ポーの一族

『ポーの一族』
忘れもしない、1/11 11時公演。
幸運にも友の会が用意してくれたSS席


初日があけてから色んなところから流れてくるレポの数々、よみたい気持ちに蓋をしてできるだけ目を伏せながら…まっさらな期待だけに溢れる心で着席しました。

幕開きのプロローグ
エドガーがバラを一輪持ちせり上がってきた瞬間…やっと会えた喜びと、これから始まる美しい世界への引力に、体が震え涙したことが鮮明に思い出されます。



舞台化されると発表になって、すぐに漫画ボックスをとりよせました。無知な私には、この五巻の中に広がる崇高さは未だ感じたことのないものがあって、理解が及ぶのに時間がかかりました。
読むうちに深まる彼らが生きる世界の、''美しさと哀しみ''にずんずん惹かれてゆき、心のどこかひとかけらがポーの世界に完全に染まりました。
それは、今もずっと。


まずこの物語に出会えたことだけでもすごく有難い気持ちで、幸せだったのです。
読む時にはすでにエドガー=明日海さんとして、どこか意識しながら読んでいたので、元々の原作ファンの方の舞台化への期待の有り様とはまた違った楽しみ方だったとは思うけれど…それでもどのストーリーをどんな音楽と演出で花組さんが魅せてくれるのかが本当に楽しみで仕方がなかった。

舞台は3度、LVを含めて4回観ることができました!そしてBDとCDで、ほんとうに何度観たことか聞いたことか…
今もなおこの舞台のもつ力と奇跡に感動が消えないのです…終わりのない旅だから、エドガーと共にやっぱりきっとずっと消えないのでしょうね。


素敵な場面はやはり数え切れないほどあって、到底選ぶことはできないのですが…笑
それでも心に残っている瞬間をいくつか記しておきます。

1幕ラスト「愛のない世界」

エドガーとアランのそれぞれの哀しみをふたりともがふと覗かせ心をほんの少し通わせた瞬間からはじまるこのナンバー。
誰ひとり目が合うことのない、心通わないそれぞれの哀しみ、行き場のない想いがざくざくと交差されてゆくなか、最後アランに''妹を紹介するよ''と告げた後に幕が降り、銀橋にいるエドガーだけにスポットライトが当たるのです…
そのとき!そのとき肉眼で見ることができた、
エドガーの青い瞳。
あの青い瞳の、あの美しさは、言葉にできない感覚で私は一生忘れません。
(きっとあの瞳は本当にエドガーの瞳だったんだと思っています)
舞台が完全に暗転し、銀橋から去り行くエドガーの背中足取り歩み、すべてが強く脳裏に焼き付いています。


続いて、SWのアランの規律ソング
「よく聞けよ!転校生ー」

この場面を観たとき、れいちゃんがアランそのもので驚きました。自然になのか計算しつくした上なのか分からないけれど、アランの反抗心や甘えたい幼心、その一杯一杯の中で揺れる危うさと背伸びするが故に滲む哀しみが、れいちゃんの声と体に表情に完全に!本当に完璧に!宿っていて…「すごい!上手…」とれいちゃんの芝居心にも感激したこともすごく印象的でした。
今もなお、見れば見るほど「ほんとうに上手だよ…」と唸ってしまう。でも今のれいちゃんが演ずるとなるとまた少し違ったアランだったような気もして…(また会いたいけれど!)
だからこそ!あの時期のあのメンバーでこの作品にめぐり合う…やはり全てが奇跡なんだなって思うのです。


二幕「夢の旅人」

バンパネラと気づいたアランを、エドガーとメリーベルが一族に加えようといざなうナンバー
まず、私は夢の旅人の曲が大好きなのです。
歌詞が最高に、好き!漫画の中にもそのままの詩があってそのページが本当に好きです。
 (夢を織る人々、という言葉の美しさよ)
ここのエドガーとメリーベルが同じ方向をむいている姿がすごく好きです。
並ぶ青い瞳が兄と妹の血の繋がりを語り、未練を残すアランに無理強いはできまいと葛藤する姿は二人の魂がやはり人間なのだということが、強く痛く響くようでもありました。
また、この夢の旅人はフィナーレナンバーでゆきちゃんとあきらさん、ちなつさんが歌い紡ぎます。宝塚だからこそ出来るこの総仕上げ、やっぱり素晴らしいです。
まだまだこの先も続いてゆくであろうエドガーとアランの旅…なんともいえない余韻を残して終えてゆく中で、シーラの願いも乗せてゆきちゃんが「どうか旅路が幸せでありますように」と昇華してくれるような、そんな風に思いました。
御三方、一言一言を大切に、本当に美しく歌われるのです…とても素敵でした。

