責任
三日目の朝。
予約した心療内科に行くため早起きをする。都会の狭いビルの一角にあるクリニックは診察室や待合も簡素な作りになっていた。
簡単な心理テストを受けたあと、すぐに順番が来て診察室へ向かった。
事前に心療内科にかかることになった経緯は伝えていたので、診察はスムーズにすすんだ。
仕事に行けなくなったことや、人間関係が主な理由であることを伝えると、先生は静かにうんうんと相槌を打った。
「適応障害ですね」
よく聞く病名だ。しっくり来たし、自分でもそうだろうと思っていたので素直にはい、はいと説明を受ける。
一ヶ月の休職届の発行代と初診料で合計8000円弱を支払い、足早に電車に乗り込んだ。
受け取った休職届は郵送で職場に送ることにした。ひとまず一ヶ月休むことにはなるが、もうあの会社で働く気はさらさらない。
帰路につく手前で、上司からラインが来た。
うわ、と思いながらも素直にトーク画面を開いてしまった。
「業務の引き継ぎですが、○さんに引き継ぐのではなくこのラインで入力してください。今日会議で話し合う内容でもあるので、最後まで責任を負うのがあなたにとって大事なことだと思います」
責任かぁ。そっか。捨ててきたもんな。全部。
私はそれらを放棄してぬくぬく休んでいる。そう言われたような気がして更に気が滅入った。上司は部下を放任していたわりに、妙にこだわりが強い人だった。
私の直属である上司に連絡を寄越さなかったことが不満なのだろう。必要なことは全て部長に連絡していたので、文面から察するにそれが気に食わなかったようだった。
やろうと思っていることがなかなか出来ない。ただののび太的思考だろうが、私にとってやるべきことをやる、という最低限のことが今の精神状況では出来ないのだ。
納期が迫っているのに報連相ができない。人に相談できない。直属の上司だからきちんと連絡をしておかなければならない。
今の私は、できないことだらけだ。
これについては次回の診察で先生に聞いてみようと思うが、正直上司の言い分についてはくそくらえとしか思えない。
自分を責める気持ちのある一方で、上司に対する憎しみや恨みが膨れ上がる。いや、むしろ後者のほうが大きい。
私にできること。苦しんでいる人、悩んでいる人に出会ったら、私はそんな相手に無責任だなんて言葉をかけたりしない。
絶対にしない。そう強く誓って、私はまた少しだけ泣いた