イキマスネー サン、ニー、イチ、ッ!!

 どれも効果的に使われているのが、見て分かると思います。「ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ」や「ビスビス」の表現、動物が可愛らしい音を出しているのだな、という事が良くわかります。
「ジャーハイシンカイシシマース! ジュンビイイデスカー?」「イキマスネー サン、ニー、イチ、ッ!!」なんかは、緊張のせいで周りの声に対して効果音の様に薄い意識しか向けられないのかな、とか、あるいはこの作品におけるいわゆる「モブキャラ」が発話しているからこんなにフェードアウトした表現になっているのかな、とか。色々な事を想像できました。
 特に「ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ」を小文字にする発想がスゴイと思いました。
 ……といっても、未読の方には伝わらないと思います。ここで普通の大文字にした場合と見比べてみましょう。(都合により擬音の後に句点を追加します。)
①大文字
「今ハアフリカデモスマートフォンヲ使ウ時代。トテモイイト思ウ。動物動画トカ人気出ル」
  ワイワイガヤガヤケンケンゴウゴウ。
 突拍子も無くユリニーに『youtube』と言われた時は驚いた幹部達だが、上位幹部であるショーグンマナティーが賛同した事により、ここは自分達も同じ方向に並んだ方が立場的に良くなるだろうと考えて堰を切ったように肯定意見を発言しだした。

②小文字
「今ハアフリカデモスマートフォンヲ使ウ時代。トテモイイト思ウ。動物動画トカ人気出ル」
ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ
突拍子も無くユリニーに『youtube』と言われた時は驚いた幹部達だが、上位幹部であるショーグンマナティーが賛同した事により、ここは自分達も同じ方向に並んだ方が立場的に良くなるだろうと考えて堰を切ったように肯定意見を発言しだした。

 ……なんとなーく伝わったでしょうか?
 全て全角で書いた場合、擬音表現と地の文でメリハリが付きにくいので、地の文と同じ音量で擬音が響いている気がします。
 そうなると大きな声で、ワイワイガヤガヤしている感じになっちゃうんですよね。
 全角で書いてしまうと、メインキャラである幹部の発言の後に聞こえてくるガヤの音としては、やかましすぎてしまうんです。
 何故なら「ワイワイ」「ガヤガヤ」「ケンケン」「ゴウゴウ」と四つも擬音が入っているからです。
 ところが。作者さんが表記している通りの半角カナに変えると一気に印象が変わります。
>「今ハアフリカデモスマートフォンヲ使ウ時代。トテモイイト思ウ。動物動画トカ人気出ル」
>ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ
>突拍子も無くユリニーに『youtube』と言われた時は驚いた幹部達だが、上位幹部であるショーグンマナティーが賛同した事により、ここは自分達も同じ方向に並んだ方が立場的に良くなるだろうと考えて堰を切ったように肯定意見を発言しだした。

 メインキャラである幹部の発言の後に聞こえてくるガヤの音のメリハリが効いているように、少なくとも僕は感じます。
 これは恐らく、擬音表現とそれ以外の文で、文字の大きさが違う所がミソなんじゃないかなと思います。
 半角カナの擬音文を読んだ時━━例えば「トコトコ」という文章を読んだ時━━地の文よりも断然小さい音が響くと思うんです。それゆえ「今ハアフリカ━━」から続く声の後ろに「ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ」と付ける事で、メインキャラの声が響いた後、モブキャラが声を立てて騒ぐ様子が鮮明に浮かんできます。
 その上、この描写の前段階で「半角カナ=音」という図式が出来ているので、読者は「ワイワイ ガヤガヤ ケンケン ゴウゴウ」という音を頭の中で鳴らしながら、「突拍子も無くユリニーに━━」という文章を読む事が出来ます。
 この擬音語を半角カナにするという一工夫が、まるで会議にそのまま放り込まれたかのような臨場感を生みます。
 ……生むよな?(長く解説して不安になった)
 とりあえず僕が言いたいのは、この作者様がしっかりと考えぬいた上で、半角カナの擬音表現を用いているという事です。その上、大きな音を出すべき場面では、
>ズガァァァァン!!!!!
>「機動白百合戦士! ユリリンガーY見参!!」
>久留間カノコの声と共にスタジオの壁が破壊され、ユリリンガーYが現れた。

 という感じで、しっかりと大きな音を出しています。その後の戦闘描写で
>ガキィンガキィンガキィン チュドンチュドンチュドン
>「下がるのだガンスミスバニー殿! 前衛は拙者と!」
>「ワタシガスル!!」
>ガギィンガギィン