そして、やっぱり語らずにはいられません、
「ギムナジウム」

明日海さんとれいちゃんの目配り、一挙手一投足、言葉少ない一連の流れのすべてが本当に絶品です。絶品じゃないですか!?笑
このギムナジウムの場面こそ、エドガーとアランはこのふたりなくしてはなし得なかったことを物語っているといっても過言ではないと思えるほど。素晴らしいです…
一つ前の場面で、エドガーがひとりでは寂しすぎるよとアランを迎えに行き差し出した手、アランが未練はないと言ってその手を取ります。ギムナジウムの最後に、その時とおなじくエドガーが差し出した手をアランが取る場面があります…
だけどその二つでは、ふたりの間に流れているものが全然違うのです。
ラストシーン、一族になったことへの覚悟となにか安堵感のような余裕、ひとりではなくなったことからくる心の強さがエドガーとアランの表情だけで届き、どんな旅をふたり続けてきたのかがどことなく広がってくるのです。
そして、これからも続いてゆくであろう果てのない旅への哀しみと決意も同時に。たった10秒ほどに、まるごと表現されてるいるこのラストシーンは秀逸です。




「全幕モノのフィナーレは
例えるならお菓子のキャラメルに付いてる
オマケのおもちゃのようなもの。
キャラメルだけでも嬉しいのに
そこにおもちゃももれなく付いてくる!
なんとしあわせな!」

以前、振付家の御織先生がおっしゃっていて…
その表現がなんだかとっても可愛くてすごく好きで、よく思い出します。
ですが、ポーの一族のフィナーレナンバーは、オマケと呼ぶにはあまりにも贅沢で素敵すぎるものでした。
ピンクの衣装で銀橋を練り歩く明日海さんの麗しさは、初めて見たときあまりに強烈で時が停止したようで、裾のフリルの揺れ動く様がスローモーションのように見えました。一列目に座っておられたある一人に、完全にロックオンして銀橋でしゃがみ微笑みを送る明日海さんの姿、おこぼれだけだというのに私は魂を持っていかれました。

そして、デュエットダンス
まずはお衣装の色がとっても艶やかで深い青、素敵な色でした。(はじめ見た時、ふたりの衣装は一緒の生地だと思っていましたが、殿堂であらためて見たら全然ちがって…笑 舞台上で美しく見えるように色んな工夫がなされてるのですね)
明日海さんも胸元にリボンがあるとは思えないほどの絶対的な''俺''を全身で放っていて、そこに揺らがないエネルギーで向かい応えるゆきちゃん。

明日海さんと仙名さんのデュエットダンスはまるで高級チョコレートのよう!上品な甘さと薫り高さ、艶やかな佇まいが…いつもとびっきりのご褒美のプレゼントを頂いている気持ちがしていました。大好きな、デュエットダンスでした。

 
何もかもが、どこもかしこも、すべて…
「ポーの一族」
完璧な作品だな、と私は思います。

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観劇していると、嘘でもなんでもなく、夢を見ているような そんな気持ちになることがあります。どうか忘れませんようにと願うように心に刻みながら観劇していても、やはり薄れていくこともあって。だけど、薄れても失ったように思えても、記憶はかならず心に有るんだなと…
このnoteを書きながら、そう感じています。

宝塚の舞台は美しくて、圧倒的なエンターテイメントで、日常ではない世界観です。いただいたしあわせな思い出でずっとずっとご機嫌に生きていけるわけではないけれど、だけど客席で観た聴いた感じたすべてが何よりもの生きている喜びです。学びでもあり、ご褒美でもある…
また観に行けるようにがんばろう!と背筋を伸ばしてくれる、お尻を叩いてくれる、光のようでもあります。

ポーの一族という作品に出会えたのも、
宝塚が大好きだったから
明日海りおさんが大好きだったから。
またこんな風に世界が広がり、あたらしい扉に出会いキュッとドアノブをまわし見知らぬ光がさしこむ瞬間にめぐりあえたらなぁ…と
今またポーの一族を観ながら、そんなことを思います。