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好きだからといって、やってはいけない髪型がある ②

初めてドイツの美容院に行って、パーマをかけた私の髪は傷んだ。
きついパーマはかけるなと、あれほど日本の美容師さんに言われ続けたのに、背いた自分が悪い。
反省はすれど、傷みすぎた髪はブラシを通すこともままならず、日々ストレスは溜まる。

ドイツへ来てしばらくは、NHK WORLDなりドイツの放送局の番組なり、頑張ってドイツ語や英語に耳を慣らしていたが、やはり日本語は恋しくなる。
「NHKが観たい(T ^ T)」
と夫に嘆いて、結局NHKプラスを契約した。そして以後、どっぷり日本語を堪能している。

朝ドラも大河も、もうどっぷり。このところ日本の身内とのお喋りも寅子やまひろの話ばかりとなった。

そしてある日、『光る君へ』を楽しんでいた私は、ふと登場人物の女性が全員やっている髪型(姫カット)が羨ましくて仕方がなくなったのであった。
頭の中で日本の美容師さんの言葉が蘇る。
「姫カット? ‥‥やらない方がいいですよ」

禁止されたきついパーマであれだけ懲りたではないか、と頭の中はグルグルし始める。美容師さんの禁止事項は私にとって真に適切であったではないか、と。
しかし、登場人物がみんなやっているのに、何故私がやっちゃいけないわけ?と思考が歪み始める。

ドラマが中盤にさしかかる頃、とうとう誘惑に負け、右側の頬にかかる部分の髪を一房切ってしまっていた。
で、その瞬間後悔したのだった。馬鹿です。

以前のストレートな髪の時代だったら(それでもダメだと思うけれども)、多少印象が違ったかも知らないが、パーマで傷んだ髪は一房切ったところもまた、傷んでガサガサなのが更に目立つのだった。

これは伸びるまでどうしようもありませんな、と半ばヤケになり、右だけなのは変だから左も切ってみるか、と更に取り返しがつかないことをやる私。
日本にいたら考えられないことをやる。

一年住んでみたら、美容院の敷居が高いから(どう頼んでも思うようにならない)、前髪くらいは自分で切るのは当たり前になっていた。
その他にも、水道修理の人は頼んでもなかなか来ないから、トイレの水を流すボタンが不具合になったりとか、蛇口がガタつく程度の事は、自分で直して当たり前になっていたのだ。(水まわりのトラブルが多い、ドイツあるある)

セルフカットくらいどうって事ない、という感覚になっていた。

左右一房ずつ切り落としてしまった髪、もうどうしようもない。
『これが伸びるのを待つ間、隠す手間がかかるな』と判断した私は、前髪全体の長さと量を変えて、おでこを出して、後ろに流すヘアスタイルにしてしまえば良い、聖子ちゃんカットの時代は、みんな巻いて外向きに流していたではないか、と思いついた。

日本の美容師さんは、もう少し前髪の量を多くしたい、と頼んだ時、
「人それぞれ前髪の量って違うんですよ。おでこの広さとか髪の生え方が違いますからね。」
ときっぱり断った。今がベストである、と。
本当だったのね、と今更思い知る。

しかし既に後戻りできない状態に自ら追い込まれた私は、つむじ近くから髪を前に梳かし、かなりの量を顎の辺りでザクザクと切ったのだった。
更に記憶を辿って、日本の美容師さんを真似て、眉毛切りハサミを縦に持ち、毛先を軽くしてみたのだった。

私には一つだけ確信があって、
『多少の事はアイロンで巻けば何とかなる』
日本から持参したヴィダルサスーンのヘアアイロンは強力に巻ける。
セルフカットされた髪は、かつてのサーファーカット的な前髪に仕上がった。めでたしめでたし。

しかしその後、ご機嫌で犬の散歩に出た私は愕然とする。この髪型は、散歩用の帽子を被ると潰れてどうしようもなくなるのだ。さりげなくかきあげた感じの髪型になるよう工夫したが、単にぺっちゃんこ
日本の美容師からの禁止事項①〜③の全てに背いた自分の末路だった。

帰ってきてから、もうどうでもいい!と荒れまくり、お茶とNHKプラスで心を落ち着けましょ、と。
[ミュージック]を開いたら、以前放送された、『中島みゆき特集』が配信されていた。

以前から、中島みゆき様は時代が変わっても、おそらくご本人が理想としているらしい髪型をしているなぁ、と思っていた。アルバムの写真もとても優雅で美しい。

そして気づいた。今の私の沢山の前髪、内巻きにすれば中島みゆき様的になる、と。
流行り廃りは関係ないのだ、したい髪型にすれば良いのだ、と。
(私の場合は気まぐれの失敗の結果であるけれども)日本の美容院で作ってくれる前髪とは形も量も違っていてもいいじゃないか、と。
ドイツ的に言えば、『私は私』ということで。

長めのマッシュルームカットのように前髪の長さを整え、全てふんわり内巻きにして、耳の手前の髪も縦にカールし、少しクラシックな雰囲気に。
ブラシで整えると、中島みゆき様風の髪型は完成した。
ある時期の叶美香様風でもあるかもしれない。
『自分の好き』を知る個性的な方々だと改めて思う。

この髪型は帽子を被っても潰れない。髪型を保てるようになった。
取り敢えずはこれで過ごしてみることにした。

いつか日本に帰ったら、この話を美容師さんに話して笑ってもらおうと思っている。




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