 と半角カナに戻っている事からも、やはり「ズガァァァァン!!!!!」だけ特別音量を大きくしている事が察せられます。
 ……とまあ、長々と効果音についてお話ししましたが、短編自体もとても面白いです!!
「機械帝国の帝王ユリニー・ハサマレタイン」という、いかにも百合好きの方々の怒りを買いそうな名前とは裏腹に、その組織体系はしっかりとしています。
>「我らもyoutubeで活動をアピールするべきではないだろうか」
 という、この帝王が出した一見素っ頓狂にも聞こえる議題。
>「確か、インターネットの世界には現実世界から弾かれた者が集まる場もあると聞いております。そういった場から人材を引き込めるとなれば有意義な事でしょう」
>「ふむ。世界規模のスラムが存在するという訳だね? そういった場所ならば我々に与する人間も多々居るだろう」
>「今ハアフリカデモスマートフォンヲ使ウ時代。トテモイイト思ウ。動物動画トカ人気出ル」
 という感じで鋭い意見が出てきます。
 この世界で敵視されているであろうこの組織のスカウト場所として「現実世界から弾かれた者が集まる場としてのインターネットの世界」という場所はうってつけのように思えます。そして、「インターネットの世界には現実世界から弾かれた者が集まる場もある」という言葉からすぐに「世界規模のスラム」を連想する部下もまた優秀だなと思いました。「アフリカデモスマートフォンヲ使ウ時代。」という事から、いろんな所に情報網を敷いているんだな、という事が分かります。なにより、言葉の端々から、部下の知性の高さが伺えるのがすごいと思いました。
>悪の帝国と言っても幹部達は一枚岩ではなく、それぞれが自分達の担当地域を一番に攻略しようと予算や人員を確保するために水面下で策略を練っている物である。
>『世界征服』という目標を達成する事自体は協力的だが、その過程で他の幹部が倒れようが全く構わないだけでなく、上手く近隣の幹部が倒れてくれれば自分の支配できる地域が増えてラッキーと思っている幹部も居る程だ。
>流石にあからさまに援軍要請を断ったり直接手にかける事はしないが、誰もが『あわよくば自分が幹部内で一番に』と思っていて、ユリニーもその競争意欲は世界征服へのやる気に繋がると考えて咎めてはいない。

 この描写でも色々な事が分かって大変良いなと思いました。自由放任主義なんですね、ユリニー様は。この野心に溢れた部下たちの様子をうかがっていると、大変エネルギッシュな組織なんだなという事が感じられてすごく好きです。何より、「あわよくば自分が幹部内で一番に」という描写から、そんな野心ギラギラな幹部たちを上手く御しているユリニー様の格の高さがわかります。
 こんな有能集団だからこそ、ただ一人、ユリニーの側近であるガンスミスバニー(主人公)のドジっ子加減が際立ちます。いや、実際は弾道計算や火薬の配合量といった彼女の得意分野では、相当優秀な方なんでしょうけど。料理となったら話は別です。
>「こ、粉は予めこうやってふるいにかけ…あっ」
>ガチャガチャドッテーン!!
「ダカラドウシテ粉ヲ振ルウダケデ転ブンダ! オーブンニ入レルノハ失敗シナクナッタノニ!」
>「どう? 進んでる?」
>「ミスティックヤマネコカ……トリアエズ爆発ヤ炎上ハシナクナッタゾ」
>「たかがケーキ作りで合金製の装甲版を消費したのは本当に意味が分からなかったわ。逆に新型爆薬の実験だって建前が出来たから良かったけれど」
> ガンスミスバニーが何度目かの失敗をした所でミスティックヤマネコが様子を見に現れ、丁度良いタイミングだからとエプロンを外して椅子代わりの鉄塊(※調理台だった物)に腰かけて休憩をするフォートレスセンザンコウ。

 なんで???????
 いや、何となく文中に転がってる描写からその理由はわかるのですが……。
>「こいつ、弾道計算や火薬の配合量は分かっても、『塩少々』とか『弱火で何分』とかが分からなくてフリーズするタイプなのよ」
 という描写から、「具体的に数値化されていないと動けないタイプ」なのは察しがつきますし、粉を振るうだけで転ぶ様子から、身体を動かすのはあまり得意じゃないタイプなことがわかります。
 しかし、そんな彼女を使って何とか料理動画を生配信しようと、他の幹部たちが奮闘する様が劇中では描かれています。一人一人ちゃんとキャラが立っていて、それがまたとても良い!
 まず紹介するのは、ミスティックヤマネコ。主人公であるガンスミスバニーが料理をするという無茶ぶりを振られた際、まず相談相手として選んだ相手が彼女なのです。
 この二人、仲がめっちゃ良い。
>二人は機械帝国初期の頃に改造された同期であり、お互いに二人きりの時は『ミスティー』と『ガンうさ』と呼び合う仲であるが、それはそれこれはこれ。
>なんだかんだで同期は見捨てられないという事もあり、ガンスミスバニーの頼みを無下には出来ないミスティックヤマネコ。

>本来ならば突き放すべきで甘やかすのは本人の為にならないのだが、自分を頼ってきた事は嬉しいし、何より自分が過去に甘やかしすぎたから今回のミスが起きたのではないかという不安がある。
>「…………ん?」
>「ほら、聞かれてるわよ。口にクリーム付けてないで応えなさいよ」
>ミスティックヤマネコにおしぼりで口を拭かれながら、キョトンとした顔でショーグンマナティーを見るガンスミスバニー。

