指を拾う

月のない夜にはピクニックバッグを持って
ぼくたちは指を拾う

世界中のさみしい人たちが落とした指が
新月の夜にこの公園に降るから

草のあいだに落ちている石灰の粉に塗れた指を
拾ってはピクニックバッグに入れて
かげのように黒いぼくたちは孤独な探検隊だ
ライトをとりつけた帽子をかぶり
指を見落とさないように
ぼくたちは真剣だ

指を拾い集めると 公園の隅のモルタル製のテーブルに着いて
拾った指をひとつひとつ調べていく
ぼくたちは古びた医療器具で拾った指を切り開き
乾いた血の赤の中に小さな白い虫をさがす
帽子にとりつけたライトの光で手元を照らしながら
虫のいる指といない指とをよりわける
虫はよく指の骨と筋のあいだにおとなしく隠れている


「虫、いましたか」

「いますねえ。ほら、この血管のうしろ」

月のない夜は静か


虫のいた指はきれいに燃やしてしまう
さみしい人たちが月へ帰れるように

虫のいない指は 開いたところを丁寧に縫って公園の土に埋める
指を落としたさみしい人が いつかどこかで指をみつけますように


ぼくたちは指名手配されている
指を拾って切り開くことはなにかの罪にあたるらしい
捕まって人が減ったり 新しく加わって増えたりしながら
ぼくたちはいつも数人

指を拾うぼくたちを恐れる人がいつか指を落としたときも
ぼくはきっとその指を拾って調べてあげようと思う

指名手配のポスターは毎月新しく刷られるけれど
さみしい人が世界のどこかで指を落とすから

月のない夜にはピクニックバッグを持って
ライトをとりつけた帽子をかぶり
ぼくたちは指を拾う

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?