土着品種を意識した瞬間
Vol.024
時を遡ると、イタリアワインとしてはじめて主が認識したワインは、キャンティでした。それまでは、フランスワインとイタリアワインとの区別もあいまいで、ひとくちに「ワイン」として飲んでいたと思います。20代はじめの頃でしょうか。
キャンティは、土っぽさが香り、口いっぱいに広がる渋いタンニンを感じ、しびれるような風味がしっかりと舌に残ったことを覚えています。
後々、キャンティは、サンジョヴェーゼ種で造るワインと知り、そうか、強いタンニンは、地元トスカーナの名物料理、血がしたたるビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(Tボーンステーキ)をほおばるときになくてはならない渋み、と気づいた。
このとき、その土地に起源をもつブドウ品種を、土着品種と呼ぶことを知り、地のもの同士をあわせて食するのがセオリーと学びました。
Vol.18でほんの少し書きましたが、もう四半世紀も前の1998年、3か月ほど、主はヴェネツィアに住んでいました。1年で最も陽気のいい4月~6月。白ワインがおいしく感じられる季節でした。
ヴェネツィアには、“バーカロ”という居酒屋が数多くあります。ワインを主体に、チッケッティというちょっとした肴もそろえたお店です。早朝から働く市場の人やゴンドリエーレたちが、キュッと1杯のワインを飲んで仕事を終える場所でもあります。
当時、主の“バーカロ”の使い方は、夕刻あたりに家を出て、なじみになった近所の1軒に向かいオンブラ(グラス売りのハウスワイン)を1杯、すぐに出て、次の店でオンブラにチッケッティを2品ほど、そしてまた次の店に……と。ひと晩で、3軒ほどはしごするのが習慣でした。
いまになってみると“バーカロ”通いは、土着品種に興味をもつきっかけでした。カウンターの向こうには、品種にわけて大きな樽に入ったワインが並んでいます。カベルネ・ソーヴィニョンやカベルネ・フランといったよく知られた赤ワインのほかに、あまり聞きなれない品種もありました。あるとき、そのなかのひとつ、白ワインの“トカイ”が目についたのです。
マスターは、「ヴェネツィアの隣の州、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州の土着品種だけど、1杯やる?」と。かすかに匂う白い花の香り、酸味がたち、ミネラル感のある味わいが、実にフレッシュ。土着品種の個性とうまみを、その“トカイ”で強く脳に刻まれた瞬間でした。
現在、“トカイ”から“フリウラーノ”(詳しくはVol.18)に品種名は変わっています。まだまだ日本では、“フリウラーノ”が指名買いされるほどメジャーなワインにはなっていませんが、主は、“フリウラーノ”から興味が広がり、イタリアの土着品種にはまっていきました。
であいから四半世紀経ったいまも、フリウリ州のテロワールをも吸い込んだ“フリウラーノ”は、味わいに広がりをもたらす、いつも新鮮な気づきがある品種です。
多彩な土着品種とのであいは、イタリアワインの奥深さを実感します。
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次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。