 うーん、距離感が近い……。これには思わずショーグンマナティーさんも
>ショーグンマナティーは二人が同期だという事は知っていたが、まさかここまでの仲だとは想像していなかったのでどうした物かと考え、今どうにかすべき問題はそこじゃないと判断して何も言わずにスルーする。何も言わないが、流石に見た目麗しい女性二人がいちゃついているのは目のやり場に困るのでそれはもう困る。
 と反応してしまう程。しかし、帝王の名前が「ユリニー・ハサマレタイン」という名前なのに、
>ガンスミスバニーとミスティックヤマネコのいちゃつきはスルーし、ホプリテスキンシコウへ事の経緯と料理を人参ケーキにして貰う事を連絡するショーグンマナティー。
 という感じで、ショーグンマナティーさんが全然百合の間に挟まらないのには、思わずクスッときました。
 それにしても、このショーグンマナティさん、良い上司ですね。
>今回の件はしっかりとガンスミスバニーに確認をしなかった自分にも非があると思った上での行動であり、こうして間違いを認め、自ら進んで責任を取る事が出来るからこそショーグンマナティーは上位幹部であるのだ。
 と部下の失敗でも、自分にも非があると考え、
>そのまま返信は待たず、次に台本を作っている者、その次に衣装を作成している者、その次に機材を用意する者、その次に動画を編集する者と、次々と幹部達へ連絡をする。
>更に役割を持っていない幹部にも『ガンスミスバニー殿が料理を出来ぬ事を失念していた』という文面でのメールを送り、その上で『ユリニー様の期待に応えるべく協力して頂きたい』と連絡をしている。

 とすぐさまカバーに入るの、相当有能ですよ、これは。彼がホプリテスキンシコウに相談したおかげで、
>後で編集もするのだし、一から十までしっかりと料理している姿を撮る必要は無い。要所だけピンポイントで撮影しておけばなんとかなるだろう。
 という所まで持ってこれましたし。
 しかし。それでもやっぱり、料理シーンはちゃんと撮影しなければなりません。
 そこで手伝ってくれるのがフォートレスセンザンコウさん。
>「ダカラドウシテ粉ヲ振ルウダケデ転ブンダ! オーブンニ入レルノハ失敗シナクナッタノニ!」
 とちょっと手厳しい言い方を主人公に対してしていますが、一方で。
>「フォートレスセンザンコウよ、悪いが朝まで付き合って貰えないだろうか? もう少しで何とかなる気がするんだ」
 と主人公が言った時には、
>「イイダロウ。ココカラハ手加減ハ出来ンゾ?」
 と返す付き合いの良さを見せています。前述した手厳しい言い方も相手が「なぜが料理をすると物が爆発する奴」なら、なんというか、仕方ないよねという感じがします。
 この下りの後の
>「望む所だ。ユリニー様の期待に応える為ならば私は何だってする」
 という主人公のセリフも良い。主人公の芯の強さだとか、ユリニー様の人望の厚さが伺えます。
 ……とこんな風にみんな個性があり、それぞれの分野で有能で、そして皆優しいのです。それなのに。
>ズガァァァァン!!!!!
>「機動白百合戦士! ユリリンガーY見参!!」

 撮影中に突如現れた、ユリリンガーYに帝王であるユリニー様は破れ、そして幹部たちも散り散りバラバラになってしまいます。そんな中。
>数か月後、とある大事件により自身の環境が代わり、料理を覚える機会が巡って来る事になるのだが、それはまた別の話。
>その時、ホソバは思いも寄らない人物に出合い、そして別れを経験する事となる。

 という、滅茶苦茶気になるラストフレーズを残し、短編が終了します。
 ……個性的で生き生きとしたキャラクターの魅力を、半角カナの擬音表現が盛り立てる、大変良い出張小説でした!!この一つの短編にこんな沢山のキャラの魅力を詰め込めるのも、作者様の凄さを感じられてとても良かったです!

32 β女子とて楽じゃない ~カフェご飯メニュー会議~ /宮代魔祇梨

謎の有袋類
 宮代魔祇梨さん参加ありがとうございます!
 オメガバースを舞台にした作品ですね。あまり履修していないのでαとΩどっちがどっちだっけ?となると思ったのですが、作中の細かい配慮のお陰で区別が付けやすかったのがすごく親切だなと思いました。
 龍治さん好き!と思ったらまだ本編には未登場……これは出てくるのが楽しみですね。
 ここで書かれた短編がこのまま本編に組み込まれる可能性もあるんでしょうか?
 カフェのオーナーでもある侠哉さんもすごく魅力的ですね。
 群像劇のような形になるのかな?
 直砥さんと小春さんの話もめちゃくちゃきになりますね……。αとΩが逆だったらってそういうことかーとオメガバースの仕組みを理解してなるほどなとなりました。
 主要登場人物が一堂に介して会話をするみたいな風景は企画の趣旨的にもバッチリですごく面白かったです。
 参加ありがとうございました!

