【あつ森】クリーム島青春与太話(モニカルート4)
(前回↓)
プールの後は近くのファーストフードで昼飯をとった後そのままお開きになった。その昼飯の最中はとにかくリラさんが彼氏との惚気話に夢中になりすぎてなかなか席を立たなかったんだよな。モニカさんもスルーすればいいのに律儀に相槌を打ったり話を深掘りさせるような返しをするから尚更だ。隣で長話を聞いてたリラさんの彼氏も、最初はニコニコしていたが時間がたつにつれて疲れた顔を見せてきたっけ。
「俺たちもそろそろ帰りましょう。…?モニカさん??」
モニカ「…………………。」
どうしたんだろう?俺の声が聞こえなかったんだろうか。それにモニカさんの顔色がさっきより悪い。
「モニカさん?大丈夫ですか?」
モニカ「…あ、あぁ…ごめんごめん。えと、なんだっけ?」
「えっとですね…」
こうして俺たちは帰りの電車に乗ろうと駅のホームまできたが、休日の昼間にしてはあまりない通勤ラッシュのような光景が広がっていた。
モニカ「うわ、すごく混んでる…」
ホームに到着した電車の中も人がみっちりいてすし詰め状態だ。電車の中の様子を見て何人かが乗車することを諦めてる。
「俺たちも次の電車待ちましょうか。」
モニカ「ううん、乗っちゃおう。」
モニカさんがさっと電車に乗っていってしまう。俺もあとからついていって電車の中に入った。
座席も手すりもなにもないスペースに押し込められたまま電車は動き出した。モニカさんの家の最寄駅まで4駅分。車内はぎゅうぎゅうで速度もやや遅いからか、電車の中にいる時間がやたら長く感じてしまう。
ふと気になって俺は隣で立ってるモニカさんに視線をうつした。モニカさん、やっぱり顔色が少し悪い。今にも倒れそうとまでは行かないが、直立不動でいるのがしんどそうだ。
「モニカさん、途中で降りて休みましょう?辛そうですよ。」
俺が小声で声をかけるがモニカさんは首を振る。
「モニカさん…」
モニカ「大丈夫よ、大丈夫だから。」
まただ。モニカさんは自分の方からなかなか折れてくれない。
「…分かりました。しばらく俺に寄りかかっていいですから。でもこれ以上無理だと判断したら無理矢理でも降ろしますよ。」
すると俺の腰に遠慮がちな感触があった。モニカさんがそっと手を添えてる。
そんな時だった。急に電車が大きく揺れてそのまま止まった。急ブレーキがかかったようだ。だがその拍子に…
「!??」
振動でモニカさんがバランスを崩し前に倒れかかってきた。とっさにモニカさんの背中に手を回して受け止めたが、余計に互いの身体を密着させてしまう。
意識の遠くの方で緊急ブレーキのアナウンスが流れるが、急に押し寄せる柔らかい感触と体温と匂いに思考が飛びそうだった。急ブレーキをかけられてもなお静かな電車の中で心臓の音が響いてきそうだ。
腕の中で何かが身じろぎする気配を感じて一気に現実に引き戻された。モニカさんが俯いている。俺が身体を離そうとした時だった。
モニカ「いたっ」
モニカさんが小さく呻いた。やばい、足踏んだか?…というわけではない。そこで俺は見た。モニカさんが右足を気まずそうにそっとさすっているところを…。
「モニカさん、もしかして…」
モニカ「いいのいいの平気だから。加納少年は気にしなくていいから。」
そう言い終わるか終わらない内に電車は速度を落とし止まった。ふと電光版を見たらそこにはモニカさんの家の最寄り駅の名前が点滅していた。
モニカ「ほら。もう着いちゃったね。早く降りましょ。」
モニカさんは右足首を挫いていた。恐らくプールで遊んでいる最中か、スタンツを組んだ後にプールに落下した時の衝撃か。モニカさんは思い当たることを話してくれない。いや、原因が分からないことより挫いたという事実そのものを気にするなと言われる方が無理だ。
エレベーターやエスカレーターを上手いこと使って駅の外へ出たところで俺はモニカさんに言った。
「どうして足挫いたこと言わないんですか!?」
モニカ「あはは。まだなんとかなるかなー、と思って。」
モニカさんは何も無かったかのような顔で返すだけだ。
「足、まだ痛いですか?」
モニカ「ううん。そこまででもな…っ」
言わんこっちゃない。足だけじゃなくてプールと惚気話を聞かされた疲労も溜まってる筈だ。ホントなら今すぐ寝っ転がりたい気分かもしれない。でも家まで少しの間辛抱してもらわないと。俺は屈んで腕を大きく後ろに動かす。
モニカ「え!?ちょっと加納少年、そんなのいいよ。」
「遠慮しないで。乗ってください。」
モニカ「大丈夫だって。ちゃんと歩けるわよ。」
「挫いた足で無理して歩いて、チアの練習に影響出たらどうするんですか。」
俺にそう言われてモニカさんは口を噤み、観念したのかモニカさんが俺の背中の上に乗る。モニカさんを背負って俺は歩き出した。
モニカ「…あはは。今日はかっこ悪いとこばかり見せちゃってるね。」
背中の後ろでモニカさんが呟く。
「いいじゃないですか。誰しもかっこ悪いとこってありますよ。」
モニカ「そうかな?…アタシの周りにいる皆のかっこ悪いとこなんてみたことないわ。リラも、後輩のチョコちゃんも、シベリアも、それから加納少年も。」
「モニカさんだってそうですよ。特に昼休みに自主練するモニカさん、俺はかっこいいと思います。」
モニカさんはクスリと笑うだけで何も返さなかった。互いに無言のまま、俺はモニカさんを背負って歩く。
「モニカさん、どうしてモニカさんは運動部を…チアをやろうと思ったんですか。」
モニカ「………。」
「あ、すみません。話したくなかったらいいんです。ただ俺が気になっただけで。」
モニカ「ふふ、大した理由じゃないの。チアのキラキラした姿がとっても好き、ただそれだから。だってすごいと思わない?彼女達が笑顔で踊ると周りの皆もだんだん笑顔になっていくのよ。そんなすごい人達のように私もなりたい…そう思って入部したの。」
大した理由じゃない?俺はそう思わなかった。とにかくチアの話になるとモニカさんはすごく謙虚だ。
モニカ「覚えるダンスも技も多くて大変だけど、感覚で分かって来るの。自分が頑張れば頑張るほど皆が笑顔になっていってる。それがすごく嬉しくて…その為に私はチアをやり続けてるんだって思えるのよ。」
「モニカさんの周りが笑顔で溢れてるのはチアの力だけじゃないと思います。モニカさんが前向きに頑張る人だから、人を笑顔にしようと精一杯考える人だからですよ。きっと。」
モニカ「…………。」
「あ、あれですかねモニカさんの家。そろそろおろしますよ。」
目的地まで目と鼻の先の距離の場所でしゃがみこみモニカさんをおろす。背中に残った温かい感触が風に撫でられる。
「それじゃあ俺は帰ります。シベリアによろしく言ってください。」
俺がそのまま踵を返して駅まで戻ろうとした時だった。
モニカ「柊二!」
…??今、名前で呼ばれた??俺は背後を振り返る。
モニカ「今日はありがとう!」
そこにはチアリーディング部の部長としてではなく、1人の女の子として手を振っているモニカさんの姿があった。眩しい笑顔だ。人の笑顔に幸せを求める花のような笑顔。
モニカさんに軽く手を振り返すと一瞬鼓動が速くなった心臓とどっと上がった体温と共に早足で駅に向かうのだった。
(次回↓↓)
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