びぃむねこ

お話しとイラストをかいています。

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最近の記事

熱い猫

穀物を中心とした交易により発展した中央西部の街、ルビア。一見して海かと見間違えるほど広大な湖を抱えるこの街の湿った風は、私に今は無き故郷を思い出させた。この地域では紛争で東部を追われた人々を今でも多く受け入れていて、つまりそれは私と同じ境遇の人がここでは多く暮らしているということでもある。当時のことはあまり覚えていないけれど、もしかしたら私はこの街のような人と人に囲まれた幼少期を過ごしていたのかもしれない。そんな感慨に浸っていたからというわけでもないが、この街に滞在してから既

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    • 昼だまり

      時計の針は十二時を通り過ぎていた。瞳はもう起きてるだろうか。私はのそのそとベッドから這い出すと、顔だけ洗い、パジャマ姿のまま自分の部屋を出た。いつもは微かに動力室の物音が聞こえたり、何かの気配みたいなものを感じたりするけれど、その日の塔はやけに静かで、私はひっそりとした塔内をなんとなく息を潜めて歩いた。 階を上がるにつれてどこからか猫の鳴き声が聞こえる。ランプのある部屋のドアが少し開いていて、中を覗くとアリスが寝ていた。午後の光の中で気持ち良さそうに。口を開けたまま。ゆっくり

      • ランチタイム

        今日のバイトはロング。晴れの日は、昼休憩を外でとることも多い。私はいつもの高台に座り、ハンバーガーにかじりついた。一年間の旅?放浪?から戻ってきたばかりのミツキも、隣でいつものように持参したお弁当を広げている。 「また、どっかいくの?」 「んー、わかんない。お金ないし。それに、なんかもういいかなって」 「ふーん」 「結局なんとなくだったんだなって」 「なんとなく?」 ミツキの言葉は足りないことが多い。きっと頭の回転が早いんだと思う。「そう。なんとなく。目的がなんとなくだから、

        • 霧と塔と

          なんとなく朝、早く目が覚めたから。前にもこんな日があったような気がする。いつもより早く家を出た私は、交差点をいつもとは逆へ曲がり、遠回りして学校へ向かった。夜明けにでも雨が降ったのか、アスファルトが濡れていた。あたりに草の匂いがけぶる。めずらしく少し霧が出ていて、朝の薄い光の中で鉄塔が鈍く光っていた。今日は朝からアリスがいないせいか、パーティーの後片付けを独りでしているみたいな、やけに静かな気持ちで、誰もいない土手沿いのまっすぐな道はなんだか知らない場所に思えた。 しばらく行

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          境界

          塔の最上階は風もなく、360度広がる星空と雲海に挟まれて、ひたすらに静かな時間がゆらゆら。あの星屑の夜空はガラス板みたいなものでできていて、割れてガラガラ崩れたら別の世界に繋っていたりして。小さい頃はよくそんな空想をして遊んでいた。親に買ってもらった色鉛筆で、よく絵も描いた。へたくそだったけど。楽しかった。私は今、そんな空想の世界にいる。なんでここにいるのか、偶然なのか、必要なことなのか。 この先もことある毎に、右往左往しながら生きていくんだろうか。自分にはどうしようもないこ

          教室

          今日、私の名前を教えてもらった。この子も同じ名前らしい。変なの。でもその単語はすぐに、頭のメモリから転がり落ちていく。 ここは教室で、でも割と間違ってるらしい。何が間違ってるのか聞いたら、壁と天井が無い、とのこと。 今日はなんでメガネかけてるの? ちょっと優等生ぶろうかと思って。 メガネだから優等生? そう。 安易だよ。 わかりやすいでしょ? 制服着てたらね。 でもかわいいでしょ。 かわいいけどさ。 ふふふ。 私達しかいない教室の外側には白いノイズみたいな砂が広がって、な

          ロールキャベツの空

          見上げた空。燃える夕日を背景にシルエットが二つ飛んでいる。上に下に緩急をつけて、気持ちよさそうに。時折こちらに手を振る影を、手摺に身を乗りだして必死に目で追いかけながら私も手を振り返す。思わず「すごーい」なんて言葉がもれたりして。もしかしたら開けっぱなしの口から、ずーっとだだ漏れてたのかもしれない。 唯衣が昇給試験に合格することはわかりきったことで、それでもやっぱりホントに嬉しかったし、私も頑張らなきゃって思えた。心から思えた。 だけどそれだけじゃなくて。ロールキャベツみたい

          ロールキャベツの空