謎の齧歯類
 オメガバースが舞台のお話なのですね。詳しくないので的外れな感想でしたら申し訳ありません。
 まず最初に登場人物紹介がある形。なるほどオメガバースだと誰がアルファなのかオメガなのかが重要になってくることもありそうだし、とまず頭に入れて読み始めました。謎の齧歯類はとりあえずアルファがつよいやつぐらいの知識しかありませんが、読んでいくうちに、なにか大変な生態の社会なのかな、ということがうっすらわかって親切であるように思います。
 なるほど、この場にいるのは本編で色々があって乗り越えて結ばれた(?)ばかりの二人、αの女性とΩの男性。運命の相手みたいな生態の外のαとβのカップル、そしてΩの従姉妹に片思いをするαの人。の、三組のカップルとカップル未満なわけなのですね。オメガバースは全く詳しくないのですが、本文中の説明からすると、きっとこの組み合わせはなにか障害が大きかったり大変なことがあったりする感じなのかな、それゆえに語り手になる人達なのかな、という印象を抱きました。
 語り手の夕霧さんが梨音さんを連れてきた理由がこれで納得がいきつつ。そこから始まるそれぞれの個性が垣間見えるような会話がいいですね。中部出身だったり、エスニックが好きだったり。胃腸が弱ったときのことを考えたり、仕事の電話を受けながら、という発想だったり。夕霧さんのこの提案は侠兄ぃの負担を気遣っているのかな。本編でのそれぞれの立場なんかが垣間見えるようです。
 それぞれのカップルをちら見せし、キャラクターの個性を示すという点が気遣われている短編で、紹介能力が高くとてもいいと思いました!

謎の野菜
 オメガバースを扱った作品ということなのですが、オメガバースに今まで一切触れたことが無い為、作者様の意図を汲み取れず、見当違いな事を言ってしまっていたらすみません。
 しかし、そんな僕でも「オメガバース」の魅力を感じられた気がする短編でした。
 最初に、作中の舞台となるCafe&Bar and Que《アンドキュー》のお話からしていきます。
 この名前の由来が滅茶苦茶いい……!
>Unique《ユニーク》、Antique《アンティーク》……様々なものを取り扱い、Request《リクエスト》にもできる限りお応えしていく、ということで、それらに共通する文字から名前を取ったという。
 その名前に込められた思いが素敵です。それに共通する文字から取るというセンスも好きです!
 ちなみに八雲侠哉さんのプロフィールはこちら。
>八雲侠哉《やくもきょうや》……α男性。Cafe&Bar and Que《アンドキュー》の経営者兼店長。直砥の兄。兄弟仲は良好だが、似ていないのには訳がある。“オネエめいた”振る舞いは心理的武装で、歳下のβ女性の恋人がいる。謎が多い。
 個人的には「似ていないのには訳がある。」という部分が非常に気になりますね。しかも“オネエめいた”振る舞いを、わざとしている部分……。彼の過去が思わず気になるすごく素敵な説明だと思います。
 さて、そんな八雲さんのカフェの元に、何人か来客が訪れます。
 その内のひとりは、このお話の語り手です。
>城ノ戸夕霧《きのとゆうぎり》……β女性。大学生。小春の妹。気質も容姿も似ていないが姉妹仲は良好。比較的常識人だが物好き。歳上のα男性の恋人がいる。この話における語り手。
 そしてもう一人は。
>城ノ戸小春きのとこはる。何かと不便ごとの多いαやΩの特質に着目し、彼ら彼女らをより過ごしやすくするための薬を日々研究している、あたしの姉だ。彼女自身、αであることに──端から見れば些か滑稽とさえ思えるほどに──葛藤しているひとりである。
>仕事熱心で本来はデキる人なのだが、ゆるふわ女子然としたその雰囲気からは、いわゆるαらしさのようなものを感じ取ることは難しい。……実際、色恋沙汰が絡むと途端にポンコツになるから困ったものだ。

 と、城ノ戸姉妹が揃って店にやって来ます。
 その後に、元居た一人の先客がクローズアップされます。
>その向こう隣に座っている、好青年というイメージを凝縮したような男
>八雲直砥《やくもなおと》……Ω男性。個性的な検事のもとに配属された検察事務官。優柔不断なところはあるが、誠実で芯が強い。幼馴染の小春のことが好き。

 八雲直砥さんです。
 どうやらこの場に八雲兄弟と城ノ戸姉妹、二組みの血縁者がいる感じなんですね。
>あたしと侠兄ぃも含めたこの4人は、いわゆる幼馴染というやつだ。
 なるほど、家族ぐるみで付き合いがある感じなんでしょうか。
 城ノ戸夕霧《きのとゆうぎり》さんが八雲兄弟の事を侠兄《きょうにい》や直兄《なおにい》といった仇名で呼んでいるのに対して、八雲兄弟側は主人公の事を「夕霧」と呼んでいます。
 これがこの4人にとっては適切な距離感なんだろうなと思えました。
 それと同時に、作者様がキャラクターの造詣をかなり詳細に練っていらっしゃるんだなあ……と伝わってくるこの部分が僕は好きです。
 さて、そんな仲良し4人組がそろっていますが、実は店にやって来た人物はもう一人います。珠舞酒梨音《たまさかりおん》という女の子です。
>「直砥さん、お姉さん、どうも。……夕霧ちゃん、本当に来ちゃって良かったのかな、ぼく……場違いじゃない?」
>ふたりに挨拶した後、あたしにそう耳打ちするのは、あたしの大学の同期にして友人、珠舞酒梨音たまさかりおん
>手入れの行き届いた長い髪に、ぱっちりとした二重、大きな瞳。カテゴリとしては間違いなく美人に類する(と思われる)のだが、「ぼく」という男性一人称を使用しており、どこか浮世離れした雰囲気を持っている。
>間違いなくΩ女性であるらしいのだが──なんというか、いわゆる一昔前のギャルゲーにありがちな、鈍感やれやれ系主人公がスカートを穿はいているような印象がどこか拭えない、といったところか。

 なるほど、ボクっ娘!しかも鈍感と来た。なんというか、この子を巡り、恋愛関係で事件が起きそうな(またはもう既に起きてしまった)気配が漂ってくる気がします。
「Ω女性であるらしい」という表現からして、この世界にはこんな子が沢山いるってことなのでしょうか……。だとしたら、結構大変な世界だ……と思いました。
 さて、そんな5人が始めるのは、ここCafe&Bar and Que《アンドキュー》の、新メニューアイディア会議。お互いにメニュー案を出し合っていくのですが。その会話中、オメガバースという設定を上手く利用した、複雑な恋愛模様が見事なテンポで描かれます。「オメガバース」に触れるのはこれが初めてなのですが、その裏表ありまくりの関係にめっちゃドキドキしました!
 まずは一組目のカップルに触れていきたいと思います。
>顔を見合わせて、仄かに頬を染めて笑い合う姉貴と直ちゃん。 
 夕霧は、小春と八雲兄弟の弟、直砥さんがイチャイチャしている様を目の前で見せつけられます。それに関する説明がすごく興味深いです!
>ふたりは長年、いわゆる両片想いの状態が続いていた。姉貴がαで、直ちゃんがΩだ。β同士か、せめて逆ならどんなに良かったかと、姉貴は常々嘆いていた。
>姉貴が妙なこだわり──αとしての獣性に振り回されたくないとかなんとか──を発揮してしまい、直ちゃんの発情期ヒートに中あてられる不慮の事故のようなものがあってからというもの、暫しばらくの間、そのこだわりゆえになかなか気まずい関係に陥っていた。
>姉貴のほうはその一件の後、逃げるように手当たり次第の婚活を行っていたので、一時は色々な意味でどうなることかと思ったが。
>少し時間が経って落ち着いた頃に、改めてお互いの気持ちを整理して話し合い、どうにか着地点を見付けることができた……らしいのだが。

 この部分です。
 小春が、何故αやΩがより過ごしやすくする薬を作っているのかということや、αであることに葛藤していた理由に触れられています。
 小春は「αとしての獣性」に振り回されたくなかったからなんですね。そして、Ωの男も発情期《ヒート》という現象が起こる。
>現時点でふたりが番《つがい》の関係を結んでいるかまでは、あたしにはわからない。
>βであるあたしには、αやΩのフェロモンを感知することができないためだ。
>できれば身内のそういうことはあまり知りたくない性質たちなので、そういう意味ではβで良かったなぁ、などとしみじみ思っているところではある。

 こういう説明が展開されるのが、スゴイなあと思いました!
 小春と直砥の二人が今結局どうなったのか分からないもどかしさで、思わず心がいっぱいになりました。
 その上、この文章が次のステップへの足掛かりになっているのが巧みだなと思いました。
 オメガバースをよく知らない僕は、この文章を見た時「この世界において、恋愛関係は現実よりも直ぐにバレちゃうってことかなあ」という想像をしていたのです。ですが、その直後
>カウンター越しに呼び掛ければ、得意気な返答。
>垂れ目がちの奥二重と目が合った。
>姉貴にも直兄ぃにも内緒にしている──おそらく、気付かれてもいないと思う──が、あたしの恋人は侠兄ぃだ。

 ……こういう事実が示されるのがすごくいいですね!「夕霧は他人の恋愛関係を知る事ができない」という事実と「秘密の恋愛関係を持っている」という事実の対比……!すごく好きです!こういう「恋愛関係がすぐにばれる世界」こそ、「秘密の恋愛」の熱もヒートアップしそうだな、なんて想像を思わずしてしまいました。
 その上で。
>彼はαだから、もし本当に惹かれる相手──それもΩが現れてしまったら……という畏れを全く抱いていないとは言わないが、その時はその時だろう、なんて思うようにしている。言ってしまえば、今お互いがお互いを好きであること、それが全てだ。
 この事実も明かされるのも、スゴイなと思いました!ただでさえ「秘密の恋愛」なのに、その上「時間制限」まであるという。いやあ、なんという儚い恋……。
 しかもその上。
>奥から出て来て早々侠兄ぃと軽口を叩き合っているのは、夜叉ヶ池龍治《やしゃがいけりゅうじ》。ある日突然店にやって来て、一目惚れしたから抱いてくれだのなんだの侠兄ぃに猛アプローチを仕掛けてきた男だ。断られてからも店へと通い──恋愛対象としては見られなくとも性格的な波長は合うようで──、なんだかんだで侠兄ぃの悪友のような立ち位置へと収まりつつある。人の懐へ入るのが上手いのは、きっと天性の才能だろう。
 なにやら「彼氏」に対して超距離が近い男が出てくるのもすごい。滅茶苦茶複雑な人間関係です。確かに、侠兄ぃは夕霧の恋人なので、夕霧としては思わず怒りを露わにしたいところなんですが、「秘密の恋」だからそれは出来ないし、もし表現したとしても「彼氏はゲイの振りをしている」から、周りが思わず「ん?」と反応してしまうという。
>あたしが侠兄ぃの彼女だと知ってからは、少なくともあたしの前では侠兄ぃに過剰なアプローチはかけなくなった。
 とはいえ、見ていて思わずもどかしくなっちゃうような風景が目の前で展開され続けるの、本当にスゴイですね……。
 しかも。
>侠兄ぃへのアプローチは、どこかあしらわれることを前提としたコミュニケーションの様相を呈していて、半ば本気ではなさそうなのだ。
>そう、むしろ──。
>……この人、従妹である梨音にこそ気があるのではないか?確信に近い疑念があった。
>それこそ、いつものように侠兄ぃにアプローチを仕掛けた際に、ちょっとした意趣返しを食らってあたしと梨音の目の前で腰砕けになってからは、目に見えて自重するようになった……ような気がする。

 またまた衝撃の事実が判明するというこの巧みさ……。スゴイとしか言いようがないです……。
 お互いにメニュー案を出し始めてから、ここに至るまでの展開がめちゃくちゃ面白いです。
 ラッシュのように訪れる衝撃の事実に脳内を揺さぶられ続けた結果、「こんな複雑な恋愛模様、これからどうなっちゃうんだよ!?」という気分になりました。
 その後、本格的にメニュー案を出し合い始める所でも、それぞれの登場人物の特徴が色濃く出ていて大変いいなと感じました!
>(夕霧)和スイーツ、か。ちら、と横を見ると、案の定姉貴が声を上げていた。
>(小春)「私もそれ賛成、すごく良いと思う!」
>(龍治)「そうやな、あとは……、スープが欲しい」
>(龍治)「胃腸が弱ってる時でもスッと飲めるやつ。そない手が込んだやつやのうて、シンプルなコンソメとかミネストローネとかでええねんけど。今もランチセットとかには付いとるんやっけ? あれ単品でも頼めるようにできひんかな」
>(夕霧)「うん。えっと、ちょっとエスニックな料理はどう? ナシゴレン、ガパオライス、トルティーヤ。あと、スープということだと、トムヤムクンとか」

 作者様がキャラ設定を綿密にしている事が、とてもよく伝わってきます!
 「オメガバース」を知らなくても、その旨味を味わえる、見ていてドキドキする恋愛物語だと思いました。
 特に中盤にある怒涛の設定開示のラッシュが、読んでいてすごく気持ちよかったです!これから彼ら彼女らがどうなるのか、その行く末が気になって仕方がないです!

◆総評的なもの

謎の有袋類(以下有袋類):というわけで、全32作の読み切り短編が集まりました!洪水にならなくてよかった!ここからは闇の感想員が総評とかをざくざくっと話していけたらなーと思います

謎の齧歯類(以下齧歯類):一月の間お疲れさまでした!
 総評行為にあこがれていたので感慨深いですね。これ……。

有袋類:川ではないものの、川スタイルに近付けようというもくろみ……ふふ……

謎の野菜(以下野菜):このような素晴らしい企画に誘っていただき、本当にありがとうございました!なんというか、身に余る光栄感があり、最初は大変緊張しながら講評をしていたんですが、今は「すごく楽しかったなあ!」とスゴイ爽やかな気持ちです!

齧歯類:32件でも結構凄かったですね。これで百を超える氾濫繁茂する本式の講評者はどれほど……。

有袋類:闇の評議員育成計画でもあるので、こう……何かを読んで感想を言う経験を積んでくれるのはうれしいですね

有袋類:お食事短編を!とのことだったんですけど色々あっておもしろかったですね!しぃるくんが二郎で殴り込んできたり

野菜:32件だけでもすごく疲れますね……。僕の場合、途中で感想を述べるだけじゃなくて、自分なりの解説も加えるスタンスへと変えてみたのもありますが。

齧歯類:草○郎はマジで草でしたね……(失礼) 皆様独自の観点でごはん短編を出してこられて、ああこういう発想があったか!というお話が沢山あってすごかったです。

有袋類:作者が確実に見るのに解説をしていくの勇気あるなと思いました(解釈違いだったらどうしようと日和る有袋類)

齧歯類:長編を読みに行く切っ掛けにどんどんなってほしいですね! 長編の一話、読み出すのに覚悟とか決意がいることありますけど、テーマ短編だと気軽に読めますし。

野菜:「クッキング・オン・ハイエルフ」ですね。二郎を使うという着眼点が鋭くて良かったですよね……。異世界における「望郷」の念を「次郎ラーメン」というアイテムで表現するの、スゴイ新しいなあ、と感心してました!

野菜:なんというか、「独尊サバイバー」を読んでから「観た感想を述べて、何処からその感想を得たのかを示す」だけじゃなくて、「感想を示したうえで、その感情を引き起こす為に『作者様がどんな努力をしているのか』を自分なりに考察してみたいな」という思いが強くなったんですよね

有袋類:すごい!その調子で作者様たちが練り上げた長編もガンガン読みに行って欲しいですね……!是非!!!(誘導企画なので!)

齧歯類:謎の野菜さんの文字数と意欲、すごいですね! 8万文字でしたっけ。教えてもらってビックリしてしまった。

有袋類:僕は9000字ですね(ダントツの少なさ)

齧歯類:謎の有袋類さんの感想の鋭さと謎の野菜さんの熱意、ちょっと齧らせてもらいたい。ぼくはちょっとお脳が小さいので「わー」「すごいぞー」をそのまま出力した形になっています。

有袋類:齧歯類さんの文化とかへの解説すごいためになりました!複数人で色々やると拾えた無かったものを他の人が拾ってくれる安心感!

野菜:狐さんの「独尊サバイバー」の情景描写やアイテムを使って心情を表現している様が、本当に秀逸だなあという風に感じまして、しかも詩的な情景描写とサイバーパンクの退廃的な世界観の組み合わせが本当に好きで……。それをちゃんと解説しようと思ったら、「作者の意図を考えてみる」というのが本当に楽しいなって気が付いて……。そこからはスタイルを変えてみちゃいました

有袋類:野菜さんは、自作でも音楽をテーマにしているからか、結構音についての感想や言及多かったですよね。おもしろかったです
 僕も新規で数話読み始めたものはあるので、自画自賛なのですが良いきっかけになった自主企画だなーって思ってます。やっぱり長編だと相性とか好みが合わないと辛いものがあるので

齧歯類:謎の有袋類さんは流石に講評なれしておられてスマートでしたね。謎の野菜さんは結構テーマ性について考察しておられて、おおこういう読みがあるのか、と面白かったです。
 僕ばかりがお脳が小さい!

有袋類:

野菜:深読みしてみると、作者様が好きな文字の響きとかが伝わってくる感じがしてきて、本当に楽しかったですね

有袋類:第一回目だったのですが、このために長編書き始めました!って人もいたので次回もそういう人が増えて欲しいですね。がんばれ下限達成!

野菜:齧歯類さんの感想、作者様の描写の意図を深く掘り下げた上で、しっかりと内容全体についても語られているな、という印象があって僕はとても好きです!結構参考にさせていただきました

齧歯類:進捗エンジン!

有袋類:長編マジで読まれがないということに陥りがちなので少しでもなんとかなればな……と。やはり反応があると「書くぞーーー」となりやすいので!

齧歯類:普段書かない面からの掘り下げにもなりますし、二回目も楽しみですね……。

野菜:謎の有袋類さんも、よくこんなに話を読むきっかけになりそうな文章をかけるなあ、と感心してました。僕は途中から文字数が爆発して、上手く纏められなくなったので……

有袋類:野菜さん、音とか響きへの言及はおもしろかったので、今後は引用なしとか一つとかでもガッツリ感想言えるようになるといいですね!ふぁいと!

齧歯類:ほんとうに、長編を読むには切っ掛けがいる! この感想を見て読んでくださる人なんかも出たらいいですねえ。

有袋類:基本的には褒めの感想なのですが、流石に32作の長編を全て読むのは無理なのでアレなのですが!新しい出会いのきっかけになればなーと思います!

齧歯類:なればなー!

有袋類:参加作の本編全読みチャレンジだとまず、闇の感想員の作品だけでも160万字と40万字の壁が立ちはだかりますからね……

齧歯類:もうそのあたりの作品は最新パートから読んでもらおう作戦で……。

野菜:作者の皆さまの「本編への誘導」のアプローチが多彩で、32作もありながら多様性があって良かったなあってきがします

齧歯類:この出てくるキャラ気になるな? というところから読む! みたいなことが出来るのが出張短編の強みですね!

有袋類:僕は160万字踏襲しましたが……流石に数ヶ月かかってますね。
 最新パートから入れるノウハウみたいのもこういう企画で積み上げて、いい導線にしたいですね

有袋類:登場人物が語りかけて来る系や、本編とは別の視点で話す系、物語が終わった後のお話など多才でしたね

有袋類:すみれさんや、三谷さんのような骨太ファンタジーもあれば、蒼鬼さんのほのぼの?邪神クッキングもあってすごいバラエティーに富んでいましたね

齧歯類:ご飯短編、というと穏当なものを想像しがちだと思うんですが、バラエティーが凄かったですよね。人骨、人肉、魂……

有袋類:大麻……

野菜:人魚の肉…

有袋類:あと、全員オメガバース未履修だったのが笑いました。三人いてもカバーできないことはある!

野菜:単に食事というだけでも、「食卓」という場でキャラクター劇をしてみたり、「食事の味」を通してキャラクターの心情を表現したり、「食文化」を詳しく説明したりなど、「食」へのアプローチが色々あるのも興味深かったです

有袋類:いい感じに広いお題が出せたかなーと思ってます。こういうお題の広い方とかでも相性というか、好みみたいのが把握しやすい気がする

齧歯類:食べ物は長編を書いていたら大抵出てくる(気がする)ものですものね。

野菜:あと皆さん、「味表現」が巧みで驚きましたね……おかげで読み度に舌の上においしいものが乗っかる感じがして楽しかったです

齧歯類:舌の上に大麻二郎が

有袋類:飯テロ!!!!そう、「侍は何を食べる?」のはらこ飯のことです!!!!夕ご飯前に感想を書こうとしてはいけない(戒め)

齧歯類:はらへり度でいうと「樹雨家のおいしい日常〜樹雨家長男のいちにち〜」の一連の食べ物も凄かったですね……
 謎の齧歯類は耐えかねてほうれん草を茹でてお腹をなだめてしまった

有袋類:ハナハミのケーキも美味しそうだった!スイーツかごはんなのかも個性が出ますよね

野菜:本当に多様性に富んでましたよね(「宿痾/神澤芦花(芦花公園)」のパスタを食べながら)

有袋類:円環に入りましょう

齧歯類:多様性と言えば、アプローチの話に戻るんですけど、「不能共~清瀬の愛妻クッキング番外~」とか「嘆きの森の食卓」とかのHappy End後の話だとわかりやすいやつ、あれとっても安心して読めてよかったんですよね!

有袋類:僕はどちらも既読なんですが、愛妻クッキングはマジで当時連載中のものとの温度差がすごかった……w

齧歯類:(円環から目をそらしながら)

有袋類:読んでくださいねえ(骨がらみ)

齧歯類:普段はネタバレはなーみたいになるんですが、あの形ならそこまで気にもなりませんし最終的にこうなるとわかっている、って本当に大事だな、というノウハウを知りました。そういうノウハウを知れるのも利点だなあと、勉強になりましたね……。

野菜:僕個人的には「食事」というテーマを通して、いろんな小説の技巧まで見れて、すごい有意義だな、と思いましたね。

有袋類:そんな多様性豊かなこの企画、続けていきたいのですが、読んでいる作品だと推し語り出来るのも最高ですね。絶対二回目もするので参加してね!

齧歯類:推し語り!!とてもしたいですね。参加してね!!

有袋類:感想とか講評を書く僕なりのコツ!みたいな記事も出すので次回赤紙を貰った人は怖がらずに闇の感想員側でも来てね!!!!齧歯類さんはとりあえず続投です!

齧歯類:!?(攫われていく)

野菜:「宿痾」みたいなホラー描写だとか、「穴蔵の髭付き樽」みたいなシーンチェンジの仕方だとか、「機動白百合戦士ユリリンガー外伝 ᕱ⑅ᕱ 追憶 ガンスミスバニーの人参料理教室 ᕱ⑅ᕱ」みたいな擬音の使い方とか……。他にもいろいろな技術が目白押しなので、感想を全部書き終えた後「小説って自由なんだな」とか「小説ってすげえな」って気持ちになりました。作者の皆様が今まで鍛え上げてきた色んな表現方法が一堂に会するこの企画を作ってくださって、また僕を感想員として選んでくださって、お二人には感謝してもしきれないです……。

有袋類:次回も参加可能な文字数の条件は変えないつもりなので、参加を目指して今から長編を書き始めても大丈夫!今回参加した作品でも、Vol2参加可能にする予定なのでよろしくおねがいしまーーーす!時期は未定ですが!
 書けば書ける!という感じで短編も長編も非商業作品も商業作品もガンガン読んだり書いたりしていこうーーー!

◆お知らせ

有袋類:では、ロハで労働していただいている闇の感想員の特権?の自作宣伝などどうぞ!

齧歯類:では僭越ながらこの謎の齧歯類から!
「短編出張糸織り乙女~スサーナちゃんの異世界ごはん~」今回の企画でのこの齧歯類の作品です! なんかヒロイン?ヒーロー?ジャンルでは何というのが正確なのかわかりませんが、主要男性キャラの半数ほどが登場しております!
読んで気になるキャラがいるな、と思いましたら「塔の諸島の糸織り乙女 ~転生チートはないけど刺繍魔法でスローライフします!~」こちらにどうぞ!
 まあ、160万文字あるんですけどね……。
 最新部分からでもお気軽に!

有袋類:聳える40万字に怯まずに……あらすじから読めば途中からでも大丈夫なはず!「不死の呪いと魔法使い」不遇少女と不死属性の魔法使いお兄さんを中心にしたファンタジー恋愛小説です。よろしくね。

野菜:黄昏る異世界旅行記」退廃した世界の中を、男二人が酒を片手に、ゆらりゆらりと旅をするお話です!やっと3万字を超えた所で、二人の旅物語はまだ始まったばかりです。末永く、二人の旅路を見守ってくれる方が増えてくださると、僕は大変喜びます!!もしお時間があれば宜しくお願いします!

齧歯類:週末が目前なので、この感想から各所に読む人が増えるといいですねえ。

有袋類:では!感想員のお二方も、参加してくれたみなさんもありがとうございました!気になった長編は読んで感想とか☆とか無礼にならない感じに投げてください!

齧歯類:感想員の皆様、参加者の皆様ありがとうございました、主催の有袋類さんお疲れさまでした!&ありがとうございました!

野菜:主催の有袋様、作者の皆さま、この企画に関わった全ての方に対して「ありがとうございます!」と言いたいぐらい、すごく楽しかったです!!皆さま、本当にありがとうございました!!